(4) 決闘
声をかけてきたドラグレアの隣に立つ見知らぬ男性。少しくすんだ金髪に、特徴的なエメラルド色の瞳。20代にも見えるが、30代ぐらいか、と昊斗は見た。
見知らぬ男性が着る”服”を、昊斗たち四人は見覚えがあった。
それは、ルーン王国の騎士団に所属する騎士、兵士たちが着ることを義務づけられている制服だった。
ルーン王国には、広大な国土を守るため5つの騎士団が存在する。
国の中心である王都ディアグラムとその周辺地域を守護するアルバート騎士団。
北の海を中心に世界最高の海上兵力を誇るハドリー騎士団。
隣国クレスト連邦と国境を接し、国防の”最前線”を担うローランド騎士団。
北から南まで巨大な山脈が連なり、山岳警備を主任務とするトレイシー騎士団。
そして、南の海に広がる海上交易路を監視するセドノア騎士団の5つだ。
騎士団の名前の由来は、ルーン王国初代国王のアルバート一世と、彼が最も信頼を寄せていたといわれる、四騎士の名前から取られている。
各騎士団の制服デザインは共通だが、各騎士団のカラーで染められ、騎士は所属隊の隊章の入ったマントを、兵士は隊章の入った腕章をつけている。
ドラグレアと一緒にいる男性は、アルバート騎士団を示す深い藍の制服に通常の制服と違い、肩や腰の装飾が豪華になっており、マントも長いものを羽織っている。
「初めまして、アルバート騎士団団長のフォルト・レーヴェだ。君たちのことはドラグレア様から聞いている。そして、君がオクゾノ君だね?君にはフレミー君が迷惑をかけた。団長として申し訳ない」
「?どういうことですか?」
昊斗たちは、フレミーはフェリシアに仕えている騎士だと聞いてた。なのに、なぜ騎士団団長が謝罪するのか、その理由が分からなかった。
昊斗たちが困惑していることを察し、フォルトは苦笑する。
「すまない、説明不足だったね。この国の騎士は必ず5つある騎士団の何処かに所属することになっているんだ。彼女は姫様の騎士ではあるが、便宜上は僕の騎士団の所属となっているんだよ」
「そうだったんですか・・・・それで、今日はわざわざ謝罪をしに来ただけじゃないんですよね?」
昊斗の言葉に、フォルトは驚きドラグレアの方を見る。ドラグレアはドラグレアで、肩をすくめ、「だから、言っただろう」と目が語っていた。
「・・・恐れ入ったよ。今日は、騎士団団長としてだけではなく、一個人フォルト・レーヴェとしてお願いに来たんだ」
「?」
お互いの顔を見ながら、冬華たちも昊斗への説教を忘れ、フォルトの”お願い”に耳を傾けた。
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フレミーから届いた手紙は、果し合い状の様な文面だった。
「オクゾノソラト殿 明日正午にアルバート騎士団の野外訓練場にて待つ。決闘は、己が鍛えし全力を以て相対するものとする 騎士フレミー」
真昼の決闘を想像するべきなのだろうが、現場は異様な雰囲気となっていた。
「指定席は完売でーす!現在、立見席のみ販売となっています!!」
「冷えた果実酒はいかがですかー」
『今回の決闘では、賭けは全面的に禁止されています!賭博行為を行った団員には厳罰を科します!行為や集まりを発見した方は、第三隊まで報告してください!』
そこはまさに、祭りと化していた。
『さぁ!やってまいりました!フェリシア姫殿下の剣、騎士フレミー嬢対!謎の青年、オクゾノソラト氏の決闘戦!今回、実況はアルバート騎士団広報、仕切らせたら右に出る者なしともっぱら噂のアーシャ・ヴィシニャコフが担当します!そして、解説にはアルバート騎士団団長のフォルト・レーヴェ様、そして、カレイド陛下マリア王妃様のご友人にして、ルーン王国のオブザーバーで在られるドラグレア様にお越しいただきましたー!』
『どうも』
『よろしく』
テンション高めの実況に紹介され、フォルトは笑顔で、ドラグレアはいつもの仏頂面で答える。
『では、最初に今回の決闘のルールをお二人に・・・・・』
遠くから聞こえる実況の声を、控室になっている女子更衣室の中で、フレミーは両手で顔を覆っていた。
「どうしてこんなことに・・・・・」
「まぁ、あれだね。団長に話したのが運の尽きだったんだよ」
フレミーの隣に20代ぐらいの線の細い男性が立っていた。腰に細身の剣を下げ、アルバート騎士団の制服・・・フォルトより少し装飾の少ないものを着ている。
彼は、アルフレット・スクァーレルと言い、フォルトの副官を務めており、フレミーの剣の練習を見ている青年だった。
「ここの使用許可を取るのに、フォルトさんに話さないとダメじゃないですか!」
顔を覆っていた手をのけ、立ち上がってアルフレットに噛みつくフレミー。
「つまり、最初からこの事態を予測すべきだったってことさ。団長の性格を考えたらね」
アルフレットの言葉にぐうの音も出ず、フレミーは再び座り、頭を抱えた。
「とりあえず、私が言えるのはいつも通りにやればいいってことだ。君の実力はかなりのものなんだから」
ポンポンと肩をたたき、控室を後にするアルフレット。
フレミーは、顔を上げその視線の先にあるモノを見つめる。
「しかし、ここまで大騒ぎになるとは・・・・」
『皆さん、よほどバカ騒ぎがしたかったようですね』
一足先に、決闘場である野外訓練場内へきていた昊斗とセコンドとして同行する玉露が、周りの騒ぎにある意味で感心していた。
ちなみに、冬華と金糸雀は、フェリシアに誘われ貴賓席で見ることになったと言っていた。
歓声が一層大きくなり、昊斗たちとは反対の入口からフレミーが姿を現した。
「へぇ・・・・」
その姿に、昊斗は感嘆の声をあげた。
フレミーは、不思議な輝きを放つ鎧を纏い現れたのだ。
『どうやら、装着者の能力を底上げする術式が組まれているみたいですね』
玉露は、フレミーの纏う鎧を解析し、結果を昊斗へ報告する。
「是が非でも勝ちに来た、と言うわけか」
そんなことを呟き、昊斗は着慣れた制服のコートの襟を正し、訓練場中央に歩みだす。
『ご武運を、マスター』
玉露は、恭しい一礼を以て昊斗を送り出した。
中央まで進んだ二人の距離は、きちんと顔が判別できるほどになっていた。
「来ていただきありがとうございます。そして、このような状況になってしまい、申し訳ありません」
「別に、気にしていないさ」
大歓声の中、二人はそれだけ言葉を交わし、口を噤んだ。
『では、開始の合図をカレイド陛下にお願いいたします』
拍手に答えながら、カレイドは貴賓席で立ちあがる。
『この良き日に実力の高い二人の戦いを大いに期待する・・・・・はじめ!!』
開始の合図とともに、鐘が鳴り響く。
「ああああああ!!」
フレミーは、気合と共に腰に下げた二振りの剣を抜き放ち、昊斗へと斬りかかった。
*********
「フレミー・・・」
決闘が始まり、フェリシアは不安な眼差しでフレミーの姿を追っていた。
『始まりましたね』
「昊斗君、熱くならないといいけど」
フェリシアとは対照的に、冬華と金糸雀は至って平静に成り行きを見守っている。
「トーカ君、彼は無手の使い手なのか?」
冬華の三つ隣に座るカレイドが質問を投げかけた。
「いいえ違います。たぶん、今はフレミーさんの実力を見るために、武器を持たずに戦っているんだと思います」
「なるほどな」
感心するように、うなずくカレイド。しかし、彼の隣に座る王妃マリアの感想は違っていた。
「そんな余裕を見せて、彼女に勝てるのかしら?あの娘にはあるのは、剣だけではないのに」
フレミーには隠し玉があるような王妃の口ぶりに、冬華は昊斗がそのことを知ったらどんな反応をするだろうと、考える。
(きっと楽しそうに笑うんだろうな、昊斗君・・・・)
昊斗にそんな顔をさせるかもしれないフレミーに、軽い嫉妬を覚える冬華だったが、隣のフェリシアがほとんど歓声を上げていないことに気が付き、声をかけた。
「フェリちゃん・・・どうしたの?」
「トーカさん、あの・・・・ソラトさんは、あの時みたいな力を使わないですよね?」
「あの時?」
フェリシアがいつのことを言っているのか思い出し、冬華は「あぁ」と声を上げる。
あの時とは、木漏れ日の森の主であるポンタとその家族を襲った魔獣使いの少年と戦った時に見せた、山ひとつ消し飛ばした力のことだ。
「大丈夫だよ、あの時と今回は状況が違うし、昊斗くんはあの力を使おうなんて思ってもいないはずだよ」
「そうですよね。ソラトさんは、正々堂々戦ってくれますよね?」
フェリシアの様子に、冬華は違和感を感じた。
今回の決闘、なにかしらの背景があって持ちかけられたと、昊斗が言っていたのだが、
理由自体を聞いていないため、冬華たちも分からずじまいだった。
「ねぇ、フェリちゃん。フレミーさんって、異世界人と何かあった?」
冬華のさりげない質問に、フェリシアは目に見えて動揺し、俯いてしまった。
その態度で、何かあったことは確定した。
*********
フレミーの攻撃を皮切りに、昊斗は彼女へ反撃することなく攻撃を避け続けていた。
フレミーの細い腕で振るうには些か無骨で大ぶりな剣、しかもそんな剣を二振り持ち昊斗へと斬りかかるフレミー。鎧の能力強化により、重さを感じさせない剣戟に、昊斗は終始感心しっぱなしだった。
(鎧の能力を差し引いても、とても鍛錬を積んでる剣筋だな。彼女の努力と、剣の師がいいんだろうな)
だが、攻撃を続けるフレミーは苛立ちを募らせていた。武器を持たず、ただ自分の攻撃を避け続ける昊斗が、自分を馬鹿にしているのではと考えた。
「避けてばかりでは、勝てませんよ!!」
「知っているさ」
だがそう言っても、昊斗は攻撃に転ずることはなく、フレミーの攻撃を避け続ける。
「・・・・いいでしょう、だったら攻撃せざるを得ない状況にしてあげます!」
攻撃をやめ、昊斗と一定の距離を取るフレミーは、大きく息を吐く。
「駆け抜けろ・・・・ラファル!」
叫んだフレミーの姿が消えたかと思った瞬間、一瞬で昊斗を肉薄し、彼へと剣が迫っていた。




