(3) 騎士の誇り
国王の設けた食事会が終わり、用意された二つの部屋の片方に昊斗たちチーム四人が集まっていた。
服装は、謁見時の制服ではなく、昊斗と冬華はグラン・バースに来た時の洋服。玉露と金糸雀はいつもの着物と執事服だ。
つい先ほどまでフェリシアとフレミーもいたのだが、フェリシアは明日から王女としての予定が立て込んでおり、寝不足で公務に出させられないと、業を煮やした侍女たちによって自室へ強制連行されていった。
駄々をこねていたフェリシアと、彼女を引っ張っていく侍女たち、その後ろをついて行くフレミーを見送り、ドアが閉まった瞬間和やかだった空気が一転し、四人は真剣な面持ちとなる。
「玉露、首尾はどうだった?」
『さすがに、一日目で大きな成果は得られませんでした。治安等は、聞いていた通りなかなかいいみたいです。事件事故はいくつか起きてはいますが、文化レベルを鑑みれば、十分先進国クラスと言えます』
玉露は、一日で調べた成果を表示し、説明を始めた。
”人ごみの聞き手”
自身の”好奇心”を突き詰めて構築した、玉露のユニークスキルと言える能力である。
実体を持たない玉露と金糸雀は、自身の目や耳となる機動端末を複数持っており、これらの端末を不可視状態で街中に飛ばし情報収集を行っている。
玉露は、この端末を街の人ごみの中へ飛ばし、全ての人々の会話を同時に複数蒐集し、即座に内容を分類し、その中から必要な情報を探し出すのだ。
あらゆる点で実力が拮抗している金糸雀でさえ、この点に関しては全く足元にも及ばず、彼女の”好奇心”がなせる業として、チームには欠かせない情報源となっている。
『玉露から送られたデータを基に、ディアグラムのマップを更新しました。昊斗さんの方にも送りましたので、確認をお願いします』
金糸雀から送られたデータを確認する。
マップに建物の名称や通りの名前が追加され、地図としての完成度が上がっていた。
「図書館がいくつかあるみたいだな」
「そうだね。フェリちゃんの話だと、城の中にも重要な文献や書物を保管している部屋があるみたいだし、国王様に頼んで閲覧させてもらえればいいんだけどね」
代理神たちの情報がない昊斗たちは、ドラグレアから大神以外の神たちが過去、人々の前に顕現していることを聞き、まずは言い伝えや場所などを確認しようと古い文献等を探すことにしたのだった。
「城の方は、ドラグレアさんを通じて国王様に許可をもらうとして、当面は城下にある図書館を巡るって方向で行こうか」
「大きな図書館が多いから、腰を据えてやらないとね」
明日からの計画を大まかに立て、作戦会議が終わる。
『お疲れさまです・・・・・昊斗!今日はもう遅いし、明日に備えて寝よう!』
玉露の口調が、突然くだけたモノに変わる。
彼女は、仕事のオンオフの切り替えを作っており、通常は無感情とも取れるしゃべり方と表情をしているのだが、業務終了と同時に女の子らしいしゃべりと表情も感情豊かなへと変わる。
このことを知らない人は、あまりの替り様二重人格を疑ったりする。
ニコニコとする相棒に、昊斗は創神器のホロディスプレイを呼び出し操作を始める。
その操作内容を確認した玉露の顔つきが変わる。
「実行」
『ちょっ!昊斗、どういうつもり!』
すると、冬華の創神器に玉露のパーソナルデータが一時的に移動されていた。
「昊斗君、どういうこと?」
「いや、さすがに俺たちももう子供っていう年齢でもないだろ?一応、男女の区別は必要だと思って・・・」
『船の中じゃそんなこと言わなかったじゃない!』
納得できないと、騒ぐ玉露に昊斗の額に青筋が浮かぶ。
「その船の中で玉露が、俺の夢に干渉して下着姿で迫ってくるからだろ!?おかげでこっちは寝不足だぞ!」
昊斗の言葉に、冬華がピクッと反応する。
「・・・玉露ちゃん・・・・それは、一体どういうことかな?」
殺気にも似た空気を纏い、笑顔で映像の玉露に詰め寄る冬華。
『別に、夢の中で迫ったくらい、構わないでしょ?!』
「私だって夢の中でなら、そんなことしてみたいよ!金糸雀!絶対、玉露ちゃん逃がしちゃダメだからね!聞くことがいっぱいあるから!!」
『は、はい!我が主!!』
冬華の迫力に、立体映像の中の金糸雀が反射的に玉露を逃がすまいと羽交い絞めにした。
『な・・金糸雀!こんな時まで、冬華への奉仕精神出さなくていいわよ!』
『冬華さんを怒らせたら怖いって、玉露ちゃんも知ってるよね?!』
『そのくらい友達助けると思って、笑って怒られなさいよ・・・て!あなた、また胸大きくなってない!!?』
『そそそそそそ、そんなことないよ!』
立体映像の中の美少女二人が、揉み合いながら騒ぐ光景を眺めながら、昊斗の方へ振り返った冬華は、さっきの笑顔のままで口を開いた。
「・・・・・昊斗君、夢で玉露ちゃんにどんなことされたかは、明日問いただしてあげるから、今日はゆっくりしてね」
「あぁ・・・・おやすみ」
明日を迎えることがとんでもなく憂鬱に思えるが、今日はゆっくりできるかな、と思い騒がしい部屋を後にし、扉を閉めた。
「・・・・とりあえず、部屋に行って寝よう」
ため息混じりに、隣の部屋に行こうと歩き出した時だった。
「!」
後ろから闘気が膨れ上がり、その闘気が一点に凝縮された一撃が昊斗の背中を襲う。
しかし、昊斗は後ろに目があるように、身体を捻り余裕をもって躱す。
まさか、不意打ちともいえる一撃を躱され、襲撃者に動揺が生じ隙が出来る。
その隙を逃すことなく、昊斗は襲撃者の手首を打ち、獲物を払い落とす。
「っ!」
襲撃者が距離を取り、昊斗の次の行動を窺っていた。
「今日初めて会った君に斬りかかられる程、険悪な間柄になったつもりは、俺にはなかったんだけど?フレミーさん」
「・・・・・・よく私だと、分かりましたね」
襲撃者から発せられた声は、間違いなく先ほどまでフェリシアと一緒にいた騎士フレミーだった。
「一度挨拶した人の気配は覚えるようにしているんでね。それに、夜目が利くんだ」
実際は、視覚に関する能力を限界まで引き上げているので、昊斗は光ひとつない暗闇の中でも陽射しの下と変わらないように見えたりするが、あえて夜目と濁す。
「そうですか・・・・それが異世界人の力と言うことですか・・・」
最後の方は、消え入りそうな声で紡がれた言葉だったが、視覚同様、聴覚も強化している昊斗にはしっかりと聞こえていた。
「オクゾノ殿、あなたに決闘を申し込む!」
あまりに脈絡のない申し出に、昊斗は首をひねる。しかし、申し出た本人の顔からは冗談などを言っているようには見えなかった。
「唐突だな・・・理由を聞いていいか?」
「私が私でいるためです」
「それは、騎士として?それとも君個人として?」
「両方です」
騎士の位を持つ者が私情で決闘を望むとは、とも思ったが先ほどの一撃から感じたこと、そして彼女の目を見て、昊斗は首を縦に振る。
「そうか・・・・いいだろう、その申し出を受ける」
昊斗の言葉に、フレミーが息をのんだ。
「!・・・・まさか、そんな簡単に了承してもらえるとは思いませんでした」
「ただし、条件がある。もし、俺が勝ったら事情を君の口から話してもらう。この条件を呑み込めないなら、話は無かったことにしてもらう」
突きつけられた条件に、フレミーは少し考え込み顔を上げた。
「・・・・・分かりました、その条件を呑みます。ですが、私が勝ったら・・・・この国から出て行ってください」
「それは、俺だけか?それとも、冬華たちもか?」
「全員です」
何となく、彼女の底にあるものが見えた気がした。
「日時ですが・・・・」
「日時、場所、決闘方法は君が決めていい。あとで手紙ででも伝えてくれ」
その言葉に、フレミーの表情が硬くなる。
「余裕ですか?」
「どう受け取ってもらってもらってもいいよ・・・・俺はここ数日、相棒のせいで寝てないんだ。悪いけど、今日はここで失礼させてもらうよ・・・・じゃ、おやすみ」
昊斗の言動に、戸惑いを覚え立ち尽くすフレミーを置き去りにし、昊斗は部屋に入っていった。
ベッドに倒れこむ昊斗は、あれだけのことが廊下で起きていたのに、冬華たちが出てこなかったことに、ある種恐怖を感じながら、微睡の中に沈んでいった。
********
次の日、昊斗は寝ていた部屋の前で正座していた。
「・・・・・・・」『・・・・・・・』
彼の前には、仁王立ちした冬華と玉露がまるで虫けらでも見るような目
で、昊斗を見下していた。
朝になり、なぜか昊斗とフレミーの決闘が城中に伝わっていた。どうも、おしゃべりなメイドさんに昨夜のやり取りをみられたらしく、瞬く間に伝播した。
冬華たちも、朝一で部屋に飛び込んできたフェリシアから話を聞いた。フェリシアは、自分の騎士が言い出したことに「申し訳ありません」と何度も頭を下げ、時間の迫っていた公務の為部屋を後にした。
とりあえず冬華たちは、事情を聞き出すため隣で寝ていた昊斗を叩き起こし、着の身着のままで部屋の前で正座させ話を聞いていたのだ。
「いや、騎士として決闘を申し込んできた相手を、無下には出来ないだろ?」
『マスター・・・・これで何度目ですか?』
仕事モードの玉露からは、無表情無感情なのに呆れた雰囲気がにじみ出ていた。
「前の世界ではあれだったよね?凄い美人の戦士長さんに戦いを申し込まれて、昊斗君に負かされたことで好きなったからって求婚されて、その前は剣士を目指してた女の子が腕試しで戦いを挑んできて、戦ってる最中に昊斗君のことを好きになっちゃったもんね、他にも・・・・」
遠い目をした冬華が、今までの昊斗の女性遍歴を思い出していたのだが、1秒ごとに冷気を纏い、周囲の温度が右肩下がりで下がっていく。
「いやいやいや!彼女たちとは、結局何もなかったから!」
「『何か起こりそうになってること自体が問題なの!!』」
ステレオで怒られる昊斗は、二人の後ろに申し訳なさそうに立っている金糸雀に助けを求めるが、金糸雀はサッと視線を逸らしてしまった。
『マスター、聞いているのですか?』
「昊斗君!聞いてるの?!」
昊斗の行動が気に障ったのか、二人の怒りがさらに高まっていく。
「相変わらず・・・お前らには驚かされるぞ、まったく」
ドラグレアが呆れというか諦めに近い声色で昊斗たちに、声をかけてきた。
そんな彼にその場にいた全員が視線を移すと、隣には見知らぬ男性が楽しそうに立っていた。




