(2) 謁見
「フェリちゃんが・・・二人?」
フェリシアの部屋へ入った昊斗たちが見たのは、煌びやかなドレスを着た”もう一人”のフェリシアが窓辺にある椅子に座っている姿だった。
考えられる可能性を複数思考する昊斗と冬華だったが、二人の後ろにいたフェリシアが声をかけた。
「あれ?”フレミー”?」
「ひ、姫様!」
町服のフェリシアに、ドレス姿のフェリシアが跪く。
一体どうなっているのか、呆気にとられる昊斗たちに町服の”フェリシア”がドレス姿の”フェリシア”の横に立ち、跪いていた”フェリシア”が立ち上がる。
「それにしてもフレミー、どうしてそんな恰好をしているの?」
自分に仕える騎士であるフレミーが、なぜドレス姿でフェリシアの部屋にいたのか首を傾げるフェリシア。そんな質問に、フレミーは俯き加減に口を開いた。
「そ、それがですね・・・・姫様が城を出られた際、決まりで同行できず騎士団の隊舎でくすぶってた私に王妃様から姫様の替え玉を頼まれまして・・・・この2か月、姫様の替りを演じていました」
「え?!そうなの!もしかして、学校とかも?」
まさか、自分の知らないところでそんなことが起きていたとは知らされていなかったフェリシアは、驚きを隠せない。
「はい・・・多少疑問を持たれた方がいたかもしれませんが、なんとか」
「あ~・・・ごめんね、フレミー。迷惑かけちゃったみたいで」
「滅相もございません!私の方こそ、姫様の大事の際、お守りすることが出来ず申し訳ありません!」
謝ったフェリシア以上に、申し訳ないと頭を下げるフレミー。
「お~い、フェリシア。俺たち、完全に置いて行かれてるんだが」
「あ・・・」
フェリシアたち二人だけで盛り上がっていたのを、昊斗と冬華は入ることもできず見守っていたが、さすがにこのままではと声を上げる。
「とりあえず、フェリちゃん。そちらの方を紹介してくれると助かるかな」
「は、はい!彼女はフレミー、私の騎士として仕えています。フレミー、お二人はオクゾノオラトさんとナツメトーカさんよ」
「では、お二人が”例”の・・・・・」
フレミーの目つきが少し鋭さを増す。何となく、睨まれているようにも感じた昊斗だったが、特に気にすることもないか、とフレミーから意識を外す。
「フレミー、もしかしてお二人のこと聞いてる?」
「はい、陛下や王妃様から少し聞き及んでおります」
フレミーは、国王や王妃からフェリシアの下に異世界人が召喚されたこと、そしてフェリシアが賊に襲われた森の主を助けようと危険を冒し、異世界人たちに助けられたことを聞いた、と話した。
「そっか・・・お父様やお母様にも心配かけちゃったのかな・・・・て、いけない!お父様たちに帰還の報告をするために着替えに戻ったんだった!」
そう言って、フェリシアが大胆に町服を脱ぎ始める。
「姫様、いけません!殿方がいらっしゃるのに、ここでお召し物を脱ぐなんて!・・・・?」
慌てたフレミーが、昊斗の方を見るが、すでに彼の姿はなく冬華一人だけが立っていた。
「昊斗君なら、もう部屋を出て行ったよ。昔、同じようなことで失敗してるんだ、彼」
クスクスと思い出し笑いをする冬華に、苦言を呈する声が漏れる。
『あれは、どちらかと言えば主の不注意が原因で、昊斗さんは被害者だったように思うのですが』
「何か言ったかな?金糸雀?」
『いえ、何も。我が主に落ち度はございません』
凍てつくような冷気を纏った笑みを浮かべる冬華に、即座に意見を覆す金糸雀。
「すみません、トーカさん。すぐ準備しますので、お待ちいただけますか?」
「うん、外で待ってるから」
パタパタと手を振りながら、部屋を出ていく冬華。そんな背中を見送りながら、フレミーが頭に疑問符を浮かべている。
「あの、先ほどの声は・・・」
「説明してあげるから、今は着替えが先!先にフレミーが着替えないとカトリーヌさんたちが呼べないから!」
「!そうでした、すぐに着替えます」
着慣れないドレスにフレミーが悪戦苦闘しながら、それをフェリシアが手伝う光景を誰かが見れば、きっとこう思っただろう。
「まるで、姉妹だよな」
一足先に部屋を出ていた昊斗が、二人を見て思った感想だ。
『と、いうより双子ですね、あれは』
そんなことを言いつつ、隣に立つ立体映像の玉露は勝手に彼女たちの生体スキャンをかけていたらしく、得られた詳細データが昊斗の前に表示される。
たしかに、そこに出ている情報を考えれば、二人は双子の姉妹なのだが・・・・
「玉露ちゃんが何かやってるな、とは思ってたけど」
冬華と玉露と同じ立体映像の金糸雀がフェリシアの部屋から遅れて出てきた。
冬華は、玉露とは反対の昊斗の横に立つ。
「可能性は色々考えられるけど、出会って数日の私たちが踏み込んでいい話じゃないと思うんだけど、それ」
『分かっていますよ、私自身の好奇心でしたことですから』
そう言って、玉露はデータを全てデリートした。
これが、玉露のいい所であり悪い所でもあった。彼女の”好奇心”で、今まで助けられたこともあり、トラブルに巻き込まれたことも多々あったりする。
「お前ら・・・・まだこんなところにいたのか」
廊下の奥から、ドラグレアが少し怒りを含む声を上げ歩いてきた。
「ドラグレアさん」
「すみません、ちょっとゴタゴタがありまして」
そんな会話をしていると、数人のメイドたちがフェリシアの部屋へ入っていった。
「もう少しかかりそうだな・・・・そうだ、お前たちに頼みたいことがあるんだが」
「はい?」
ドラグレアが、なぜか昊斗や冬華だけでなく、玉露と金糸雀も見ていた。
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「フェリシア・・・・よく無事に帰ってきてくれた」
「フェリシア、おかえりなさい」
「お父様、お母様・・・・ただ今戻りました」
しっかりと着飾ったフェリシアが、父親と母親と2か月ぶりの再会に、抱き合って喜びを分かち合っていた。
今回、フェリシアが城を空けていたことを知っているのは、国王に近い一握りの人間だけだった。なので、謁見の間で大々的に帰還祝いをする訳もいかず、極々小さな報告となった。
「フレミー。あなたにも、随分苦労を掛けましたね。私の無茶な頼みを、完璧にこなしてくれました、ありがとう」
「そのような勿体ないお言葉、恐悦至極に存じます王妃様!」
王妃マリア・アナベル・ルーンの労いに、いつもの騎士の服に着替えたフレミーは顔を真っ赤にして感謝を述べる。その姿があまり見られないものだったので、フェリシアは笑いを堪えるのに必死だった。
「そして、君たちには最大の感謝を。私たちの娘だけでなく、父の友人であり、私の師でもあるポンタ殿とその家族を救ってくれた。本当に、ありがとう」
「私たちも、フェリシア姫殿下にこちらの世界へ来た際、助けていただきました。その恩返しが少しでも出来ればと思い、手助けしたまでのこと・・・お気遣いなく」
恭しく頭を下げる昊斗たち。その恰好は、森での戦いで纏っていた”服”だった。
傭兵に支給される制服で、戦闘に必要な機能が持たされ、実力が認められた傭兵は個人でカスタマイズすることを許されており、当然昊斗たちはそれぞれカスタマイズしている。
そして、昊斗と冬華だけでなく、サポート役の玉露と金糸雀もいつもの”私服”ではなく、昊斗たちと同じデザインのカスタム制服だった。
金糸雀は、冬華の制服とほぼ同じだが、上に着るコートが裾の短めのジャケットに変わり、頭には白のベレーを斜めに被っている。
玉露は、色は昊斗と同じ色の制服で、金糸雀同様、裾の短いジャケットに、大胆なスリットの入ったロングのタイトスカートにハイヒールを合わせていた。
ドラグレアの頼みとは、これのことだった。
たとえ非公式とはいえ、王に謁見するのだから格好はきちんとしてくれと言われ、昊斗たちは二つ返事で、服装を変えたのだ。
「ドアグレアから話は聞いている。落ち着くまで、ここにいるといい」
国王カレイド・ノグ・ルーンの申し出に、昊斗たちは一瞬、目を細めるがすぐに頭を下げる。
「お心遣い、ありがとうございます」
「・・・・・このあと、ささやかながら食事の席を設けている。部屋も用意させているので時間まで・・・」
「みなさん!時間まで、私がお城の中を案内します!どうですか?」
カレイドの言葉を遮り、フェリシアが目を輝かせて、城の案内を申し出る。
圧倒され、フェリシアに連れて行かれる昊斗たちに、ため息をつきながらフレミーも後をついて行ってしまい、残ったのはカレイドとマリア、そしてドラグレアの三人だった。
「・・・・・・・はぁ、我が娘ながら、仲良くなった者に遠慮がないな・・・」
「あの辺りは、お前に似たんじゃないか?マリア」
「私は、あそこまで酷くはないわ」
気の知れた者しかいない空間に、三人はプライベートのノリで会話を始めた。
「しかしドラグ、君が言っていたのとは感じが違ったな・・・・彼らから特別感じるモノはなかったが?」
「そうね、どちらかと言えばあなたに出会った時の方が、私たちは生きた心地がしなかったんだけど?」
「おいおい・・・・失礼な奴らだな。まぁ、あの頃はオレも若かったせいもあるんだ・・・忘れろ」
このやり取りも、20年以上続いている定番だった。
「で、彼らについて帰ってから話したいことがあると言っていたが、一体なんなんだ?」
昊斗たちに、第三者へ伝えるかはドラグレアに任せると言われた彼らの”依頼”。
結局どうするか決めあぐね、ここまで来てしまったドラグレアだったが、目の前にいる友人たちを信じ、第一声の為大きく息を吸ったのだった。




