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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
風の神 強襲 編
122/180

(11) 天球人の戦い、再び

「えっと・・・どう説明すればいいかな?ごめん、実は星亜せあじゃないんだ」

 考えあぐねた昊斗そらとの口から出てきた言葉に、莉麻りまは首を傾げる。

「?何を言ってるの、星亜せあちゃん・・・」

 困惑する莉麻りまを余所に、玉露ぎょくろ昊斗そらとのブレザーの裾を引っ張った。


「もう・・・ちょっとは上手く説明できないの?」

「無茶言うな・・・仕方ない。この手の術は苦手だけど」

 そう言って、昊斗そらとが右手を掲げて指を鳴らすと、突然周りが真っ黒になる。

「え・・・・・?」

 突然周りの景色が一変し、莉麻りまが不安げにあたりを見渡す。


「心配しなくて良いよ。これから話すことを、あまり他の人間には見られたり聞かれたくないから、別空間に移動しただけだ」

 すると、創神器ディバイスが光り、昊斗そらとの姿が妹のものから、本来の奥苑昊斗おくぞのそらとへと戻る。

「?!」

 友人の姿が男性の姿となり、莉麻りまが驚いて目を大きくする。


「覚えているかな?星亜せあの兄、奥苑昊斗おくぞのそらとだ。何度か、家であったと思うけど」

 莉麻りま昊斗そらとの妹である星亜せあは、小学校低学年からの付き合いで、中学まで同じ学校に通っていた。高校は進路の違いで進学する高校は違ったが、それでもお互いの家に行き来するほどの友人である。

 昊斗そらとが彼女と出会った回数はそう多くないが、よく妹の話しに出てくる友人の一人であり、妹曰く「腹心の友!」と言い切るほどだった。


星亜せあちゃんのお兄さん・・・っ!お、お久しぶりです、奥苑おくぞの先輩!ど、どうして星亜せあちゃんの姿に?というか、どうやって?」

 少し前までは「星亜せあちゃんのお兄さん」と呼んでいた莉麻りまだが、実は彼女は昊斗の通った”市光高校”に進学しており、昊斗そらとの武勇伝―主に勉学方面の―を先輩から聞かされていた為、気安く呼べなくなっていた。

 そんな伝説の先輩が、自身の妹の姿になっていたり、別空間に行けたりと、莉麻りまの頭の中はこんがらがる一方だった。

「訳あって星亜せあの姿を借りていたんだ。方法は、企業秘密ってことで」

話せる範囲が限られている為、昊斗そらとが話をはぐらかしていると、再び玉露ぎょくろが服の裾を引っ張ってきた。


「ちょっと昊斗そらと。私の紹介はしてくれないの?」

 放置されていたのが癇に障ったのか、玉露ぎょくろが少し不機嫌そうな顔をしている。

「分かってるって・・・こっちは相棒の玉露ぎょくろ。彼女も今は訳有って姿を変えていて、本来の姿は全く違うんだ」が

「よろしく。一応、この姿の時はビャクレンって呼んでね」

 茶目っ気たっぷりにウインクする玉露ぎょくろ。まるで、星亜せあの好きなアニメに出てきそうな容姿の玉露ぎょくろを見て、莉麻りまは気後れしてしまう。

「は・・・はい・・・・・?あの、奥苑おくぞの先輩・・・先輩もここに居るってことは、異世界に無理やり召喚されたってことですよね?」

「ん〜・・・まぁ、概ねそう考えてもらっていいよ」

 微妙な言い方をする昊斗そらとに、莉麻りまは次に玉露ぎょくろの方を向き、玉露ぎょくろは「私もそうよ」と答えた。

「えっと、じゃあ・・・本物の星亜せあちゃんは、この世界にはいないんです・・・よね?」

 もしかしたら親友も巻き込まれているのでは、と莉麻りまは心配したが、昊斗そらとは少し考え込むような素振りを見せる。

「おそらく。まぁ、異世界に召喚されたら、星亜せあは間違いなくはしゃぐはずだ。そうなると、絶対目立つ・・・あいつはそういう奴だよ」

 中学校の頃に色々とやらかした妹が、異世界召喚なんてファンタジー体験をすれば、まず間違いなく目立つはずだと考えている昊斗そらと

「そうですね!・・・・」

 莉麻りまも同様に思ったらしく、笑顔になるがそのことで元の世界のことを思い出してしまい、表情が曇ってしまう。

 暗くなった莉麻りまの様子を察した昊斗そらとが、居住まいを正す。


「・・・さて、莉麻りま。君をすぐに元の世界へ帰してあげたいのは山々なんだが、俺たちも立て込んでいてね。最低でも、今の案件が片付くまで待ってくれないか?」 

 昊斗そらとの言葉が全く理解できなかった莉麻りまの顔から、表情が消える。

「・・・・え?帰・・れる?」

 首をかしげ、徐々に昊斗そらとの言葉が頭に浸透していくと、顔を強張らせ莉麻りまの手が震えだした。


「だ、だった研究所の人たちに言われたんです。お前はもう、元の世界には帰れない。だから、この世界の・・・自分たちの研究の為に、役に立てって」

 ここまで言うと、研究所でのことがフラッシュバックしたのか、莉麻りまの目から光が消え自分の身体を抱き、地面に膝をつくとがたがたと震えだした。


「研究者ってどうしてこうもトラウマを植えつけるようなことを、平気で出来るのかしら」

 震える莉麻りまの身体を抱きしめながら、玉露ぎょくろが苦々しく顔を顰める。


「一人で、辛かったな・・・・だが、心配しなくて良い。君は、元の世界に帰れる。この世界でのことを何もかもなかったことにして、ね」

 目線を合わせるように、膝を突いた昊斗そらとの言った言葉に反応し、莉麻りまが顔を上げる。

「・・・え?」

 ほんの少しだが、莉麻りまの目に光が戻る。


「そういう決まり(・・・)になっているんだ。すぐには無理だが、この世界での記憶一切を消去し、身体も召喚される直前に戻した上で、元の世界に帰してあげよう」

 昊斗そらとの言葉を聞き、莉麻りまが先ほどとは違った意味で、身体を震わせる。

「帰れるんですか?お父さんやお母さん・・・星亜せあちゃんや他の友達の居るところに?」

「あぁ」

 頷く昊斗そらとの姿を見て、莉麻りまの目に涙が浮かぶ。


莉麻りま・・・前みたいに、普通の高校生活が出来るんですか?」

「出来る。傭兵奥苑昊斗(おくぞのそらと)の名に誓って・・・いや君の親友奥苑星亜(おくぞのせあ)の兄として。そして市光高校の先輩として約束する。君を元の生活に戻してあげると」

 その言葉が、気休でないことを感じ取り、莉麻りまが顔をクシャクシャにする。

「っ!・・・う・・うわぁあああ!!・・・・・・・」

 そして、感極まり玉露ぎょくろにしがみついて大声をあげ、泣き出した。


 それは、彼女がグラン・バースに来て初めて流す、歓喜の涙だった。


***********


 莉麻りまが落ち着いた所で、昊斗そらとは再び妹の姿へと戻り、莉麻りまに「一応、人前では星亜せあとして振舞うから、そのつもりで接してくれ」とよく言い含めた後に通常空間に復帰した。

 

「さて、後片付けを始めないと」

 辺りを見渡しながら、昊斗そらとが残っている情報部の隊員たちを始末しようと目を細める。

「そうね・・・・・」

 だが、玉露ぎょくろが何かに気が付き、昊斗そらとの方へ視線を送る。

 昊斗そらとも気が付いたらしく、莉麻りまの手を取った。


莉麻りま、こっち来て」

「え?」

 彼女の手を引き、昊斗そらとたちは林の中へ入ると、物陰に身を潜めた。

「どうしたんですか?」

「し〜・・・静かに」


 状況が分からず困惑する莉麻りまに、昊斗そらとが人差し指を立て、音を立てないように促す。その仕草が妹の星亜せあとそっくり―現在、姿が同じだということを差し引いても―だったので、「やっぱり兄妹なんだ」と莉麻りまは可笑しくなった。


 数分後、何台もの軍用車両が昊斗そらとたちの前に現れた。

「軍用車。思ったより早かったけど・・・でもこの気配って」

 やってきた一団が敵で無い事は分かっていた昊斗そらとだったが、その中に知った者の気配が複数感じ取れ、眉を顰める。


 中からは完全武装した兵士たちが駆け下り、あたりを警戒する。

「一体、何があったんだ?」

「各員、周囲を警戒しつつ探索を開始しろ!」

 探索隊の隊長と思われる男性の指示の下、隊員たちがあたりを調べ始める。

 そんな中、他の隊員とは毛色の違う二人が死体を調べていた。


「無防備な頭を一撃か・・・フローラ、これは散弾だな?」

 首の無くなった死体を前に、顔を顰めることなく冷静に見つめる戦闘用スーツに身を包んだペトラ。

 そんなペトラの問いに、同じ格好をし後ろに居たフロ−ラが頷いてみせる。


「えぇ、間違いないわ。おそらく至近距離から発砲して、一発で仕留めてる。まるで銃精の輪舞(フェアリーダンス)みたい・・・・しかもこれ、殆ど一人で倒している」

 同じような遺体があちこちに転がっている状況から、フローラは自分が使う銃格闘術と同じ系統の戦闘術が使われたと推察している。

 まさか、自分の動きを昇華させた結果が目の前の惨状を生み出したとは、フローラは思いもしなかった。


「これだけの敵を相手にしてか?・・・つまり、この惨状を作ったのはお前のお師匠クラスだということか」

 ペトラの知る限り、銃を使う達人で最高峰はフローラの師匠しか知らなかった。もちろん、それ以上の手だれを知っているが、その人物が剣の達人だと思い込んでいるので、彼女の頭にその名が浮かぶことは無く、物陰から見られていることも気が付いていない。


「どうかしら、いくら師匠でもこれだけの相手を、全てヘッドショットだけで倒すのは無理なはずよ。それと気になるのが、散弾の薬きょうが落ちてないってことよ」

 地面を見つめながら、帝国軍で使用されているライフル用弾丸の薬きょうしか落ちていないことに、フローラは首を傾げる。

 昊斗そらとが使っていたブレードピストルの弾丸は、創造神の力を変化させ弾丸と同じ形質にして使用している。なので、薬きょうなどが排出されることは無く、弾自体も時間を置くと消失してしまうようになっていた。


 頭に疑問符を並べる二人に、モニカが近づいてくる。

「何か判ったの?」

「モニカ・・・全然よ。ここにいた奴らを殺したのが、とんでもない手だれってことだけね」

「そうか・・・向こうに生き残りが居たわ、とりあえず拘束して尋問・・・」

 

 そんなやり取りを物陰から窺っていた昊斗そらとたちが、唖然としていた。

(よりにもよって、なんでフローラとペトラが?!)

 ヴィルヘルミナに付いている筈の二人が現れたことに、昊斗そらとは小声で叫ぶ。

(知らないわよ!とにかくモニカに連絡して、事情を聞きましょう!)

 玉露ぎょくろが右手の親指と小指を伸ばし、他の指を曲げて受話器の様な形にすると、耳に当てた。


 すると、携帯の着信音が鳴り響き、あたりが騒然とする。


 着信音から、自分の携帯だと分かり、モニカが慌てて取り出した。

「モニカ・・・・作戦行動中なんだから、携帯の電源切ってなさいよ」

 フローラに注意されながら、モニカは「切ってたはずなのに」と思いつつ、画面を見るが知らない番号だった。


 ただ、何となく出ないとまずい気がすると、直感の様なものが働き電話に出た。

「・・・・はい」

玉露ぎょくろだけど。そんな所で何してるの?』

 電話の主の声を聞き、モニカは驚きのあまり携帯を落としそうになる。


「?!なっ!!」 

 慌てて物陰に入り、モニカは辺りを見渡し、誰も居ないことを確認していると、林の影から昊斗そらと玉露ぎょくろが笑顔で手を振っていた。


「・・・そんなところで、何されてるんです?!」 

 携帯を耳にあて、二人を見ながら極力小声で叫ぶモニカ。

『それはこっちの台詞。なんで皇女を警護しているはずのあんたが、ここにいるのよ?しかも、あそこに居る騎士二人は何やってるの?』

 笑顔だった玉露ぎょくろの顔が真面目なものに変わり、モニカも慌てて真面目な個つきに変わる。


「その、情報が入ったんです。皇女を誘拐しようと画策しているテロリストが、沿線上で待ち伏せしているって。なので、我々が先行して、怪しい場所を虱潰しに探して周っていたんです。彼女たちは、その・・・ペトラさんが付いてくるって言い出して、フローラがお目付け役に。それより、この惨状ってまさか」

 モニカの説明を聞きながら玉露ぎょくろは意識の片隅で、ペトラたちが付いてくると言い出した経緯を何となく想像しながら、別の意味でため息をついた。


 モニカたちに入った情報は、情報部が巧妙に細工し、皇太子側が信頼している情報源を経由してもたらされたもので、ライナルトたちの警備を一時的に手薄にする情報部の計画の一部だった。

 

 昊斗そらとたちが急いでいた理由はここにあり、情報部の特殊部隊が行動に移す前に叩き潰す必要があったのだった。

『そのまさかよ、ほとんど私のマスターがやっちゃったけど。ちなみに、そこでくたばってる奴ら、情報部のクレメンス大佐の息の掛かった部隊の連中よ。データを送るわ』

 そう言って、玉露ぎょくろはもにかの携帯に情報を転送する。

 送られてきた情報にざっと目を通したモニカの表情が、目に見えて悪いものに変わる。


「・・・誘拐を画策していたのはテロリストではなく、やはり情報部だったんですね」

 ゴルドでの一件や、自分たちを切り捨てた件で、情報部に不信感しかなかったモニカだったが、その情報が決定打となり、古巣に対して怒りの感情しか持てなかった。


『そういうこと。あいつら、皇太子と皇女の誘拐をでっち上げたのち、自分たちが救い出したように演出して、情報部の軍内での立場をより確実なものにするつもりだったみたい。それから、奥に止まってる研究所のトレーラー。そいつら軍に協力をする代わりに、異世界人を使った非合法の人体実験を見逃してもらってたみたいよ。とりあえず全員拘束することをお勧めするわ。しないのであれば、私たちが決着つけるけど』

 ここで昊斗そらと玉露ぎょくろが現れたらどんな騒ぎになるか分からず、モニカの顔から血の気が引く。


「・・・・わ、分かりました。こちらは任せてください」

 一介の少尉である自分が判断して良いのだろうかと思いつつも、モニカが頷く。


『よろしく。それから、ここは他の人たちに任せて、あんたたちは皇女の下に戻りなさい。じゃ!』

 そこで通話が切れ、気が付くと昊斗そらとたちの姿が消えていた。


「え?ちょっと、待ってください!」

 慌てて声を上げるモニカに、何事かとフローラたちが駆け寄ってくる。

「どうしたの?あっちに何かあった?」

 モニカが見つめる方を見ながら、フローラたちが首をかしげる。

「な、なんでもない!・・・それより」

 モニカは、玉露ぎょくろから渡されたされた情報を二人に話しながら、捜索隊の隊長の下へと歩いていった。


 モニカと連絡を終えた昊斗そらとたちは、すでに移動しており、街道近くまで来ていた。

「後の事は彼らに任せて、私たちは先を急ぎましょう」

「そうだね」

 

「・・あ」

 すると、莉麻りまが何かを思い出したように声をあげ、顔を俯かせる。

莉麻りま、どうしたの?」

 何ごとかと、昊斗そらと莉麻りまのカを覗き込む。


莉麻りまの学校のカバン・・・あそこに置いたままなんです」

 彼女にとって、地獄の様な異世界で唯一心のよりどころだった元の世界との繋がり。

 普通なら、諦めろという言葉が出る場面だが、昊斗そらとたちは違っていた。


 傭兵は、無神世界人の居た痕跡を異世界から極力消さなければならず、回収もしくは破壊しなければならなかった。

「あっと、それは不味いわね・・・て、取り上げられてなかったの?」

 玉露ぎょくろの問いに驚きながらも、莉麻りまは手短に経緯を話しだした。

「一度は取り上げられました。でも、実験の数値が物凄く悪くなるからって、すぐに返してもらって・・・」

 返してもらった理由に憤りを覚えながら、昊斗そらとが来た道を見つめる。


「・・・わたしが行ってくるから、待ってて。指定カバンって、前と変わってないよね?」

 制服が自分が通っていた時と変わっていたのは知っていた昊斗そらとだが、カバンはどうだったかは知らなかった。

「うん・・・?!は、はい!」

 憧れの先輩が親友の姿をしている為、莉麻りまが言葉遣いに苦慮する。

 そんな彼女に微笑みかけながら、昊斗そらとの姿が一瞬で消えた。


奥苑おくぞの先輩・・・大丈夫なんでしょうか」

 自分が知っている以上に、凄い人だと理解していた莉麻りまだが、自分のために危険な事をさせてしまッたことに後ろめたさを感じる。

 そんな莉麻りまに、玉露ぎょくろが「大丈夫」と手を振る。

「心配ないわ。あいつ、潜入とか得意だから」

 

 消えてから一分経つか経たないかでカバンを手にした昊斗そらとが現れた。

「お待たせ、これで良い?」

 あまりの速さに、絶句している莉麻りまの前に昊斗そらとが彼女のカバンを差し出す。


「は、はい!」

 絶句していた莉麻りまだったが、自分のカバンを見て気を持ち直し、震える手で受け取った。

 まるで自分の半身が戻ってきたかのように、カバンを抱きしめる。そんな莉麻りま玉露ぎょくろが近づく。


「ちょっとごめんね・・・やっぱり発信機が仕掛けられている。ざけんじゃないわよっと!」

 サッと撫でるようにカバンを見渡し、仕掛けられていた発信機に対してだけに作用する特定の周波数をぶつけ、発信機を破壊する玉露ぎょくろ

 追跡の目を完全に潰したことを確認し、昊斗そらとが移動に使っていたバイクを再び取り出す。


「それじゃ、行こうか」

 莉麻りまには移動途中にごく簡単にだが、事情を説明しており、ついてきてもらう事に了承してもらっている。

 彼女としても、やっと出会えた知り合いと離れるという選択肢は無く、二つ返事で了承していた。


「あ、私はちょっと創神器ディバイスに篭るからよろしく。ナビゲートはしてあげるから安心して、じゃ!」

 そういうと、玉露ぎょくろの身体が粒子の光となり、その姿が消えてしまう。

「?!」

 何度目の驚きか、数えるのをやめようかと考える莉麻りまに、昊斗そらとがヘルメットを取り出し手渡す。

「はい、これ被って」

 受け取ったフルフェイス型のヘルメットを見つめ、バイクに跨りバイザーをつけた昊斗そらとに視線を移す莉麻りま


「え?バイク・・運転できるんですか?」

 元の世界で、星亜せあからそんな話を聞いたことの無かった莉麻りまが、唖然とする。

「まぁね。あ、跨る時にスカートは気をつけといてね」 

 昊斗そらとに促され、ヘルメットを被った莉麻りまが、タンデムシートに跨り、昊斗そらとの腰に手を回す。


星亜せあちゃん・・・・こんなに痩せてませんよ?」

 着痩せするタイプだった星亜せあが、夏前に「痩せなきゃ!」と言っていたことを思い出し、妹を美化ししすぎでは?莉麻りまが指摘する。

「あくまで見た目から受けた印象だから。というより、無駄な肉がついてると動きづらいの。それに、兄貴が妹のウエストサイズ把握してたら怖いでしょ?」


 そんなことを言う昊斗そらとに、莉麻りまは「それ、星亜せあちゃんが聞いたら怒りますよ」と言いながら、「でも星亜せあちゃんは、先輩のサイズ殆ど知ってましたよ?」と続けて言いそうになり、親友の尊厳を傷つけてはいけない、と慌てて口をつぐむ。

 このとき、渡されたのが顔の隠れるフルフェイスのヘルメットでよかったと、莉麻りまは胸を撫で下ろす。

 

「それじゃ、先行してる仲間に追いつくためにスピード出すから、しっかり掴まっててね」

「はい!」


 昊斗そらとがエンジンを何回か吹かし、バイクを出発させる。


 そして一気にスピードを上げ、冬華とうかたちを追いかけるのだった。



******************



 創神器ディバイスの中に篭った玉露ぎょくろはその姿を普段のものへと戻し、静かに”戦い”を開始していた。


 無神世界人である、東条莉麻とうじょうりまに関する情報の一切の消去。それが、玉露ぎょくろの”一つ目”の戦いだった。


 手始めに、彼女から回収していたインカムから研究所のトレーラー内にあったパソコンへ潜り込み、莉麻りまのデータ一切を別のモノへと書き換え、被検体は死亡としておいた。

 その折に、彼らが所属している研究所のメインコンピュータへのアクセスコードを手に入れ、即座に目的のコンピュータへと移動した。


 セキュリティーは民間とは言え、重要な研究を数多く行っているためか鉄道会社と比べるまでも無く厳重なものだったが、玉露ぎょくろにしてみれば紙同然であり、材質が和紙か画用紙か程度の違いでしかなかった。


 先ほどと同じようにメインコンピュータに収められていた莉麻りまのデータを別物に書き換え、アクセスしてきた端末に対し強制的にデータを上書きする細工を施した。

 更に、冷凍保管されていた莉麻りまの検体を物理的に処分するため、保管庫の温度を変更して他の検体と一緒に腐食させたり、機械を操作して薬物を使って処分した。


 それら全てを同時進行でこなし、研究所侵入からモノの十分足らずで行動を完了し、研究所内が騒ぎ出した時には彼女の姿はコンピュータ内から居なくなっていた。



「ふぅ・・・・疲れましたね」

 一仕事終え、創神器ディバイス内で背伸びをする玉露ぎょくろ

 だが、彼女にはもう一つ大仕事が残っていた。


「さて、そろそろ本丸を責めましょうか」

 目の前の”扉”に手を掛けた時だった。


玉露ぎょくろちゃん、情報部の本部へ行くんでしょ?手伝うよ」

 いつもの美少女執事姿に戻っていた親友であり仲間の金糸雀カナリアが現れ、そう申し出ると、玉露ぎょくろが目を細める。


金糸雀カナリア、貴女・・・運転していたのではなかったですか?」

 玉露ぎょくろの問いに、金糸雀カナリアが冷や汗を流す。


「えっと・・・・・調子に乗って運転してたら冬華とうかさんに本気で怒られて、精神空間スピリットスペースで一週間程説教されて、現実時間に復帰したら、強制的に創神器ディバイスに押し込まれちゃった」

 あはは・・・と乾いた笑いを漏らす金糸雀カナリアに、玉露ぎょくろがため息をついた。


「全く、ハンドルを握ると貴女は人が変わりますからね・・・まぁ丁度人手が欲しかったこどですし、手伝ってください」

「了解!頑張ろうね、玉露ぎょくろちゃん!」

「当然です、あんな三流相手に、マスターたちの手を煩わせる事など出来ませんから」


 そういうと、二人は”扉”に手を掛けると、ゆっくり”扉”を開き、中へと入っていった。





次回更新は、10月27日(月)PM11:00過ぎを予定しています。


変更の場合は、活動報告でご連絡します。


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