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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
風の神 強襲 編
121/180

(10) 無神世界から来た少女

「全線リニアかと思ってたけど、まさか鈍行があるなんて・・・」

 ゴトンゴトン、と聞きなれたレールの上を走る電車の音と、揺れを感じながら両内壁に沿って一列沿って設置された座席に座る昊斗そらとが、生温かい笑みを浮かべる。


「何処の鉄道会社も同じよ。主要路線は高速鉄道にしておいて、地方の過疎路線は鈍行列車のまま・・・地方活性化の秘訣は高速輸送の普及だってのに、地方舐めてんのかって話よね」

 余程鈍行列車に恨みがあるのか、お人形のように可愛らしい風貌の玉露ぎょくろが、昊斗そらとの隣で悪態をついている。

 

 エリア”アハト”を出て二日。昊斗そらとたちは順調に移動を続けていたが、皇帝が療養している村に一番近い停車駅までは各駅停車の列車しかなく、すでに一日近く列車に揺られていた。


「良いではありませんか、長閑な風景を見ながら列車の旅するのも乙なものですよ」

 只一人、座席に座らずしかもつり革にも掴まらずに、揺れる車内にも拘らず直立不動で立つ金糸雀カナリア。老執事の姿のため、車両内を移動する別の乗客が、驚いた顔をして通り過ぎていく。


「異世界で、こういう風情を楽しめると言うのは貴重な体験だな」

 足を組み、反対の車窓から望む農村風景を見ながら、冬華とうかは余裕の笑みを浮かべる。

「あんた達ね・・・一応私たち、急いでる身だって事忘れてない?」

 余裕綽々の二人に、玉露ぎょくろが呆れた様な表情を浮かべる。

 帝国陸軍情報部のメインサーバーを掌握している玉露ぎょくろたちが手に入れた情報。


――皇太子ライナルトと妹の皇女ヴィルヘルミナが、極秘に療養している皇帝の元へ訪れる――というもの。

 しかもそれが、ライナルト陣営から巧妙に意図して流されたものだと、二人はすぐに察した。


 協力者であるディートハルトに”電話”でこのことを問い質すと、彼もライナルトからの手紙でそのことを知り、大急ぎで出発準備を進めていると返事を返した。この時、何で昊斗そらとたちが教えてもない自分の電話番号や、まだ殆ど出回ってない情報を知っていたのか、ディートハルトがしきりに聞いてきたが、「女の秘密を詮索するな!」と玉露ぎょくろが一喝し、「まぁ、あんたたちなら何でもアリか」と納得していた。


「とにかく、次の駅で一先ず降りよう」

 昊斗そらとたちが乗っている列車は現在、最も駅間隔の長い区間に位置しており、前の駅を出発してすでに一時間以上が経過していた。

 状況が一転した中、目的地まで列車に乗るより、近場の駅で下車し直接向った方が早い、という昊斗そらとの判断だ。


 今どの辺りか確認しようした時、昊斗そらとの隣に座っていたルールーが彼にもたれかかってきた。何事かと思って昊斗そらとが見てみれば、ルールーとカグがいつの間にか眠ており、カグは腕を組んだまま少し頭を傾かせ眠り、ルールーは昊斗そらとの肩を枕代わりに寝ている。


「すぅ・・・すぅ・・・・」

「んっ・・・・・・」

 ルールーが頭を動かすと、顔に自分の髪が掛かり気持ち悪そうに顔を顰める。


「あ〜あ・・こっちの二人は乗り疲れて寝ちゃってるし」

 昊斗そらとの身体の影から顔を出しながら、玉露ぎょくろが声を上げる中、ルールーの顔に掛かった髪を昊斗そらとがそっと横に避けてあげた。今の二人の姿だと、手の掛かる姉の世話をする妹の様に見える。


「姿は大人でも、寝顔は可愛いよね・・・よな」

 そんな光景に、素が出てしまい冬華とうかが慌てて取り繕う。

「ハルオミ様、気を抜かれなきようお願いしたします」

 すかさず釘を刺してくる金糸雀カナリアに、冬華とうかはバツの悪い表情を浮かべた。



**************



「やっと着いたのかぁ?」

 駅に到着し、駅の外へと出た一行。

 眠い目を擦りながら、ルールーがカグの腕に抱きついている。


「本当・・・見事なまでに、何も無いところ・・・」

 駅の周りを見渡しながら、昊斗そらとが声を漏らす。

 昊斗そらとたち一行が降り立った駅は、常時無人駅となっている所で、利用客は年に数人程度。周囲には民家もないため、人影が見えなかった。


「えっと現在地はっと・・・・ここから南東に百キロ行った所が、目的の村ね」

 玉露ぎょくろが自分たちの現在地を確認し、空中にマップを表示した。


「問題は、そこまでどうやって行くかだな・・・セア、”組合”から支給されたのには、大型車両が入っているか?」

 自身の創神器ディバイスを操作する冬華とうかの問いに、昊斗そらと創神器ディバイスを操作する。


「・・・入ってないかな。有るとしても、大型バイクとかスポーツタイプの車だけ」

 元々、昊斗そらとたちは小数で動くことが多く、基本的には空を飛んだりして移動してる。だが、今回はそういった手を使う訳にはいかないため、移動手段の選定に苦慮していた。

 しかも、”組合”から支給される乗り物はチーム毎に数が決まっており、特に大型車両の支給は大人数のチームにしかされていない。


「仕方ない、それを使うか・・・えっとセア・・・」

 創神器ディバイスから、大型バイクとスポーツタイプの車を取り出している昊斗そらとに、冬華とうかが申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 そんな冬華とうかに、昊斗そらとが肩をすくめる。

「分かってる、バイクにはわたしが乗るから。ビャクレン、貴女はこっちね」

「はいは〜い」

 玉露ぎょくろが手を上げながら、大型バイクのタンデムシートに跨る。

 四人はほぼ全てと言っていい乗り物を乗りこなすことが出来るのだが、何故か冬華とうかは二輪車が全く乗れず、自転車にも乗れないという有様だった。

 玉露ぎょくろ曰く、「最強の傭兵が、自転車に乗って一漕ぎせずに真横に倒れる様は、シュールさを通り越えてホラーだった」、と顔を引き攣らせながら語っていた。


 自分の”体質”を恨めしく思いながら、冬華とうかが車の運転席に向おうとすると、すでに運転席側のドアの前には金糸雀カナリアが立っていた。

「ハルオミ様、わたくしめが車の運転を」

 万が一の事態を想定すれば、冬華とうかが運転するより、金糸雀カナリアが運転していた方が咄嗟の対応が取れるが、冬華とうかとしては金糸雀カナリアの運転は不安要素満載だった。

「・・・・・安全運転、でな」

 とにかく釘を打っておこうと、念押しする冬華とうか

「承知しております」

 恭しく礼をし、金糸雀カナリアが運転席へと乗り込む。

「・・・二人とも、こっちへ!」

 ため息をついて、冬華とうかがルールーとカグを呼び寄せ、自身は助手席へ乗り込んだ。


「また移動するのか?」

 後部座席に乗り込んできたルールーが、不満そうに口を尖らせる。

「眠かったら、寝てていいよ」

 子供に言い聞かせるように、後ろを振り返った冬華とうかの表情は、彼女らしいいつもの笑顔だった。


 全員が乗り込んだことを確認して、昊斗そらとが運転する大型バイクを先頭に、目的地へ向け出発した。



 辛うじて舗装されている道を、爆音と言っていい音をさせて大型バイクと車が走っていく。昊斗そらとたちが乗っている車両は、ベース車両などはなく、一から設計された”組合”オリジナルのモデルである。

 もちろん、昊斗そらとたちのはそこから色々と手を加えているカスタムバージョン。常人では御しきれないモンスターマシーンを、昊斗そらと金糸雀カナリアは手足のように操る。


 走り始めて十分ほど経って、昊斗そらとの後ろに座っていた玉露ぎょくろが、突然昊斗(そらと)の太ももを叩いた。

「どうしたの?!」

「バイザーつけて!!」


 普通なら風切り音のため聞こえるはずのない中、昊斗そらと玉露ぎょくろに言われたとおり、機械式のバイザーを頭につける。

 すると、バイザー内に玉露ぎょくろから送られてきたデータが表示され、サッと目を通した昊斗そらとは息を呑んだ。


 昊斗そらとが咄嗟に横を走る車に視線を向けると、運転席側の窓が開く。


「一刻を争う事態と思われます。小回りの利くお二人が行かれるべきかと!」

 完全に脇見運転しながら、金糸雀カナリアが声を上げる。

「こっちは、先に行って準備しておく!行ってくれ!!」

 助手席に座る冬華とうかも、力強く昊斗そらとに声を掛ける。


「分かった!」

 頷いた昊斗そらとが急ブレーキを掛けると、バイクの後輪が浮き上がる。昊斗そらと玉露ぎょくろは神業の様な体重移動を行い、接地したままの前輪を軸に、車体を百八十度ターンさせ、後輪を着地されると昊斗そらとはバイクのエンジンを全開に回し、来た道を猛スピードで戻り始めた。


「どうしたのじゃ?!ソラトたちが戻って行くぞ!」

 うたた寝していたルールーは、何が起きたのか分からず、去っていく昊斗そらと玉露ぎょくろの背中を見つめる。

「僕たちは、よかったのですか?」

 冬華とうかたちの話を始めから聞いていたカグが、運転席と助手席の間から身体を乗り出す。

「大丈夫。それにこっちも先を急がないと」

 ヴィルヘルミナたちが来るまでに、皇帝の精神を戻さなければならないため、あえて昊斗そらとたちは別行動を取ったのだった。


「では、急ぐためにスピードを上げましょう!」

 老執事とは思えない、嬉々とした表情を浮かべる金糸雀カナリアに、冬華とうかの顔が真っ青になる。

「ルーちゃんカグ君!!すぐに身体を固定して!!」

 男らしい言葉使いを忘れ、冬華とうかがいつもの口調で後部座席の二人に警告を発する。

「行きますよ!!」 

 金糸雀カナリアがシフトレバーを最大に入れ、アクセルをベタ踏みする。


 車の加速とは思えない強烈な圧力が、全員を襲う。

「な、なん・・じゃ?!」

「っ・・・・!」

 あまりの加速Gに、ルールーとカグが苦痛の表情を浮かべる。


「ははは!誰も私を止められませんよ!!」

 同じ圧力を受けながら、金糸雀カナリアが楽しそうに笑い声を上げる。

金糸雀カナリア!!お願いだから、もう少し抑えて!!」


 そんな冬華とうかの悲鳴を木霊させながら、暴走スポーツカーは目的地へと走っていくのだった。



*************:


「何だ、貴様らは?!ここ一帯は、軍の作戦区域だ!とっとと失せろ!」

 突然大型バイクで乗りつけた女子高生とお人形の様な真っ白なロリータ姿の美少女に、警戒していた兵士が怒鳴りつける。


 冬華とうかたちと分かれた昊斗そらと玉露ぎょくろは、ある野営地に”強襲”を掛けていた。


 そこに展開していた部隊は、陸軍情報部の特殊部隊。しかも、これから近くの線路を通過する特別列車に乗る、ライナルトとヴィルヘルミナをテロリストが誘拐した様に見せかけ、自分たちが救出したように工作する部隊である。


 その証拠に、準備をしている者の中にはテロリストの様な格好をした者たちが複数人いる。


 移動中に掌握していた情報部のサーバーを片手間に調べていた玉露ぎょくろは、作戦の概要データを発見し詳しく調べた所、作戦の日程が前倒しされ決行されることを掴み、彼らが列車を襲撃する前に先手を打ったのだった。


「邪魔しないで」

 昊斗そらとの手の中で発射音が響き、詰め寄っていた兵士は腹部に強い衝撃を受ける。


「?・・・・あれ?」

 腹部に違和感を感じ、兵士が恐る恐る自身の腹を触るとそこにはポッカリと大穴が開いていた。

「え?・・・俺、防弾アーマー付けているの・に・・何で?」

 そこで足に力が入らなくなり、兵士は力なく地面に倒れた。


「て、敵しゅぅ!!」

 突然のことに、もう一人の兵士が慌てて声を上げるが、言い終わる前に下あごから上が消失し切り口から噴水のように血を噴出した。


 昊斗そらとの両手には、ディートハルトたちと戦ったときに使ったブレードピストルが握られており、あまりの速さで振り抜かれたブレード部分には、血のりが付着していなかった。


「始めるから。サポートよろしく」

「まっかせなさい!」

 玉露ぎょくろに一声掛け、昊斗そらとは右手に握ったブレ−ドピストルの銃口を。装甲車へと向ける。

「フツノミタマ、バレルNo.4展開・・・・アンチ・マテリアルライフル」

 光の銃身を展開し、昊斗そらとは躊躇うことなく引き金を引く。

 発射音に遅れて、装甲車に穴が穿たれ、爆発する。


「敵襲!!戦闘準備!!」

 騒ぎを聞きつけ、準備に奔走していた部隊員たちが一斉に、銃口を昊斗そらとたちへ向ける。


「遅いよ」

 駆け出しかと思うと、昊斗そらとの姿が消え一瞬のうちに、隊員たちの前に現れた。

「フフ・・・」

 まるで綻んだ花の様な笑みを浮かべる、美少女昊斗(そらと)。 

「?!」

 こんな状況でなければ、間違いなく恋に落ちていたであろう男性隊員だが、その笑みを見て逆に恐怖が沸き起こった。


「フツノミタマ、アマノハバキリ・・・バレルNo.2展開。ショットガン!」

 両手に握るブレードピストルの銃口を男性隊員の顔に向け、発射する。

 至近距離で散弾を喰らい、隊員の頭が弾け飛ぶ。


「う、撃てぇ!!」

 だが、その光景に動揺を見せながらも、アサルトライフルを構えた他の隊員たちが攻撃を始める。


 飛び交う弾丸の嵐の中を、昊斗そらとは舞を舞うかのように弾丸を避け、的確にアーマーなどで守られていない隊員たちの顔面に散弾を浴びせていく。


銃精の輪舞(フェアリーダンス)・・・」

 離れた位置で見ていた隊員の一人がそう呟く。

 目の前の少女が使う格闘術は、まさしく帝国軍で採用されている銃格闘術そのものだった。しかも、その舞はどんな使い手より、華麗でいて苛烈だった。

 昊斗そらとが銃格闘術銃精の輪舞(フェアリーダンス)を使えるのは、ヴィルヘルミナの騎士であるフローラの戦闘を間近で見ていたから。

 彼にとっては、他人の戦闘技法を真似る事は造作もなかった。


「だが、いくらなんでも皇太子の手の者が来るには早すぎる!・・・まさか、異国の英雄が?!本部!こちら・・?!」

 ライナルトの手の者が来ることは、情報部の計画で”織り込み済み”だったが、想定以上の襲撃の早さに、襲撃者を行方不明となっていた”異国の英雄”だと考えた部隊の指揮官が、本部に連絡を入れようとするが、どの周波数帯も反応がなくノイズ音だけが指揮車に響く。


 呆然とする指揮官たちを、指揮車内のカメラで盗み見しながら、玉露ぎょくろが「ふっふっふっ!」と自慢げに笑みを浮かべる。

「残念。辺り一帯はすでにジャミング済みで、ごく短距離なら通信できるけど、長距離通信は不可能。しかも線路側の方には機動端末を飛ばして、カモフラージュスクリーンを展開。偽装映像を流してるから、列車からはこっちの様子は窺い知れない!まぁ、冬華とうかとかならもう少しスマートにやれるんだけどねぇ」

 玉露ぎょくろは、昊斗そらとが派手に戦闘を繰り広げても、これから通過するヴィルヘルミナたちが乗る列車には知られる事がないよう工作を行っていた。

 そんなことを独り言のように呟いていた玉露ぎょくろに、昊斗そらとに向っていた攻撃の一部が向けられる。


 昊斗そらとのように弾丸を避けられる玉露ぎょくろだが、そのまま乗ってきたバイクの陰に隠れる。

「ふ〜ん、セアが無理なら私を狙うか・・・甘く見られたものね。出番よ、起きなさい!!」

 玉露ぎょくろの瞳が輝き、それと呼応するように大型バイクに変化が起きる。


「なっ・・・」

 隊員たちが呆気に取られる中、カシャカシャと音を立て、バイク中のパーツが移動し、モノの数秒でニメートほどの人型兵器へと変形した。


「蹴散らせ!!」

 バイクロボの隣に立つ玉露ぎょくろが命令すると、ロボは両腕を前に突き出し内蔵された機関砲を敵に向って掃射する。


 精鋭部隊が、たった二人の少女に蹂躙されるという状況に、指揮車内は絶望感に包まれていた。

「このような事が・・・・!そうだ、あれを使おう!おい、聞こえるか?!」

 今回の作戦において、部隊に協力するため同行している研究所のトレーラーに、指揮官が慌てて通信を入れる。

『聞こえます、どうかされたのですか?騒がしいようですが』

 部隊とは離れた場所に居るとは言え、有線で繋がっているため、玉露ぎょくろのジャミングの影響を受けておらず、研究所スタッフのリーダーの声がクリアに聞こえる。


「敵の襲撃を受けた!実験体モルモットを出撃させろ!使えるのだろう?!」

 声を荒げる指揮官に、研究所スタッフリーダーが眉を顰めるも、ゆっくり頷いた。

『もちろんです。しかし、人間が相手ですか・・・過剰戦力になりますよ?』

「相手は女の姿をした化け物だ!!十分だろう!!」

 指揮官の様子に、研究所のスタッフたちは「どんな相手なんだ?」と首を傾げる。

『なるほど、分かりました。準備させます』


 スタッフリーダーは再度頷き、通信を一方的に切る。

「よろしいのですか?人間はおろか、生き物を相手にしたことが無いのですよ。どのような拒絶反応が現れるか・・・」

 スタッフの一人が、不安げにリーダーへ顔を向ける。

 そんなスタッフの言葉に、リーダーは短く息を吐き出した。

「何、構わん。いつかはしなければならない実験だ。それが前倒しになっただけ・・・それに、アレの”生”に対する欲求は常人より強い。自分の命が危険に晒されれば、イヤでも戦うさ」


 モニターに映る”実験体”を見つめながら、スタッフリーダーの口角が三日月のように上がる。

「了解しました。”シュナイダー”を出撃させます」

 スタッフがキーボードを操作し、”実験体”が格納されているコンテナを開封した。


 コンテナから現れたのは、セーラー服姿の少女だった。だが、その手には自身の身長を超える長さの”刀”が握られている。


『聞こえるな?目標は女が二人。相当数の兵士が殺されているそうだ。お前のすべき事はその二人を殺す事、いいな?』

 インカムから聞こえる雑音混じりの命令に、少女が悲鳴を上げる。

「そんな、ひっ人を殺すなんて・・・・。今回は、列車の連結部分を斬るだけだって!」

 そんな少女の叫びに、スタッフリーダーは感情の篭らない言葉を並べた。


『状況が変わった。殺さなければ、お前も兵士たちと同様に、惨めに死ぬだけだ』

 ”死”と言う言葉の聞き、少女は身体を硬くした。

「?!・・死にたくない、死にたくないよぉ・・・」

 死への恐怖に刀を持つ少女の手が震え、足も震えている。


『なら、敵を殺せ』

 残酷な命令を出し、スタッフリーダーが通信を切る。

 少女は人を殺したくないと思いつつも、自身も死にたくないという考えに板ばさみとなり泣き出すが、死と言う恐怖に抗えず、長大な刀を肩に担ぐ。

「・・・ごめんさい・・っ!!」


 そして、小さく見える人影に向って謝りながら、少女は力任せに刀を振り回した。



 戦闘員を粗方排除し終え、最後に残っている指揮官の止めを刺そうと、昊斗そらと玉露ぎょくろが指揮車へと近づいていた時だ。


「!攻撃っ!?」

 突然、背後から斬撃が飛来し、昊斗そらとを襲う。だが、彼は冷静にブレードピストルを構えると、飛んでくる斬撃を逆袈裟に斬った。

 斬られた斬撃はそのまま、昊斗そらとの背後にある林の木々を切り倒し消えていった。


「離れたところにも大型トラック相当の熱量があるのは知ってたけど、脅威になりそうな反応はなかったはずなんだけど?」

 バイクロボを横に従える玉露ぎょくろが、「おかしいな」と首を傾げる。


「さっきの斬撃・・・殺気はおろか戦う意思さえ感じなかった。それに・・・」

 斬撃が飛んできた方を見つめながら、昊斗そらとが目を細めると、自分の身長を大きく超える長さの刀を持ったセーラー服の少女が現れた。


「あの子が、さっきの攻撃を?それにしては、魔力や霊力といった力を何にも感じないけど」

 玉露ぎょくろが手早く少女の身体をスキャンするが、魔力なとの特別な力を持ってはいなかった。 

「持ってる武器に秘密があるんじゃないかな・・・ん?」

 どこか自分が持つ高周波ブレードに似た雰囲気の刀に、秘密があると踏んだ昊斗そらとだが、少女の服装を見て眉を顰めた。

 

「どうしたの?」 

「あの制服、知っている学校の制服に似ている気が・・それにあの子も何処かで」

 思いだせないもどかしさを感じる昊斗そらと。だが、その疑問に対する”答え”が少女の口から発せられた。


「せ、星亜せあちゃん?」

「え?」

 昊斗そらとの姿を見た少女が、顔を真っ青にして震えだす。

「うそ・・・莉麻りまが殺そうとしたの、星亜せあちゃんだったの?うそ・・・やだよ・・・やだ・・・やだぁああ!!」

 殺そうとした相手を知り、自身を莉麻りまと呼ぶ少女が、錯乱状態に陥る。


 そんな少女の言葉を聞いて、昊斗そらとの中のピースがカチッと嵌った。


莉麻りま・・・!?玉露ぎょくろ!!あの子の精神波形パターンを解析しろ!早く!!」

 目の前の少女が、昊斗そらとの思っている存在だった場合、かなり面倒なことになる、と言葉遣いを忘れて玉露ぎょくろに大声で指示を出す。

「えぇ?!・・・ちょ、ちょっと待って・・・!この波形って、あの子無神世界人?!てことは、昊斗そらと冬華とうかと同じ世界から召喚されたっての?!」

 突然、本名で呼ばれて慌てる玉露ぎょくろだが、指示通りに再スキャンをかけて、得られた結果に玉露ぎょくろが目に見えて動揺する。 


 昊斗そらとたちを始めとする無神世界出身者は、創造神が生み出した世界の人間には無い特殊な精神波形を持っており、このことが”傭兵”になれる一因ではないかといわれている。

 さらに、この精神波形を使って”組合”や創造神たちは、傭兵以外の一般の無神世界人が間違って異世界に召喚される事を防いでいるのだが、空間の裂け目などを通じて異世界に行ってしまう事例もあるため、完璧に防止出来ているとはいえない。

 異世界に於いて、無神世界人は”バランスブレイカー”になりかねないため、傭兵は万が一派遣先の世界で一般の無神世界人を発見した場合、保護することが義務付けられていた。


東条莉麻とうじょうりま・・・妹の小中学校の同級生だ」

 最後に会ったのが一年以上前だったことと、莉麻りまが随分大人びた顔立ちに変わっていたことあり、昊斗そらとが気付くのが遅れたことに、顔を顰める。

「!だから、あんたの顔を見て星亜せあって呼んだ訳ね!とにかく、あの子を保護しないと!」

 玉露ぎょくろがバイクロボを走らせて、莉麻りまの身柄を確保しようしたその時だ。


『まだだ!まだ、終わったわけではない!』

 拡声器越しの声が辺りに響き渡り、森から巨大な影が飛び出し、バイクロボを弾き飛ばした。


 現れたのは、帝国軍が配備を進めているシュツルム・ランツェだが、昊斗そらとたちが知るシルエットとは全く違っていた。

 それは、特殊部隊用にのみ支給されている、強襲用装備を超える兵装を抱え込んだ”虐殺用”装備を施した、特殊部隊専用機だ。

 

『お前たちのせいで、大佐から仰せつかった作戦は失敗だ・・・だが!指揮官としてせめて、お前たちだけはここで始末しておかなければ、私の面子が立たない!おい、実験体モルモット!何をしている、貴様も戦え!!』

 恐慌状態で地面に座り込んでいた莉麻りまに、指揮官が怒鳴りつける。


「?!や、やだ!!星亜せあちゃんとなんて戦えない!!」

 頭を振って戦うことを拒否する莉麻りま

 莉麻りまの姿を見て、指揮官の怒りが頂点に達する。

『この・・・役立たずが!!おい、研究者ども!この実験体モルモットを如何にかしろ!!っ・・・・な、なんだ?』


 遠くのトレーラーに詰めている研究所のスタッフに通信機越しに怒鳴りつける指揮官だったが、突然経験したことの無い感覚に襲われた。


「・・・・その子が、モルモット、だと?」

 ゆらっと、昊斗そらとの髪が揺れる。

「あ〜あ、やっちゃった。触れちゃいけない奴の逆鱗に触れちゃったよ、あいつら」

 玉露ぎょくろが呆れながら額に手を当てる。


「せ、星亜せあちゃん?」

 友人―と莉麻は思っている―の変わりように、恐慌状態だった莉麻りまも驚きの表情を浮かべる。


「妹の親友に、何をしたんだ?貴様ら・・・・」

 昊斗そらとが一歩前出ると、指揮官が乗るシュツルム・ランツェが気圧され一歩後退した。


『?!例え化け物の様な強さを持っていたとしても、この機体に勝てるはずが無い!』

 言い知れぬ感覚を振り払いながら、指揮官が機体を戦闘状態に移行させる。


「フツノミタマ、バレルNo.8展開・・・」

 右手に握るブレードピストルの銃口を敵機体に向け、昊斗そらとが”オーダー”を口にすると、銃口前に光の輪で出来た銃身が出現する。


『死ね!!化け物が!!』

 指揮官が全兵装の照準を昊斗そらとに合わせ、発射した。


 ミサイルや機関砲の銃弾が少女の姿をした昊斗そらとへと殺到し、炸裂した。

 その爆発に、玉露ぎょくろも巻き込まれ、爆炎の中に消える。


星亜せあちゃん!!!」

 爆風に顔を顰めながら、莉麻りまが大声で叫ぶ。


 だが、次の瞬間。


「チャージ完了」

 爆発の中心から声が聞こえ、中心から巻き起こった昊斗そらとの闘気によって煙が吹き飛ぶ。


『ば、馬鹿な・・・・・』

 人など跡形も無く消し飛ぶ攻撃を受け、無傷のままその場に立っていた昊斗そらとの姿を見て、指揮官は自分たちがとんでもない存在を相手にしていたのだと、イヤと言うほど思い知らされ、とうとう思考を手放した。


 敵が完全に戦意喪失したのを感じた昊斗そらとだが、機体に向けた銃口を下げることはなかった。


「貴様に後悔する権利は無い・・・・消えろ。電磁加速砲レールガン!」

 冷たい視線を投げる昊斗そらとが引き金を引くと、銃口から音速を超える50口径の特殊鉄鋼弾が発射され、シュツルム・ランツェのコックピットを貫く。


 そして、遅れて機体が衝撃によって吹き飛び、あたり一面に残骸が散らばる。


「っ・・・・あれ?」

 完全に巻き込まれる位置にいた莉麻りまだったが、玉露ぎょくろの操作するバイクロボによって助け出されていた。


星亜せあちゃん・・・・」

 バイクロボに地面に下ろされ、泣きそうな顔を向けてくる妹の友人に、どう説明するべきか昊斗そらとは頬を掻くのだった。


 




  


次回更新は、10月20日(月)PM11:00過ぎを予定しています。


変更の場合は、活動報告にてご連絡します。


**********


10/22 本文の一部を書き換えました。

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