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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
風の神 強襲 編
119/180

(9) 東へ

 改めて、協力することを確認した昊斗そらとたちとディートハルト。話は、皇帝マクシミリアンの所在に移っていた。


「父は今、帝都から南東部にある街で療養している。代々、ハイゼンベルグ家に仕え、父の乳母を勤めた女性に、父の世話を任せているんだ」

 応接室の大画面に帝国の地図を表示し、ディートハルトが皇帝が療養している街を指し示した。

「随分、遠いな」

 帝国領土のほぼ中央に位置する帝都アンファングから見て南東部。現在、昊斗そらとたちがいるエリア”アハト”から見て、丁度真東に位置しており、直線距離でも日本列島がすっぽり収まるほどだった。


「このエリア”アハト”の近くの街から鉄道に乗っても、直接行ける列車はないので、何度か乗換えが必要だ」

 鉄道が国中に張り巡らされいるとは言え、地形や各地区の治安などの影響で、路線の運行時間が極端に少ない場所も点在している。そのため、大きく遠回りしてでも乗り継いだ方が、結果的に早く辿りつけると、ディートハルトが説明する。

 説明を聞き、金糸雀カナリアが手を上げた。

「鉄道以外での移動方法は?」、

「車を使う方法もあるが、けっこうしんどいぞ?」

 帝国では、主要道路の舗装はされているが、地方に行けば行くほど舗装率は下がる。しかも、カージャックなどの強盗行為も横行しているため、余程のことがない限り帝国の人間が車での長距離移動は行わない。ディートハルトは昊斗そらとたちなら問題はないだろうが、マイナーであるがゆえに、もしもの場合、悪目立ちする可能性があるのでお勧めできない、と告げた。

 

「質問いいかしら?」

 そんな中、玉露ぎょくろが手を上げる。

「何だ?」

「前から帝国の人間に聞こうと思ってたんだけど、これだけの科学技術を持っていながら、どうして航空機開発が遅れているの?二ヵ月ほど前に、ロードの食堂のテレビで、航空機の試験飛行で墜落事故ってのニュースを見てから気になってたのよ」

 エメラーダの父親の情報を得る為に訪れた、国境都市ロードの定食屋で見た帝国のテレビニュースで流れた航空機の試験飛行中の墜落事故。

 一瞬だけ映った残骸から、帝国の航空機技術のレベルを分析していた玉露ぎょくろ金糸雀カナリアは、帝国関係者に話しを聞こうと思っていたのだが、ルーン王国でのクーデター騒ぎなどで聞く余裕が無かった為、丁度言い機会と、ディートハルトに質問した。

「・・・科学技術の発達した異世界から来た者たちから、よくされる質問なんだよな、それ」

 同じような質問を何度も受けたのか、ディートハルトがため息を漏らす。


「実際の話をすれば、帝国では実用化どころが営業運航にも使用できる航空機の開発には成功しているんだ。その気になれば、明日にでも帝国中を飛行機で移動できるぐらいにな」

「なら何で?」

 冬華とうかが首を傾げる中、ディートハルトは笑みを浮かべた。

「帝国の空には、”魔物”が住んでいるのさ」

「は?」

 あまりに突拍子にないことを言うディートハルトに、昊斗そらとたちが怪訝な顔をするが、皇子の眼は真剣そのものだった。

 昊斗そらとたちの反応を見て、ディートハルトは帝国における航空機開発の歴史を説明し始めた。


 帝国の航空機の開発は、建国当初から行われていた。元々、異世界から召喚された科学者や技術者が集まって誕生した国家であった為、各々元の世界に存在した航空機技術を用いて飛行機を作ればいい、と安易に考えていた。


 しかし、それは大きな間違いだった。


 グラン・バースの世界では、精霊の存在により精密機械類の誤作動が多発し、すぐに機器への影響を抑えるシールド技術が発明されたのだが、空の上では不完全なシールド技術を使った機器が全く役に立たず試験機が墜落。航空機の開発者たちは、グラン・バースの空を飛ぶための航空機の開発を、一から行わざるを得なくなった。

 今から八十年前、長年の研究から、高高度での影響にも耐えられるシールド技術が開発されたことにより、帝国で初の人を乗せる営業用旅客機が生産され、航空路線が開業することになった。

 だが、悲劇が起きる。

 第一号となる旅客機が乗客二百人以上を乗せて離陸後、一時間後に消息を断った。その数時間後には、荒野のど真ん中に墜落した残骸が発見され、乗客乗員全員の死亡が確認された。しかし、悲劇は止まることが無く同じ日に、何と四件立て続けに墜落事故が発生し、生き残ったものは一人も居なかった。

 すぐさま、航空機の使用は禁止され、事故の徹底調査が行われた。だが、エンジントラブルから人員の操作ミス、果てはテロなどの要因が考えられたが、調査委員会が下した結論は、墜落原因は不明。

 これが原因となり、帝国の空から飛行機の姿が消えることとなる。


 それから半世紀以上が過ぎ、記憶の風化と共に航空機開発の計画が一部官僚から持ち上がり、承認されることになったのだ。

「で、十年ほど前から再び開発が推進されるようになったんだが、悪夢は続いていてな。今回も、飛行試験中に試験機が空中で爆発した。徹底的に調査が行われたが八十年前と同じで原因は不明。その後、何度か飛行試験が行われているが、悉く機体は空中で爆発。そんな中で、一度だけあるパイロットが墜落直前に、こんなことを言ったんだ「巨大な鳥のような化け物が!?」てな。だが、その時レーダーには飛行機以外に反応が無く、パイロットが見たのはなんだったのか、未だに謎に包まれているんだ」

 この話をして、大概の者は「冗談でしょう?」と笑うのだが、昊斗そらとたちはいたって真面目に話を聞いていた。


「魔物ねぇ・・・まぁ、陸上や海に大型魔獣が住んでるんだから、空にいたっておかしくないわね」

 ルーン王国で、何度も大型の水棲魔獣と戦っている昊斗そらとたちだからこそ、海以外にも同じような生物がいるだろうと、容易に想像できた。

 腑に落ちたとは言いがたいが、帝国で航空機の実用化が遅れている理由を知った玉露ぎょくろは、ソファーに座りなおした。

(ルドラ・・・どうしたの?)

 そんな中、ルールーだけが何故か険しい表情をしているのに気が付いたカグが、小声で話しかけた。

(・・・・いや、今の話。少し気になっての)

 ルールーが、気になったことをカグに話そうとしたとき、ドアからノック音が聞こえた。


『モニカ・オットー少尉です!ディートハルト様、宜しいですか?』

 訪れたのが事情を知るモニカだったので、慌てて変身しようした昊斗そらとたちが、手を止める。

 昊斗そらと冬華とうかが変身しないことを確認したディートハルトは、ドアの方へ視線を向ける。

「入れ」

「失礼します。・・・・オクゾノさんたち、元の姿に戻ったんですか?!」

 入ってきたモニカが昊斗そらとたちと目が合い、元の姿に戻っていたことに驚きを露にする。

 そんな彼女の表情が面白かったのか、冬華とうかがクスクスと笑顔を向けた。

「ディート君に説明しないといけなかったからね。またすぐに、”変身”するよ」

 元に戻ったのはあくまで一時的なことと説明する冬華とうかに、モニカが納得していると、ディートハルトが咳払いする。

「オットー少尉、何か用か?」

 ディートハルトに促され、モニカは顔を真っ青にして背筋を伸ばした。

「?!・・・はっ!ヴィルヘルミナ様と連絡が付き、殿下に合流することになったので、ご挨拶をと思いまして」

 元々、アイディール学園での長期欠席等の申請の為、ヴィルヘルミナたちより帰国が遅れる事になっていたモニカ。そのお陰で、ディートハルトと昊斗そらとたちを引き合わせるための案内役をこなせたのだ。


「そうか・・・妹には、”くれぐれもよろしく伝えてくれ”」

 含みを持ったディートハルトの言い方に、モニカの表情が引き締まる。 

「了解です!オクゾノさんたちのことも、ヴィルヘルミナ様を始め、皆様には黙っておきます」 

「よろしく頼む・・・・そうだ、モニカ。すまないが、これをヴィルヘルミナとアイリスに渡してくれるか?」

 昊斗そらとは、創神器ディバイスからミユから預かった”御守り”を取り出し、モニカに手渡した。

「・・・これは?」

「ミユから預かった物だ。俺たちが直接渡さすべきなんだが、そういう訳にもいかないんでな」

 

「ミユ・・・・?!さ、祭事巫女様の?!わ、わたしなんかで、宜しいのでしょうか?!」

 ヴィルヘルミナとミユの関係を知るモニカは、手渡された物の重要性を知ってアワアワとお守りを持つ手を震わせる。

「貴女だから、任せるの。お願い」

 立ち上がった冬華とうかが、モニカの手を優しく包み込む。

「・・・・はい!このモニカ・オットー、この命に代えても、ヴィルヘルミナ様の元へ祭事巫女様の想いをお届けします!では、失礼します!」

 まるで、先ほどの緊張ぶりが嘘のように、モニカは溌剌とした顔つきで部屋を出ていった。


「妹が、ルーン王国に派遣された祭事巫女と仲良くなった事は聞いていたが・・・」

 ヴィルヘルミナからの手紙で、よくミユのことが綴られていたため、ディートハルトも二人の親交はそれなりだと予想していた。

「すごく仲の良い、親友同士だよ。ミーナちゃんの誕生パーティーに行くの、ミユちゃん楽しみにしてる」

 冬華とうかの説明を聞き、ディートハルトが「そうか」と何度も頷く。

「ならば、なおの事早く決着をつけないとな」

「あぁ、そうだな」


 決意を新たにした昊斗そらとたち。元の姿に戻っていた昊斗そらと冬華とうかが、再び”変身”しようとした時、冬華とうかが何かを思い出したように、創神器ディバイスを操作し始め、彼女の手の中に、一枚のカードが出現する。


「そうだ、忘れてた。話は変わるけど、これディート君に渡しておくね」

「これは?」

 受け取ったカードを物珍しそうに、ディートハルトが見つめていると、冬華とうかの口からとんでもない言葉が飛び出した。


「行きの船の中で、私たちを襲撃した犯人たち・・・陸軍情報部所属の特殊部隊のメンバーが入ってるの。中から出す時は、”オープン”って言えば出せるから」

「・・・・・はぁ?」

 二重の意味でありえないことを聞いたディートハルトが、素っ頓狂な声を上げる。

 

 昊斗そらとたちは、帝国行きの船での一幕を、映像−船に搭載されていた防犯カメラの映像を”拝借”していた−付きで説明した。

 さらに、ゴルドの街にて、テロリストの犯行に見せかけ昊斗そらとたちの暗殺を実行した−未遂に終わったが−二人についても併せて報告し、実行部隊の責任者が陸軍情報部のクレメンス大佐であることを告げた。


 説明を聞くにつれ、ディートハルトの顔つきが秒単位で険悪なものへ変わり、最後には怒りで頭を抱えていた。


「まさか、そこまで驕っていたとはな。クレメンスめ・・・・」

 昊斗そらとたちが乗ってきた船は、ルーン王国船籍の客船である。例え、自国の領海内であっても、他国籍の船への襲撃など、国際法に照らし合わせても間違いなく犯罪だ。さらに、相手はルーン王国・・・公になれば、両国の友好関係にひびが入る。

 にも拘らず、それを平然と部下に実行させたクレメンスの正気を、ディートハルトは疑った。


「本当は、ルーン王国側に引き渡すことになるんだろうが、今回の件に間してカレイド陛下から「自由にやっていい」と言われているからな。俺たちの判断で、君に引き渡す。好きにすればいい」


 昊斗そらとの言葉を聞きながら、ディートハルトは手にしたカードを見つめる。もちろん、中に入っている馬鹿者どもをどうしてやろうかと、考えながらだ。

「それから、ゴルドの街で私たちを暗殺しようとした、工作員のパソコンをハッキングして手に入れた情報、これもあげるわ。何か端末はある?」

 玉露ぎょくろの言葉に、ディートハルトは何処から突っ込めばいいか迷いに迷ったが、結局「彼らなら、何でも有りか」と諦めをつけた。

「・・・・・ちょっと待ってくれ」

 ディートハルトは仕事用で使っている携帯を取り出し、玉露ぎょくろに差し出す。


「はい、送ったわ」

 携帯に向って一瞬指さしただけの玉露ぎょくろの言葉に、ディートハルトが慌てて中を確認すると、見慣れない圧縮されたデータが入っていた。


「パソコンとかに移せば解凍できるから」

「あ、ありがとう」

 一体どんな手を使ったのか、この場に部下たちが居たなら根掘り葉掘り聞いていただろうな、と思いながら、ディートハルトは嘆息した。



 再び、各々の兄妹の姿に変身した昊斗そらと冬華とうか。二度見た程度では全く原理が理解できないディートハルトだったが、モニカたち同様に玉露ぎょくろの言葉を聞いて、原理を聞くのをやめた。


「では、最寄の街まで送らなくて良いのか?」

 鉄道での移動が決定し、最寄り駅まで部下に送らせると申し出たディートハルトだったが、昊斗そらとたちはその申し出を丁重に断った。

「えぇ、車を用意してもらえれば、それでいいから」


 昊斗そらとたちとしては、姿を変えているとは言え、極力自分たちだけで行動した方がいいと判断していた。その理由は、ディートハルトたちは機体輸送の名目で軍用列車を使用することができ、この列車は一般列車を止めて優先的に線路を使用できる。最初はその列車に便乗することも考えたが、一般人の乗車は原則禁止されているので、そこからボロが出る可能性がある。


 そこで、ディートハルトたちが破損した機体の修復を行っている間に、昊斗そらとたちは一般列車で移動し、ディートハルトたちは修復が終了次第、軍用列車で追いかけるという手はずとなった。


 応接室を出て、車が用意されている基地正面に出ると、そこには車と共に、ディートハルトの三人の副官が立っていた。


「来ましたね」

 ハーマンがディートハルトたちの姿を認め、意地舞を正すと、トーマが昊斗そらとを睨みつけて近づいてきた。


「おい、お前!機体が直ったらもう一度、俺と勝負しろ!あんな勝負に、俺は納得あたっ!?」

 女子高生の姿となった昊斗そらとに啖呵をきるトーマに、スバルが音も無く近づき、何処からともなくハリセンを取り出して容赦なく彼の後頭部に向って振り抜いていた。

「トーマ大尉。やはり、貴方は馬鹿ですか?何を言い出すかと思えば、こんな可憐な少女に対して・・・セクハラですよ?」

 セクハラと言う言葉に、トーマが目を見開いた。

「何処がだよ?!」

 帝国において、セクハラ問題は深刻な社会問題となっており、男社会である軍内部でも、最近では問題視されている為、トーマが「濡れ衣だ!」と声を上げた。

「唾が飛んでました。そして彼女は、不快そうに顔を顰めていた。ほら、十分セクハラです」

「?!・・・・・」

 冷静に指摘するスバルに、トーマが陸に上がった魚のように喘ぐ。


「二人とも、はしゃぐのはそこまでですよ。同僚が失礼しました」

 見かねたハーマンが間に入り、昊斗そらとに頭を下げる。


「騒がしい奴らだが、俺の優秀な副官たちだ。こっちのトーマは実働隊隊長。ハーマンは作戦指揮で、スバルは情報管理と後方支援の指揮を担っている」


 ディートハルトが三人を紹介すると、ハーマンたちが昊斗そらとたちに向って敬礼する。


「三人とも、彼らが今回協力してくれる助っ人だ。左から”セア”に”ハルオミ”、”ビャクレン”に”パーガン”。そして、”ルドラ”と”カグツチ”だ」

 昊斗そらとたちの正体を知るのは少数の方が良いと言う、ディートハルトの判断で部下たちには、正体を隠す事になったのだが、全員の名前を聞いて三人の目がルールーとカグへ向けられる。


 ルールーとカグに関しては、いつもの呼び方だと後々不具合が生じる可能性があるため、大胆にも神の時の名前にした。まさか、二人が本物の神だとは誰も思わないだろうという、読みがあってのことだ。もちろん、ディートハルトには二人が神である事は伝えていない。


「神と同じ名前って・・・コードネームにしては、些か大仰だな」

 昊斗そらとたちの読みどおり、二人の名前がコードネームだと思ったトーマが、呆れたように呟く。他の二人も同じ事を思っていたようで、トーマの言葉を否定しなかった。

 だが三人の表情を見て、馬鹿にされていると感じたルールーから殺気が漏れ出し、髪が蠢く。

 ルールーに落ちつくよう言おうとしたカグだったが、それよりも早く冬華とうかが不敵な笑みを浮かべ、ルールーとカグに肩に手を置いた。

「この二人は、その名を名乗るに見合う実力は持っている・・・侮ってもらっては困るな」

 取り繕うどころか、挑発するような冬華とうかの言葉に、トーマの表情が険しくなる。


「とにかく!俺たちは協力関係となった。妹に何かある前に、状況を収束させる、いう想いは一緒だ!分かったな?」

「・・・・・・」

 ディートハルトの言葉に、さすがのトーマも引き下がり、「了解だ」と頷いた。


「この車を使ってくれ。使い方は・・・」

 説明を始めようとしたディートハルトに、冬華とうかが制する。

「心配ない、パーガン」

「畏まりました」

 金糸雀カナリアが運転席に乗り込むと、迷うことなくモータ−を始動させた。 

 最新の電気自動車を苦も無く扱って見せた金糸雀カナリアに、トーマたちが驚いて目を見開く。


「では少佐。我々は先に目的地へ向わせてもらう」

「あぁ。俺たちも、すぐに後を追いかける。向こうで会おう」 

 そんな三人を尻目に、冬華とうかとディートハルトが握手を交わし、昊斗そらとたちは車に乗り込むと、機知を後にした。



「少佐・・・先ほど、フローラたちの報告書を見直したのですが、”異国の英雄”と彼らは明らかに別人です。いくらモニカ少尉が連れて来た者たちとは言え、信用して宜しいのですか?」

 変身した昊斗そらとたちと、異国の英雄とその仲間と言われている昊斗そらとたとが別人だと思い込んでいるハーマンは、ディートハルトが勘違いしているのでは、と思い再考を進言する。

「そうなのか?!おい、ディート大丈夫なのかよ!?」

 報告書に添付されていた昊斗そらとたちの顔写真まで見ていなかったトーマは、ハーマンの言葉に驚きを露にする。


「別に些細なことだろう?シュツルム・ランツェを圧倒する戦闘力を持っていたんだ。実力に申し分はない。そして、俺が直接話をして、信用に値する人物たちと”司令官”である俺が判断した。それで十分だと思うが、不満か?」

「い、いえ・・・」

 部隊の責任者である自分の判断で引き入れた、というディートはるとの言葉は、裏を返せば問題が起これば自分が全責任を追う、と言っているようなものだった。


 さすがに、ディートハルトにそこまで言われると、ハーマンも閉口せざるを得ず、それ以上の言葉は無かった。

 トーマも、実力という点では昊斗そらとたちに文句の付けようは無く、ディートハルトが信用出来ると口にしていることから、「ディートがそう言うなら」と不満げながらも、納得する。


 只一人、スバルは何かを察して「少佐の判断に従います」と言うだけだった。


「では、彼らといち早く合流する為に、破損機体の修復を最優先で行え!実働隊員はすぐに動けるように、移動準備を!急げ!」

「「「はっ!」」」

 ディートハルトからの命令が下り、全員が持ち場へと走っていき、ディートハルトは車の去って行った方を一時見つめ、自身も基地内へと戻っていった。



**********


「そういえば、情報部の方に動きはあった?」

 二度も刺客を退けられて、彼らが黙っているとは思っていなかった昊斗そらとは、玉露ぎょくろに相手の状況を聞く。


「血眼になって探してるみたいよ。私たちが鉄道を使うと踏んで、ICカードの情報を追跡してるみたいね」

 ゴルドの街で、刺客の一人であるイーネのパソコンから陸軍情報部のメインサーバーに侵入していた玉露ぎょくろは、相手の動きが手に取るように分かっていた。

 そのため、敵が鉄道に目を光らせていることも知っていたが、鉄道を使うことに反対しなかった。


「まぁ、すでに全員分のデータはダミーに差し替えてあるから、追跡なんて不可能だけどね」

 情報部が追っているデータは出鱈目の物で、どんなに探そうとも姿まで変えてしまった昊斗そらとたちを見つけるのは不可能だった。しかも、混乱を煽るように、玉露ぎょくろが偽情報を流して遊んでいるので、奇跡が数回起こらなければ発見は有り得ないのだ。


「クレメンス大佐の方は、ディートハルトに任せて、こちらは目的地に急ぐとしよう。パーガン、”くれぐれも安全運転で”頼むぞ?」

「もちろんでございます、旦那様」

 ハンドルを握る金糸雀カナリア冬華とうかが釘を刺す。


 ハンドルを握ると人が変わる典型の金糸雀カナリアに、過去何度も大変な目に遭っているので、このやり取りは必要だった。


「そういえば、ルドラ。さっき何か言いかけてたけど、あれってなんだったの?」

 最後部に座るカグが、横にルールーに応接室で言い掛けていた事を、聞きなおしていた。

「ん?・・・あぁ、あれは妾の思い違いじゃ。忘れてくれ」

 改めて思い返して、馬鹿なことを考えたと頭を振って、カグに忘れるよう言い、ルールーが窓の外を眺める。

「そう?君がそういうなら・・・」

 釈然としないカグだったが、ルールーの言葉を受け、それ以上聞くことはなかった。



 だがこの後、ルールーが”馬鹿な考え”と斬って捨てた予感(・・)が、物の見事に的中することになろうとは、今のルールーは知る良しもなく、一行が向う目的地方向は、今後の行く末を予言するかのように、雲行きが怪しくなっていたのだった。



次回更新は、10月6日(月)PM11:00過ぎを予定しています。


変更の場合は、活動報告にてご連絡します。

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