(7) 手合せという名の蹂躙劇
昊斗たちは、変装のために姿を変えて名前も変えていますが、「」外ではそのままの名前で表記しています。
混乱するかもしれませんが、ご容赦ください。
一行を乗せたバンが、基地のゲートと思われる建物に近づき、運転席のロックが、窓を開けて自身の身分証をゲートの警備兵に手渡す。
警備兵が、受け取った身分証を手にしていた機械に翳し、中のデータを読み込む。
「では、識別番号を入力し、掌を翳してください」
兵士から差し出された機械に、ロックは自分の識別番号を入力して、掌を翳す。
読み取りが完了し、認証終了の音が機械から流れた。
「確認出来ました。ようこそ、エリア”アハト”へ」
停車バーが上がり、ロックがバンを発車させる。
ゲートを抜けたメンバーの目の前には、基地の施設などは一切見えず、ただ一面荒野が広がっていた。
「このエリア”アハト”は、帝国にある演習場の中で最も広大で、敷地内では演習のほかに、帝国陸軍の試作兵器や新型兵器のテストも行われています。とは言っても、そういった機密性の高い兵器のテストは、隔離エリアで行われていますので、まず皆さんが目にすることはありません」
モニカがバスガイドのように基地の説明をしている最中、バンの横を見覚えのある機影が通り過ぎる。
「・・・・あれは良かったの?」
妹の姿に変身している昊斗が、かつて戦った試作兵器【イェーガー】によく似た二足型機動兵器を指差す。
「そういえば、オクゾ・・・・セアさんは、イェーガーと戦ったことがあるんでしたね。あれは、イェーガーの正式採用機【シュツルム・ランツェ】です。元々は、特殊部隊用に開発された機体ですけど、今では通常部隊にも配備が始まっていますので、機密と言うほどの代物ではないですね」
「へぇー・・・」
つい数ヶ月前に戦った昊斗としては、何処が変わったのか興味が湧き、見えなくなるまで眼で追っていた。
「あ、ディートハルト様がお待ちになっている、第一基地が見えてきました」
敷地内に入ってニ十分ほど走ったバンの前方に、ポツンと建物が建っていた。
「あれね・・・・?」
「どうかしたのか?」
「先ほどの機体と同じものが、基地の前に五機並んでいるのですが、妙ですね・・・駐機しているには少々熱量が・・・」
と、金糸雀が言いかけた瞬間、一機のシュツルム・ランツェの機関砲が発射され、戦車の装甲をも穿つ弾丸が、バンの横を掠めていく。
ロックは急ブレーキを踏み、車体を横にしながら停車した。
急停車の衝撃を踏ん張って堪えた玉露が声を上げる。
「撃ってきた?!」
「モニカ!どういうこと?!」
昊斗の問いに、モニカ自身も信じられないと言った表情を浮かべ、顔色が真っ青になってる。
「わ、分かりません!アシェアさん!スバルさんに連絡してください!!」
モニカに言われ、ディートハルトの副官の一人である、スバルに連絡を取ろうと携帯を取り出すアシェア。しかし、何度コールしても、携帯から彼女の声が聞こえることはなかった。
「・・・駄目、あの人通信に出ない」
「嘘だろ?!スバルの奴、何を考えているんだ!?」
まさかの事態に、アシェアが携帯を耳から離し、入れ替わるようにロックも携帯を取り出し、連絡を入れる。
すると、基地の屋上に設置してあるスピーカーにノイズが走った。
『声だけで失礼する。遠路はるばるよく来た、ルーン王国の英雄たちよ。俺の名は、ディートハルト・リーゼ・ミヒャイル・ハイゼンベルグ。レヴォルティオン帝国第二皇子にして、ヴィルヘルミナの兄だ。突然で申し訳ないが、妹を助けさらには王国を救ったというその実力、確かめさせてもらう!』
スピーカの声に呼応し、基地の前に並んでいたシュツゥルム・ランツェが立ち上がり、戦闘態勢に移行する。
「今の声って?」
「ディートハルト様です!と、とにかく、事情を聞いてきます!」
慌てて外へ出ようとしたモニカの肩を昊斗が掴む。
「待って。さっき殿下が言った、英雄って?」
「おそらく、オクゾノさんたちのことです!特にあなたは、ヴィルヘルミナ様を助けた異国の英雄、と帝国内で噂になっていますから」
先のルーン王国のクーデター解決に尽力した昊斗たちのことは、帝国でも噂になっており、皇女ヴィルヘルミナを助けた昊斗を一般市民の中には敬意を持って”異国の英雄”と呼ぶ者もいた。
昊斗たちが来ることを知らせていないディートハルトが、知っていたことに冬華が目を細める。
「てことは・・・あれ?私たちが来てるの、バレてる?」
素に戻る冬華と三人の視線が、モニカたちに注がれる。
「ま、前にもいましたけど、わたしたちは皆さんが来ることを、殿下に伝えてませんよ!協力者を連れてくる、とは伝えていましたが!」
悲鳴に近い声を上げるモニカと、青ざめた顔をするロックとアシェア。
「まぁ、敵に私たちが帝国へ向ってたことが知られていたんだから、皇子が知ってても不思議じゃないか。昊斗、どうするの?元の姿に戻る?」
玉露の問いに、昊斗が少しの間考え込み、顔を上げる。
「・・・今はこのままの姿を通す!」
昊斗の決定に、三人が笑みを浮かべる。
「了解だ」
「そうでなければ、わざわざ姿を変えた意味が無くなりますしな」
「そうね・・・高いポイント払ったんだし、このまま元の姿に戻るのは癪だものね!」
腹を決め、四人が戦闘準備を始める。
「なんじゃ?戦闘か!」
最後部に座っていたルールーが、嬉々として身を乗り出す。大人バージョンのため、豊満なバストが前の座席に乗っかる。
「僕たちは、いつでもいけますよ」
カグも、指の関節をほぐすように動かしている。
「二人は、モニカたちを護ってあげて」
昊斗の言葉に、ルールーが明らかに不満そうな顔になる。
「え〜?」
帝国に入って以来、身体を動かしていないルールーは、不満を口にし、暴れたい!とウズウズしている。
そんなルールーに、冬華が振り返って笑みを浮かべる。
「そんな顔をしないでくれ。二人にしか頼めないことなんだ」
昊斗たちから、お使い以外であまり頼られることの無いルールーは、「頼む」と言う言葉に反応し、口を尖らせながら乗り出していた身体を引っ込める。
「むぅ〜、まぁ主らがそういうなら」
座席に座りなおし、腕を組むルールーだが、その顔はまんざらでもなかった。
「分かりました。お気をつけて」
ルールーとは対照的に、護ることに不満を感じないカグは素直に頷く。
「後ろに攻撃を通さないようには気をつけるけど、あんたたちもしっかりやるのよ!」
玉露がルールーたちに発破をかけ、昊斗たち四人はバンの外へと出て行った。
『やはり、警告なしで発砲するのはやりすぎだったのでは?』
その頃、基地内の訓練用司令部にいた副官のハーマンは、バンから出てこない客人たちが、怒っているものと思い、外交問題になるのではと、危惧し始めていた。
『威嚇射撃なんだ、大丈夫だろ?それよりディート、まだ掛かりそうか?』
発砲した張本人であるトーマは、悪びれる様子も無く、ディートハルトに声を掛ける。
「すまない、何分新しい設定での起動だったからな。もう少し、調整に時間が掛かりそうだ」
彼の”機体”は、帝国にもまだ一機しか存在しない試作品の為、毎回の出撃はテストを兼ねている。今回、起動方法を新しいシステムで試しており、不具合が発生して起動しないでいた。
『急がねーと、俺たちで全部喰っちまうぞ』
トーマの言葉に、ハーマンが息を呑んだ。
『トーマ!相手はルーン王国からの客人だぞ!怪我どころか殺せば、外交問題に・・・』
只でさえ、先ほどの威嚇で戦々恐々としているのに、これで最悪の事態でも起ころうものなら・・・・とハーマンはそれ以上先の事は考えたくは無いと、頭を抱える。
『言葉の綾だろうが!ちゃんと、手加減する!』
と、言いつつトーマは、戦車を越える機動兵器である、シュツゥルム・レンツェに生身で向ってくる馬鹿が本当にいるのか、と眉を顰めていた。
しかし、上官であり主でもあるディートハルトが、攻撃を命令するなら、と自分の疑問を頭の隅へと追いやった。
「とにかく、時間を稼いでくれ。スバル、どうだ?」
出来ることなら、自分の目で彼らの実力を見てみたいと思っているディートハルトは、場を持たせてくれとトーマに頼み、”機体”の横にいる副官のスバルを呼んだ。
『システム内にバグを発見。二分ください、すぐに修正します』
そういうと、スバルは人間の限界に挑戦でもするかのように、猛烈な勢いでキーボードを叩き始める。
そんな彼女をバイザー越しに見ながら、ディートハルトは心強い部下の姿に笑みを浮かべる。
「頼む」
ディートハルトの言葉に、心なしかスバルのキーボードタッチの速度が上がった。
『殿下、彼らが出てきました!』
ハーマンから送られてくる映像に、意識を向けるディートハルト。
そこには、バンから降りる四つの人影が映っていた。
バンから降りた昊斗たち四人が、横一列に整列する。
そして、四人が降りた後から、モニカたちを護るよう言われたルールーとカグが降り、四人を見守るように立っている。
「敵は全部で、五体。自分が二体を受け持つので、残りは各自相手を」
姿を変えたままのため、予定通り昊斗に変わって指示を出す冬華。その手には、いつもの杖ではなく特殊合金製のポールアームが握られている。
「あら、ハルオミ。二体相手なんて、大丈夫なの?」
普段、昊斗が受け持つポジションを冬華にできるの?、と玉露が意地の悪い笑みを浮かべる。その肩には、光り輝く”鷹”が、主の命令を待つかのように玉露を見つめていた。
「今は、それがベストだろ?ビャクレン」
いつも昊斗のことを見ている冬華は、尊敬する兄と愛する昊斗の姿をイメージし、頼れるリーダーを演じる。
「いざとなれば、私がハルオミ様のバックアップに入りますので」
そう言うと執事服同様、金糸雀が真っ白な手袋をはめ直す。
「お願い、パーガン・・・」
金糸雀に声を掛け、昊斗が握っている武器に視線を落とす。
昊斗も、いつも使っている高周波ブレードではなく、別の武器を手にしていた。それは、昊斗たちの装備を用意している筆頭鍛冶師である薫子が、若かりし頃に「発想がおもしろそうだったから!」と言う理由で形にした二丁−もしくは二刀−一組の武器、”ブレードピストル”と言う大型拳銃の側面に刀の刃を取り付けた武器だった。
銃と刀の特性を持つこの武器は、ある意味”色物”ではあるが、昊斗は結構好きだったりする。
明らかに生身で戦う気満々の昊斗たちを見て、ルールーとカグ以外の面々が唖然とする。
『おいおいおい!あいつら、正気か?!』
五体のシュツルム・ランツェを相手に、たった四人でしかも生身で戦おうとする昊斗たちに、トーマは正気を疑う。
『ペトラの情報では、生身でこちらの一個師団に匹敵する力を持っていると・・・・・しかし、データと容姿が違うような?』
ハーマンの言葉に、通信機から部下たちの息を呑む声が聞こえ、トーマが声を張り上げた。
『どんなチートだよ!!完全に、化け物じゃねぇか!!』
「散開!!」
冬華の号令で、四人がそれぞれの目標に向って走り出す。
『くそっ、各機散開しろ!それから、射撃武器の使用は禁止!あと、間違っても踏み潰すなよ!!』
各機体を散開させながら、トーマが矢継ぎ早に命令を出す。
『副長、本当にやるんですか?!』
トーマも含め彼の部下たちは、生身の人間との接近戦を想定した訓練など行っていない。
二番機のパイロット、トーマの副官であるケイジが悲鳴を上げる。
『ったりまえだろ!』
『マジッすか?!』
『ちょっ、それってどんな無理ゲーです?!』
トーマの言葉に、三番機のダイクとトーマの部隊で紅一点の四番機パイロットのリノンが、化け物かもしれない相手に、自分たちは行動を制限されることに、同じく悲鳴を上げた。
『今からでも、取りやめにすれば・・・』
五番機のパイロットである一番若手のカーンズは、残念なことに最後まで喋ることが出来なかった。
「はぁー・・・・・っ!!」
カーンズの機体を射程に捉えていた冬華が、ポールアームを機体の側面に打ち込み、そのまま振り抜いた。
『ごはっ?!』
ポールアームを打ち据えられた胴体の装甲が拉げ、数十トンもの巨体が吹き飛び、使われていない倉庫に激突した。
『え?』
有り得ない光景に、帝国の最新鋭機が足を止める。
「遅い!!」
冬華は、近くにいた三番機に狙いを定め、頭上高く飛び上がり、ポールアームを叩きつけた。
機体の関節が耐え切れず、両脚が関節部分から破壊され、ダイク機が行動不能に陥る。
『ち、ちくしょう!』
コックピットで叫ぶダイクの頭上、ハッチ部分に立つ冬華は、他のメンバーの様子に目を向けた。
『これは、夢ですか?』
あっという間に二機が撃破され、二番機のケイジが呆然としていると、機体の画面に接近警報が表示される。
「戦闘中に、余所に気を取られるのは致命的ですよ?」
ケイジ機の足元に潜りこんでいた金糸雀が、腰を落とし右拳を固める。
『いつの間に?!』
気づくのが遅れたケイジが、機体を操作しようとしたが、それよりも早く金糸雀が機体の右脚関節を殴り、ピンポイントで破壊する。
しかも、一連の動作が速すぎて、執事服はおろか白い手袋にオイルなどの汚れは一切ついていなかった。
今の金糸雀は、戦闘能力に力を振り向けている為、昊斗たちまでとは行かないが、その戦闘力は一般的な傭兵より高く設定されている。
『か、関節を狙った!?』
傾く機体をケイジが立て直そうとするが、踏ん張りが利かず、地響きをさせて二番機が倒れる。
四番機のリノンが、悪夢を振り払うかのように、頭を振る。
『なんなの?!・・・!』
「ふふふ・・・・」
そんなリノン機に、玉露が笑みを浮かべて近づいていく。
『こ、こんな小さな子まで、あれほどの?・・・・言っておくけど、この機体は対術士殲滅用に作られた機体をベースにしているわ!魔術や精霊術の類は、通用しないわよ!』
彼女の言うとおり、シュツルム・ランツェは術者殲滅用に開発されたイェーガーを、一般部隊用に調整しなおした機体で、装甲には精霊術などの攻撃を半減させる加工が施されている。
リノンは、玉露の肩に留まる”光の鷹”が、術の類だと推測していた。
そんなリノンの言葉を受け、玉露が笑みを深める。
「さぁ、それはどうかしら?行きなさい」
玉露の命を受け、光の鷹が空高く舞い上がり、リノン機へ一直線に突っ込んでいく。
避ける素振りを見せないリノンの機体に、鷹が体当たりし粉々に砕け散ってしまった。
『?・・・・ほら、やっぱり効かな・・・』
と、そこまで言って、リノンの背中に冷たいものが走る。
画面に映る玉露が、笑みを絶やしていないからだ。
「侵入・・・・システム解析完了。何だ、イェーガーと基本OSは同じか・・・・もう少し、セキュリティを強化しないと乗っ取られるわよ?こんな風に」
新型機がどのようなOSで稼動しているか、気になっていた玉露だが、前に”調べた”イェーガーに使われていたシステムと大差なかったことに、落胆の表情を浮かべ、「つまらない」と右手を掲げて指を鳴らした。
すると、突然機体の電源が落ち、リノンは焦りの表情に変わる。
『?!なっ、システムダウン?』
慌てて再起動を試みるが、機体は一切反応を示さなかった。
「踊りなさい、お人形さん」
そして、玉露の言葉に、リノン機が再起動し、高速回転を始める。
『な、なにこれ?!』
何が起きているのか分からず、パニックに陥るリノン。
鍛えられたパイロットとは言え、高速回転による設定限界を超えたGが彼女を襲い、ものの数秒でリノンは意識を失った。
パイロットが戦闘不能になったのを確認して、玉露は機体を停止させる。
玉露が使った光の鷹は、術の類ではなくナノマシンの群体。それを鷹のように形作り、光らせることで魔術などで生み出したモノと誤認させ、ワザと攻撃を受けるように仕向けた。
おかげで、中に侵入したナノマシンを使い、玉露は苦も無くシステムを乗っ取ったのだった。
『ジョーダンだろ?』
精鋭である部下たちが、一瞬の内に撃破され、トーマは現実感を失いつつあった。
そんな中、可憐な少女の姿をした昊斗が、ブレードピストルを構えて、トーマ機に近づいていく。
「貴方で、最後です」
近づいてくる敵の姿を見て、トーマは「もう笑うしかねぇよな」と笑みを浮かべる。
『変わった武器だな・・・しかし、こうまでされちゃ手加減は・・・出来ねぇよな!!』
トーマは、射撃武器の使用を禁止していたにも関わらず、対戦車ミサイルを昊斗に向って発射した。
飛んでくるミサイルを眺めながら、昊斗は避ける素振りを見せず、ミサイルの直撃を受け、爆発の中へ消えた。
『トーマ!射撃武器の使用は!!』
トーマの強行に、ハーマンが怒鳴りつける。
『黙ってろ、ハーマン!』
だが、トーマは一歩も引かず、ハーマンに怒鳴り返す。何処かで、”お遊び”の範疇と考えていたトーマだったが、部下四人が瞬殺され、それが生身の人間の仕業だということに、酷くプライドを傷つけられた気分がした。
だからこそ、隊長として一矢報いなければ、気が治まらなかったのだ。
『・・・?!何処へ消えた!?』
爆発の煙が晴れ、ミサイルの着弾点が露になると、そこには昊斗の姿は無かった。
辺りを見渡すトーマ。すると、頭上からの接近警報がコクピット内に鳴り響く。
「フツノミタマ、バレルNo.4展開」
はるか上空に跳んで避けた昊斗は、少女の手には大きすぎる右手の大型拳銃を眼下のトーマ機へ向け、”オーダー”を呟く。
すると、銃口の先に幾つモノ光の輪が発生し、銃身のように一直線に並び収束する。
『上かぁ!!』
銃を構え、自由落下してくる昊斗を睨みつけ、トーマの咆哮と共に、ミサイル迎撃用の機関砲を撃ち放つ。
飛来する弾丸を、昊斗は左手に握るもう一つのブレードピストル”アマノハバキリ”の刃で切り裂いていく。
「アンチ・マテリアル・ライフル・・・っ!」
攻撃を苦も無く回避し、昊斗は拳銃のトリガーを引き、三発の弾丸を発射する。
およそ拳銃の発射音とは思えない、大気を振るわせる音を響かせ、”五十口径”の弾丸が一発二発と機体にめり込み、三発目で機体を貫通して、脚部の関節を撃ち抜いた。
『?!・・・・貫通しただと?!くそ、脚が・・・』
重量を支えられなくなった左脚部が自重で押し砕け、隊長機であるトーマの機体が転倒する。
それから遅れること数秒後に、昊斗がスカートを翻すことなく、フワリと地上に降り立った。
「まさか・・・五機のシュツルム・ランツェがこんなにも早く戦闘不能に・・・」
司令室から外の様子を見ていたハーマンが、予想だにしなかった光景に唖然とした。
相手の力を過小評価していたことに気が付き、格納庫にいるディートハルトに連絡を入れようとしたが、その手が止まる。
格納庫の映像に、彼の機体は映っていなかったからだ。
『わりぃ、ディート!時間稼ぎにもならなかった!』
顔を、システムエラーの赤い表示で照らされるトーマに、ディートハルトは「気にするな」と首を振る。
「問題ない。後は、俺に任せろ!」
機体のスラスターを全開にし、目の前に立つ昊斗へ狙いを定め、近接用ブレ−ドを構える。
「?!」
ブレードを構えたまま、猛スピードで突っ込んでくる”鎧”に、昊斗は咄嗟にブレードピストルで相手のブレードを往なし、攻撃を避けた。
その勢いのまま、鎧が空へと上昇し、上空で停止。ゆっくりと昊斗の方へ振り向いた。
「さすが・・・と、言うべきか」
上空から見える惨状に、ディートハルトが無念さを滲ませて呟く。
「強化外骨格?」
アフターバーナーを吹かし、上空に留まる機械の鎧を見て、昊斗は目を細める。
二足歩行型機動兵器とは一線を画す、洗練されたデザイン。それは、科学技術の結晶で出来た甲冑だった。
「俺の部隊で独自開発している、次世代型高機動兵装だ。まだ名前も無くて、便宜上【フューラー】と呼んでいる。手合わせ願えるか?」
機械の鎧を身に纏うディートハルトが、手合わせを願い出て、近接用ブレードを構える。
他のメンバーに目配せして、「手出し無用」と伝える昊斗。
「・・・わたしで、よければ」
手にした一対のブレードピストルを構え、昊斗が応じる。
傍から見れば、高い戦闘力を秘める強化外骨格に、”か弱い”女子高生が無謀な戦いを挑む光景にしか見えないが、先の戦闘を目撃している者たちの頭に、そんな考えは浮かばなかった。
一時の間が開き、先に仕掛けたのはディートハルトのほうだった。
出力を最大にして、一気に急降下し昊斗に斬りかかる。
昊斗はそれを真正面から受け、衝突の瞬間、衝撃波が辺りに広がる。
鍔迫り合いになった二人が睨みあう中、ディートハルトが口を開いた。
「妹やアンナたちからは人智を超越した力を持っていると聞いていたが・・・・・性別まで変えることが出来るとはな」
その言葉に、昊斗は表情一つ変えることなく、睨み続ける。
動揺を見せない相手にディートハルトは、二度切り結んだ目の前の少女が、妹を助けルーン王国を救った救国の英雄、妹の騎士二人が剣の達人と評した異世界人奥苑昊斗だと、確信していた。
妹や、間近で戦闘を見ていたアンナやフローラにペトラから、人の力を超えた力を持っていると聞いていた彼は、昊斗たちが姿を変えていることに、疑問は持っても、驚くことはなかった。
「・・・誰と勘違いされているかは分かりませんが、わたしは元から女ですよ」
そんなディートハルトの指摘に、昊斗は顔色一つ変えずに、しらばっくれる。
「申し訳ないが、君らのような驚異的な戦闘力を持った異世界人が、この世界に何人もいては世界が滅んでしまうだろな」
世界を滅ぼしかねない規格外の存在が、もう一組いる、と言う状況が想像できないディートハルト。そのことからも、少女が英雄の男性であると、彼は確信を持って言えた。
「異世界は数多く存在します。世界を滅ぼすような存在が、同時に何人も召喚されていたって、おかしくないですよ?」
それでも、あくまで白を切り通す昊斗。
「屁理屈を・・・だが今は、そういうことにしておこう!!」
平行線を辿りそうな雰囲気に、詳しい話はこれが終わって聞けばいいと、ディートハルトが再び、フューラーの出力を全開まで引き上げる。
相手を押しつぶそうとするディートハルトに、昊斗は急に力を抜き、身体を右に流して、フューラーの力を往なした。
「なにっ?!」
突然、昊斗の姿が消え、最大出力にしていたフューラーが数百メートルほど突き進む。
ディートハルトが急制動を掛け、強化外骨格の大パワーをねじ伏せて、通り過ぎたほうへと振り返る。
「?!」
振り返った瞬間、目の前に可憐な少女の顔があり、首元の隙間に切っ先が突きつけられる。
「王手です」
真剣な眼差しの昊斗に、ディートハルトが息を呑む。
それでも、まだ手がないかと考えたが、彼が視線を下に向けると、切っ先を突きつけている手と反対の手に握られた拳銃の銃口が、ディートハルトの腹部に突きつけられていた。
シュツルム・ランツェの装甲をも撃ち抜く非常識な拳銃の弾丸に、強化外骨格の装甲が堪えられるはずも無く、手詰まりかと、ディートハルトが息を吐き出した。
「・・・ふぅ、降参だ」
そして、参ったと意思表示するため、ブレードを手放し、両手を掲げた。
降参の意思を確認した昊斗が、ディートハルトの首元に突きつけたブレードピストルの切っ先を外し、腰に下げていたホルスターにブレードピストルを収める。
その一つ一つの行動が絵になる昊斗の背中を見ながら、ディートハルトは心強い味方を得た、と笑みを浮かべるのだった。
次回更新は、9月25日(木)PM11:00すぎを予定しています。
変更の場合は、活動報告にてご連絡します。
*9/25 次話更新予定を、9月26日に変更します。




