(6) 奥の手
「なんだよ・・・またテロか?」
「怖いわねぇ・・・警察や軍は何をやっているのかしら?」
爆破されたホテルを見上げる野次馬たち。あまりに日常過ぎる光景からか、焦りを見せるものは居らず、その場から逃げ出す素振りを見せないでいる。
「ほら!もっとさがれ!!危ないぞ!!」
通りに溢れる野次馬たちを、押取り刀で駆けつけた警察が規制線を張りながら下がらせてる。
そんな光景を、モニカたちヴィルヘルミナの部下三人は、”反対側”のホテルの一室から唖然として見つめていた。
「それにしても、意外に早く仕掛けてきたね」
「まぁ、尾行を撒かれたのが余程腹に据えかねたんだろうな。しかし、街中でミサイルをぶっ放すって、どういう神経してるんだか・・・」
そんな三人とは裏腹に、昊斗たちは創神器を操作しながら、暢気に構えている。
「なーなー、二人とも何をしておるのじゃ?」
「駄目だよ、ソラトさんたちの邪魔しちゃ」
自分たちとの温度差に、モニカは恐る恐る昊斗たちへ振り返る。
「あ、あの・・・・・これは、まさか・・・?」
昊斗たちの落ち着きように、何か事情を知っているのではないか、と声を掛ける。
創神器を操作していた冬華が手を止めて、顔を上げた。
「ん?あ、あぁ。そういえば、モニカさんたちは説明してなかったね。実は私たち、ゼーマンシュタットで尾行されてたの。船で襲ってきた特殊部隊の仲間か、それとも別口か短時間じゃ判断出来なかったから、とりあえず出方を見るために一度撒いて、追いかけてくるか様子を見ようと思ったの」
昊斗たちがゼーマンシュタットの国際港ターミナルの外へ出た瞬間、複数の”視線”が自分たちに向いていることに気が付いた。
もちろん、玉露や金糸雀の格好を物珍しく見ている視線もあったが、明らかに自分たちを監視する視線も存在した。
そのため、ファミレスに入り食事を終えた後、認識阻害術を特定人物・・・つまり彼らを監視している者達に対して使い、人の目による追跡を振り切っていた。
「鉄道会社のコンピューターをハッキングして、我々を追跡してきたようですね。”網”を張っておいて正解でしたよ・・・・モニカさん、彼らをご存知で?」
ホロ・ディスプレイに流れる膨大な情報を、流し読みしながら玉露は”罠”に掛かった”敵” の姿を画面に表示する。
「え?」
そこに映し出されたのは、画面の光に照らされ笑みを浮かべている女性と、携帯端末に向って話しをしている男の姿が、女性の使うコンピューターのウェブカメラを通じて映し出されていた。
玉露の言葉に、三人の目が点になる。
二人とも、三人が知る情報部の上官だからだ。
「どうです?」
改めて玉露に問われ、ロックが口を開く。
「知っている・・・・我々の、元上官でクレメンス大佐直属の部下だ。しかし、どうやって突き止めたんだ?我々を見限った奴らを褒めるつもりは無いが、二人とも名うてのハッカーだぞ。そう簡単に尻尾をつかませるとは思えない」
ロックの疑問に、モニカとアシェアも頷く。
そんな彼らの疑問に答えたのは金糸雀だった。
「私たちの乗車記録を調べようとした者がいた場合、相手に気づかれないようコンピューターウィルスを感染させるトラップを、”乗車券”を購入する際に鉄道会社のメインフレームに侵入して、仕掛けておきました。このウイルスに感染したコンピューターにはバックドアが形成され、常時私や玉露ちゃんにデータを送信し続けるようになります。もちろん、バレた場合はコンピューターのデータを全て巻き込んで自壊するようプログラムしています。なので、証拠も残らず追いかけることも不可能です」
元情報部出身の三人には、金糸雀の言葉が、サラッと受け流せなかった。
帝国の民間企業が運用するサーバーのメインフレームは、相当な腕を持つハッカーが最高の機材とチームを組んで落とせるかどうかという強固なものばかりだ。帝国陸軍情報部は”特別措置法”を盾に、企業と裏取引し事前承諾させる形で自由にハッキングを行っている。
それを、目の前にいる女性二人は事も無げにやってのけ、しかも情報部のエースたちが気が付かないほど、巧妙にトラップを仕掛けたというのだ。異国に所属している異世界人たちに、モニカたちは”寒気”を感じた。
「現在、相手にダミー情報を送ってかく乱させています。なので、あんな風に的外れな所へ撃ち込んだのですよ」
彼らに送っているダミー画像を見せながら、玉露が別の作業を始める。
「あの・・ちなみに、あの部屋には?」
昊斗たちが無関係な市民を巻き込むとは思えなかったモニカ。誰も居なかったことを祈りつつ、彼女の言葉を待った。
「え?この街で爆破テロを計画していたテロリストが潜伏していましたので、ついでに始末しました。どうやら、我々の殺害を、彼らのせいにするつもりだったようですよ?情報部の方のパソコンにテロリストの情報がありました。丁度良かったので、テロリストには身代わりにもらいました。我々とこの街の安全が保たれて一石二鳥です」
玉露の答えに、三人は眩暈を覚えてふらつく。
「・・・・つまり、あなた方もハッキングを行っている、と言うことですか?それが犯罪だと言う認識は?」
「言っておきますが、帝国における企業へのハッキング行為は重罪です。発覚すれば、例え他国に在籍する異世界人でも罪に問われますよ」
パソコンなどが見当たらず、どんな方法を用いているのかは分からないが、ハッキングを公言する二人に、気を取り直したロックとアシェアの目つきが鋭くなる。
そんな二人に、玉露が大きくため息をついた。
「何を今更・・・・高度情報化社会における情報戦で、ハッキングは常套手段の一つですよ?相手もやってることですし、それに・・・・バレなければ、犯罪にはなりませんしね」
人間味を感じない玉露の冷たい声に、二人は自分たちの”常識”が彼女らによって完全に打ち壊されたことに対し、感情的になって言葉の選択を間違えたことに気が付き、身体を硬くする。
だが、玉露も金糸雀もロックたちの言動をあまり気にしておらず、作業を再開させる。
「さてと、それでは仕上げと行きましょうか?マスターたちは、先に準備を」
「あぁ・・・」
「久々だから、変に緊張するねぇ」
そういうと、昊斗と冬華はそれぞれ、別々の個室に入っていき、モニカたちは彼らが何をするのか分からず黙って見送った。
*********
「はい・・はい・・・・。遺体の確認は、地元警察を動かして確認を・・はい・・はい、では」
男は通話を終了し、携帯を背広のポケットへ仕舞う。
「大佐は何と?」
会話の内容から、クレメンス大佐から新たな指示が出たのだろうと、女性は上官でありパートナーの男性を見つめる。
「遺体が確認出来次第、我々も本隊と合流する。中尉、シュトローマンを自壊させろ」
昊斗たちの殺害を、テロリストに押し付けるつもりの男は、証拠が残らないように、女性に”廃棄”の指示を出した。
「はい・・・・?」
指示を受け、女性が自壊コマンドを実行するが、画面に”エラー”の文字が表示される。
何度も同じ作業を繰り返すが、シュトローマンは自壊コードを受け付けず、エラー表示が重なっていく。
「どうした?」
警報音が立て続けに鳴り響くことに、男が怪訝な表情を浮かべる。
思いつく限りの方法を試したが、シュトローマンの自壊コードは実行されず、女性は魂が抜けたようにキーボードから手を離した。
「シュトローマンが、こちらのコマンドを受け付けません・・・・」
「なに?」
何がどうなっているのか、考えられる事態を想定しようとした時だった。
突然、女性の目の前にあるパソコンの画面が歪み、消えていたはずの部屋に備え付けられたテレビの電源が入った。
何事かと、二人は懐に隠していた拳銃を取り出し、辺りを警戒する。
『・・・・こんにちは、情報部のお二人さん。こちらを殺害出来たと安心していましたか?残念でした。あなた方が殺したのは、爆破テロを計画していたテロリストたちですよ』
砂嵐の音が部屋中のスピーカーから聞こえる中、玉露と金糸雀の声が重なったような声が響く。
「?!」
「な・・・・・ま、まさか?!」
想定外の出来事に、二人の表情が驚愕の色へと染まる。
『熱烈な歓迎、恐縮の至りです・・・僭越ながら、我々からの礼をお受け取りください』
カーテンを閉めた窓の外のバルコニーに、機械が着地する音が聞こえる。カーテンに映し出されるシルエットに、二人は見覚えがあった。
それは、彼らが昊斗たちを殺害するために使った、シュトローマンのシルエットだからだ。
そのシルエットが、戦闘態勢に移行する。
『そうそう、それから貴重なデータをありがとうございます。あなた方の上司には、お二人は立派にお勤めを果たされました、と言っておきますね』
スピーカーから聞こえた言葉に、女性は血相を変えてキーボードを操作する。
すると、パソコンの使用容量が急激に減り始め、女性が何の手出しも出来ないまま、使用領域が一気に0パーセントとなり、画面に彼女の知らない言葉が並ぶ。
「データは頂いた。『GO TO HELL』」、と。
「そんな・・・・・そんなぁああああああああああ!!!!」
コピーではなく、”文字通り”パソコンの中のデータを無抵抗に強奪され、自分が完全に手玉に取られていたことを理解した瞬間、頭の中が真っ白に漂白された女性は発狂した。
発狂するパートナーの姿に男は、とんでもない相手を敵に回してしまったのでは、と上官である大佐に連絡しようと携帯を入れたポケットに手を入れるが、すでに時間切れだった。
外にいるシュトローマンから、対人用に装備されたチェーンガンの感高い駆動音が発せられる。
「!?や、やめ・・・・」
言葉を言い終わる前に、毎分三千発と言う圧倒的な弾丸の暴力が二人を襲う。
部屋中の調度品が粉々に粉砕され、それと一緒に血を撒き散らしながら二人の人間が、一瞬の内に二つの塊へと変貌してしまった。
内蔵された全弾を撃ち尽くし、カラカラとチェーンガンの砲身が空回りする。
『・・・状況終了。シュトローマン、自壊プログラム作動』
コマンドが実行され、シュトローマンに内蔵された電子機器が全てショートし、さらにパーツのみを腐食させるガスが発生して、機体はグズグスに崩れ去った。
****************
「終了したわ」
床に着きそうなほど長い白い髪を掻き上げ、ミユやヴィルヘルミナと同い年ほどの少女が声を上げる。
その透き通るような白い肌と青い瞳に、白いロリータファッションを纏った姿はまるで、人形のような危険な美しさを持っていた。
「よし!それじゃミーナちゃんのお兄さんに、会いに行こうか!」
黒髪を短めに切り揃えたスーツ姿の二十代の男が、風貌に似つかわしくない・・・まるで、冬華の様な言葉遣いをする。
そんな男に対し、白髪の少女の額に青筋が浮かび、その儚さとは裏腹に、豪快な回し蹴りを男の尻に叩き込んだ。
男は前につんのめり、少女は意外に固かった男の臀部に蹴りを見舞った足を痛そうに摩る。
「いったぁ〜・・・・・”玉露ちゃん”、何するの?!」
蹴られた臀部を摩りながら、男は白髪の少女を玉露と呼んだ。
「痛いのはこっちよ!冬華、あんたねぇ・・・・そんなイケメンの姿で、いつもの口調はやめなさいよ!イメージ台無しじゃない!」
男のことを冬華と呼ぶ、白髪の少女。
そう、彼らは姿は違うが、その中身は冬華と玉露だった。
ちなみに、男が冬華で少女が玉露である。
「だって・・兄さまの立ち振る舞いって、結構難しいし・・・・それに、まだ外じゃないんだし・・・・いいでしょ?」
冬華の兄、春臣は防衛大学校出身の現役自衛官で、冬華にとって尊敬する優しくも厳しい兄である。
冬華としても、その尊敬する兄の姿を借りる以上、なるべく自分の中の兄のイメージ通りに振舞おうと思ったのだが、周りが知り合いばかりで気持ちの切り替えが上手くいっていなかった。
「全く・・・ていうか、冬華ってお兄さんのこと”兄さま”って呼ぶんだ」
「え?何か変かな?」
何となく、知られたくないプライベートを知られ、兄の姿をした冬華が恥ずかしそうにする。
「いいではありませんか?玉露ちゃん。外に出れば我が主もきちんとしますよ」
そういって、二人に近づいてきたのは、五十代後半くらいの白い執事服を着こなす壮齢の男性。アリエルに仕える執事のジョゼフや、ロードにいた元マルカス家の執事、ブラーム・スケールに雰囲気が似ている。
「あんたも・・・・・なりきるならちゃんとやりなさいよ、金糸雀。ナイスミドルな小父様は、”ちゃん”付けなんてしないわよ」
金糸雀の中途半端な役作りに、玉露が苦言を呈する。
「おっと、これは失礼を・・・リトルレディ?」
即座に気持ちを切り替え、金糸雀がベテランの執事を演じる。
「・・・昊斗〜?いつまで掛かってるの?」
未だに部屋から出てこない昊斗に、玉露が声を掛ける。
すると、部屋のドアがゆっくり開き、中から恥ずかしそうに顔を赤らめるブレザー姿の少女が現れた。
「・・・・・・・・」
高校生ぐらいの年齢か。目元やクセッ気な髪質などは昊斗に似ているが、彼と違い肩まで伸びる髪や女の子らしい華奢な体つきをしている。
「ほぅ、これは」
「なかなか・・・」
金糸雀と玉露が少女の姿を見て感嘆の声を上げる。
「へぇ、星亜ちゃんって、今はそんな感じなんだ。小学生の頃しか知らないから、街であっても分からないかも」
少女のことを知る冬華は、成長した少女の姿を見てうれしそうにする。
昊斗の今の姿は、星亜と言う高校に通う三つ年下の妹のものだった。
大学に進学するにあたり、一人暮らしをする為家を出た昊斗が、妹の星亜と最後に顔を合わせたのは、一年前。まだ幼さが残る妹の顔しか知らない昊斗は、この一年で妹がどんな風に成長しているか、見当がつかないでいたので、自身が知る一年前の星亜の姿を使っている。
「やめてくれ・・・結構恥ずかしいんだぞ」
妹を褒められるのは兄として嬉しいのだが、自分に向って言葉を掛けられるので、あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にして、手で顔を隠す昊斗。
いつもの昊斗の口調だが、その可愛らしい声と風貌と仕草に、冬華たちの心が撃ち抜かれたのは言うまでも無い。
「いやぁ、ここまでくると、ソラトたちは何でもあり!と言った感じじゃな」
「そうだね」
四人の姿に、大人バージョンに変身したルールーとカグが感心するように頷く。
「いえ・・・お二人も大概だと思いますが・・・?」
だが、そんな二人に対しモニカが遠い目をする。
子供だった二人が突然目の前で大人の姿になったのも、彼女ら帝国の人間からすれば十分驚愕の現象である。
「「?」」
彼女の言葉に、意味が理解できないルールーとカグが首を傾げる。
「一体、どんな方法を使えば・・・・」
部屋に入って数分後。出てきた時には全くの別人になっていた昊斗たちが、どんな方法を使ったのか全く見当がつかないロックが声を漏らし、その横でアシェアが首を捻ってウンウン唸りながら考え込んでしまっていた。
「私と金糸雀の身体は元々義体だからね。その気になれば、どんな姿にもなれるわよ?ただ昊斗たちは自身の肉体自体を変化させるから、遺伝子的近い・・・兄妹とか両親の姿にしか変われないけど・・・ちなみに方法は秘密。教えたとしても理解できないでしょうし、世界の理を超えた事象だから、知ったらあなたたちの存在が維持できるかの保障は出来ないわよ?」
十四〜五歳の少女とは思えぬ妖艶な笑みと恐ろしい発言に、三人が魂が抜けたように首を縦に振る。
ちなみに、玉露と金糸雀の今の姿は、それぞれ自分が理想とする姿で、組合から振り込まれる”ポイント”を消費すれば、義体のデザイン変更を行え、様々な姿に変更することが出来るようになっている。
一方、昊斗と冬華の使った方法は創神器の一機能で、創造神の力を消費することで、肉体を変化させることが出来る。最初は身長体重などの数値を、ごく僅か変更することしか出来ないのだが、傭兵としてのランクが上がるにつれ、機能が拡充されていき、最高ランクにいる二人は、性別の違う親兄弟の姿を完全に再現できるようになってるのだ。
これが、彼らが言っていた奥の手である。つまり、完全に別人になってしまい、今回の件に介入しようと言うわけだった。
準備が終わり、部屋から出ようとした時、冬華が「あっ」と声を上げた。
「そうそう、とりあえずこの姿の時は、名前を変えるから気をつけてね。私はハルオミで」
兄の姿をとっているため、冬華はそのまま兄の名前を。
「・・・・・わたしも、セアでいいから」
昊斗も、妹の名前で通すことにし、諦めがついたのか喋り方が変わる。
「私は、ビャクレンでよろしくね!」
玉露は、白を基調とした姿のためか、名前にも白が入っている。
「では、私はパーガンでお願い致します」
金糸雀は、何処かで聞いたことがありそうな執事っぽい名前。
「分かりました」
「むぅ〜?なんだか、ややこしいの〜」
素直に頷くカグと、いまいち誰が誰かを把握できていないルールー。
帝国の三人は、もう流れに身を任せようと諦めがつき、無言のまま頷いた。
ホテルを引き払い、モニカたちが用意していた大型のバンに乗車し、昊斗たちはゴルドの後にする。
街中で、爆発や人死が出ているにも拘らず、すんなり脱出することが出来た一行。モニカたち曰く「裏技を使ったので」と、自慢げにしていたが、実際は軍関係車両に付けられるナンバープレートを使っているので、フリーパスなだけだった。
「それで、これから何処へ?」
外へ出て、漸く演技を開始した冬華。その甘いルックスと声に、モニカとアシェアが頬を赤く染める。
「二人とも、そこにいる男は幻だからね〜。恋しちゃ駄目だよ〜」
玉露が暢気な声で、恋する乙女の様な表情を浮かべる二人に注意を促す。
ハッ、と現実に引き戻されたモニカとアシェアは、頬を叩いたり抓ったりして、雑念を振り払う。
「?!・・・・・・こ、ここから二十キロ先に軍の基地があります。現在、ディートハルト様と直属の部隊がその基地に駐留していますので、合流する為まずはそこへ向います」
行き先を聞き、昊斗が首を傾げる。
「一応、わたしたちって一般人なんだけど、入っても大丈夫なの?」
さすがに、”記憶の中にある妹”と同じ喋りは、恥ずかしくて自分には出来ないと、昊斗は極力男言葉が出ないよう意識して喋る。
「我々がいますから、大丈夫ですよ!」
運転するロックが、任せてください!とバックミラーを覗きながら、心なしか声を弾ませる。
「おーい、この子も幻なんだからね?心を持っていかれないように、気をつけろ〜」
玉露は、本当に大丈夫か、こいつら?と後ろの座席で呆れかえる。
「楽しいことに、なりそうですな」
はっはっは、と最後部の座席に座る壮齢の執事姿の金糸雀が楽しそうに笑う。
「よく分からんが、そうじゃの!」
深く考えるのやめたルールーが、金糸雀に同意する。
「・・・・なんだろう。嫌な予感がするんですが・・・・・」
ただ一人。カグだけが不安そうに呟き、窓の外を見つめた。
***************
「そろそろ約束の時間ですが・・・”殿下”、本当によろしいのですか?」
整然と並ぶ帝国の主力兵器となった、二足歩行型機動兵器【イェーガー】・・の正式採用機を前に、軍服を着た者たちが数人立っている。
その中で、一人だけウェットスーツの様な身体に張り付くボディースーツを身に付け、その上から軍服の上着を羽織る青年に、副官の一人である男性が声を掛ける。
「オレは、ペトラとフローラからの報告書を見ただけで、彼の実際の戦いぶりを見たわけじゃないからな。ヴィーを助けてくれた恩人には悪いが、実力を見せてもらわないと・・背中を任せる気にはなれないのさ」
父親の系統の顔立ちである兄のライナルトと違い、妹であるヴィルヘルミナと同じ、母親の系統を色濃く受け継ぐ顔立ちのディートハルトが、不敵な笑みを浮かべる。
「良いじゃないか、ハーマン!ディートがこう言ってるんだ。使えなきゃ、ルーン王国にお引取り願うだけだろ?」
もう一人の副官である青年が、同僚のハーマンの肩をバシバシ叩く。
「やめろ、トーマ!!それに、殿下に対して無礼だろう!」
自分の肩を叩く、トーマの腕を払いのけ、ハーマンが上官であるディートハルトのことを”愛称”で呼んだトーマに噛み付く。
「別に良いじゃないか・・ガキの頃からの付き合いなんだ。ディートだって気にしてないんだし。な?」
トーマの問いに、ディートハルトが笑みを浮かべる。
「あぁ・・・・寧ろ、敬語を使われたら、疎外されているように感じるな」
ディートハルトの言葉に、トーマが「ほらな!」と言った表情を、ハーマンに向ける。
「しかし・・部下の手前、立場を明確にしなければ・・・」
「・・・・殿下、来ました」
ハーマンが食い下がる中、三人目の副官であり女性士官のスバルが声を掛けた。
「そうか・・・・・総員に伝令。全隊戦闘準備」
「「「はっ!」」」
ディートハルトの命令を受け、副官三人の表情が険しくなり、それぞれの持ち場へと走っていく。
「さぁ、英雄とその仲間たち。オレに、その実力を見せてみろ!」
そういって、ディートハルトは上着を脱ぎ捨て、自分の”機体”へと歩いていくのだった。
次回から、ややこしいことになりそうなので、改めて。
昊斗=セア
冬華=ハルオミ
玉露=ビャクレン
金糸雀=パーガン
となります。
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次回更新は、9月20日(土)PM11:00ごろを予定しています。
変更の場合は、活動報告にてご連絡します。




