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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
風の神 強襲 編
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(4) 帝国からの刺客

 王都ディアグラムは、水上輸送の拠点と言う立地から、多くの船舶が行き来し発着場となる岸壁が、十数キロに渡って運河沿いに造られている。


 その中で、旅行者用の客船が接岸する船着場には、出航を待つ船に乗客たちが乗船するため列を成していた。


「前は、王族専用の場所から出発したから分からなかったけど、船も人も多いよね」

 帝国行きの客船の上で、運河から吹いてくる風でなびく髪を押さえながら、冬華とうかが眼下の岸壁に見送りに来ていたミユとドラグレアに手を振っているが、フェリシアやフレミーの姿が無かった。

 いつもなら絶対に見送りに来るはずのフェリシアは、王女としての公務が重なり、双子の妹であり自身の騎士であるフレミーを伴って、地方へ行っているのだった。


「特に、帝国へ行く船はここからしか出ていないらしいからな。必然的に、多くなるんだろう」

 ルーン王国からレヴォルティオン帝国への入国ルートは三つあり、一つは昊斗そらとたちが乗る客船が通る南洋航路を使ったルート。二つ目は、国境都市ロードから伸びる山道を通るルート。三つ目は北海航路を使うルートだ。


 だが、南洋に比べ北海は海が荒く、凶暴な水棲魔獣が数多く生息している為、頻繁に船の行き来はされておらず、しかも水棲魔獣の数の増加により、ここ最近は一般商船の往来は禁止となっている。ロードからの山道も、登山鉄道を引く計画が持ち上がっているが、未だ着工のめどが立たず、数日掛けて徒歩で山を越えなければならないため、現在最も一般的なのが南洋ルートだった。


「ロードで思い出したけど、フォルトさん。今度、シスさんやエメちゃんたちを連れて、里帰りするって言ってたね」

 二ヶ月前のクーデターの折、父娘の再会を果たしたフォルトとエメラーダ。母であるファルファッラが、「エメラーダの事は信頼できる者に頼んでいる」と言い残し眠りについてしまい、フォルトとその妻アレクシスの強い要望で、その信頼できる者が来るまでの間、エメラーダをフォルトの所で預かることになった。


 しかし、二ヶ月経った今も、ファルファッラの言う人物は現れず、フォルトは今の内に”家族”でロードを訪れておこうと考え、計画していたのだった。


「博物館の館長のブラーム様や、写真館のエルヴィン様は喜ばれるでしょうね」

 金糸雀カナリアの言った二人は、ロードで出会ったフォルトやその実家と縁のある人物たちで、エメラーダは父が見つかったら、父を連れて絶対にもう一度ロードを訪れる、と二人と約束していたのだ。

「きっとそうだよ」

「だな」

 彼らが、色々な話に花を咲かせるのだろうと想像し、昊斗そらと冬華とうかは笑みを浮かべた。


「そう言えばマスター。先ほど、ミユさんから何か受け取っていましたが、なんだったのです?」

 船に乗船する直前、ミユが昊斗そらとを呼び止め、何かを手渡していたのを見ていた玉露ぎょくろは、話題を変えるように昊斗そらとに問いかける。


「ん?これだよ」

 ズボンのポケットになおしていた品を取り出し、昊斗そらとが全員の前に差し出す。

「御守りですか?」

 それは、細かな刺繍の施された二つの御守り袋だった。


「ヴィルヘルミナとアイリスに渡してくれって頼まれたんだ」

 巫女であるミユが作ったそれは、それぞれの友人が好きな色をふんだんに使った、世界に一つしかない御守り。


 そんな御守りを見つめていたルールーが、フッと笑みを浮かべた。

「ほう、さすがは巫女じゃな。良い気が封じられておる」

 何かとエメラーダを巡って小競り合い堪えない二人だが、ルールーはミユのことを少なからず認めており、最近では神として助言したりしている。

「巫女殿の、友人を想う気持ちが込められているのでしょうね」

 カグも、御守りから感じる心温まる霊気に、優しく微笑んだ。


「ミーナちゃんたちには直接渡せないかもしれないけど、ミユちゃんの気持ち・・・・ちゃんと届けないとね」

「あぁ」

 乗船した船が離岸し、帝国を目指して、まずは南洋へ向けて出発する。


 昊斗そらとは、預かった”想い”を無くないよう、御守りを今度は創神器ディバイスの重要品保管区画へなおした。


「それじゃ、部屋に戻ろうか」

 冬華とうかの号令で、全員が船内へと入っていく。



 そんな昊斗そらとたちを、影から見つめる男がいた。

「・・・・ターゲットの乗船を確認」

 旅行者風の格好をしている男は、コートの襟元に隠した通信機のマイクに小声で報告を送る。

『了解。フロッシュ2、別命あるまで監視を続行せよ』

 耳に仕込んだイヤホンから、指令が下り、男は他の乗客に紛れて船内へと入っていった。



 部屋へと戻った昊斗そらとたちは、今後の行動について確認を始めた。


「さて、帝国に着いてからのことを確認するが、今回の第一目標は、ヴィルヘルミナの父親である帝国皇帝マクシミリアン・ハインリヒ・ハイゼンベルグ氏の精神状態を元の状態に戻すことだ。皇帝が元に戻ったと分かれば、ヴィルヘルミナを利用しようと考える輩を牽制する事は出来るだろう・・・・その後の事は、ヴィルヘルミナの兄上たちに頑張ってもらうとして、俺たちは、そのまま残りの代理神探しに移る」


 今回、昊斗たちが帝国へ行く目的は、皇帝の精神状態の回復と代理神探しの二つである。とは言え、どちらも大っぴらに出来ることではないので、表向きは旅行と言うことになっていた。


「皇帝陛下の居場所は、モニカさんに調べてもらうとして・・・・代理神探しに関しては、現在有力な情報、手がかりが無いから、合間を見ながら情報収集。ルーちゃんとカグ君は、残りの代理神の気配を感じたら、真っ先に知らせてね」


 強大な力を持つ代理神だが、普段はその力と気配を極限まで薄めており、専門の探索能力を持った傭兵でもない限り、その存在を掴む事は非常に困難である。

 だが、同じ代理神であれば、ある程度の範囲内に入ればその存在を感じることが出来るようになっている。


 グラン・バースの創造神が払える報酬の関係上、”組合”からの支援を受けることが出来ない昊斗そらとたちは、ルールーとカグに”センサー”の変わりになってもらう為に連れてきていた。

「分かったのじゃ」

「了解です」

 かつて、自分たちの起こした行動によって、自分たちが守るべきグラン・バースだけでなく、他の世界をも危険に晒していることを知った二人は、一刻も早く仲間を探さなければと、積極的に昊斗そらとたちへ協力しようと意気込んでいる。


「まず帝国へ到着したら、協力者のモニカと合流する。予定では、俺たちが乗っているこの船が到着する帝国の南側海の玄関口。”ゼーマンシュタット”の北にある小さな町で、移動手段を用意して待っているはずだ」


 昊斗そらとたちより一日早くルーン王国を出立しているモニカは、昊斗そらとたちと同じ航路の船に乗っているので、遅くとも明日の朝には帝国に到着し、移動の為の準備を整える手はずになっていた。


「残りは、到着前に話し合おうか。一応旅行って体で出国してるし。部屋に閉じこもっているのも、よくないよね」

 昊斗そらとたちが乗船しているのは、高級とまではいかないまでも、それなりに値段の張る客船だった。船内には娯楽施設などが完備されているので、帝国までの二日間、退屈せずに船旅が満喫できると一般人に人気の船である。

「マスターたちは、船内を見回って来たらどうです?私と金糸雀カナリアはまだ整理していない情報がありますので、後で合流します」

 玉露ぎょくろの提案に、昊斗そらと冬華とうかが目を丸くする中、金糸雀カナリアも同意するように頷いた。

「そうですよ。お二人をサポートするのが私たちの役目です。裏方仕事は任せてください」


 そういって、金糸雀カナリア昊斗そらとたちを部屋から追い出し、「いってらっしゃいませ」と部屋のドアを閉めた。


「ここ最近、二人ともいい感じだよね?」

 振り向いて、玉露ぎょくろに問いかける金糸雀カナリア


 玉露ぎょくろは、ニコニコと言葉を待っている幼馴染を見て、ため息をついた。


「・・・・・木漏れ日の森での一件から、数ヶ月。最近じゃ、恋人らしいことも増えてきたけど、あの二人・・・・未だやってないのよ?このままじゃ、私の番までどれだけ掛かるか・・・・もっとこっちから発破かけないと埒が明かないわよ」

 と、プライベート口調で不満を漏らす玉露ぎょくろ


 長い付き合いのためか、昊斗そらと冬華とうかの関係は、恋人となった今でも前とさほど変わらない。そのため、玉露ぎょくろたちは普段から結構気を使っているのだが、あまり進展は見られなかった。


「でも、ルーちゃんたちも一緒だから、あまり意味が無いんじゃないの?」

「・・・・・彼女たちを一緒に出したのは、あんたでしょうが」

 ジト目で睨まれ、金糸雀カナリアは乾いた笑いを上げながら情報整理を始め、玉露ぎょくろは再びため息を漏らした。


 案の定、一仕事終えて合流した玉露ぎょくろたちが見たのは、子供たち(ルールーたち)を見守る親の様な昊斗そらと冬華とうかの姿で、「これは・・・・当分無理か」と、玉露ぎょくろは頭を抱えるのだった。



 その夜。


 カップルなどで賑わっていた甲板から人影が消えた頃、海から複数の黒い物体が船体をよじ登り、船上へ降り立った。


 その数六。全身を覆うダイバースーツと、水中用の暗視ゴーグルつけた姿は、まるで”カエル”のようだった。侵入した六人はすぐさま、物陰へ移動し、防水加工されたケースを開いて、装備を取り出した。


 消音装置のついた特殊部隊仕様の短い銃身が特徴的なアサルトライフルに、軍用ナイフ。


 全員が装備を整えると、隊長と思われる者が口を開いた。


「目標の男は現在、客室で就寝している。仲間と思われる女子供がいるが、下手に騒がれると面倒だ、全員殺せ。情報では、盗まれた実験用機体の”イェーガー”を独りで倒した、と言われている。気を抜くなよ」


 情報を確認し、隊長が部下たちに合図を送り、行動を開始しようとした時だ。


『行っても、誰も寝ていないぞ』

「?!」 

 通信機に、聞きなれた声が聞こえ、全員の動きが止まる。それは、船内に”旅行者”として潜入していた仲間の声だったからだ。


 即座に周囲を警戒し、ライフルを構える侵入者の六人。


「こそこそかぎ回る奴がいると思っていたが、そういうことか」

 声のするほうへ、全員が銃口を向ける。そこには、戦闘服姿の昊斗そらとが、高周波ブレードを持って立ち、その後ろには玉露ぎょくろが浮かんでいた。


「お前たちの仲間なら、今頃バーカウンターで酔いつぶれて夢の中だ。さっきの声は、『俺の声を加工して、お前たちの通信機に流したものだぞ』」

 昊斗そらとの声が仲間の声に変わり、侵入者たちは船に乗り込む前に受けた仲間の報告が、偽りだったことに気が付き殺気立つ。

 

「見た所、帝国軍の・・・それも特殊部隊のようだが、俺に何か用か?」

 そんな殺気を軽く受け流す昊斗そらとの質問に対し、侵入者たちは一斉にライフルを発射して応えた。


 だが、弾は防御結界に阻まれ、昊斗そらとに届くことはなかった。

「?!」

 特殊部隊の面々は、対術者専用の結界破壊弾を使用していたが、昊斗そらとを傷つけるどころか、結界さえ破壊できなかったことに、一瞬動揺する。


 すると、その動揺を逃すまいと六人の体が光の帯によって拘束される。


「待ち伏せされてたと気づいた時点で、自分たちの敗北は分かってたでしょ?無駄な抵抗はやめてね?」

 戦闘服姿の冬華とうか金糸雀カナリアが、昊斗そらとたちの反対側から現れ、冬華とうかの手には愛用の杖が握られ、先端には淡い光が灯っている。


 この場にルールーとカグの姿が無いが、彼らは”普通”に部屋で寝ている。


「さて、そう簡単に口を割るとは思えないからな・・・どうするか」

 と、昊斗そらとが言いかけた瞬間、六人の頭が爆発し辺りに肉片を撒き散らした。


「は?」

 昊斗そらと冬華とうかは、防除結界によって飛び散った肉片や血で汚れることはなかったが、突然の出来事に呆気に取られる。


『どうやら、頭の中に爆弾を仕込んでいたようですね。目的は情報の漏洩防止でしょうか?徹底してますね』

 動揺することなく、淡々と相手の”仕事振り”に感想を述べる玉露ぎょくろ

『我が主、どうされますか?』

 答えは分かっているのだが、金糸雀カナリアはあえて冬華とうかに対応を伺う。


「もちろん、”情報を聞き出すまで”、生き返らせるよ。さぁ、彼らにもう一度命を断つ勇気があるかな?」

 何処か楽しそうな冬華とうかが、杖をくるくると回し甲板に突き立てると、拘束されたままの死体が輝きだし、周りに飛散したモノが消えた瞬間、特殊部隊のメンバーの首が何ごとも無かったかのように復活した。


「っ?!」

 暗視ゴーグルなどで隠れていた顔はさらけ出され、二十代〜三十代の男女六人であることが分かった。

 そんな六人は、何が起きたのか分からず、視線が泳いでいる。


「・・・気分はどうだ?」

 熱を感じない、昊斗そらとの冷徹な声に、床に転がる全員の視線が集まる。

「ば、馬鹿な・・・・我々は、死んだはず・・・」

 間違いなく、自決用の爆破スイッチを押したと思っていた隊長の男は、うわ言のように呟いた。


「生き返らせたんだよ。まさか、そんな簡単に死ねると思ってたの?」

 そんな彼に、冬華とうかは妖艶な笑みを浮かべながら、弾むような無邪気な声色で彼らの身に起こったことを説明する。

 一瞬、意味が理解できなかったのか、特殊部隊の面々の表情が固まるが、意味が頭に浸透した瞬間、恐怖に包まれた。

「生き返らせた?・・・・馬鹿な?!不可能だ!!首から上が粉々に吹き飛ぶよう、爆薬がセットされていたのだぞ!」


 彼らは、対術者戦用に訓練を受けた者たちで、グラン・バースに存在する精霊術を始め、異世界から伝わった魔術など、帝国の”ライブラリー”に保存されている様々な術式体系の知識を身につけていた。

 そんな中で、死んだ人間を復活させるモノは二つのみで、一つは術者固有の特殊能力。もう一つは術式を用いたものだったが、共通して頭部を損壊した場合は蘇生不可能と言うものだった。

 さらに、帝国では死体の脳から情報を取り出す技術が確立されている為、情報漏えいを防ぐため、彼らの自決方法は頭部の破壊なのだ。


 にも拘らず、いとも簡単に自分たちの頭部を復元し生き返らせたターゲットたちに対して、言い知れぬ恐怖を感じた。


 未だに信じられないといった特殊部隊の隊長に対し、昊斗そらとの視線が一層冷たいものへと変わる。

「悪いが、ここでそういう問答をするつもりは無い。お前たちの目的と主。洗いざらい全て吐いてもらおう・・・・・死んでもいいが、何度でも生き返らせるから、そのつもりでいろ」 

 人を生き返らせる術は、相当の霊力や魔力を消費する。殆どの場合、一回行えれば二度目は無い、と言うのが常識なのに、”何度でも”という昊斗そらとに、部隊の面々はブラフだと思ったが、彼の表情を見て「まさか」という考えが頭を過ぎった。


「試してあげようか?誰か殺して生き返らせてあげるよ?」

 虫も殺さないような美少女の冬華とうかの口から、殺すという言葉を聞き、全員が悟った。


 自分たち・・・いや自分たちの上官は、とでもない化け物たちにケンカを売ってしまった、と。


 だが、彼らにも面子がある。例え、相手が化け物でも、拷問の類で口を割るほど軟な訓練を受けてはいない。決して口は割らないと、硬く覚悟を心に誓う特殊部隊のメンバーたち。


 しかし、目の前にいる昊斗そらとたちを、彼らは見誤っていた。


『では、我が主。準備が完了しました』

 金糸雀カナリアの報告に、冬華とうかが頷き、昊斗そらと玉露ぎょくろに視線で合図を送る。


 二人も頷くと、冬華とうかが床を杖の柄尻でトントンと叩くと、周りの風景が一変し、あたり一面に拷問器具などが所狭しと出現した。


 部隊のメンバーは、その光景に身体中の毛が逆立ち、悪寒というには生温い寒気で全身が震える。

 見たことのある器具から、どんな風に使うのか理解できないものまで、多種多様な器具を前に昊斗そらとたち四人が、笑みを浮かべた。


「今いるこの空間は、通常の空間とは違う位相に有るから、どんなに泣き叫んでも、声は漏れないから安心してね」

『時間の流れも通常とは異なりますので、ご了承くださいませ』

 冬華とうか金糸雀カナリアは、彼らへ遠まわしに、助けも来ないし、やろうと思えばいつまでも苦痛を与えることが出来る、とほのめかす。


「話したくなったらいつでも手を上げろ。五人だけ助けてやる」

『誰が最後に残るのか、見ものですね』

 一見、昊斗そらとは脱げ道を提示しているように思えるが、彼らには冬華の拘束が今も続いている。手を上げたくても、上げられないのだ。


 そう、最初から彼等の口を割るつもりなど、昊斗そらとたちには一欠けらも無かった。


 それこそ、情報など玉露ぎょくろ金糸雀カナリアが、彼らの脳から取り出せば済むのだ。


 言ってしまえば、これは敵に対する昊斗そらとたちなりの宣戦布告。

 

 「お前らの売ったケンカ、全力で買ってやる」と。


 冬華とうかが杖を掲げると、特殊部隊のメンバーの身体が突然宙へと浮かび、ダイバースーツが裂け全裸になる。


 そして、それぞれが拷問器具へとつながれ、何人かは悲鳴を上げた。


「それでは、始めようか?」



*********************



 昊斗そらとたちが乗る客船は、無事予定どおりに帝国の都市の一つ、ゼーマンシュタットに到着した。


 客船にタラップが掛かり、乗客たちが手荷物を持って船を下りてくる。


 そんな中、昊斗そらとたちも船旅に疲れたように、背伸びをしながら船から下りてきた。


「着いたねぇ、帝国に」

 先頭を歩く冬華とうかが、朗らかな笑顔をしながら深呼吸する。

「凄いですね・・・・・ルーン王国とは全く趣が違う。文化の違いとは、こういうことなんですね」

 タラップから見える近代的なビル群に、カグが感嘆の声をあげて降りていく。

「豪華客船の旅も良いですが、私はやはりこういう庶民的な客船の旅が性に合います」

 着物姿で注目を集めながらも、全く気にする様子の無い玉露ぎょくろが、短かった船旅を振り返る。

玉露ぎょくろちゃんの言う通りかも。楽しかったですね、昊斗そらとさん」 

 同じく、執事服姿でありながら、その胸の部分は女性であることを誇示するように隆起し、周りの―特に男性―視線を集める金糸雀カナリアが、後ろを歩く昊斗そらとに声を掛ける。

「みんな余り気を抜くなよ?これからが本番なんだぞ?」

 妙に浮かれ気味なメンバーに苦言を呈する昊斗そらと

 タラップを降りた所で、後ろにいたルールーが昊斗そらとの服の袖を引っ張った。

「ソラト〜、妾お腹すいたのじゃ」

 船の到着時刻が微妙な為、客船では朝食が出なかった。そのせいで、ルールーはお腹を押さえて口をへの字に曲げていた。


「もう少し待てルールー。先に入国手続きをしないと、帝国に入れない」

 昊斗そらとたちの視線の先に、近未来的な外観を持つ国際線旅客ターミナルの建物が建っていた。


 中へ入るとさすがに帝国随一の国際線のターミナルなだけあり、入国手続きのカウンターが横一列にズラッと並んでいた。


 それでも、各カウンターには長蛇の列が並んでいる為、手続きに時間が掛かるのは明白だった。ルールーもそのことに気が付き、さらに空腹の度合いが進んだのか、目に涙をためる。

「そうだよ、ルーちゃん。それに、帝国は多民族国家って話だから、いろんな料理があるはずだよ。もうちょっと我慢しようね」

 そんなルールーに、冬華とうかがしゃがみこんで説得する。


 冬華とうかの言う事は本当で、レヴォルティオン帝国は建国以来、周辺国を併合していった為、他の国では考えられないほどの多種多様な民族・種族が暮らしている。

 さらに、異世界人の国でもあるため、帝国に”郷土料理”と呼ばれるものは相当な数が存在していた。


「ホントーか!?楽しみじゃ・・・・」

 冬華とうかの話を聞き、まだ見ぬ料理に思いを馳せルールーがボケ〜ッとその場で固まってしまう。

 こうなると中々復帰させるのが大変のだが・・・・・

「ルドラ。ほら、行こう?」

 そう言ってカグがルールーの横に立ち、手を握って歩き出すと、ルールーは夢見心地の表情を浮かべたまま歩き出したのだ。


 カグも最初は、食べ物を思い浮かべて、ルールーはだらしないと思っていたのだが、最近ではその表情も可愛く見え、無理に現実に引き戻すより、彼女に好きなことを好きなだけさせてあげようと考えるようになっていた。


 そして、その場に立ち止まるのは周りの迷惑だからと、ルールーの手を引いてカグが歩くと、彼女もそのまま歩き出すことが分かり、今では二人が手を繋いで歩くことが普通になっているのだった。


 カグに手を引かれ、ルールーは入国手続きの列へと並ぶ。そんな二人の姿に笑みをこぼしながら昊斗そらとたちも、二人の後に続き入国手続きの列へと並び、審査に臨むのだった。


 


今回は、ダークな話でした。

特殊部隊のメンバーがどうなったかは、次の話で。


*******


次回更新予定は、9月10日(水)PM11:00過ぎを予定しています。


変更の場合は、活動報告にてご連絡いたします。

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