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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
風の神 強襲 編
113/180

(3) 皇女の”耳”

「な・・・何者って言われても、わたし・・・・」

 昊斗そらとに切っ先を向けられ、冷や汗を流す女子生徒。

 だが、そのたどたどしい言葉とは裏腹に、表情にはすでに焦りの色はない。

「あ・・あのわたし、アイディール学園の生徒です。歩いていたら、突然、周りがこんな風に・・・」

 自身の置かれた状況を説明しながら、女子生徒の両腕がスッと下げられた時だった。

「なっ!?」 

 突然、足元から光の帯が何本も伸び、瞬く間に女子生徒の身体を拘束した。


「最初に言っておくけど、一般人を装っても駄目だからね。貴女が、訓練を受けた人間だって言うのは、さっきの動きで丸わかりだし、その両腕には銃が仕込んであるよね?」

「?!」

 

 冬華とうかの言葉を裏付けるように、腕に仕込んだ仕掛けが、中途半端にロックが解除されていたために誤作動し、女子生徒の袖口から拳銃が二丁飛び出して、そのまま地面へ落下した。


 女子生徒は「しまった!」という表情を浮かべ、再び焦りを見せる。

 落ちた拳銃はオートマチック式の拳銃で、地面に落ちた際の音から強化プラスチック製だと昊斗そらとはすぐに判った。


 そして、そんな高性能な拳銃を所持出来る国は、昊斗そらと冬華とうかが知る限り、一つだけである。

「帝国の人間・・・・しかも軍関係か。ヴィルヘルミナたちから、ルーン王国にいる帝国関係者の話をあまり聞いていないが・・・しかし、変装する格好を間違えたな、あんた」

 昊斗そらとの指摘に、女子生徒の目が点になる。


「え?」

「たしかに、アイディール学園の生徒の格好をよく研究しているようだけど、貴女が学生って言い張るには少し無理があるかな?」

 尾行していた女子生徒は、身長が百七十近くあり、スレンダーなモデル体型をしている。髪も纏めることなく下ろしており、学園の一般クラスの女子生徒同等、極薄くしか化粧を施していないが、その大人びた顔つきは、化粧をしている冬華とうかよりも年上の女性に見えた。

「な・・な・・・・・・」

 そんな当の女子生徒は二人の指摘を聞いて、顔を真っ赤にして涙目になる。


 そして・・・・

「こう見えてもわたしは、まだ十八です!!フローラたちに比べたらたしかに老け顔だけど!!それでも、れっきとした女子高生なんですよ!!気にしてるのに・・・・うぇえええん!!」


 がぁ!!と一頻り吠え、女子生徒はまるで子供のように泣き出してしまった。


「・・・・・・・うそ」

 どう見てもアンナと同い年に見える彼女を凝視し、冬華とうかは驚愕の表情を浮かべる。

「・・・・・参ったな」


 余程年齢相応に見てもらえなかったのがショックだったのか、女子生徒の泣き方は尋常ではなく、昊斗そらと冬華とうかは困惑するのだった。



 とりあえず、彼女を落ち着かせ二人は、女子生徒が一体何者なのかを、今度はなるべく優しい口調で問いただした。


 涙声で、彼女は自分の正体と、昊斗そらとたちを尾行けていた理由を話し始めた。


 彼女の名は、モニカ・オットー。帝国軍人で、階級は少尉。元々は陸軍情報部に所属し、ルーン王国内での諜報活動を行っていた諜報部隊の一員だった。

 任務内容は、ルーン王国国内での情報収集。

 彼女は、帝国商人の娘としてルーン王国に留学し、アイディール学園に通いながら、任務に従事していた。


 だが、先の同時多発テロの際に、本国にいる彼女の上司筋が、事件に関与したことが発覚し拘束された影響で、活動休止を余儀なくされ、程なく皇帝代理である皇太子のライナルトの命令で、友好国への諜報活動を行っていた部隊は解散となり、本国へと帰国させられた。


 しかし、全員というのは表向きで、情報部の独断でモニカを含む数人がルーン王国国内に留まることとなったのだが、実は彼女たちは上から人員削減を迫られていた所属部署が必要なしとして、切り捨てられていたのだ。


 そんな中、彼女は同期であり同郷のフローラに声を掛けられ、ヴィルヘルミナの下で働かないか、と誘われる。


 所属部署の性質上、フローラに自分の存在がバレるのを避けるため、意図的に彼女との接触を避けていたのだが、合同学園祭の折に、ばったり学園内で出会ってしまい、モニカの苦労は水泡に帰してしまっていた。


 最初は所属が違うという理由からフローラの話を断ったモニカだったが、切り捨てられたものと知らずに、所属部署からの来るはずのない任務再開の命令を待ちながら、悶々とした日々を送っていた。

 そして突然、配置換えの命令書が届き、彼女は所属部署に切り捨てられたことを知った。


 裏切られた絶望から、生きる気力を失ったモニカたちだったが、そんな彼女らを救ったのは、皇女ヴィルヘルミナだった。


「わたくしは自身が思っていた以上に無知でした。そのことを誘拐されて嫌というほど思い知った・・・・・・たがらこそ、このままではいけないと強く思ったのです。皆様の気持ちを、わたくしは、どれだけ理解できるかわかりませんが、少なくとも、皆様を見捨て、裏切るような事はしません。どうか、わたくしに力を貸してくださいませんか?お願いします」


 一介の軍人である自分の所に、ヴィルヘルミナがやって来たことにも驚いたが、半ば不要物のように棄てられていた自分たちが必要だと言ってくれる皇女に、モニカや仲間たちは彼女こそ仕えるべき人物だと思い至り、ヴィルヘルミナに忠誠を誓った。


 その後モニカたちは、アンナの計らいでルーン王国内でのヴィルヘルミナ付きの警護となり、裏ではかつて構築した情報網を逆手に取り、今度は本国の情報を収集し、ヴィルヘルミナに提供し続けたのだった。


「ミーナちゃんが、そんなことを」

 話を聞き、冬華とうかは驚きよりも、感心の方が大きく、笑みを浮かべる。

 普段、ミユやアイリスなど同い年の友人と接して年相応の反応を見せ、フェリシアやアリエルの影に隠れ忘れられがちだが、彼女は飛び級するほどの才女である。

 そんなヴィルヘルミナが、誘拐という経験を経て何もしていないとは、昊斗そらと冬華とうかも考えられなかった。


「それで、君が俺たちを尾行けていた理由は?」

 昊斗そらとの問いに、モニカはバツの悪い表情を浮かべる。

「・・・すみません。尾行していたのは職業病みたいなもので、任務で対象に接触することがわたし無かったものですから、どう声を掛けたらいいか判らなくて・・・」

 意外な言葉に、昊斗そらと冬華とうかは「帝国軍人には、残念な子が多いのか?」と本気で心配してしまい、顔を顰める。

 

 そして冬華とうかは短く息を吐き出し、モニカに施していた拘束を解いた。


「?!・・・いいんですか?」

 拘束を解かれたことに驚きながらも、自然に落とした拳銃を拾うモニカは、冬華とうかの顔を見つめた。

「うん。私たちと敵対するつもりが無い事はよく分かったし、それに・・・太刀打ちできない事は、十分理解できたでしょ?」

 笑みを浮かべる冬華とうかと厳しい目線を送り続ける昊斗そらとに、先ほどまで自分が何をしていたか、そして今も何を考えていたのか見抜かれたモニカは、再び拳銃を地面に落とした。


「・・・・・・はい」

 実は、素性を話しながらモニカは、自分を拘束する術を解除しようと試みていた。ルーン王国のように精霊術が発達する国に潜入する者たちは、術式破壊用の装備を携帯している。

 モニカも、その装備を持っていたのだが、冬華とうかの術の前では全く歯が立たず、逆に規定以上の負荷が掛かってしまい壊れてしまった。

 拳銃を拾いながら、二人の隙を窺っては見たものの、昊斗そらとが一瞬だけ殺気を放ち、「馬鹿な真似はやめておけ」と高周波ブレードの刃を、モニカにチラつかせた。


 敵対するつもりは無かったのだが、同期のフローラやその同僚であるペトラが「凄い人たち!」と絶賛し、自分たちの諜報能力を持ってしても、公表されている情報以外掴めなかった昊斗そらとたちに、一種の腕試しで挑んだのだが、結果はモニカが泣かされるという惨憺たるものに終わった。


「それで結局、君は俺たちに何の用だったんだ?」

 話が逸れた、と昊斗そらとが話題を戻すと、モニカの表情が真剣なものへと変わり、背筋を伸ばした。


「・・・お二人は、今回ヴィルヘルミナ殿下が本国へ戻られた理由をお聞きですか?」

 唐突な質問に二人は顔を見合わせ、冬華とうかは首を傾げながら答える。

「え?たしか、自分の誕生パーティーの準備とか、同じタイミングで行われる建国祭の準備の手伝いをしにじゃないの?」

「表向きはそうです・・・・ですが、もう一つ理由があります。それはある勢力を炙り出すために、自ら囮となることです」

「は?」

 モニカの言っていることがよく分からず、首を傾げる二人に、彼女は鎮痛な表情のまま俯き加減で口を開いた。


「これからお話しすることは、帝国でも極一部のものしか知らない情報です。ヴィルヘルミナ殿下の尊厳に関わることでもあるので、内密にお願いします」

「・・・分かった」

 只ならぬモニカの雰囲気に、昊斗そらと冬華とうかも居住まいを正す。


「二年ほど前、皇后イーザベル様が崩御された後、葬儀の時は毅然とされていた皇帝陛下が、ショックから自室に篭るようになったそうです。一週間ほど経って、心配したヴィルヘルミナ殿下が見舞いに訪れた際、事件がおきました・・・陛下が、娘である殿下をイーザベル様と勘違いし、手篭めにしようとなさったのです」

 二人は声を出さなかったが、一瞬場の空気がピリつき、逆にモニカが悲鳴を上げそうになる。


「すまない、続けてくれ」

 昊斗そらと冬華とうかは、心を落ち着かせるようにゆっくりと呼吸し、モニカへ続けるよう促した。


「・・・・・・そのときは、すぐに騒ぎを聞きつけ駆けつけた、殿下の兄上である皇太子のライナルト様と第二皇子であるディートハルト様のおかげで、大事に至る事はありませんでしたが、その後も陛下はヴィルヘルミナ殿下を亡き皇后様と思い込み、連れて来るよう叫び続けたそうです。ライナルト様は従者たちに緘口令を敷き、陛下を病気療養を理由に隔離し、心の傷を負ったヴィルへルミナ殿下を、”姉”と慕うフェリシア殿下のいるルーン王国へ留学に出したのです」


 モニカの話を聞き、昊斗そらとはヴィルヘルミナに関して、色々なことが腑に落ちた。


「他人が信じられない・・・・そりゃ、父親に突然襲われれば・・仕方ないか」

 ヴィルヘルミナから、彼女がとある理由から人間不信に陥り、誘拐事件を切っ掛けにもう一度他人を信じてみようと考えるようになったと話を聞いていたが、人間不信になった理由が父親に強姦されそうになったから、と知って昊斗そらとたちは苦虫を噛んだように顔を顰めた。

 

 そんな二人を見ながら、モニカは「続けます」と話を続ける。

「時間と距離を置いて、二人を落ち着かせようと言うのがライナルト様のお考えだったようなのですが、思わぬ事態が起きました。緘口令を敷いていたにも拘らず、情報が外部に漏れてしまい、陛下に取り入ろうと機会を窺っていた一部の役人や軍上層部の者が、殿下を誘拐し陛下への手土産に、取り成してもらおうと行動を起こしたのです。実を言うと、王都で起きた同時多発テロの裏で、テロリストとは別に殿下を誘拐しようと帝国から特殊部隊が潜入し、それを阻止しようとライナルト様が送り込んだ部隊がいたんです。ですが、二つの部隊の情報がテロリスト側に漏れており、行動する前に潜伏先の建物ごと爆破されてしまい、実行される事はありませんでした」

「なるほどな・・・・この間のクーデターで、帝国の支援が異常に早かった理由は、そういう後ろめたさも在った訳か」


 自国の皇女を助けてもらった恩と、自国の民族問題に巻き込んだ事への謝罪からだと昊斗そらとたちは考えていたが、まさか帝国上層部の派閥争いまで関係していたとは、思いも寄らなかった。


「現在までに、帝国国内では何人もの逮捕者が出たのですが、今でも殿下を利用しようと考える者がいるという噂が後を断たず、そのことを知った殿下自ら、ライナルト様へ囮になることを申し出たのです」

「そうだったの・・・・・」

 ヴィルヘルミナが帝国へ帰る前に、様子がいつもと違っていたことに、二人は気が付いていたが、深く追求することはなかった。

 こんなことなら、少しでも話を聞いてあげればよかったと、冬華とうかは下唇を噛む。

 そんな冬華とうかを横目で見ながら、昊斗そらとがモニカへ視線を移す。


「どうして、俺たちに話そうと思った?」


 モニカが話した内容は、表ざたになればライナルトとヴィルヘルミナの作戦が失敗に追い込む恐れのあるモノだ。今までの話を聞く中で、そのことを目の前の少女が理解していないと、どうしても思えなかった。


「殿下を・・・・ヴィルヘルミナ様を助けたいからです!お二人のことは、フローラから聞いていましたし、身をもってお二人の実力を知ることも出来ました。お願いです、殿下を助けるのを手伝ってください」

 あまりに真っ直ぐなモニカの言葉に、二人は面くらいいろんな意味で心配になった。

 もし、これを演技でやっているなら、彼女は一流の諜報員か女優になれただろうが、昊斗そらと冬華とうかは彼女の言葉が純粋な気持ちから溢れ出たものだとすぐに判った


「モニカさん・・・周りから、諜報員には向いてないって言われたことない?」

「え?・・・えぇ、よく言われます。バカ正直過ぎて諜報員には向いていない、といつも仲間たちに言われていましたが?」

 「どうして判ったんですか?」と首を傾げるモニカに、昊斗そらとたちは必死笑いを堪えた。


「・・ふぅ、いいだろう。手伝ってやるよ」

 笑いを堪えながら、昊斗そらとが了承すると、モニカが大きく目を見開いた。

「え?!いいんですか!?・・・・まさか、そんなあっさり即決してもらえるとは思いませんでした」

 彼女の中では、断られるか、最低でも返事を貰うのに数日は掛かると覚悟していた。まさか、即決するとは思いもよらず、モニカは呆気に取られる。

「ミーナちゃんのこともそうだけど、他の人たちも心配だからねぇ」

 ヴィルヘルミナだけでなく、彼女の周りにいる人々も昊斗そらとたちにとっては、大切な友人。ヴィルヘルミナが危険に晒されるなら、彼女たちも必然的に危険に晒されることになるのだ。

 二人にとって、それは許容できることではなかった。

「あ、ありがとうございます!」

 目を潤ませながら、頭を下げるモニカ。


「で、いつ行くの?」

 ヴィルヘルミナが出国して数日、何事も無ければすでに帝都へ着いている頃だった。

  

「出来るなら早い方がいいですが、わたしはともかく皆さんは・・・・」

 モニカは帝国国民なので、出入国手続きは容易なのだが、異世界人である昊斗そらとたちがいきなり帝国へ行こうとすると、所属するルーン王国との手続きなどで、手順が複雑になる。

 昊斗そらとたちが返答を先送りにすると思っていたモニカは、その間に手を回しておこうと考えていたことを伝えると、昊斗そらとが首を振った。

「心配しなくていい。元々帝国へ行く予定があったから、それを理由にすれば手続きは簡単なはずだ」

「・・・・・・・・」

 またしても予想を上いく言葉に、モニカは絶句する。

「どうしたの?」

 首を傾げる冬華とうかに、モニカは遠い目をして、乾いた笑いを漏らした。

「ははは・・・お二人とも、心強いなと思いまして」

 フローラたちが「凄い!」と言っていた理由が、何となく解り始めたモニカは言葉とは裏腹に、昊斗そらとたちへ畏怖を感じていた。


 一緒に行動すると後々面倒になるということで、別々に出国し、帝国内のとある町で落ち合うことを確認し、昊斗そらとたちはモニカと別れ、帰路へとついた。


「とりあえず、フェリシアたちには黙っておこう。知ったら、間違いなく付いて行くと言いかねないし」

 ヴィルヘルミナが黙って行った理由を察し、昊斗そらとたちはフェリシアたちには伏せておこうと示し合わせた。

「うん。でも、モニカさんには悪いけど、一応カレイドさんに話を通しておかないと」

「だな。もしかしたら、あの人は知ってる可能性もあるし」

 契約上、昊斗そらとたちにはカレイドへの報告義務がある。もちろん、代理神に関することは除外されるが、それ以外ではこれが適用された。


 昊斗そらとたちは、そのままアルバート城へ向った。



***************



 同じ頃、レヴォルティオン帝国。帝都アンファング。


「ご無沙汰しております、上兄様」

 直に会うのは、ルーン王国へ留学に出て以来となるライナルトの姿を見て、ヴィルヘルミナの表情から緊張の色が消える。


「よく無事に帰ってきたね、ミーナ。元気そうで何よりだ」

 久しぶりに見る妹の元気な姿に、ライナルトは優しい笑みをヴィルヘルミナに向ける。

 だが、そんな兄の顔を見て、ヴィルヘルミナの顔に影が差す。

「上兄様は、少しお窶れになられたのではないですか?あまり顔色が・・・」

 ヴィルヘルミナのイメージの中のライナルトに比べ、目の前の実物の兄は頬がこけ、輝くようなオーラはなりを潜めていた。

 

「父上の仕事をやってみて、改めて皇帝と言う存在の偉大さを思い知ったよ・・・・私など、まだまだ半人前の若造でしかないことを痛感させられている」

「上兄様・・・・・・」

 心配そうに見つめるヴィルヘルミナに、ライナルトは苦笑した。

「立場のある者が、弱気になってはいけないね・・・・ミーナ、今日はゆっくり休みなさい。明日から、忙しくなる」

「はい・・・・」

 踵を返し、ヴィルヘルミナが部屋を出て行こうとすると、ライナルトが呼び止めた。


「すまない。お前は私を、薄情な兄だと思っているだろう。妹を危険に晒すと分かっておきながら、提案に乗ったこの愚かな私を恨んでくれて構わない」

 ライナルトの言葉に、ヴィルヘルミナは振り返り、ゆっくり首を横に振った。


「そんなことはございません。寧ろ上兄様が、わたくしを認めてくれたのだと、嬉しく思います。わたくしも覚悟は出来ています。ですから、ご自身を責めないでください。では、おやすみなさい上兄様」

 自分の決意を伝え、ヴィルヘルミナは前を向いて部屋を出て行った。

「すまない・・・・・・」


 ヴィルヘルミナが部屋を出て行った後も、ライナルトはずっと謝り続けることしか出来なかった。

 

***************


「代理神を探しに行くついでに、ヴィルヘルミナを助けてきます」


 登城した昊斗そらとたちが突然そんなことを言い出し、カレイドは大いに驚いたが、ヴィルヘルミナと彼女を取り巻く帝国内の内情をある情報筋から知ったことを説明され、毎度の事ながら、予想もつかない昊斗そらとたちの行動に、カレイドは苦笑いを浮かべるしかなかった。


「帝国へ行けるよう段取りはつける。ただ今回の事は、帝国国内の問題ゆえ、我々が下手に手を出せば、内政干渉だと抗議されかねない・・・なのでルーン王国はこの件に一切関与しない。君たちが独断で行うものであり、いさと言う時は、私は君たちを切り捨てる・・・と表向きそうさせてもらうが、構わないかな?」


 友好国とは言え、内政干渉は相手への誤解を招く恐れがある。昊斗そらとたちがうまくやってくれるものと信じてはいるが、一国の主としてカレイドは保険を用意しておかなければならなかった。


「構いません。その方が、私たちも自由に出来ますし」

 嬉々として答える冬華とうかに、ふとカレイドは疑問が湧いた。

「しかし、殿下を助けるとして、如何するつもりなのかな?」

 現在、ヴィルヘルミナを誘拐しようと画策している者がいるのは確かなのだが、詳しい数は分かっていない。

 しかも今回、昊斗そらとたちはヴィルヘルミナたちに知られることなく、事に当たるつもりだとカレイドは聞いていたので、彼らがどんな作戦を考えているのか、興味が湧いたのだ。

「簡単です。元凶を断てばいいんですよ」

「元凶?」

 なぜか、”元凶”という単語に嫌な予感が頭を過ぎるカレイド。


「ミーナちゃんが狙われるのは、お父さんである皇帝が心を病んでしまい、付け入る隙を与えてしまったのが原因ですよね?だったら・・・・」

 冬華とうかの言葉に、カレイドは予感が的中したと、慌てて立ち上がった。

「ま、待ってくれ!あの方は本来、家族を大切にされている優しい方なんだ!娘を襲ったとは言え、命を奪うのは容認できない!」

 いくら自由にやっていいと許可しても、さすがに一国の主を亡き者にする方法は、カレイドも容認できなかった。そんな興奮するカレイドを、昊斗そらとが手で制した。

「勘違いしないでください、陛下。何も、命を奪うとは言っていませんよ?」

「では、他に方法が?」

 どんな方法があるのだ、と詰め寄るカレイドに、冬華とうかが笑みを浮かべる。

「精神状態を元に戻すんですよ。簡単でしょ?」

 そう言ってのける冬華とうかに、カレイドは早とちりしたことが恥ずかしくなり、誤魔化すように腕を組んで思案顔になる。

「・・・・あまり、無茶なことはしないでくれよ」

 取り繕うように、チクリと釘を刺すカレイドに、二人は不敵な笑みを浮かべる。

「もちろんですよ」 

 

 フェリシアたちには、昊斗そらとたちは代理神を探しに帝国へ行くと伝えることとし、ルールーとカグも連れて行くことを確認して、昊斗そらとたちはカレイドの執務室を後にした。


「ソラトお兄ちゃん、トウカお姉ちゃん・・・・・」

 帰る途中、前から来たミユに呼び止められた二人、


 ヴィルヘルミナたちが帝国に帰って以降、あまり元気のないミユだが、今日の彼女はいつにも増して、落ち込んでいた。


「どうしたの、ミユちゃん?」

 笑顔でミユに声を掛ける冬華とうか

 するとミユは、そのまま冬華とうかに抱きついてきた。


「ミーナとアイリスのこと、お願い・・・・」

「ミユ・・・・・お前」

 

 未だ、予知などが安定して行えないミユだが、勘はマーナ以上に鋭かった。

 巫女として規格外の力を持っているがゆえに彼女には、漠然と友人たちに迫る危機を感じているのかもしれない、と二人は思った。

 冬華とうかは、抱きつくミユの身体を優しく抱きしめ、あやすように背中をポンポンと叩いた。

「大丈夫。これから代理神を探し帝国に行くから、ミーナちゃんたちの様子を見てくるね」

「うん・・・」

 抱きしめる力を強め、ミユは小さく頷くのだった。


次回更新は、9月5日(金)PM11:00過ぎを予定しています。


変更の場合は、活動報告にて連絡します。

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