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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
風の神 強襲 編
112/180

(2) 招待状

 父と目線が合っているのに、自分たちの姿が見えていない?、と首を傾げるフェリシア。


 元々、通信球の映像をホロ・ディスプレイに投影している為、昊斗そらとたち側は、裏表関係なく映像を見ることが出来のだが、向こうのカレイド側には、一部しか映し出されていない。そのため、立ち位置的にフェリシアとフレミーの姿は、カレイドには見えていなかったのだ。


「はい、二人ならここに居ますよ」

 昊斗そらと玉露ぎょくろに視線を送ると、彼女はホロ・ディスプレイの裏表を反転させ、フェリシアたちがいる方を表に変える。

 玉露ぎょくろから手で合図を送られ、フェリシアは小さく頷き、画面に映るカレイドへ視線を向けた。

「お父様、どうかされたのですか?」

 フェリシアとフレミーの姿を確認し、カレイドは「良かった」と、笑みを浮かべた。


『悪いんだが、今すぐ城に戻って来てくれないか?二人に、お客様なんだ』

「私たちに」

「客ですか・・・・・陛下、どなたがお見えに?」

 城に直接出向くことが出来る二人の共通の知り合いは限られるのだが、相手を特定できるほど、絞り込むことが出来なかった。

『ヴィルヘルミナ殿下だよ』

 カレイドの口から出た名前に、フェリシアが思案するように首をかしげる。

「ヴィーが?どうしたんだろう?」

 フェリシアは、自分ととフレミーが、昊斗そらとたちのベースに”入り浸っている”ことを、ヴィルヘルミナが知っているにも拘らず、わざわざアルバート城に出向いたということが、腑に落ちなかった。


 そんな風に考え込む娘を見て、カレイドは苦笑いを浮かべる。

『まぁ、とにかく二人とも、一度城へ戻っておいで』

 「理由は、帰ってくれば判るよ」、と言う父の言葉に、フェリシアは、それもそうか、思案するのを止め、コクンと頷いた。

「分かりました。フレミー、戻ろう」

 帰る用意を始めるフェリシアを見て、フレミーも自分の荷物が置いてある方へと視線を送る。

「畏まりました、姫様」

 立ち上がったフレミーの背中に、冷たいものが走る。

「フレミぃ?」

 普段聞くことの無いフェリシアの意地の悪い声に、フレミーが恐る恐るフェリシアの方へと振り返ると、彼女の口がパクパクと動いていた。


 「お・ね・え・ちゃ・ん、でしょ」と。


「・・・はい、お姉ちゃん」

 いろんな意味で怖いフェリシアに逆らえないフレミーは、「お姉ちゃん・・姫様はお姉ちゃん」と言い慣れるように小声で繰り返しながら、荷物を取りに行った。 

 そんなフレミーを見て、フェリシアは嬉しそうに何度も頷き、カレイドの方へと視線を戻す。

「うんうん、それではお父様、すぐに戻りますので、ヴィーにもう少しお城で待つよう、伝えてください」


 だが、娘から声を掛けられたカレイドは、フレミーがフェリシアのことを「お姉ちゃん」と呼んでいたことに驚き固まっていたが、すぐ我に返り取り繕うように、咳払いした。

『っ!?んんっ!!・・・あ、あぁ伝えよう。それから悪いがソラト君たちも、私のところに顔を出してもらえないかな?』

「俺たちも?」

 ここ最近、カレイドから呼び出しがなかったため、昊斗そらとたちは眉を顰める。

「また何かあったんですか?」

 二ヶ月前に、あれだけの惨事が起きてなお、良からぬことが起きる?と勘ぐったが、カレイドは即座に否定した。

『いや、そうじゃないんだ。ただ誰か一人でもいいので、こちらに出向いてほしい』

 否定しながらも表情の硬いカレイドに、昊斗そらとは目を細めるが、一息し頷いた。

「・・・分かりました、伺います」

『待っているよ』

 通信が切れ、宙に浮かんでいたホロ・ディスプレイが消える。


「私と金糸雀カナリアベースに残りますので、マスターと冬華とうかさんがカレイドさんのところへ行ってください」

 「作りかけの服を仕上げたいので」と残る理由を語る玉露ぎょくろ

 金糸雀カナリアも、それでいいのか?と昊斗そらとが視線を移すと、金糸雀カナリアがニコッと笑った。

「ルーちゃんたちをこのままには出来ませんし、私が見てますよ」

 幸せそうにケーキを食べるルールーと、それを見守るカグを見ながら金糸雀カナリアも頷く。

「頼む」

 ベースとルールーたちのことを二人に任せ、昊斗そらとがフェリシアとフレミーの様子を窺うと、すでに帰る準備は終わっていた。


「それじゃ、お城まで一跳びしようか」

 冬華とうか創神器ディバイスを取り出すと、城へ行く全員を周りに呼び集め、短距離跳躍ショート・ジャンプの術式を起動し、アルバート城へと跳んだ。


*********


 四人がたどり着いたのは、アルバート城で【回廊の間】と呼ばれる部屋だった。

 元々、ドラグレアが空間跳躍の出入り口として使っているのだが、今では昊斗そらとたちの方が利用頻度が高い。

「では、私たちはヴィーが待っていますので」

「じゃね〜」

 部屋を出ると、フェリシアとフレミーはヴィルヘルミナが待っているサロンへ。昊斗そらと冬華とうかは、カレイドの執務室へ向かう為、その場で別れた。


「とりあえず、おね・・・・・姫様。お召し物を変えないと」

 先ほどの練習が裏目に出て、今度は城内でフェリシアを”お姉ちゃん”と呼びそうになったフレミーは、慌てて口を塞ぎ、周りを見渡して誰もいないことを確認し、胸を撫で下ろすと、取り繕うように言い直した。


 やりすぎたかな、と反省しながらもフェリシアは、早く来年が来ることを願いながら、耳まで赤くしている妹に笑みを浮かべながら頷いた。

「そうだね。フレミーは?ソラトさんと特訓してたんでしょ?」


 何度か、昊斗そらととの特訓を見た事のあるフェリシアは、汗だくになりながら剣を振るうフレミーと、汗一つかかず涼しい顔で、フレミーの剣を往なす昊斗そらと。対照的な二人の姿が容易に想像できた。

 気の知れた友人に会うとは言え、城で会う以上礼を失するわけにはいかず、帰る時間が節約できたので、フェリシアはサッとでも汗を流すことをフレミーに薦める。

「あ、私は大丈夫です。先ほど、お湯を使わせていただいたので」

 基本的に、昊斗そらととの特訓の後、フレミーはお風呂を使わせてもらっていた。これは、冬華とうかから言われたことで、「女の子なんだから、汗臭いまま出歩いちゃ駄目!好きな人に嫌われたく無いでしょ?」と言われ、それ以来、フレミーは気を使うようになっていた。


 フレミーの方の準備が整っていることが判り、自分の準備を急がないといけないと、フェリシアは歩く速度を速める。

「じゃ、すぐに着替えてくるから、フレミーは先に行ってて」

「畏まりました」

 

 フレミーと別れ、自室に飛び込んだフェリシアは、手早くドレスに着替え支度を済ませると、サロンへと向かう。


 サロンのドアの前にはフレミーが待機しており、フェリシアは扉の前で呼吸を整えると、フレミーに合図を送り、フレミーが扉を開ける。


 中では、ドレス姿のヴィルヘルミナと、見慣れたスーツ姿のアンナが二人を待っていた。


「ごめんなさい、ヴィー・・・・それにアンナさんも。お待たせしてしまって」

 フェリシアたちの姿を確認し立ち上がるヴィルヘルミナに、フェリシアが謝罪すると、ヴィルヘルミナは首を横に振る。


「いいえ。わたくしの方こそ、突然の訪問になってしまい、申しわけありませんフェリシア姉さま。それにフレミー様も」

 深々と頭を下げるヴィルヘルミナに、フレミーが慌てる。

「頭をお上げください、ヴィルヘルミナ様!どうぞ私の事は、お気になさらずに・・・」

 身分の上の人間から畏まられることがまず無いフレミーにとって、皇女であるヴィルヘルミナの言動は、ある意味で心臓に悪かった。

 

「で、今日はどうしたの?」

 フェリシアは椅子に座り、立っていたヴィルヘルミナに座るよう促しながら、さっそく本題に入る。

「ここずっとお忙しかった姉さまは、お忘れかもしれませんが、来月我が帝国で建国祭が行われます。そして、その期間中に、わたくしの誕生日を祝うパーティーを執り行うのですが・・・・」

 ヴィルヘルミナはここで言葉を切り、アンナに視線で合図を送る。

 アンナは、持っていたカバンから封書を取り出すと、ヴィルヘルミナに手渡した。

「今日は、その招待状をお持ちいたしました」


 フェリシアは前へと差し出された封書を受け取り、失礼にならない程度に、封書の周りを確認する。

 レヴォルティオン帝国の皇族が、公式な文を出す際に用いる最上級品である三つの封書には、ヴィルヘルミナの文字でそれぞれ自分とフレミー。そしてルールーの名前が書かれていた。

 フレミーの分の招待状を彼女に手渡し、フェリシアはルールーの分の招待状を嬉しそうに見つめる。

「ルーちゃんの分まで用意してくれたのね、ありがとう。そっか、来月はヴィーの誕生日か・・・・去年はたしか、イーザベル様がお亡くなりになられて一年経っていない、っということで自粛したんだっけ?」

「はい・・・・今年は、兄様たちが天国にいるお母様に、わたくしの元気な姿を見てもらおう、と言ってくださって、盛大なものにすると張り切っていまして。わたくしも、今年は準備に携わろう思っております」

 ヴィルヘルミナの母であるイーザベルの崩御から、皇帝の”療養”などで帝国は一昨年から去年まで、殆どの行事を自粛していた。


 だが今年は、皇帝代理を務めている皇太子ライナルトが音頭を取り、大々的に建国祭などがもようされることとなった。それと同時に、ヴィルヘルミナの誕生日パーティーも行うこととなり、ヴィルヘルミナに留学先の友人などを呼ぶよう、兄たちから言われた彼女は、自分の誕生日を自分で作りたいと考えていたのだ。


「そっか、楽しみにしてるね!」

 ヴィルヘルミナがどんなパーティーを企画するのか、フェリシアは今から楽しみだと笑みを浮かべる。


 そんな中、フェリシアの後ろに控えていたフレミーが、受け取った招待状の封書を見つめたまま、カタカタと震えていた。

「あ・・・あの、ヴィルヘルミナ様・・・極自然に私も受け取ってしまいましたが、これは・・・」

 顔を上げたフレミーが持つ封書の宛名には、”フレミリア・セレスティア・ルーン様”と書かれていた。

 そんなフレミーに、ヴィルヘルミナは満面の笑みを浮かべる。

「フレミー様は、フェリシア姉さまの従姉妹に当たる御方。わたくしにとっては、貴女様も”姉”も当然です。ですので、騎士としてではなく、大公女としてお呼びしようと考えました。お願いします、フレミリア姉さま!」

 だが、当のフレミーは完全に混乱し、取り乱した。

「そそそそんな恐れ多い!それに今の私は、姫様の騎士ですから!」

「っ・・・やはり、ご迷惑でしたか?」

 拒絶された、と思ったヴィルヘルミナが一転して今にも泣きそうな表情に変わる。


「?!い、いえ決してそのような事は・・」

 どうすればいいのか判らなくなったフレミーは、フレミーに対して呆れた顔をしているフェリシアに、「助けてください!」と言いたげな目で見つめる。


 フェリシアはため息をつき、フレミーに”回答”を提示した。

「フレミー、いいじゃない?それに、貴女が大公女だと言う事は、すでに周知されているのだから、公の場に出ても問題は無いでしょ?というか、リリー様にも言われてたじゃない?剣の腕ばかり磨くのではなく、淑女として社交場での立ち振る舞いも磨きなさいって」

 病弱で家から出たことがないとされていたフレミーは、社交会になどに参加したことが無かった。


 王族の娘として一通りは習ってはいたが、一時期騎士となるべく女を棄てる決意をしていた為、そういった稽古をおざなりにしていたので、久方ぶりにフレミーのテーブルマナーや立ち振る舞いなどを確認したリリーから、”愛のある”お叱りを受けていたのだ。

「それは・・・そうなのですが」


 助けてもらうどころか、リリーの名を出され窮地に立つフレミー。

「・・・・・・・」

 ヴィルヘルミナが、まるで捨てられた子犬のように瞳を潤ませてフレミを見つめている。


「・・・・・謹んでお受けいたします」

 退路は断たれた、とフレミーは深々と頭を下げ、ヴィルヘルミナは、パァッと表情を明るくした。


「私たちのところに招待状を持ってきたって事は、他の方々にも?」

 多く呼ぶ、と先ほど言っていたがどれ程なのか、と疑問に思ったフェリシアの質問に、目元をハンカチで拭っていたヴィルヘルミナが姿勢を正す。


「はい。ここへ来る前に、アリエル姉さまとクレア様などお世話になった方々にお渡ししてきました。それから、ミユにも渡したのですが・・」

 と、ミユの名前を出してヴィルヘルミナの表情が曇った。


 招待状を持って言った際、祭事巫女であるミユが任期中に派遣先の国から出ていいのか、国王カレイドは判断できなかった。実際は、派遣された祭事巫女が国外へ出てはいけないという取り決めはないのだが、暗黙のルールのように、祭事巫女が派遣先の国から出てはいけない、という考えが根付いていた。

「確かにマーナ様が任期中に国外へ出たって話は、聞いたこと無いね」

 マーナがいつも城内いた印象のあるフェリシア。改めて言われてみれば、どうなんだろう?と首をかしげる。


「一応、陛下がアルターレ護国のマーナ様に問い合わせてくださるそうですので、招待状は渡しました」

 大切な友人であるミユに、ぜひとも来て欲しいと思うヴィルヘルミナは、彼女が来れますように、と招待状に念を篭めて渡していた。

「・・あれ?ソラトさんたちには?」

「お兄様たちの所へは、この後お伺いしようと思っています」

 まだ昊斗そらとたちに渡していないと聞いたフェリシアは、ヴィルヘルミナにニコッと笑いかけた。 

「なら丁度良かった!今、ソラトさんとトーカさんがお父様にお会いになってるから、その後に渡せると思うよ」

「本当ですか!?ありがとうございます、フェリシア姉さま!」

 なるべく早く招待する全員に渡したかったヴィルヘルミナは、輝くような笑顔でフェリシアに礼を言った。



「あれ?ミユちゃん?」

「どうしたんだ?」

 カレイドの執務室に入ると、ソファーに何故かミユが座っており、昊斗そらと冬華とうかは首を傾げる。

「こんにちは、ソラトお兄ちゃんトウカお姉ちゃん」

 いつものように返事をするミユだが、何処か元気が無いように二人には見えた。


「よく来てくれたね。掛けてくれ」

 机の椅子に座り仕事をしていたカレイドに促され、二人はミユとは反対側のソファーに腰掛ける。 

「それで、どうされたのですか?」

「いや・・・実は、君たちに用があったのは私ではなく、”彼女”なんだ」

 カレイドの視線がミユへと向かい、二人の視線が再びミユへと戻る。

「ミユちゃんが?」

「実はね、来月ヴィルヘルミナ殿下の誕生日なんだ」

「は?」

 カレイドの言った意味が分からず、呆けた声を出す昊斗そらと


「ミユ様も、帝国で行われる殿下の誕生パーティーの招待状を頂いたのだが、祭事巫女が任期中に国外へ出る、という前例が無くてね。護国との取り決め自体も存在しないので、アルターレ護国のマーナ様へ問い合わせようと思っているんだ」


 何と無く呼ばれた理由が解った昊斗そらとが、カレイドに対して少々呆れたように”苦い”表情を浮かべた。

「それなら、手紙で済ませれば・・・・・イタッ!」

 一月近く余裕があるのだから、手紙を送っても間に合うのでは?と言おうとした昊斗そらとの横っ腹に、冬華とうかの拳が突き刺さり、殴られた場所を押さえ、冬華とうかに抗議の視線を送る昊斗そらと


「・・・ミユちゃんは、ミーナちゃんにすぐお返事がしたいんだよね?」

 そんな恋人の抗議を気にすることなく、冬華とうかはミユとカレイドの意図に気が付いて、ミユに問いかけた。

「うん!!」

 その通りだよ!と言わんばかりに、ミユは満面の笑みで大きく頷く。

「なら、私がマーナさんに連絡してあげるよ」 

「ホント!?ありがとう、トウカお姉ちゃん!」

 飛び跳ねるほど喜ぶミユに、冬華とうかの頬が綻ぶ。

「フフ・・どういたしまして。よっと・・・えっと、マーナさんっと」

 冬華とうか創神器ディバイスを取り出すと、連絡先として登録していたマーナの名前を選択する。


 テーブルに置いた創神器ディバイス上に、ホロ・ディスプレイが現れ、真っ暗な画面が映し出される。

『・・・はい、マーナ・クロエです』

 すると、若々しい声と共に、マーナの姿がディスプレイに映し出された。

「マーナさん、ご無沙汰しております。ルーン王国の冬華とうかです。今、お時間宜しいですか?」

『ナツメ様?!え、えぇ大丈夫ですけど、どうされたのですか?急に・・』

 思わぬ人物からの連絡に、驚きを露にするマーナだったが、すぐに表情を引き締める。

「はい、ミユちゃん」

 冬華とうかが反対側にいたミユに自分側へ来るよう手招きし、ポンポンと空いていた自分の横を叩いて、座らせた。

「お、お久しぶりです、マーナ様!」

 母娘とは言え、生きる伝説となっているマーナに、ミユは緊張して声が震える。

『まぁ、ミユさん!元気にしているかしら?』

 だが、マーナは久しぶりに見るミユに、まるで聖母のように微笑みかけた。

「はい!」


 マーナに、ミユが帝国へ行っていいかを聞いている中、昊斗そらとは机に向って仕事をこなしていたカレイドの横へ移動していた。

 

「・・・・何事かと思って来てみたら・・・・最近、フェリシアだけでなく、ミユにも甘くないですか?」

 苦言を呈する昊斗そらとに、カレイドは手を止め苦笑いを浮かべる。

「あははは・・・君を言う通りで返す言葉がない。ただね、私はマーナ様に、物心付く前から沢山のモノを頂いた。にも関わらず、私はあの方に無い一つお返しすることが出来なかった。マーナ様なら、気にしなくていいのですよ、と仰るだろうけど、それでも私はあの方に”孝行”をしたかった。だからかな・・・義娘むすめであるミユ様には、出来うる限り何かしてあげたい、と思ってしまうのは」

 そう言って、画面越しに義母と会話を楽しむミユを見て、カレイドは穏やかな笑みを浮かべる。


 そんなカレイドを見ながら、グラン・バースへ来てから、ずっと殺伐とした出来事が続いて、気持ちが荒んでたのかな、と先ほどまでの自身の言動を振り返り、昊斗そらとは頭を掻いた。


「カレイドさんも、こっちにきてください!」

 突然、冬華とうかに呼ばれ、カレイドが目を丸くする。

「え?!」

 冬華とうかとミユに手招きされ、一国の王が挙動不審になる。

『あら、陛下もいらっしゃるのですか?』

 嬉しそうなマーナの声に、カレイドは恥ずかしがりながら画面の前に移動し、若くなったマーナに驚きを露にしていた。


 そんな微笑ましい光景を横目に、昊斗そらとが執務室のドアまで移動すると、タイミングよくドアがノックされる。

『お父様?よろしいですか・・・・て、あれ?ソラトさん?」

 言い終わる前に開いたドアに、外にいた面々が驚きを見せるが、開けたのが昊斗そらとだったので、何故か納得したように頷く。

「どうした?」

 フェリシアの後ろに、ヴィルヘルミナとアンナの姿があったので、彼女たちが執務室を訪れた理由を、すぐ理解した昊斗そらとだが、一応来た理由を尋ねた。


「いえ、ヴィーがソラトさんたちに渡したい物があるので、連れてきたのですが・・・」

「誕生日パーティーの招待状だろ?来月、ヴィルヘルミナが誕生日らしいな」

 ほんの少し意地の悪い笑みをする昊斗そらとに、ヴィルヘルミナが目を大きくする。

「ご存知だったのですか?!」

「さっき聞いたよ。今ミユが、マーナさんに行っていいか聞いてたところだ」

 昊斗そらとに促され、フェリシアたちが中に入ると、ホロ・ディスプレイの前にカレイドたちがマーナとの会話を楽しんでいた。

「え!?マーナ様ですか?!」

 アルターレ護国での一件以来、マーナに会っていないフェリシアとフレミーも、目を輝かせながら輪へと入っていく。


 取り残されたヴィルヘルミナとアンナだったが、アンナがそっと封書を差し出すと、ヴィルヘルミナは目的を思い出し、彼女から封書を受け取った。

「・・・えっと、お兄様。あとでご自宅に寄らせて頂いた祭に、お渡ししようと思っていたのですが、これが招待状です。トーカお姉様や、ギョクロ様カナリア様の分もご用意しています。あと、カグツチ様にも・・・」

 受け取った封書を昊斗そらとが一つずつ確認すると、確かにカグの名前の封書もあった。

 皇女とは言え、人間のパーティーに神を呼ぶなど大それた真似を、と思ったヴィルヘルミナだったが、二人にもお世話になっているから、と勇気を振り絞って用意していた。


「悪いな、気を使わせてしまって」

 むしろ、二人を除け者にしなかったヴィルヘルミナに、昊斗そらとが感謝する。

「とんでもございません!お兄様方には、ずっとお世話になりっぱなしで、むしろわたくしの方が、申し訳なくて・・・」

 「わたくしには、こんなことしか出来ませんから」と謙遜するヴィルヘルミナに、昊斗そらとは笑みを浮かべ、優しく頭を撫でた。


「・・・ま、何にせよ。楽しみにしているよ」

 昊斗そらとに撫でてもらって、幸せそうな表情を浮かべるヴィルヘルミナ。後ろに控えているアンナも、微笑ましく見守っている。


「はい!!」

 昊斗そらとから力を分けて貰った気がしたヴィルヘルミナが、元気よく返事をする。

「姫様・・・・・」

 そんな二人を見守っていたアンナが、腕時計の時間を確認し、申し訳なさそうにヴィルヘルミナへ声を掛けた。


「申し訳ありません。この後も予定が立て込んでおりまして・・・」

 名残惜しそうに俯くヴィルヘルミナ。

「そうか、ヴィルヘルミナが帰るそうだぞ!」

 昊斗そらとが、話に夢中になっていた面々に、声を掛けると全員が振り向いた。

「え?!ミーナ!!」

 その声に、マーナと話していたミユが、「すみません」とマーナに一礼してヴィルヘルミナの元に走ってくる。


「あのね、今マーナ様にミーナの国に行っていいか聞いたら、アルターレ護国の代表として行ってきなさいってマダ・・・姫巫女様が言ってくれたって!」

 さすがにマーナも、自分の一存では決められない、と横でダラけていたシオンにお伺いを立てると、「あそこの国とも、いい加減ちゃんとしないといけないわネェ」と言い、なんとその場でミユをアルターレ護国の大使として帝国に行くことを許可したのだ。


 「護国からの仕事で国から離れるなら、誰も文句はいわないでしょ?ミユはお友達のお誕生日会に参加できて、こっちとしても停滞していた帝国との関係を、二人の友情が打破してくれるかもしれないから」というのが彼の考えである。


 期待と不安が鬩ぎ合っていたヴィルヘルミナは、ミユの言葉に驚きながらも、嬉しさで彼女の手を取った。

「本当!?なら、わたくしも張り切って準備して、ミユをお迎えしないと!」

「うん!楽しみにしてるから!!」

 初めて友達の誕生日パーティーに出られる、とミユもヴィルヘルミナの手を握り締めて喜びを爆発させた。


「では、皆様。これにて失礼いたします」

 落ち着きを取り戻したヴィルヘルミナは、少し顔を赤くしてアルバート城を後にし、その二日後、”準備”の為に関係者たちと共に帝国へと帰っていった。


********



 ヴィルヘルミナが帝国に帰って数日後。


 昊斗そらと冬華とうかは街へ買い物に出ていた。


「今日?の晩御飯、何にしようか?」

「そうだな・・・・・最近魚が続いたし、肉とかいいんじゃないか」


 まるで、新婚夫婦の様な会話。

 しかも、冬華とうか昊斗そらとに身体を寄せて手を繋いで歩いている為、完全に夫婦にしか見えなかった。


 夏期休暇での一件で、冬華とうかを一番と決めた昊斗そらと。実のところ、二人の間でこういう恋人らしい行動が増えていて、ルールー・カグのペアとは違う意味で、近所の人々の癒しになっている。

 

 いつもならお使いに行くルールーとカグは、今日は金糸雀カナリアの授業を受けているので、暇だった二人が買い物に出ていたのだ。


 行きつけの店の主たちとの会話を楽しみ、用事を済ませベースへ向って歩き出した時だった。


昊斗そらと君」

 手を繋ぎ、笑顔のままの冬華とうかが、少し硬い声で昊斗そらとを呼んだ。

「あぁ・・・・・・まだ後をつけられているな」


 昊斗そらとたちは振り返ることなく、相手に気づかれないように後方へと注意を向ける。


 三件目に寄ったお菓子屋を出た後から、昊斗そらとたちは尾行者の存在に気が付いていたが、相手の出方を見るため、今まで泳がせていた。

 

「しつこいな・・・・どうする?」

 昊斗そらととのデートを邪魔された冬華とうかが、ムッとした表情をし、昊斗そらとの方を見る。

「もちろん、丁重にもてなす」

 彼も、少々腹に据えかねており、相手に一言言ってやらなければ、と考えていた。


「了解」

 昊斗そらとの意図を汲み、冬華とうかが少し妖艶な笑みを浮かべて、歩いていた大通りの先を見る。


 二人は南北に伸びる大通りと、東西に伸びる大通りの交わる交差点を左へ折れた。



 尾行者は、昊斗そらとたちが曲がった角で立ち止まり、細心の注意を払いながら手鏡を使って先の様子を窺う。


 鏡に、変わらず歩いている昊斗そらと冬華とうかの姿が映りこみ、後ろを気にする様子の無いことから、自分に気が付いていないことを確認して角を曲がった。


「え?!」


 だが、次の瞬間。周りの光景が一変した。

 先ほどまで、多くの人や動力車、馬車などでごった返していた大通りに、自分以外人っ子一人消えてなくなり、まるでゴーストタウンに迷い込んだような錯覚を受けた。


「さっきから俺たちのこと尾行けていたみたいだが、何か用か?」


 突然、後ろから声を掛けられ、尾行者は咄嗟に振り返りながら飛び退いた。


 ”彼女”が振り返ると、前を歩いていたはずの対象者二人が立っていた。しかも、格好は先ほどと変わらないのに、昊斗そらとは高周波ブレードに鞘、冬華とうかは機械式の杖を握っていたので、顔を引き攣らせる。


「フェリシアたちと同じ、アイディール学園高等部の・・・それも一般クラスの制服を着ているが、何者だ?答えろ」


 昊斗そらとたちを尾行けていたのは、格好の割りに大人びた顔立ちが印象的な女性。


 高周波ブレードの切っ先を向けられ、女性の頬から冷たい汗が流れ落ちるのだった。


  


次回更新は、8月31日(日)PM11:00過ぎを予定しています。


変更の場合は、活動報告にてご連絡します。

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