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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
風の神 強襲 編
111/180

(1) 皇女の決意

「失礼します・・・・・・姫様、お呼びですか?」

 夏季に比べ、日の落ちる時間が早くなり、窓の外は夕闇に沈み、街は霊力が生み出す人工の明かりによって、煌々と照らされている。

 部屋で仕事を片付けていたアンナは、ヴィルヘルミナに呼ばれ、彼女の部屋を訪れていた。


 ヴィルヘルミナ誘拐事件の折、仕えていた従者たちが犯人に殺されたため、ヴィルヘルミナの心身に配慮し、住んでいたアパートメントから別の場所へと、帝国関係者全員が移り住んでいた。


 前の部屋に比べ、ヴィルヘルミナの部屋の内装は少々乙女チックな傾向が強くなっていた。これは、ルーン王国国王カレイドの王妃マリアが手がけた、祭事巫女ミユの部屋を同い年のヴィルヘルミナが気に入り、同じ職人に依頼して作って貰ったものだ。


 そんな部屋の壁際に置かれた勉強机に向っていた部屋の主が、日課にしている授業の復習の手を止め、入ってきたアンナの方へと振り返った。


「ごめんなさい、アンナ。ルーン王国への支援に関する経過報告などを纏めるのに忙しい貴女を、呼び立ててしまって」

 先のクーデターにおいて、レヴォルティオン帝国のルーン王国に対する支援は、支援を受けるルーン王国を始め他国が驚くほど迅速だった。これは、王都ディアグラムで起きた皇女誘拐事件の根幹に、帝国の抱える問題が関係しており、ルーン王国は完全に巻き込まれる形になってしまった。そのため、”病気療養”中の皇帝に代わり、国の舵取りをしている皇太子のライナルトは、事件解決の折に、有事の際、ルーン王国への全面支援をカレイドに約束していたことに由来している。


 アンナは、帝国と王国の橋渡しに、帝国からの人員配置や支援の報告書作成など、多忙を極めていた。しかも、ヴィルヘルミナの秘書として、スケジュール管理もこなしていたので、周りの人間は「大丈夫だろうか?」と心配していた。


 誘拐事件を経て、昔のように素直な性格に戻ったヴィルヘルミナが、アンナに申し訳ないと言おうとするのを、アンナは首を横へ振る。

「とんでもございません、姫様。私は、姫様の秘書なのです。お気軽にお呼びくださいませ・・・それで、ご用件は?」

 ここ最近、前の様に無茶な命令をしなくなったヴィルヘルミナだが、アンナはつい昔の癖で、身体を硬くした。


 アンナの言葉に、ヴィルヘルミナは少し目を伏せ、そして何かを決意したように小さく頷くと、顔を上げる。

 その表情は、アンナも見たことの無い、大人びたものだった。

「・・・・・・・・・ライナルト兄様へ伝言をお願いします。「ミーナは、数日中には本国へ戻ります」と」

 表情とは裏腹に、声の震えるヴィルへルミナの言葉に、アンナは息を呑み、目を大きく見開いた。


「・・・姫様」

 ヴィルヘルミナの言葉に、アンナは悲痛な表情を浮かべ、机の椅子に座る皇女を見つめる。


「そんな顔をしないでください。もう覚悟は決まりましたから・・・・それにわたくしは、栄光あるレヴォルティオン帝国の皇女です。いつまでも、子供のように護られたり、過去から逃げたりするわけにまいりません・・・・フェリシア姉さまの様にわたくしも、わたくしの役目を果たします・・・・」

 真っ直ぐな瞳で、決意を語るヴィルヘルミナだが、アンナは目の前の小さな皇女が、声だけでなく手も震えていることに気がついた。


 無理も無い。覚悟を決めた、と口で言っていても、彼女にとって愛すべき祖国には、心の傷の元凶である父親の皇帝が居る。

 皇太子ライナルトの判断で、皇帝は現在、療養ため帝都を離れていた。しかし、ヴィルヘルミナがルーン王国へ留学に出て以来、皇帝の精神は復調の兆しは見えず、むしろ悪化していると兄たちから聞かされている。

 その話を聞くたびに、ヴィルヘルミナは父を心配するのだが、襲われた時の恐怖が甦り、大好きだった父にどう接すれば良いか、その小さな胸を痛めていた。


 さらに帝国には、先の誘拐事件を経てなお、未だに娘であるヴィルヘルミナを所望する皇帝に差し出し、見返りに大きな権力を手に入れようと画策する不埒者が暗躍しているという噂が堪えない。

 ヴィルヘルミナの二人の兄は、妹であるヴィルヘルミナにこの噂について一切を伏せていた。しかしヴィルヘルミナは、誘拐事件の教訓を糧に、自ら独自の情報網を作り、本国の情報を得ていた。


 無知であることの恐ろしさを知った故の、行動だった。


 ヴィルヘルミナは、得た情報の中で気になった”あること”を確かめるため、数日前に帝国にいる兄、ライナルトへ連絡を入れていた。


 ヴィルヘルミナから話を聞き彼は、妹が独自の情報網を作っていたことにも驚いたが、自分と弟が噂の真相を確かめるために、妹に知られないよう奔走していることを、彼女が掴んでいたことに驚かされた。

 そしてヴィルヘルミナは、自分が囮になると言い出し、ライナルトに協力を申し出たのだ。


 断られるものと、覚悟していたヴィルヘルミナだったが、数分間思案したライナルトは「すまない、ミーナ」と妹に頭を下げ、承諾したのだった。


 後日、そのことをライナルトから聞かされたアンナは、直属の部下であるにも拘らず、不敬を承知でライナルトに思い直すよう進言したが、覆ることはなかった。


 不安と恐怖に押しつぶされぬよう、健気に耐える皇女の手を、アンナは彼女の目の前に跪き、自身の手で優しく包み込んだ。

「姫様の覚悟。このアンナ、敬服いたします・・・・・そして、ご安心くださいませ。私を始め、ペトラにフローラ、アイリス・・・姫にお仕えする全員。姫様の味方でございます・・・そのことを忘れないでください」

 現在、ヴィルヘルミナの身辺を固めるものたちは、数多の”検査”に合格した、真に信頼の置ける者たちで構成されている。

 そのことを思い出したヴィルヘルミナは、自分に仕える者たちの顔を思い浮かべ、表情を和らげた。

「アンナ・・・そうでしたね。ありがとう・・・・」

 どんな時でも、親身に接してくれるアンナに感謝の言葉を掛け、ヴィルヘルミナは机の引き出しの取っ手に手を掛け、引き出しを開ける。


 そこには、数通の封書が収められていた。

 封書を手に取り、ヴィルヘルミナは机の上に並べる。表面には、彼女が親しくしている人々の名が記されていた。


「帝国へ戻る前に、これを皆様にお渡ししないと・・・」


 自身を取り巻く状況が平穏であれば、それを渡すことにヴィルヘルミナは躊躇することはなかった。

 

 だからこそ、その封書を全員に渡すと決めた以上、恐怖に立ち向かう必要がある。

 そう考えるヴィルヘルミナは、封書に書かれた名前一つ一つを撫でていく。


 まるで、勇気を分けてもらうかのように。


*************



 ルーン王国史上最大のクーデター事件から二ヶ月が経ち、季節は暑かった夏季から秋季を迎え、そろそろ冬季の準備が必要になる頃になっていた。


 今回のクーデターを引き起こした首謀者やその関係者たちは、その末端に至るまで拘束され、尋問を受け処罰された。

 これにより、二十年以上前に異世界人に対する襲撃事件に加担し処分された者の人数を抜き、処罰された者たちの数は国王側の予想を大きく超え、貴族に対するお取り潰しや家名剥奪、財産没収に領地没収など、数えればきりが無い数字となった。

 この大粛清と言える結果と、全国規模のクーデターの鎮圧に一日も掛からなかったという、他に類を見ない異常な速度に、国内外はルーン王国と国王カレイドの凄まじさを、改めて思い知ることとなったのだった。


 最大の被害を受けた王都ディアグラムは、復興の工事が続いており、来年控えているカレイドの即位十五年の記念式典に間に合わせる為に、工事関係者の士気は高い。

 貴族の顔ぶれが大きく変わる中、一般の人々は元の生活を取り戻しつつある。

 

 そんな中、昊斗そらとたち傭兵が住むベースの地下訓練場では・・・・・


「やぁあああああああああ!!」


 フレミーが聖剣プロウェスカリバーを振りかぶり、昊斗そらとへ斬りかかっていた。


 聖剣の刀身には霊力が纏わりつき、眩い光を放っている。

 待ち構える昊斗そらとは、その手に魔剣を握り、迫るフレミーの聖剣と切り結ぶ。


 聖剣と魔剣が激しくぶつかり合い、衝撃波が四方へ広がる。

「霊力の収束が甘い!それでは、周りにあるもの全てを真っ二つにしてしまうぞ!」

 昊斗そらとは怒鳴りつけると、魔剣を握る手に一瞬力を込め、フレミーを吹き飛ばした。


 フレミーの精霊である風の精霊ラファルが慌ててフォローし、フレミーは空中で体勢を立て直すと、壁ギリギリに着地し、昊斗そらとを見つめて聖剣の構えた。

「っはい!!」 

 肩で息をしながら、フレミーは再び昊斗そらとへと向っていった。



「大分、聖剣を振れる様になってきたね」

 二人の”特訓”を、少し離れたところから見守っていた冬華とうかが、目の前のホロ・ディスプレイに表示されるデータを見つめながら 笑みをこぼす。


「ここ一月、聖剣を持って素振りをさせてましたからね。これで、目を回すようなら、訓練量を倍にしますよ」

 昊斗そらとたちの特訓のデータを解析しながら、玉露ぎょくろは鬼の様な発言をする。


「さすがに、それはやりすぎだよ。玉露ぎょくろちゃん・・・」

 同じく、データ解析を行っている金糸雀カナリアが、無茶をいう幼馴染に苦言を呈した。


 異世界人ユーリ・ペンドラゴンにより盗み出されていた、聖剣プロウェス・カリバーに宿る意思によって、打ち手として選ばれたフレミーだったが、彼女が聖剣を振るうには心身共に未熟だとして、合間を縫って昊斗そらとから聖剣との”付き合い方”を教えられていた。


 始めた当初は、握って数回ほど聖剣を振っただけで、目を回して気絶していたフレミーだったが、この一月で昊斗そらとと軽くではあるが、切り結べるほどにまで成長している。

 とは言え、未だ同じ霊力を使う精霊術との併用は不可能で、精霊たちが自分自身の霊力を使ってフレミーをフォローしているのが現状だ。


 さらに、彼女が少しでも気を抜くと・・・・・・


「マスター。結界が破損しました」

 安全のために張っている結界を不必要に壊してしまうのだ。

 昊斗そらとがフレミーに課した現在の目標は、模擬戦において安全用の結界を壊さないように、聖剣の力の制御すること、である。

 聖剣は、振るうだけでも霊力を使い、それに伴い精神力も使う。この上、力の制御までとなると、相当の精神力が要求される。

 しかし制御を怠れば、護るべきフェリシアを始め、下手をすれば周りの関係のない一般人まで傷つける恐れがあるため、この点に関して昊斗そらとたちは一切の妥協は許さなかった。


「制御が甘くなってきたな・・・・今日はここでやめておこう」

 だが、下手に無理をさせれば、フレミー自身の身体を壊す恐れがあるので、昊斗そらとは長い時間、フレミーに聖剣を解放させる事は許可していなかった。

 昊斗そらとが魔剣を創神器ディバイスへ収納するのを見て、フレミーは張り詰めていた糸が切れるようにその場へへたり込んだ。

「はい・・・・・」

 今日も制御できなかったと、肩を落とすフレミーは聖剣を鞘へと戻す。


 この鞘は、ユーリが持っていたものではなく、元々アルバート城の宝物庫に保管されていたオリジナルである。

 聖剣の持つ力だけを抑え、聖剣の意思を覚醒させたままにできる能力を持ち、常に打ち手と意思が”会話”出来るようになっていた。

 鞘に収めた聖剣を目の前に置き、姿勢を正すフレミー。その背後には、ラファルとマリーナの二体も真剣な面持ちで現れた。

 そして、いつものように”反省会”が行われる。


 フレミーと聖剣の意思。そして、フレミーが契約している二体の精霊が、今日の反省点を洗い出し、次に繋げるためにはどうすれば良いか、四人で意見を出し合い始めた。


 これは、聖剣の意思から提案してきたことで、全員で強くなろうと一致団結する意味合いが強かった。最初は、ラファルもマリーナもただ見守るだけだったが・・・・・


『フーちゃんは、考えなしに突っ込むところがあるよね〜』

『おかげで、フォローするこっちが大変』

 と、喋るはずの無い精霊が声を発して、意見を言っていた。


 これは昊斗そらとたちが用意した装置のおかげで、装置によって形成されるフィールド内でなら、精霊は喋ることが出来るのだ。


 実は、元々精霊たちは人間たちと契約すると、声を発して会話することが出来るようになっていた。これは、精霊の生みの親である、ルールーとカグが証言している。

 だが、グラン・バースの人々が、「神の生み出す精霊が、下賎な人間の言葉を喋るはずがない」、と勝手な思い込みをしてしまい、以来それが契約する精霊たちに影響を及ぼしていたのだ。


 ずっとフレミーと喋りたいと願っていたラファルとマリーナは、昊斗そらとたちに頼み込んで装置を借り、最近ではフレミーとの”おしゃべり”を楽しんでいたりする。


『二人ノ言ウトオリデス。ソレガ貴女ノ持チ味デスガ、時ト場合ニヨリマスヨ?分カッテイマスカ?』

「はい・・・・・」

 同じように、聖剣の意思も表に声を発することが出来るので、四人の会話が周りにも聞こえるようになっている。三人から責められ、返す言葉のないフレミーは徐々に肩を落としていっていた。


 そんな中、今回収集したデータの解析を行っていた金糸雀カナリアが何かに気が付き、立ち上げているホロ・ディスプレイとは別の画面を立ち上げた。


「我が主、お客様です」

 金糸雀カナリアの言葉と共に、画面にベースの玄関前の映像が映し出された。


 そこには、いつもの変装服である町服に認識阻害用のメガネを掛けたフェリシアと、お使いを頼んでいたルールーとカグの姿が映っている。

 冬華とうかが周りを見ると、フレミーたちは未だ反省会の真っ最中。昊斗そらと玉露ぎょくろは得られたデータを元に、フレミーたちの戦闘を検証中。金糸雀カナリアも、データ解析を行っている。

 手隙なのが自分だけだとわかり、冬華とうかは天井を指差し、金糸雀カナリアに声を掛けた。


「私、上に行ってくるね」

 そういうと、冬華とうか創神器ディバイスを取り出し、玄関ホールへ短距離跳躍を行った。


「あ!トーカさん、こんにちは!おじゃましてます!」

「ただいま戻りました」

「ただいまなのじゃ!」

 ホールにたどり着くと、フェリシアたちはすでに中へと入っており、短距離跳躍で現れた冬華とうかに驚くことなく、笑顔で出迎えた。

 昊斗そらとたちが住むベースの玄関には、侵入者迎撃用の術式が仕込んである。しかし、事前に登録してある人間であれば、そのトラップが発動することなく、中へと入ることが出来るのだ。


「二人ともおかえり〜。フェリちゃんもいらっしゃい!」

 冬華とうかが、頼んでいた品物が入ったバッグをカグから受け取っていると、フェリシアも手に持っていた包みを冬華とうかへ差し出した。

「これ、私か作ったケーキです!皆さんでどうぞ!」

 いつもに比べて大きな包みを冬華とうかが受け取ると、包みがひんやりと冷たかった。フェリシアに断りを得て、中を覗くと、豪勢なデコレーションケーキが収められていた。


 ここずっと、フェリシアはアルバート城の調理場に忍び込んでは、様々な料理を作っていた。最初はコックたちも「御止めください!」と悲鳴を上げていたが、彼女の手際の良さと料理の味に一発で閉口してしまった。しかも、冬華とうか金糸雀カナリアから聞いた事も無い料理を教えてもらって来ては、コックたちに料理を披露するので、最近では止めるどころか、フェリシアによる料理講座が開かれるほどだ。

 母がそうであるように、「フェリシアは料理か」、と父親である国王カレイドも温かい目で見守っている。

 

 そんなフェリシア渾身のデコレーションケーキ。生クリームと季節の果物が使われているため、随分涼しくなったが、念のためにと、フェリシアは精霊術を使ってケーキを冷やしながら持って来ていたのだ。無駄なことに精霊術を使っている、と言われかねないが、加減を間違えばケーキ自体を凍らせかねないし、逆に弱ければ意味を成さない。

 彼女の持つ、繊細な霊力の制御があって初めて可能となる芸当である。


 冬華とうかの横から覗き込んでいたルールーの目が、中の品物を認めると、眩いばかりに輝き出し、緩んだ口元からよだれが落ちそうになる。

 慌ててその横のカグがポケットからハンカチを取り出し、ルールーの口元を拭いていた。


 そんな光景をフェリシアと二人で笑いながら、冬華とうかは三人と食堂の方へ移動する。


 地下にいる昊斗そらとたちに連絡を入れ、お茶の準備をしていると、昊斗そらとたちが食堂へと入ってきた。


「いらっしゃい、フェリシア」

「お邪魔してます、ソラトさん!」 

 入ってくる昊斗そらとたちと挨拶を交わすフェリシア。

 最後にフレミーが、少し肩を落とし気味に入ってきた。

「あ、姫様!」

 フェリシアに気が付き、駆け寄るフレミーだが、当のフェリシアはと言うと・・・・

「・・・・・・・つん」

 と、不満げに顔を逸らした。


「あ、あの・・・姫様?」

 何故フェリシアが顔を背けるのか理由がわからず、困惑するフレミー。

「お姉ちゃん」

「え?」

 フェリシアの言葉に、フレミーの顔がほんの少し引き攣る。

「ここでは私のこと、”お姉ちゃん”って呼んでくれなきゃ、返事しないから」

 自分を姉と言いつつ、まるで駄々っ子の様なことを言うフェリシアに、フレミーは息を呑み、

「え、えぇ?!」

 と、声を上げた。

 

 クーデター事件の折、フェリシアとフレミーが双子であることを告げられた昊斗そらとたち。事件後、昊斗そらとたちは双子の姉妹であるフェリシアとフレミーが、何故離されて育てられたのか、その理由をカレイドたちから聞かされていた。


 元々彼女らの両親は、カレイドとマリアであり、マリアが彼女たちを身篭った頃に、当時の祭事巫女であるマーナから予知で双子の女の子であることを告げられ、喜びと同時に二人は頭を抱えた。王家にとって双子は継承権争いの火種となり忌むべきものとして、古くから後に産まれた子供を殺すことが通例となっていたからだ。「双子の姫が十八となる年に、王国を二分する大きな争いが起こり、その渦中で姫たちは二人とも死ぬ」とマーナが予言していたことにより、カレイドは娘たちが産まれる前から決断を迫られていた。

 そんな時、救いの手を差し伸べたのが、兄夫婦であるアストーアとリリーだった。

 長い間、子宝に恵まれなかった二人は、産まれてくる妹の方を自分たちの娘として引き取り育てる、と申し出たのだ。


 そのことで、予言が回避できるとは思っていなかったカレイドたちだったが、産まれてくる子を殺める選択肢など最初から無かった。

 そこから、二組の夫婦とその友人による予言回避の手立てがいくつも試され、それはフェリシアたちが産まれた後も、彼女たちには知らされることなく続いた。だが、その努力の甲斐なく、気が付けば予言の年となっていた。

 しかし、予言は唐突に覆された。

 アルターレ護国から戻ってきたフェリシアが預かったマーナの手紙の最後に、こんな一文が書かれていた。


「双子の姫の死は回避され、その運命は明るいものへと大きく変わりました」と。


 その踊るような流麗な文字から、自身の予知が外れたことを、マーナが喜んでいると、カレイドは感じた。


 このこともあり、カレイドは秘密を国民に打ち明ける決心をしたともいえるのだ。

 

 ただ、まだこの事実を知るものは少ないため、普段はいつものように「王女と騎士」という立場を貫いている二人だが、事情を知る昊斗そらとたちの前では、姉妹として振舞おうと、少し前にフェリシアがフレミーに提案していた。

 まさか、本気だったとは思わず、フレミーはアタフタと慌てる。


「・・・・・・・チラッ」

 そんなフレミーに、フェリシアはツンとした態度を取りつつも、チラチラとフレミーの様子を伺っていた。

 少なくとも、昊斗そらとたちの前では、フェリシアと姉妹だと言うことを隠さなくていいことに、フレミーも嬉しかったのだが、いざフェリシアを「姉」と呼ぶとなると、恥ずかしさと恐れ多さに、中々言い出せずにいたのだ。


 業を煮やして強硬手段に訴えるフェリシアに、結局フレミーの方が折れ、観念したかのように何度も深呼吸する。

 そして、

「・・・・・・お、お姉ちゃん」

 恥ずかしさで、消え入りそうな程小さな声だったが、フェリシアの耳には確かに届き、彼女は妹の方へ勢いよく振り向いた。

「もう一回!フレミー!もう一回呼んで!!」

 いつも以上に満面の笑顔を花開かせ、フェリシアが嬉しそうにフレミーに詰め寄る。

「あ・・あぅ・・・・お、お姉ちゃん」

 完全にフェリシアに気圧され、フレミーが顔を真っ赤にしたまま、フェリシアを「お姉ちゃん」と呼ぶと、嬉しさのあまり、フェリシアがフレミーに抱きつき「お姉ちゃんだよぉ!」と喜びを爆発させていた。


 その光景を、昊斗そらとたちは温かい目で見守っていた。

「楽しそうだな、フェリシア。それに、フレミーもまんざらではなさそうだ」

 フェリシアに抱きつかれ、その腕の中で恥ずかしそうに縮こまるフレミーだが、幸せそうな表情から彼女の嬉しさが伝わって、昊斗そらとは笑みを浮かべる。

「仕方ないよ。まだ人前じゃ、姉妹だってことは伏せなきゃいけないし。ここなら、私たち以外の目は殆ど無いからね」

 微笑ましいよね、と冬華とうかの頬が緩む。


 だが、玉露ぎょくろ金糸雀カナリアは、別の見方をしていた。

「最近、フェリシアさんの反応が、冬華とうかさんに似てきてますよね」

「あ、それはわたしも思ったよ・・・・大丈夫かな?」

 公の場や学園では、普段どおりのフェリシアだが、親しい友人やプライベートな空間では、”冬華化とうかか”が進んでいた。

 そんな二人の会話が耳に届いたらしく、頬の緩んだ笑みのまま、冬華とうかが二人の方へと振り向いた。

「ん?二人とも、何か言った?」

 笑顔だが、混じりっ気無し純度百パーセントの殺気を向けてくる。

「いいえ、何も言っていませんよ、我が主」

 慌てて明後日の方を向き、しらばっくれる金糸雀カナリア

「空耳でしょう」

 玉露ぎょくろは逆に、目を逸らすことなく、飄々と受け答えしていた。


 そんなやり取りのせいで、ケーキを目の前に”おあずけ”をくらっていたルールーが泣き出しそうになっているのをカグが指摘し、全員は少し早めのおやつタイムに入った。


 フェリシア手製のケーキに舌鼓を打っていると、部屋に置いてあった通信球に連絡が入り、映像がダイニングテーブルの上のホロ・ディスプレイに投影される。


 ディスプレイに映し出されたのは、アルバート城にいる国王カレイドだった。


『突然の連絡ですまないね。フェリシアとフレミーはいるかな?』



次回更新は、8月27日(水)PM11;00過ぎを予定しています。


変更の場合は、活動報告にて連絡します。


8/26 誤字修正。

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