(19) 王家の秘密
「よりにもよって、他人の口からソラトさんたちにバレちゃった!!」
と、子供のように頬を膨らませフェリシアが憤慨する。
「そうでしたか・・・やはり、あの男は私の手で真っ二つにしておくべきでしたね」
フレミーも目を細め、腰に下げている聖剣の柄に手を掛ける。
二人の反応に、昊斗と玉露はキョトンとしてしまい、二人の親御さんたちへと視線を移した。
カレイドたちも、秘密を暴露されたことに怒るどころか、困惑気味の昊斗たちに申し訳ないといった表情を浮かべている。
「実を言うとな、近々お前たちには話すつもりでいたんだよ。こいつらが双子の姉妹だってことを」
ドラグレアの言葉に、カレイドも頷く。
「この子達も無事に成人し、来年には学園を卒業する。同じタイミングで、私の国王在位十五年を迎えることもあって、その式典において国民たちに、この秘密を打ち明ける予定にしているんだ。だがその前に、関係者には順次説明しておこうと思っていたんだが・・・・・」
カレイドは、最悪な形で情報が漏洩しているかもしれいないと、顔を顰めるが、昊斗から「あの男が、他の誰にも話してはいない」ことを確認していると聞かされ、安堵する。
「二人はそのことを、最初から聞いていたのですか?」
今まで接してきた限り、二人のやり取りに変化は見られなかった。そのことから玉露は、二人は最初から知っていたのではないかと考えたのだ。
玉露の問いに、フェリシアとフレミーは首を横に振る。
「いいえ、私の成人の儀の少し後に、お父様から教えていただきました・・・・話を聞いた時は、私もフレミーも驚きましたけど、でも何処かでそうじゃないかなって思ってはいたんです。似ているっていうのも差し引いても、こう・・・・何処か他人の様な気がしなかったと言うか・・・」
漠然とした感覚なため、どう説明して言いか分からず、フェリシアがフレミーへと助けを請うようにアイコンタクトを送るが・・・
「ですね」
フレミーも同様に、説明しがたい感覚だったので、ただ頷くだけだった。
フレミーの助けが得られず、説明を諦めたフェリシアは、ペタンとテーブルにつっぷくした。
「はぁ〜・・・・それにしても、ソラトさんたちをビックリさせようと思ってたのに・・・!あっ!トーカさんたちはまだ知らないですよね?お二人とも、まだトーカさんたちにはバラさないでくださいね!」
昊斗たちにはバレてしまったが、まだ冬華と金糸雀が残っている事を思い出し、フェリシアが勢いよく顔を上げ、キラキラした目をさせ昊斗たちに必死になってお願いする。
そんなフェリシアに、昊斗は大変渋い顔をして唸り、静かに頭を下げた。
「・・・・・・・すまん、実は今回の件よりずっと前から、二人が双子である事は俺たち四人、知ってるんだよ」
「え?」
昊斗の言っている意味がわからず、フェリシアだけでなく玉露を除くその場に居る全員が、呆けた顔をして昊斗たちを見つめる。
「王都に初めて来た日。フェリシアとフレミーを見て二人があまりに似ているから、と玉露がいつもの好奇心を拗らせてしまって、二人にバレないようにこっそり調べてしまったんだ。双子なのに、姫と騎士と言う立場の違いとか気にはなったんだが、まだ出会ったばかりで、その辺りの事情をを聞くのは失礼だと、冬華が言ってな・・・・ずっと黙ってたんだ」
「え・・・・・えぇーーーーーーー!!」
まさか、自分たちが知らされる前から昊斗たちが、双子である事実を知っていたことにフェリシアは大声をあげ、その声が謁見の間に木霊した。
「フェリシア、落ち着きなさい。大声を上げて、はしたないですよ!」
母であるマリアに窘められるも、フェリシアの興奮は収まらなかった。
「いつの間に?どうやって調べたのですか?!」
あの時、そんな素振りを見せていなかった玉露が、どんな手を使ったのか想像できず、フェリシアは玉露に詰め寄った。
「簡単ですよ。極小の機動端末を使って蚊に刺された程度の血を採取して、調べたのです」
玉露が「これを使ったのです」と掌を広げ、フェリシアの目の前に差し出す。
するとそこには、米粒ほどの機械が載っており、ふわっと宙へ浮くと縦横無尽に飛び回り、再び掌へと着陸した。
何処をどう驚いたらいいのか判らず、フェリシアはポカンと口を開けたまま、その機械を見つめている。
「・・・・・帝国には、毛髪や皮膚、血などからその人物の情報を取り出す技術がある、とフローラ殿から聞いたことがありますが、それには専用の設備が必要だと聞いていたのですけど・・・・」
他国には殆ど知られていないが、帝国国民なら誰でも知っている常識などを、友人である帝国軍人の二人から聞いていたフレミーは、人の中にあるDNAを解析することで、その人物の様々なことを知ることが出来る、と触り程度に理解していた。
「私自身がその設備みたいなものです。あぁ、ご心配なく。データはすでに破棄していますので。元から悪用するつもりもありませんでしたし、純粋に私の知的好奇心を満たすだけの行為ですので」
悪びれることなく、言ってのける玉露に昊斗はため息をつく。
「玉露に悪気が無かったのは本当だ。二人ともそこは信じてやってくれ」
頭を下げる昊斗に、フェリシアとフレミーは「気にしていません!」と慌てて頭を上げるように促す。
「さっきのトーカさんといい、彼らといい・・・・今回の異世界人はドラ君以上に何もかも規格外ね」
ドラグレアと初めて会った時、リリーは彼が人間以上の突き抜けた存在だと思っていたが、それは間違いだったと唸る。
「まぁ、そのお陰で色々助かってるわけだ。多少のフライングぐらい、見逃してやっても良いだろう」
元々伝えるつもりだった情報に、自力でたどり着いた昊斗たちを責めるのではなく、評価するドラグレア。
「そうだな」
カレイドも、友人の言葉に頷きマリアの方を見た。
「私は最初から、ギョクロさんを責めるつもりはありません・・・それよりも、先ほどトーカさんが着ていた可愛らしいコスチュームのことを、聞かせてもらいたいのっ!」
「はい?」
先ほど、娘に大声を上げてはしたないと言っていたマリアが、目を輝かせて玉露に、冬華が着ていた魔法少女コスのことを尋ね始める。
ここに来て悪い病気が発生した、とその場に居る全員が苦笑いを浮かべる。
「彼女・・・・・昔ッから可愛い服とか好きだったものねぇ・・・・」
フレミーが幼い頃、よくマリアから子供服を作ってもらっていたリリーは、「変わってないわ」と生温かい目で見守る。
「ここ最近は、ギョクロ君という仲間を得て、さらに手がつけられなくなっていますよ」
作った服を着せる対象が、ここ数ヶ月で一気に増えた為、玉露だけでなくマリアも精力的に服の製作に励んでいる。これで、普段の公務に支障をきたさないのだから、マリアの優秀さが浮き彫りとなり、夫のカレイドは口を出すまい、と見守っていた。
「まぁ、詳しい話は後日、冬華と金糸雀を交えて改めてお聞きしましょうか」
玉露とマリアの会話が熱を帯びてきたのを察し、昊斗は冬華たちが居ないことも考え、何故フェリシアとフレミーを引き離して育てたのかなど、詳しい事情を聞く場を後日設けることを提案する。
「その方がいいだろうな。こっちも、まだ色々と忙しい身だ」
戦闘が終わったとは言え、未だ事件関係者の拘束などが各地で行われている。全容解明には相当な時間を要する事は確実で、カレイドたちには休む暇は無かった。
カレイドだけでなく、ドラグレアも気合を入れなおすように、短く息を吐いた。
「では、今日はこれで・・・マリア、話しならまた後でも出来るだろう?君にも、やらなければならないことがあるはずだよ?」
夫にそう言われマリアは、数時間前に娘を叱った事を思い出し、すぐに玉露との話を切り上げカレイドやドラグレアと共に、謁見の間から出て行った。
「フェリシア、お前たちはどうする?」
昊斗に問われ、フェリシアは腕を組んだ。
「そうですね・・・・・私は、学園に戻って皆さんのお手伝いをしようと思います。フレミーは、色々大変だったんだから、今日は大人しくしてなきゃ駄目だよ?」
自分も手伝いに行こうと雰囲気を出すフレミーに、フェリシアはピシャリと釘を刺す。
「は、はい・・・・」
さすがに、迷惑をかけた負い目があったフレミーは、素直にフェリシアの言葉を受け入れる。
行動が定まり、昊斗がゆっくり頷く。
「そうか・・・・玉露、冬華に連絡を。向こうの状況が知りたい。フェリシア、学園まで送ろう」
「了解です、マスター」
「ありがとうございます、ソラトさん。フレミー、今日はゆっくり休むこと。いい?絶対、無理しちゃ駄目だからね」
再度釘を刺して、フェリシアは謁見の間を出て行く。
「フレミー、ゆっくり休めよ」
フレミーの肩を叩いて、昊斗と玉露も出て行ってしまった。
昊斗と玉露、フェリシアが謁見の間を後にし、残ったのは昊斗に気遣いの言葉を掛けられポ〜ッとするフレミーと、フレミーの母であるリリーだけだった。
そんなリリーが、娘の顔を見てニヤッと笑う。
「・・・・・・・フレミリア、あなた好きな殿方が出来たんですって?」
リリーのとんでもない爆弾発言に、フレミーの顔が驚愕の表情を浮かべ真っ赤になる。
「?!・・・ななな、何のことでしょうか、母様。私には、何の事だかさっぱり・・・・」
フレミーは声を上げるまで行かなかったが、明らかに動揺し、咄嗟にリリーから顔を背ける。
「ソラト君・・・・彼が好きなんでしょ?好きな人に悪の手から助け出されるなんて、まるで物語のお姫様のようねぇ。今も去り際に、「ゆっくり休めよ」、なんて・・・カッコいいじゃない?」
囁かれる母の言葉に、フレミーは先ほどのことを思い出し、一層顔を顔を染める。
そんな娘の初心な反応に、リリーの悪戯心が擽られ、彼女は悪い笑みを一層深めた。
「さぁ、これから私も忙しくなるし、自由になる時間が少ない身だから、さっさと母様に聞かせてもらいましょうか?好きになった経緯から全部!」
まさか、母親と恋バナをすることになるとは想像もしていなかったフレミーは、これなら怒られていた方がまだマシだと思いながら、肩を落とすのだった。
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日が落ち、辺りが暗くなり始める中、チェンバレン孤児院の大部屋では、子供たちが静かに寝息を立てていた。
「みんな、ぐっすり寝ていますね・・・というか、ちゃっかり巫女殿やルドラまで一緒に寝ていますし」
大人バージョンのままのカグが、子供たちに混じってミユと幼女バージョンのルールーが眠っているのをみて、苦笑していた。
そんなルールーたちの隣では、エメラーダもスヤスヤと年相応の寝顔を浮かべて眠っており、そんなエメラーダにアルトが小さな手でしがみ付き、気持ちよさそうに眠っている。
「色々あったからね・・・仕方ないよ。みんな、おやすみ。カグ君、よろしくね」
「はい、トウカさん」
冬華は、眠っている子供たちを起こさないように、毛布を掛けて回り、最後に動いて乱れていたエメラーダの髪を整えて、カグに後のことを任せ、大部屋を出て行った。
「皆、寝てくれましたよ」
「ありがとうございます、トーカさん」
カグと孤児院に居るスタッフに子供たちを任せて、隣にあるフォルトの自宅のリビングに入る、冬華。
リビングにあるテーブルの椅子に、アレクシスと騎士団の制服のままのフォルトが座っており、入ってきた冬華にアレクシスが頭を下げた。
そんな中フォルトは俯き、何かを見つめながら肩を震わせていた。
「フォルトさん、大丈夫ですか?」
冬華に声を掛けられ、フォルトは目元を拭いつつ顔を上げた。
「あぁ・・・すまないね、トーカ君。まさか、あの人たちの顔を、もう一度見られるとは、思っていなかったから・・・つい、ね」
フォルトが見ていたのは、国境都市ロードで見つけた、幼い頃のフォルトとその両親が写る写真だった。
二度と見ることのないと思っていた家族の写真を見て、フォルトはずっと涙を流している。
カグに呼ばれ、孤児院を訪れた冬華とルールー。
冬華の予想していた通り、呼ばれた理由はエメラーダのことについてだった。
ルールーやミユに、子供たちの相手を任せ、冬華はレーヴェ夫妻にエメラーダのことを話して聞かせた。
彼女が、母親と住んでいた隠れ里で化け物と呼ばれ忌み嫌われ、里を逃げ出した後も命の危険にずっと晒され続けていること。
唯一の肉親であった母親を目の前で殺され、生きているかも判らない、顔も知らない父親を探して、少ない手がかりを元にロードまで行き、父親がフォルトであることを突き止め、父親が生きていたことに、心から喜んでいたこと、全て。
話を聞き終わり、フォルトとアレクシスは、エメラーダが歩んできた壮絶な人生に涙を流し、二人は遊んでいたエメラーダとアルトを無言で抱きしめていた。
フォルトたちを何とか落ち着かせ、冬華はファルファッラの意向を、フォルトに伝えた。
――父親が生きていたとしても、認知や引き取ってもらうつもりは無い――
フォルトに負担にならない為の配慮だと、前置きしたのだが、カグからファルファッラの伝言で、エメラーダを知り合いに任せてあるから、後の事は心配ないと聞かされていることも、一緒に伝えたせいか、場の空気が変わる。
そして、一番に怒ったのはアレクシスだった。
彼女は、様々な理由で両親を亡くし孤児と子供たちを数多く見てきている。そんな中、片親が生きているのが判っているのに、子供の意見を無視して一緒に暮らせないなど、子供にとって精神的にどれだけ負担となるか・・・そのことが頭を過ぎったアレクシスは、真っ先にエメラーダを引き取ることを申し出た。もちろん、孤児院にではなく、レーヴェ家の娘としてだ。
さすがにこれにはフォルトも驚き、落ち着くようアレクシスを宥め、後日、エメラーダを引き取りにくる人物も交えて、エメラーダの今後を決めることとなった。
予想の斜め上を行く展開だったが、とりあえず話が一段落し、冬華は、遊んでいるエメラーダたちに近づいていくフォルトを見守っていた。
初めて交わされる父娘の会話はぎこちない物だったが、ロードで出会った歴史博物館の館長で元マルカス家の執事だったブラーム・スケールや、写真館の主エルヴィン・ネーメトの話をするエメラーダの顔には、終始笑顔が浮かび、その笑顔は彼女が母の前で見せていたものと同じものだ、と冬華は気が付き、胸が熱くなった。
その隣で同じように見守っていたアレクシスは、別の意味で驚きに包まれていた。
息子のアルトが、エメラーダのことを「おねーちゃ」と呼んでいたのだ。
アルトは、人見知りが激しく、両親以外には決して自分から声を掛けることは無かった。
そんな彼が、エメラーダに終始ベッタリなのだ。まるで、彼女が腹違いとは言え自分の姉だと判っているかのように。
その光景を見て、アレクシスは絶対にエメラーダを娘にしようと心に誓っていた。
そして、遊び疲れた子供たちを寝かし付ける合間に、冬華はフォルトに例の家族写真を渡し、それを見たフォルトが泣き崩れ、アレクシスは初めてみる夫の姿に驚き、そしてそっと寄り添っていたのだった。
「それにしても驚きました。まさか、シスさんからあんな言葉が出てくるなんて」
先ほどの、エメラーダを引き取る発言を思い出した冬華が、アレクシスに声を掛ける。
アレクシスはと言うと、気恥ずかしいのか頬を赤く染めていた。
「年甲斐もなく声を荒げてしまい、お恥ずかしい限りです・・・できれば、忘れてください」
見た目十代に見えるアレクシスだが、フォルトと同い年の三十代後半、しかも子持ちである。やはり、感情的になったのが堪えたらしく、さらに耳まで真っ赤にして俯いてしまう。
「でも、格好良かったですよ?ねぇ、フォルトさん」
冬華が同意を求めると、フォルトは笑みを浮かべて頷いた。
「・・あぁ、そうだね。あの子のために、あそこまで言ってくれた君は、まるで女神のようだった」
夫の褒め言葉に、再び顔を赤くするアレクシスだが、すぐに表情が変わる。
「ありがとうございます・・・というより、あそこは貴方が一番怒るところだと思いますけどね」
冬華から聞かされたファルファッラの言葉は、聞きようによっては「子供を育てる余裕なんて無いでしょうから、心配しなくて結構」と取られかねないものだった。事情を知らなければ、確実にそう思った、とアレクシスは不機嫌そうに答えた。
「あ、あはははは・・・・」
ファルファッラのことを知るフォルトは、彼女がそのような意図で言った言葉ではないと判っていたから、特に声を荒げる事は無かったが、かつて愛した女性に頼ってもらえなかった事に、少なからずショックを受けていた。それでも怒るほどのことではないので、フォルトは苦笑いを浮かべている。
「・・・・・いつ目覚めるか判りませんが、エメラーダちゃんのお母さんが起きたら、一度膝をつき合わせて話しをしないといけませんね、同じ母親として言ってやりたいことが山ほど出来ました」
よほど、ファルファッラの言動が腹に据えかねたのか、アレクシスの瞳に危険な光が点りだした。
冬華は、板ばさみになるであろうフォルトに「頑張ってください」と満面の笑みを浮かべて激励し、フォルトは盛大にため息をつく。
十数年後、力を回復させ目覚めたファルファッラとアレクシスが、お互いを無二の親友と呼び合うことになるのだが、それはまた別の話。
こうして、大国を揺るがした長い一日は終わりを告げ、それから数日後。
首謀者である伯爵クレマン・ラクロアを始め謁見の間に乱入した貴族たち、そしてそれを手引きした大臣は一族全員処刑が言い渡された。
同じく、騎士団という国を護る立場にいながら、その国に弓引いたハドリー騎士団団長と直属の部下たちも、ラクロアたち同様に、一族全員処刑が言い渡され、執行された。
事件に加担した者たちも、悉く拘束され例外なく処罰された。
そして、ルーン王国史上最も多くの処罰者を出した事件、と後世語り継がれ、裁かれた彼らは最も愚かな犯罪者として、人々の記憶に留まることとなるのだった。
次回更新は、7月28日(月)PM11:00を予定しています。
変更の場合は、活動報告にて連絡します。




