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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
騒乱 ルーン王国 編 
108/180

(18) 戦闘終結

「はい、これで終わり!」


 いつも使っている自身の身長を超える金属製の杖を、ポールアームのように巧みに操り、冬華とうかが最後の竜骨兵を粉砕する。


 その背後で、王都各所に飛ばしていた機動端末から送られてくる情報に目を通し、竜骨兵の殲滅状況を調べる金糸雀カナリアが、情報を纏め終わり顔を上げた。


『現区域の敵性勢力掃討を確認。他の区域も殆ど片付いたようです。これなら、後は騎士団の方々にお任せしても大丈夫ですね。お疲れ様です、我が主。そして皆さん』

「ホント、みんなお疲れ!大丈夫?」

 冬華とうか金糸雀カナリアの労いの言葉に、分厚いプロテクターの付いた戦闘用スーツの前面部分のロックを外し、大きく胸元を開けて路上に大の字になって倒れているペトラが、右手の親指を立てる。


「問題ないぞ、この程度!いやぁ〜良い汗かいたな!」

 あっはっは!と豪快に笑うペトラの頭に、影が落ちる。

「ペトラ先輩、はしたないですよ!女性なんですから、もうちょっと恥じらいを・・・」

 顔を赤くしながら、騎士クラスの訓練で使う訓練着に、皮製の胸当て、手には父親の形見である剣を握ったプリエが、だらしない格好の先輩を注意する。


 なぜ、彼女たちが一緒に行動しているかと言うと、ハドリー騎士団の旗艦艦隊を戦闘不能にした冬華とうか金糸雀カナリアは、その足でアイディール学園の救援に向かった。

 正門では、自身の精霊に跨り戦場を駆けるアリエルとヴィルヘルミナの騎士であるペトラとフローラを中心に、抜けたフェリシアとカグの穴を埋めるために駆けつけた、騎士クラスの生徒たちが竜骨兵と戦いを繰り広げていた。

 騎士クラスの生徒の中にはプリエの姿もあり、必死に学園を護っていた。

 そこへ、冬華とうかたちが駆けつけ、一瞬で群がる竜骨兵たちを蹴散らしたのだった。


 少し遅れて、騎士団の団員たちを連れて帰って来たフェリシアとルールーが合流し、冬華とうか金糸雀カナリアはフェリシアたちに学園を任せて、王都内に展開する騎士団の救援へ向おうとしたら、ペトラとプリエが同行を申し出たのだ。

 ペトラの方は、暴れ足りな・・・もとい、同盟国への協力を理由に。プリエの方は、帰省のため不在、となっている師匠のフレミーの代わりとして、騎士団の手伝いがしたい、という理由だった。

 「無理はしないように」と釘を刺し、冬華とうかの指示に絶対従うことを条件に、彼女は二人の同行を許したのだった。

 


 後輩であるプリエに注意を受けたペトラが、上半身を起こし不思議そうな顔をして首をかしげた。

「ん?ここには同姓しか居ないんだ。気にする必要はないだろ?」

 ペトラの言葉を聞き、赤かったプリエの顔がさらに真っ赤になる。

「僕は男ですよ!!」


 とある理由で、普段から女子の制服を着ているプリエは、ここ最近本格的に周りから女の子だと勘違いされるようになっている。

 だが、事情を知っているはずのペトラから、同姓だと認識されていたことに、プリエは地味にショックだった。


 落ち込む後輩の顔を見て、ペトラの顔が破顔する。

「あっはっはっは!冗談だ、プリエ!戦闘は終わったんだ、いつまでも気を張っていたら、身が持たないぞ?」

 「リラックスさせる為の小粋なジョークだ」、とやはり豪快に笑うペトラに、プリエはジトッとした目で呆れるようにため息を吐いた。

「・・・・授業じゃ、戦闘後も気を抜くなって言われましたよ?」

「細かい事は気にするな!」

 ――楽観的、と言うか何も考えてないんじゃないか?この人、ともう一度ため息をつくプリエが、何かに気が付いたかのように顔を上げ、横に伸びている通路へ視線を向けた。


 その通路から、コツコツと誰かが歩いてくる音が聞こえ、人が一人出てきた。


「ただいま戻りました」

 現れたのは、格好から何から全く同じの、まるで生き写しのようにプリエそっくりな人物。

 そんな自分そっくりな人物に、プリエは笑みを浮かべる、

「うん、お疲れ。助かったよ、ミラージュ」

 プリエの言葉を聞き、ミラージュと呼ばれた人物の姿が蜃気楼のように歪み、プリエの姿から藤色の髪と十二単が印象的な、何処か日本人に顔立ちの似た少女姿の”精霊”が現れる。


『では、御用があればまたお呼びください』

 笑みを浮かべそう告げると、精霊ミラージュは名の示すとおりに蜃気楼のように姿を消した。


「相変わらず凄いな、お前の精霊は!やはり、どっちが本物か見分けが付かなかった!」

 立ち上がったペトラが、感嘆の声を上げる。

 初めて、彼の精霊を見せてもらった時、どっちが本物かクイズを出され、昊斗そらとたち傭兵以外は見分けが付かなかった。

  

「たしか、アイリスちゃんのメモリアと同じ特殊属性の精霊なんだよね?何人か、特殊属性と契約している人に見せてもらったことがあるけど、やっぱり他の属性の精霊とは根本的に違うみたいだね」

 冬華とうかは今まで見てきた精霊を思い出しながら、その差異を思い浮かべた。


 ミラージュは特定の属性に当てはまらない、所謂特殊属性と呼ばれる精霊で、能力は契約者の容姿・能力などの完全複製。 


 特殊属性の精霊の特徴として、精霊術とは違う特殊属性の精霊だけが持つ”能力”が挙げられる。

 一つとして同じ能力の無い能力は、まさに固有スキルと呼んで差し支えないものだ。


 そのせいか、他の属性の精霊のように精霊術は使えず、しかも、会話まで出来る為、一時期、特殊属性の精霊は精霊の姿を借りた異世界人ではないのか?と憶測が飛び交ったほど、特異な存在と言われる。


 さらに、契約も通常行われる契約の儀式を必要とせず、精霊が突然目の前に現れ、口約束のように契約する。なので、契約年齢も人によってまちまちである。


『我が主、騎士団を通じて国王様より戦闘終結の宣言が出ました。そろそろアイディール学園へ戻ってはどうでしょうか?』

 金糸雀かなりあの言葉と同時に、ペトラやプリエを包んでいた淡い光が消え、カレイドからの聖剣の力が途絶える。

 カレイドが聖剣を鞘に収めたのだろう、と冬華とうかはペトラたちへと視線を動かす。

「そうだね。それじゃ二人とも、アイディール学園に戻ろうか・・・・・と、その前に、ペトラさんはちゃんと戦闘用スーツを着なおしてね?騎士がそんなだらしの無い格好をして凱旋した、なんて知ったらミーナちゃんが悲しむだろうし、恥ずかしい思いをするよ?」


 胸元を開けっぴろげにしたまま、帰ろうとするペトラに、冬華とうかがいつもの笑顔でチクリと釘を刺す。

 そんな笑顔の冬華とうかをみて、ペトラの顔から血の気が引いた。

 

 なんせ、笑顔の冬華とうかから殺気じみた気配が、ビシバシ自分に突き刺さっているのだ。しかも、隣に居るプリエは何も感じていないのか、平気な顔をしていることから、その殺気がペトラのみに向けられている、と理解し逆らっては駄目だと、小刻みに震えながらペトラは何度も頷く。  

「・・・・・・・そ、そうだな。騎士として、やはり姫の顔は潰せないな。うん、ちゃんと着よう」


 先ほど、自分が苦言を呈しても動かなかったぺトラが、素直に戦闘用スーツを着なおしている姿を見て、プリエは冬華とうかに尊敬の眼差しを向けるのだった。



***************


「お二人とも、大丈夫ですか?」

 保健室のベッドに横たわるアリエルとクレアを、フェリシアとヴィルヘルミナが心配そうに見つめている。

「へーきですよ〜・・・・と言いたいですけど〜・・・・・・疲れましたねぇ〜」

 いつものポワっとした笑顔を浮かべるアリエルだが、精霊術を連発した為に顔色が悪くなっている。

 「がぅ・・・・」と、雄々しいかった姿が仔ライオンのように縮んだディアマンテは、励ますようにアリエルの頬を前足でポンポン叩いている。


「訓練と実戦は別物・・・・そのことを、身をもって思い知りました・・・・・」

 その隣のベッドでアリエル同様に、精霊術を使いすぎて倒れてしまったクレアは、初めて体験した実戦の恐怖を思い出し、震える手を見ながら己の未熟さと、考えの甘さを痛感していた。


「失礼いたします・・・・姫様とクレア様の霊力を回復させる為の霊薬を取りに戻るのに手間取りまして・・・遅くなってしまい、申し訳ございません。フェリシア様もヴィルヘルミナ様も、お飲み物をご用意しましたので、お座りになってくださいませ」

 保健室の扉が開き、アリエルの執事をしているジョゼフが、トレーにいくつかの飲み物を持って入ってきた。


 澱みの無い動きで、フェリシアとヴィルヘルミナが座ったテーブルに冷たい飲み物が入ったグラスをコースターを敷いて乗せた。


 その後、高級品である霊力の回復を促す液状の霊薬を、クレア、アリエルの順で飲ませた。

 普通なら、主人であるアリエルを優先するところだが、彼女の性格なら「私よりも〜・・クレアさんを〜優先してあげてください〜」と言う事は確実なので、主人に気を使わせない配慮からの行動だった。

 霊薬を飲み、少し楽になったのか、二人はすぐに眠ってしまった。


 ジョゼフの入れた飲み物を飲み終え、二人を老齢の執事に任せて、フェリシアとヴィルヘルミナは保健室を出て行った。


「アリエル姉さまとクレア様、大丈夫でしょうか?」

 保健室を出て、廊下を歩きながらヴィルヘルミナは、二人のことを思い、俯いている。

「うん、あのくらいなら大丈夫だよ。一時的に霊力を大きく消耗した影響だからね。霊力が回復すれば、普通に動けるようになるよ。二人とも、実戦なんて経験したこと無いだろうから、霊力のペース配分にまで頭が回らなかったんだろうね」


 「自分も経験があるなぁ」と、苦笑いを浮かべ思い出すように話すフェリシアを見て、ヴィルヘルミナは恐る恐る気になっていたことを口にした。

「・・・・姉さまもその・・・・・・大丈夫なのですか?」

「え、私?私は大丈夫だよ。こう見えても、経験豊富だからね」

 実際のところ、フェリシアはアリエルたちほど戦闘をしていないので、かなり余力を残している。そのことを説明すると、ヴィルヘルミナは首を横に振った。


「いえ、そうではなくて・・・フレミー様のことです」

「え?」

 ヴィルヘルミナから思いがけない人物の名前が飛び出し、フェリシアの表情が固まる。

「実は・・・・」


 ヴィルヘルミナは、先ほど起こった出来事を、フェリシアに包み隠さず話し始めた。実は、冬華とうかたちがアイディール学園に救援へ来た際、誘拐されたフレミーを昊斗そらと玉露ぎょくろが助けに行っていると、冬華とうかがフェリシアに伝えているのを、ヴィルヘルミナは偶然耳にしていた。

 騎士であるフレミーが誘拐されていたこと自体、彼女は聞いていなかったので、大いに驚いたが、同じように誘拐された自分を助けてくれた昊斗そらとたちが、救出に行っているのなら心配する必要は無いだろう、とヴィルヘルミナも分かっているのだが、いつも通りに振舞うフェリシアを見て、無理をしているのでは、と少し心配になっていた。

 

「申し訳ありません、姉さま。盗み聞きするような、はしたない真似をしてしまいました・・・・ただ、姉さまが無理をしているのでは、とわたくし心配で・・・・・」


「そっか、聞いちゃったか・・・・でも、大丈夫。ソラトさんとギョクロさんが、フレミーを助けに行ってるんだもの。前に誘拐されたヴィーだって、無事に帰ってきたんだから・・・私は、フレミーが無事に帰ってくるって信じてる」

 明るく振舞うフェリシアに、ヴィルヘルミナの瞳が揺れた。


 自分より優秀な”姉”であるフェリシアに「わたくしを頼ってください!」とは口が裂けても言えないヴィルヘルミナだが、それでもいつも気に掛けてくれるフェリシアに、何かの形で恩返しが出来ないかといつも考えていた。


 不安な気持ちを、ほんの少しでも自分が受け止めることが出来れば、フェリシアの不安を軽くすることが出来るのに、と思っていたのだが・・・・・やはり年下の自分では、力になれないのかと考えてしまうと、彼女の目から、涙が流れた。

 突然泣き出したヴィルヘルミナに、フェリシアは「あっ」と声を漏らした。

「ご、ごめんなさいっ姉さま!・・・・わたくし・・・・・・」

 泣くつもりなんて無かったのに、と涙を流しながら制服のスカートを強く握るヴィルヘルミナに、フェリシアは優しく抱きしめた。


「ヴィーは優しい子だね。ありがとう、私のこと心配してくれて。本当はね、フレミーのこと心配なの。でも、私は王女だから、自分がすべきことをやらないといけない。・・・・ヴィーの気遣いは本当に嬉しいの。でも、今甘えたら、フレミーのこと助けに行きたくなっちゃう。そんなことをしたら、お任せしたお母様やソラトさんたちの気持ちを踏みにじることになるから・・・だから私は、今だけはフレミーのことを考えないようにしたいの」

「姉さま・・・・」


 同じような立場にいる自分に、同じ状況で同じことが言えるだろうか、と考えヴィルヘルミナは、自分がまだまだ子供だなと思い知らされた。

 俯くヴィルヘルミナに、フェリシアは少し目を瞑り、口元に笑みを作り目を開いた。

「別に、ヴィーが頼りにならない、って思ってる訳じゃないよ?これから先、ヴィーには何度も助けてもらう事だってあるかもしれないしね」

 「その時は、よろしくね」と微笑むフェリシアに、ヴィルヘルミナは泣きながら何度も頷く。

 

「ミーナ、フェリシア様・・・・・」

 ヴィルヘルミナを慰めていると、侍女見習いのアイリスが廊下の向こうからやってくる。

 フッと、ヴィルヘルミナが目元を拭うのが見え、アイリスが小首をかしげた。

「・・・ミーナ、泣いてる?」

「な、泣いてなどいません!」

 取り繕うように、気丈に振舞うヴィルヘルミナに対し、アイリスは腕を組んでほんの少し考え込む素振りを見せる。

「じゃ、泣いてた?」

 アイリスが導き出した答えに、ヴィルヘルミナは耳まで真っ赤にしてアイリスに詰め寄った。

「だ、だからっ、わたくしは泣いてなど・・・・聞いているのですか?!」

 自分たちの前では決して見せないヴィルヘルミナの姿に、フェリシアは同年代の友人が出来て本当に良かった、と”妹”の背中を見つめながら、笑みをこぼした。


「ふふ・・・・それで、アイリスちゃん。どうかしたの?」

 フェリシアの質問に、アイリスはヴィルヘルミナを

「はい・・・・アンナ様から、炊き出しの準備が出来たと」

「そっか、さすがはアンナさん。手際がいいなぁ。それじゃ、手伝いに行こうか?」

「!は、はい!!」



「あ、フェリちゃんミーナちゃん!」

 三人が外へ出ると、王都内に救援に出ていた冬華とうかたちが戻っていた、

 だがその場にプリエの姿はなく、彼は教官に帰還報告をするため、学園に到着と同時に別行動を取っていた。

「トーカさん!!」

 冬華とうかたちの姿を見つけ、フェリシアたちが駆け寄ってくる。


「姫!ただいま戻りました!!」

 先ほどのだらしの無い格好が嘘のように、堂々と胸を張るペトラが、主であるヴぇルヘルミナに敬礼する。

「ご苦労様です、ペトラ」

 労いの言葉を掛けられ、「ありがとうございます!」とペトラは背筋をさらに伸ばし、直立になる。


 すると、炊き出しの手伝いをしている相棒の姿を見つけ、ペトラは再び敬礼してフローラの下へと駆けていった。


「それにしても、凄いですね。こんな短時間に、炊き出しに必要な物が用意出来るなんて」

 金糸雀カナリアの得ている情報でも、王都内での戦闘終結を受け、騎士団が各避難所で準備を始めているのだが、ここまで早く準備が行われている所は、まだ無かった。


「前回の事件で、ルーン王国には大変ご迷惑をお掛けしましたので、有事の際にすぐに救援が出来るよう、ライナルト兄様が手配して下さっていたんです。それを、アンナがアイディール学園と事前に交渉していたおかげで、こんなにも早く準備が出来ました」

 炊き出しの中心となっているのは、アンナと帝国から来た新しいヴィルヘルミナの従者たちである。それを、アイディール学園の高等部の生徒が、貴族・平民関係なく手伝いをしていた。

「ライナルトさんって、たしか」

「ヴィーの一番上のお兄様ですよ。私も幼い頃に、よく遊んでいただきました」

 そう言って、フェリシアとヴィルヘルミナたちも、手伝いに言ってきますと、アンタの下へ走っていった。


「我が主」

「どうしたの?」

玉露ぎょくろちゃんから連絡が入りました。フレミー様を無事保護。王都に到着して、もうすぐアルバート城に入るそうです」

 色々と忙しかったようで、連絡が遅れたようですよ、と付け加える金糸雀カナリア

「ホント!?フェリちゃん!」

 手伝いを始めていたフェリシアに、一刻も早く伝えようと、冬華とうかが大声で名前を呼ぶ。


「はい?」

 冬華とうかは、戻ってきたフェリシアにフレミーが無事助け出され、王都の戻ってきていることを伝えた。


「フレミー・・・良かった、無事で」

 フレミーの無事を知り、フェリシアは安心したのか、その目に光るものが浮かぶ。


 そんなフェリシアを見て、冬華とうかは何故か、仕舞っていた杖を取り出し、満面の笑顔でフェリシアに告げた。

「もうすぐアルバート城に到着するそうだから・・・フェリちゃん、行ってらっしゃい!」

 振りかざした杖の先端が輝き、フェリシアの足元に紋章が浮かび上がる。


「え?えぇ?!・・・・」

 何が起きているのか分からず、驚くフェリシアの姿が光の中へと消えた。


「強引ですね、我が主」

 前振りなしで、短距離跳躍(ショートジャンプ)と使った冬華とうかに、金糸雀カナリアが呆れるように声をかける。

「いいのいいの、行きたいって顔してたんだから」


 クルクルっと杖を回し、再び創神器ディバイスに杖を収納しようとした冬華とうかの所に、近づいてくる人物がいた。

「・・おぉ!ここに居ったか、トウカ!」

 大人バージョンのルールーが、「探しておったのじゃぞ?」と少々疲れ気味に声を掛けてくる。

「ん?ルーちゃん、どうかした?」

 そのまま杖を握りなおし、ルールーを迎える冬華とうか


「いや、今カグツチの奴から連絡があっての。妾にトウカを見つけたら、エメラーダの所へ来て欲しいと伝えるよう言って来たのじゃ」

 ルールーの話を聞き、冬華とうかには思い当たる節があった。


 アルバート騎士団団長のフォルトが、自宅に戻っていると副長のアルフレットから聞いていた冬華とうかは、たぶんフォルトがエメラーダのことについて聞きたいのだろう、と考えた。

「・・・・分かった。金糸雀カナリア、悪いんだけどここ任せるね」


 冬華とうか金糸雀カナリアに炊き出しの手伝いを任せ、杖を掲げ短距離跳躍の術式を起動する。

「畏まりました、我が主」

「妾も付いて行くぞ!」

 恭しく頭を垂れる金糸雀カナリアに見送られ、冬華とうかとルールーは紋章から溢れる光の中に消えていった。


*************


「きゃ?!」

 冬華とうかの短距離跳躍によって、フェリシアは一瞬の内にアルバート城の謁見の間に到着し、突然のことで足元をふらつかせ尻餅をついていた。


「いたたた・・・・・」

 打ったお尻を摩っていると、頭の上からため息が聞こえた。

「随分、派手な登場だな、フェリシア。トウカの仕業か?」


 フェリシアが顔を上げると、呆れた表情を浮かべるドラグレアが立っていた。

「!?ドラグレア様!あの、フレミーは?!」 

「姫様!」

 すると、タイミングを合わせたかのように、フレミーを始め昊斗そらと玉露ぎょくろが謁見の間へと入ってきた。


「フレミー!!良かった、無事で・・・」

 急いでフレミーの下へ駆け寄るフェリシア。制服姿のフェリシアに、玉露ぎょくろに着させてもらった姫騎士風のドレスと鎧を纏った姿のフレミー。その光景は、昊斗そらとたちが初めて王都へ来た日に見た光景を、思い起こさせるものだった。


 近づいてきたフェリシアに、フレミーはすぐさま跪き、頭を下げた。

「姫様、ご心配をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした。騎士として恥ずべき失態です」

 国の一大事に、敵に捕まるという失態を犯したフレミーは、頭を下げたまま、恥ずかしさと悔しさで握っていた拳を震わせていた。


 フェリシアが、そんなフレミーに声を掛けようとすると、彼女の目の前に手が伸び、制されてしまった。

「全くその通りですよ、フレミリア。姫様に仕える騎士が主を護るどころか、あろうことか敵に捕まるなど・・・気持ちに弛みがあったのではないのかしら?貴女のせいで、どれだけの肩に迷惑を掛けたのか、分かっているのですか?」

 母親であるリリーが、冷たい視線をフレミーに落とし、淡々と説教を始めた。

 フレミーは、一切反論せず母親の言葉を一身に受けている。


「リ、リリー伯母様!何もそこまで・・・」

 つい今しがたまで、敵に捕まっていたフレミーに、そこまで酷い事を言わなくても、と口を挟もうとしたフェリシアを、今度はマリアが、手で制した。


「フェリシア、貴女は黙っていなさい」

「でも、お母様・・・・・」

「これは、お二人、母娘の問題です」

 マリアにキツイ言い方をされ、フェリシアは閉口してしまう。


「・・・申し訳ありません、母様」

 跪いたまま、フレミーは失望させてしまった母親に、深々と頭を下げた。

 今にも泣きそうになっているフレミーだが、ここで泣けば本当にリリーを失望させてしまうと、唇を噛んで堪えていた。


 すると、突然リリーが膝をつき、フレミーを抱きしめた。

「?!」

「剣の師として、貴女にはまだまだ言いたい事は山ほどあります。ですが・・・・母としては、よく無事に私の元に帰ってきてくれましたね、可愛い私の娘。母は嬉しく思います」

 フレミーを抱きしめたリリーは涙を流し、その手は震えていた。


 子を心配しない親は居ない。


 母のリリーが自分のことを心配してくれていた、と分かり泣くのを我慢していたフレミーも、耐え切れずに泣き出してしまった。

「か、母様・・・・・・」


 感動のシーンの横目に見ながら、カレイドが昊斗そらとたちの元へとやってきた。

「すまなかったね、ソラト君、ギョクロ君。今回本当に、君たちには世話になってしまった」


 今回、昊斗そらとたちに力を借りるつもりは無かったカレイドだったが、結局彼らのお陰で事件が解決したようなものだったため、頭が上がらなかった。

「気にしないでください、いつものことですから」

 昊斗そらとたちも、ハドリー騎士団の戦艦に攻撃された仕返しする形で首を突っ込んでいたので、お礼を言われるのは少々心苦しかった。


「・・・・・・それで、ユーリ・ペンドラゴンは?」

 気持ちを切り替え、カレイドは今回の黒幕と言える男のことを昊斗そらとに質問した。

 昊斗そらとは一呼吸おき、説明を始める。


「フレミーを誘拐した主犯、ユーリ・ペンドラゴンは死亡。仲間の女性を拘束して、騎士団に引き渡しておきました。詳細な報告は、書類にして提出しますよ」

 アルターレ護国の時のように、分厚くはなりませんからご心配なく、と付け加えた昊斗そらとに、カレイドは苦笑いを浮かべる。


「そうか・・・・しかし、プロウェス・カリバーはフレミーを選んだか」

 フレミーの腰につるされた剣を見て、カレイドが大きく息を吐き出した。

「えぇ。それで、あの聖剣は、どうされるのです?」

 昊斗そらとの問いに、カレイドは先ほど以上に大きく息を吐いた。

「あの子に託そうと思う。王族の血を引く者が、聖剣に選ばれたのなら、誰も文句はあるまい」

 国宝とはいえ、聖剣自体がフレミーを選んだのだ。下手に引き離せば聖剣が機嫌を損ね、暴走する可能性も考えられる、とカレイドは、そのままフレミーに聖剣を預けることをその場で決めた。


「しかし、なんでまたユーリはフレミーを誘拐し、フェリシアまで攫おうとしていたんだ?あのガキが、女に執着があったとは思えなんだが」

 ドラグレアが知るユーリ・ペンドラゴンは、力に固執する青年だった。一年前にフェリシアにちょっかいを掛けたのも、色恋沙汰が理由ではなかったのを、ドラグレアを始め関係者なら誰でも知っていることだ。

「あの男が持っていた勇者の称号を完全なものにする為、そう言っていましたよ」

「称号?」

 そこまで答えて、昊斗そらとは”しまった!”と胸の内で舌打ちした。


 ユーリが、フェリシアとフレミーを欲した理由は双子の姉妹だったという理由からだ。だが、二人が双子であるのは秘密となっており、下手をしたら当人たちも知らされていない可能性があった。

 もし知らされていないと仮定した場合、自分がその秘密を暴露していいのだろうか?と昊斗そらとは、周りに悟られないように考えを纏めようとし始めた時だった。


「何でも双子の女性に、自称勇者君が住んでいた世界の、双子の女神の格好をさせて侍らせていたら、女神の加護が得られるとかで、そうすればもっと強い力が手に入った、とかなんとか」

 と、玉露ぎょくろがいつもの調子で全部説明してしまった。


 創神器ディバイスを通じて、二人の会話を聞いていた彼女は、間違いなく昊斗そらとは言い渋るだろうと思っていたので、玉露ぎょくろは自分が言う気満々だったのだ。


 玉露ぎょくろの肝っ玉の強さに感服しながらも、昊斗そらとは国王たちの怒号を覚悟していた。


 だが、そんな昊斗そらとの予想は良い方向に裏切られることとなるのだった。


次回更新は、7月27日(日)PM11:00過ぎを予定しています。


変更の場合は、活動報告にてご連絡いたします。

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