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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
騒乱 ルーン王国 編 
107/180

(17) 魔王誕生 そして決着へ

 魔王と化し、身体を膨張させ続けるユーリに、聖剣の切っ先を向ける昊斗そらと


 昊斗そらとの声に反応したのか、撓っていた右腕の触手たちが暴れ狂う大蛇の様に昊斗そらとへ襲い掛かった。

 木製の甲板などを抉りながら、昊斗そらとへ迫る触手たち。

 その光景を後ろから見ていたフレミーは、昊斗そらとがどう攻撃するかを瞬きを忘れて見つめている。


 ユーリの攻撃が間近に迫った時、聖剣を握っていた昊斗そらとの右腕が、消えた(・・・)


 次の瞬間、昊斗そらとに襲いかかろうとしていた触手たちが、昊斗そらとから発した閃光に包まれると、黒い体液を撒き散らしながら細切れになる。それだけに留まらず離れていた本体まで切り刻まれ同じく黒い体液を噴出した。


 フレミーは、昊斗そらとから発した閃光が、斬撃だということを辛うじて判別できていた。


 身体強化系の精霊術を使用する騎士も、同じ事が行える者も居るのだが、昊斗そらとの攻撃は速度・手数・攻撃力どれをとて比べ物にならない。

 フレミーも、過去に騎士団の訓練で見たことがあったおかげで、最初の五撃目までは目で追えたが、結局昊斗そらとが何連撃加えたのかまでは、判らなかった。

 

 攻撃を受け、よろめくユーリだったが、一瞬の内に体液は止まり、右腕の触手も含めて元通りに再生する。


「再生速度が速いな」

『この手のタイプは、再生後に肉体変化を起こしやすいですからね。気を抜かないでください』

 だが、玉露ぎょくろの心配とは裏腹に、ユーリに変化は起きず、気が付けば肉体の膨張も止まっており、左側が異様に巨大化した凡そ三メートルほどの巨体になっていた。

 再生した触手を、今度は寄り合わせて一本の巨大な腕にし、拳のように繰り出してきた。しかも、捻りが加えられ、先端には爪が集まっているため、まるでドリルのように歪な風切り音をさせている。


 昊斗そらとは聖剣を構えると、今度は神速の域に達する突きを、迫る拳に合わせて放った。

 

 ガチン!と聖剣の切っ先と爪が撃ち合された瞬間、ユーリの腕が弾け、元の触手に分離すると、四方から昊斗そらとへ襲い掛かった。


「ソラトさん!!」

 技後硬直のように身動きしない昊斗そらとを見て、フレミーが悲鳴を上げる。


 だが、爪が昊斗そらとに傷を負わすことは無く、攻撃は結界によって阻まれ、軌道が逸れた触手が甲板などに突き刺さる。


 そして、ユーリの右腕の付け根が抉り取られるように消し飛び、その巨体が膝をついた。

 昊斗そらとの放った突きは、威力が減衰することなく突き進み、ユーリの肩ごと右腕を吹き飛ばしたのだった。


 再び黒い体液が噴出すが、先ほどより量は少なく、すぐに収まる。


「・・・・・再生しない?」

 消し飛んだ右肩から先が再生しないことに、眉を顰める昊斗そらと玉露ぎょくろがホロディスプレイを表示した。

『マスター・・・・・・あれの左側に、高エネルギー反応。どうやら、”蛹”だったようです』


 玉露ぎょくろの指摘するように、計測画面には、巨体の左半身。心臓に当たる部分を中心に異常なほど高い数値を示していた。


「つまり、今までの攻撃は時間稼ぎか・・・・・」

 基本的に形態変化型の魔族は、状況に応じて形態を変化させる者と、秘めた能力に適した形態へ変化する者とに振り分けられ、目の前の魔王ユーリは後者だった。


 しかも、魔王クラスの魔力を秘めているにも拘らず、変態の速度が異常なまでに早かった。


『表面温度が急上昇。脱皮(・・)します』


 真っ黒な表皮が赤く爛れながら融け、その巨体が形を失う。


「・・・あれが、魔王としての本当の姿か」


 噎せ返るような熱気が辺りに立ち込める中、巨体が膝をついていた跡地に、人影が立っていた。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 それは、十四〜五歳の女の子だった。

 一糸纏わぬその姿は、白く透き通るうような肌に、冬華とうかともエメラーダとも違う、妙に光沢を放つ足元にも及ぶ長い黒髪。唇は、真っ赤なルージュを引いたように赤く、眼の色が普通と魔逆で、白目の部分が黒で瞳は真っ白だった。


 容姿だけなら可憐な少女と言えるのだが、その全身から放たれる魔力と殺気は、先ほどの”蛹”の時とは次元が違っていた。

 

 少女の姿をした魔王は、徐に自身の身体を撫でると、何処からか現れた紅と黒二色の、まるで血に濡れたような肩が大きく出たドレスを身に纏った。


「・・・・・・アハっ」

 真っ赤な唇がニタ〜ッと歪んだ瞬間、魔王と一瞬遅れて昊斗そらとの姿が消え、激しい衝突音が衝撃波と共に巻き起こる。

 

「?!」

 衝撃で船体が大きく傾く中、結界に護られているおかげで影響を受けなかったフレミーが、発生した音に驚き辺りを見渡すと、二人の姿は船の上空にあった。


「アハハハハ!」

「っ・・・・・・」

 昊斗そらとの手にする聖剣と、魔力を纏った右手で刃を掴むようにして拮抗している魔王が、満面の笑みを浮かべる。

『思った以上に、成長しましたね・・・・・このままだと、聖剣をへし折られますよ』

「ちぃっ!」

 玉露ぎょくろの言うとおり、聖剣の刃からはミシッと、いやな音が鳴っている。昊斗そらとは舌打ちすると、魔王ほわき腹を蹴りこみ、運河に蹴り落とした。


「!!・・・・・・・・・・・・・」

 わき腹から骨の折れる不快な音をさせながら、魔王は驚いた表情を浮かべて、蹴られた格好のまま運河へと叩きつけられる。

 

『どうしたのですか?下手に付き合っていたら、周りへの被害が拡大しますよ』

 冬華とうかと違い、昊斗そらとは空間隔離系の術が苦手な為、周辺環境に影響を及ぼしかねない敵との戦闘において、冬華とうかの協力が得られない場合は短期決戦が基本となる。


 にも関わらず、昊斗そらとが決着をつける素振りを見せないので、玉露ぎょくろは彼に何か思惑があるのだろうとは思いつつも、苦言を呈してきた。


「分かっている。もう一寸、待ってろ」

 昊斗そらとも、その事は十分承知しているのだが、魔王を追撃する事はなく、聖剣を見つめ、そして運河へ叩き落した魔王へと視線を落とす。


 運河の水面に立って上空の昊斗そらとを見つめる魔王。

 彼から受けたダメージはすでに回復しており、只一点・・・昊斗そらとが持つ聖剣を見つめていた。

「・・・・・・!?」

 突然、魔王の腹が醜く膨れ、その膨らみが腹から胸、そして喉を通って口へと達し、吐き出される。

 吐き出したものを手に取り、魔王はニタァと笑みを浮かべた。


『あれは・・・・』

 彼らの目に飛び込んできたのは、所々に脈動する血管が浮き出た、禍々しい魔力を放つ魔王よりも大きな剣だった。

「魔剣を作り出したのか・・・・!」

「!!」

 水面を蹴った魔王の姿が消え、一瞬で昊斗そらとの目の前に大剣を振りかぶった姿で現れた。

 昊斗そらとも相手の動きに合わせて、すでに聖剣を振り上げている。


 大剣ほどの大きさを誇る魔剣と、片手剣の大きさしかない聖剣が打ち合わされ、空間が歪む。


 魔王は、さながら野獣のように自身の身体より大きな魔剣を振り回し、昊斗そらとを攻め立てる。


 逆に昊斗そらとは、流麗なダンスを踊るように魔王の攻撃をいなし、要所を押さえながらじわじわと魔王にダメージを与えるが、その先から傷が再生するので、目に見えてダメージはなかった。


 だが、何度目かの聖剣と魔剣が打ち合った時、昊斗そらとが握る聖剣が、攻撃に耐えられず刀身が粉々に砕け散ってしまった。


 折れてしまった聖剣の柄を握ったまま、魔王の攻撃を避け距離を置く昊斗そらと。何故か、魔王は追撃して来る事はなく、昊斗そらとの握っている柄を見つめ、顔をゆがめた。


「あははははは!!」

 そして、魔王は折れた聖剣を指差して、まるで子供のように、その場でピョンピョン飛び跳ねながら笑っていた。


 そんな子供じみた行動を取る魔王に、昊斗そらとの顔から感情が消え去った。

「・・・・・何がそんなに、可笑しいんだ?」

「?」

 昊斗そらとの問いに対し、飛び跳ねるのをやめ、キョトンとした顔で魔王は小首を傾げる。


「これは、お前が初めて手に入れた、お前(・・)の聖剣だぞ?それが折れたのに、可笑しいのか?」

「??」

 昊斗そらとの言葉は理解しているが、問いの意味が理解出来ない魔王は、今度は反対側へ首を傾げる。


 無理もない。

 ユーリ・ペンドラゴンと言う青年を構成していたあらゆるモノは、すでにこの世から消滅しており、昊斗そらとの目の前に居る存在は、完全に別物なのだ。


 そのことを、昊斗そらとも分かっていたのだが、手に握る聖剣の意思(・・)の”悲痛な願い”を無視することがどうしても出来なかった。

 だから、周辺環境へのリスクを承知で魔王との戦闘に付き合っていた。魔王の中に、ユーリという青年が残っているのかを、確かめるために。


 魔王の中に、勇者を名乗っていた青年の存在が、一欠けらも残っていないことを確認し、昊斗そらとは手に残る聖剣の柄をに視線を落とす。


「やはりな・・・・・もう、いいだろう?・・・・・・そうか。お前の最後の願い、聞き届けよう!」


 そう言うと、昊斗そらとは柄を上下逆に持ち替え、小さな宝石が埋め込まれた柄頭を天に向けて掲げた。

「・・・・・・・・目覚めよ!魔を絶つ剣、聖なる願いと共に!顕現せよ、レイ・フォース!!」


 柄頭の宝石が光り輝き、小さかった宝石が二周りほどの大きさに変化し、宝石を囲むように新たな唾が構成される。

 昊斗の握っていた柄が、両手で握れるほど伸び、昊斗そらとが掲げていた柄を両手で構えた。


 新たに構成された唾から、両刃の刀身が伸び、魔王の持つ魔剣に匹敵する長さに達する。


「!?」

 昊斗そらとの握る聖剣に起きた変化を目の当たりにし、魔王は大きな目をさらに大きく見開いた。


「聖剣レイ・フォース・・・これが、この聖剣の真の姿だ」

 昊斗そらとが構えを変えると、黄金に輝く神聖なオーラが周囲へと放たれる。その強さは、ユーリが所持していたどの聖剣よりも強いものだった。


「ぅぅ・・・・ウワァアアアア!!」

 魔王は、聖剣の放つオーラに顔を顰めながら、魔剣を構え昊斗そらとへ斬りかかった。

「ふっ!」

 馬鹿正直に真正面から打ち込んでくる魔王の剣に、昊斗そらとは目を瞑っていても造作もない、と言わんばかりに目を瞑り、攻撃を合わせる。


 打ち合わされる聖剣と魔剣。


 だが、今度は刀身が触れる前に、魔剣が聖剣のオーラを浴びて消滅し、その余波を受けて魔王の両腕が崩れた。


「?!」

 突然魔剣と両腕が消え、魔王は驚きながらも一旦距離をとり、即座に両腕の再生が始めるが、その速度は目に見えて遅かった。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 再生の遅さに焦れて、魔王が雄叫びを上げる。再生に力を割いたおかげで、両腕は一気に再生され、しかも先ほどの魔剣が、今度は両手に一振りずつ握られている。


 握った魔剣の重さで、両腕が引きちぎれるのでは、と思うほど腕を下げる魔王。

「!!」

 予備動作なしで、三度昊斗そらとの目の前に出現し、二振りの魔剣を振り上げる。


「馬鹿の一つ覚えか!」


 あまりに考えなしの攻撃に、昊斗そらとは聖剣の放つオーラを全開にする。

 今度は、危険をいち早く察知した魔王は、聖剣のオーラを避けるために投げつけるように魔剣を棄て、一気に昊斗そらとから距離をとった。


 だが、完全には避け切れなかったために、聖剣のオーラを受けた箇所が赤く爛れ、魔王は顔を顰める。


「?!!・・・・・・・・ガァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 漸く近距離での攻撃は無理だと学習した魔王が咆哮を上げ、大口を開いて前傾姿勢を取った。


 魔王の前の空間に、圧縮された魔力の塊が現れ、溜なしで強大な魔力砲が発射される。


「甘い!!」

 都市一つを消滅させるほどの魔力が圧縮された攻撃に、昊斗そらとは聖剣を下から上へ切り上げるように振リ挙げる。


 すると、軌道を変えられた魔力砲が、空に浮かんでいた雲をけし飛ばし、虚空へと消えていく。


 攻撃を逸らされた魔王は、第ニ射に入ろうとしたが、同じ場所に昊斗そらとの姿は無かった。

 今までの魔王のお株を奪うどころか、突然聖剣を振り上げた姿の昊斗そらとが、魔王の真後ろに現れる。

「斬魔必滅!!」

「!?」

 背中からバッサリと魔王を切り捨てる昊斗そらと

 驚き、身体を硬直させる魔王の身体が、右肩から左わき腹にかけ一刀両断され、そして空間と一緒にズレた(・・・)


「うそ・・・・・・・・世界まで、斬れたの?」

 船上に居るフレミーの場所からもその光景は見え、遠くに見える山々の稜線から、運河に至るまで景色が斜めにスライドし、彼女には世界が昊斗そらとによって斬られた様に思えた。


 ズレた空間は、世界の復元力によって即座に元へと戻り、唯一魔王の身体だけが斬られたままだった。

 ゆっくりと背後の昊斗そらとへ振り向く魔王。振り向いた弾みで下半身が運河へと落下していく。

 落下の途中で、チリのように消滅した下半身を見つめ、そして魔王は再生しない身体を不思議そうに見つめる。残っている上半身も、切り口からボロボロと崩れながら消滅し始めていた。


「・・・・・・・・分かったか?その気になれば、この聖剣は魔王を討ち滅ぼすことの出来る。この剣には、それだけの可能性が秘められていたんだ。お前がこの剣をもっと信じ、共に歩んで成長していれば、聖剣はその想いに答えてくれたんだぞ・・・・・」


 今更、目の前の魔王にそのようなことを言っても、全く意味の無いことだと分かっていても、昊斗そらとはそう言わずにいられなかった。


 やはり、昊斗そらとの言葉の意味が理解できず、首をかしげて昊斗そらとを見つめる魔王は、消滅する最後まで意味のある言葉を発する事はなかった。



『魔王の完全消滅を確認。周辺地域に敵性体は認められず。状況終了』

 昊斗そらとを中心とした半径数十キロに、武装集団や霊力や魔力数値の高い存在は認めらないことを、レーダーを表示して、玉露ぎょくろが報告する。


 昊斗そらとは「そうか」と呟き、フレミーたちの居る甲板へと降り立った。 


「ソラトさん、ギョクロさん!」

 降りてきた昊斗そらとたちの姿をみて、フレミーは精霊たちが張っている結界から飛び出してきた。その腕には、先ほどまで羽織っていた外套に包まれた聖剣プロウェス・カリバーが抱えられている。

 持つな、と昊斗そらとに言われたものの、騎士として剣を振るうフレミーには、聖剣をその場に放置することが出来ず、苦し紛れに傍に落ちていた外套に包んだのだった。

 

 駆け寄ってくるフレミーを見つめる昊斗そらと玉露ぎょくろ

 すると、昊斗そらとが握っている聖剣レイ・フォースが、今度は柄を含めて粉々に砕け散り、光となって消えてしまった。

「?!せ、聖剣が・・・・・・」

 突然のことに、フレミーは驚きのあまりその場に立ち止まり、絶句する、


『やはり、マスターの力に耐え切れなかったようですね』

 聖剣の能力を把握していた玉露ぎょくろは、特に驚くことは無く、それが必然だったと小さく息を吐いた。


「・・・・この聖剣が、望んだことだ。自分が認めた勇者と共に、この世から去りたい、と」

 昊斗そらとが聖剣を握っていた手を開くと、聖剣の残骸らしき光が空へと昇って行く。


 ユーリが初めて手に入れた聖剣は、持ち主の心と共に成長する(・・・・・・・・)聖剣だった。

 だが、そのことに気が付かなかったユーリは、自身が手に入れた聖剣の脆弱さ(・・・)に絶望し、他人の聖剣を殺して奪う、と言う凶行へと走ってしまった。


 持ち主と認めた勇者の目を覚まさせようと、一度はその手を離れた聖剣だったが、その勇者がまさか魔王へと変貌するとは思ってもおらず、大いに焦った。

 ユーリの人格が残っているはずと一縷の希望をもって、他の聖剣が認めた昊斗そらとに手伝って欲しいと頼んだものの、無残にもその希望は打ち砕かれてしまった。


 ならばと聖剣は、せめて自分の全てをかけて彼の幕を引きたい、と昊斗そらとへ懇願し、戦う際、昊斗そらとに全力をもって自分を振うように頼んだのだった。

 

 聖剣の声が聞こえるからこそ、昊斗そらとはその願いを聞き入れた。止めを刺す、最後の一撃まで聖剣がもつ様に力をセーブしながら戦い、聖剣の最後の願いを叶えたのだった。

 

『ところでマスター。残りの聖剣はどうされるのですか?』

 甲板に突き刺さる聖剣たちを見つめながら、玉露ぎょくろ昊斗そらとに彼らの処遇を尋ねる。


「この世界由来の聖剣は、陛下に頼んで前の持ち主の縁者にでも返却してもらおう。あの男が元の世界から持ち込んだ聖剣は、とりあえず封印処置して、後で”組合”を通じて元の世界に返そう」

 手元に一本も残さないときっぱりと言いきる昊斗そらとに、フレミーは首を傾げた。

「あの・・ソラトさんが所有する、と言う選択肢は無いのですか?」

 フレミーとしては、あれだけの数の聖剣に認められた昊斗そらとが所有した方が、無用な混乱が起きなくていいのでは?と考えた発言だった。

 だが、昊斗そらとはほんの少し笑みを浮かべて首を横に振った。


「その選択肢は無いよ。俺が持つより、所有者に相応しい担い手にめぐり会った方が、聖剣たちも幸せだ」

 そう言って、昊斗そらと創神器ディバイスの仮置き用の区域に聖剣たちを仕舞うと、未だ気を失っているアルトリアの様子を見に行ってしまう。


「あの聖剣たちでは、マスターの力に堪えられないのですよ」

「え?」

 いつの間にやら義体姿で現れた玉露ぎょくろにフレミーが驚く中、昊斗そらとの背中を見つめて玉露ぎょくろはある説明を始めた。


「聖剣と一口に言っても、細かなランクが存在します。あの自称勇者君が所持していた聖剣で、最も強力なランクだったのは、貴方が持つその聖剣プロウェス・カリバーと封印を解いた聖剣レイ・フォースの二振り。共に、ランクはA+・・・・・その片方のレイ・フォースでさえ、マスターが相当力の加減をしなければ、一振りにも堪えられなかったのです。他の聖剣はBもしくはAに届くかどうか。マスターの言っていたことが、これで分かったのではないですか?」


 つまり、昊斗そらとが所持したとしても、あの聖剣たちが日の目を見る事は一生無いのだ。

 創神器ディバイスの中で、収集物として保管されるより、相応しい担い手の手に渡った方が、聖剣が聖剣でいらる。

 昊斗そらとは、そう言いたかったのだった。

「ちなみに、マスターの力に耐えられる聖剣のランクは、最低でもSランク以上。救世主と呼ばれる人間以外が持てば、確実に発狂・廃人コースになるような代物でないと、まず無理です」


 とんでもないことをサラッと言う玉露ぎょくろにフレミーは、自身の腕の中にある聖剣を見つめ、改めて昊斗そらとの途方の無さを思い知るのだった。


 そうこうしていると、アルトリアの様子を見に行った昊斗そらとが戻ってきた。

「とりあえず、彼女はこのまま寝かせておこう・・・・・あと、この船を動かなさいと。このままだと、運河を通る船の邪魔になる」

 女性二人がアルトリアの方を見ると、一応気が付いた時に暴れないようにする為に、両手両足が拘束されている。

 甲板を足で踏み鳴らす昊斗そらとの言葉に玉露ぎょくろが疑問に思っていたことを口走った、

「そういえばこの船、先ほどから私たち以外に生体反応が無いのですが、他の乗組員は何処へ?」

 そう、あれだけの騒ぎがあったにも関わらず、誰一人として外の様子を身に来るものが居なかった。拘束でもされているものと思っていた玉露ぎょくろだが、船全体を探査したが、生き物どころか死体一つ発見できなかったのだ。


 玉露ぎょくろの疑問に、フレミーは唇をかみ締め、拳を力の限り握り締めていた。

「・・・・それは、ユーリペンドラゴンがここへ船を移動させた後、乗組員全員に船の最上段から運河に飛び込ませ、運河の中で自殺するように”命令”したんです。私たち以外の人間は不要だと言って・・・・」


 洗脳されていたフレミーだが、そのときの記憶は全て残っており、誰一人助けられなかったことを悔やんで居た。

「本当に、屈折した思考の持ち主ですね・・・というか、それで、この後この船をどう動かすつもりだったのでしょうね?」

 所謂、豪華客船と呼ばれる船を上回る船体を誇る【パレス・オブ・オーシャン号】は、その乗組員の数も桁違いに多かった。

 最低人数で運航してたとしても、主要機関員の数は百人以上は必要だ。

「たぶん、深くは考えてなかったんだと思いますよ。一応、この船を動く居城にでもしようと思っていたようですが、あの男の考えなど、私には理解できませんから」

 ユーリの事は思い出したくもない、と言った様子でフレミーは顔を顰める。


 乗組員が一人も残っていない、と聞かされ昊斗そらとは腕を組んで考え込み、チラッと玉露ぎょくろに視線を送った。

「となると・・・・玉露ぎょくろ、この船動かせるか?」

 その言葉を待っていたかのように、玉露ぎょくろが口元にほんの少し笑みを作る。

「愚問ですよ、マイマスター」


 そう言って、玉露ぎょくろが右腕を天高く掲げ、掲げた腕を甲板へと突き立てた。


「・・・・・少々古いですが、基本は【クイーン・ファーネリア号】と同じですね。これなら、裁縫の片手間にだって制御できますよ」


 すると、今まで死んだように静かだった巨大な船が息を吹き返し、唸りを上げて動力を暖気し始める。

「ソラトさん・・・もしかしてなんですけど、ギョクロさんがやっているのって・・・」

 身体に感じる動力からの振動に、呆気に取られるフレミーは、返ってくる答えを予想しながらも昊斗そらとへ声を掛けた。

「この船の制御系を乗っ取ったんだよ。わざわざ操舵室まで行くのが面倒だったんだろう、玉露ぎょくろのやつ」

 いつものことだ、と言いつつ「疲れたぁー」と背伸びをする昊斗そらと


 面倒という理由で、文字通り外部から船を制御する玉露ぎょくろに、フレミーは「本当に私、トーカさんやギョクロさんに勝てるのかな?」と、遠い目をして呟く。


 そんなフレミーの呟きを乗せて、巨大船【パレス・オブ・オーシャン号】は、王都を目指し動き出したのだった。


 

 


次回更新は、7月22日(火)のPM11:00を予定しております。


変更の場合は、活動報告にてご連絡いたします。

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