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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
騒乱 ルーン王国 編 
106/180

(16) 聖剣に認められし者

「まさか、魔剣か?!」

 称号の特性上、魔剣との相性が最悪のユーリは、一瞬焦りを見せ奪い取った剣を見つめるが、すぐに頭を振って否定した。


 たしかに、刀身は漆黒に変色したが、放たれる気配は強烈なまでに神聖なままだった。


 数えるほどしか魔剣を目にした事の無いユーリだが、手にする剣に魔剣特有の禍々しさは微塵も感じないため、刀身の変色も先ほどの昊斗そらとの言葉も、苦し紛れの出任せと決め付けた。


「下手な小細工するものだな、傭兵・・・・おれにこの剣を魔剣だと思わせて、手放させようとしたのだろうが、甘いな!」


 ユーリが奪い取った剣を手放す素振りを見せないを確認し、昊斗そらとは笑みを深める。

「確かにお前の言うとおり、それは魔剣ではない・・・だが、聖剣でもないんだよ。その剣は、ある世界において、代理神(かみ)代理神(かみ)消滅(ころ)そうと生み出した神剣と呼ばれる剣だ。まぁ、結局創造神(かみ)が生み出した神滅武装(ちから)には遠く及ばない代物だけどな。しかしそれでも、聖剣を超える能力と”自我”を有している・・・・その神剣は、製作した代理神(かみ)の性格が色濃く反映されていて・・・とてつもなく一途(・・)なんだよ。打ち手と認めた者にはとことん尽くすが、そうで無い者が手にすると、貞操を汚された乙女のように怒り狂い・・・・」

 笑顔を浮かべていた昊斗そらとの表情が、一瞬で冷酷な傭兵の顔が現れた。 


「喰い殺す」


 瞬間、柄を握っていたユーリの手が”剣山”に変わった。

「あっ!?・・・あ、うぅぁああああああああああ!!」


 握っていた柄から大量の刃が伸び、ユーリの掌を串刺しにし大量の血を撒き散らす。

 ユーリは、咄嗟に手を離そうとするも、時すでに遅く、突き刺さった刃によって指を開くことが出来ず、神剣を手放せずに居た。


「刀身が変色した時点で手放せば、まだ間に合ったかもしれないのにな・・・・そうなっては、嫌でも剣を手放すことは出来ないぞ?」

 見事に罠に嵌ったユーリを、楽しげに見つめる昊斗そらと

 ユーリは、目を血走らせながら、昊斗そらとを睨み、無残な姿となった剣を握る右手を前に出した。

「くそっ・・くそ!!これを如何にかしろ、傭兵!貴様の剣だろう!!」

「ユーリ、貴様!」

 何処までも自分勝手な物言いをするユーリに、離れた場所で見ているフレミーが噛み付きそうになるのを、玉露ぎょくろが「落ち着いてください」と制する中、昊斗そらとは肩をすくめた。


「悪いが、そうなっては俺にはどうすることも出来ない。その剣に身体を全て喰われる前に、剣を破壊するか、無事なところから腕を切り落とすか・・・・どちらかしかないぞ?あぁ、先に言っておくが、俺を殺しても侵食を止めることは出来ないし、間違ってもその神剣を手懐けようとは考えるなよ?お前程度じゃ、落とせる”女性”じゃないんでな」

 昊斗そらとの指摘を聞き、ユーリは「ふざけるな、この程度の剣など!」と反発するように、いつもの通りに神剣を制御しようとした。


 だが

「ぎぃっ!!ぐわぁあああああああ!!」

 強烈な拒絶が、痛みとなって右腕を襲い、痛みが一気に肘まで駆け上ってきた。


「だから言ったろ?馬鹿かお前?”彼女”を怒らせたせいで、今ので一気に肘まで喰われたぞ。急がないと、胴体に入り込まれたら・・・ジ・エンドだ」

 

 ジワジワと何かが”中を上がってくる”感覚に顔を引き攣らせ、ユーリは指輪から新たな聖剣を取り出し、左手に握った。


「この・・・・・!?」

 神剣を破壊しようと、聖剣を振りかざし打ちつけたが、聖剣のほうが粉々に破壊されてしまった。


「あ〜あ、可哀想に・・・・・どう考えても、今の聖剣には荷が重すぎだろう。無駄死にさせやがって・・・・そら急げ、そろそろ肩に到達する頃だ」

 気が付けば、二の腕辺りに到達していた痛みに、ユーリは唇をかみ締め、そのまま噛み切ってしまう。

「っ!!・・・・・・くそ・・くそぉおおおおおお!!」


 ユーリは、四本目の聖剣を取り出し、炎を纏った聖剣を絶叫と共に脇から差し入れ、上に向かって右腕を切り落とした。

「?!?!・・・・・」


 聖剣の炎によって出血は免れたが、痛みで意識が飛ぶのを辛うじて気力で踏み留まり、ユーリはその場に膝をつき、痛みに震えている。


 切り落とされた右腕は、腕全体が針山と化し、刃が消えた後には何も残ってはいなかった。


 床に突き刺さった神剣は、刀身が元の透き通ったモノへと戻り、昊斗そらとの手に”自ら飛んで”帰ってきた。


「くそ・・・・許さないぞ、傭兵。おれの腕を・・・・・」

 未だに右肩から激痛の走るユーリだが、聖剣を杖代わりにし、脂汗を滴らせてふらつきながらも立ち上がった。


 そんな杖代わりにした炎の聖剣が、いきなりユーリを拒絶するように、激しい破裂音と共に彼の左手を弾くと、昊斗そらとを目指して飛んでいってしまった。


 杖をなくし、情けなく再び膝をつくユーリ。それと呼応すかのように、ユーリの指輪に保管されていた残り六本の聖剣が、ユーリの意思と関係なく指輪から飛び出し、昊斗そらとの方へと飛んでいく。

 さらには、甲板の端に突き刺さっていた最初の聖剣も、昊斗そらとの下へと向かっていく。


「な、な・・・お前たち、何故勝手に・・?!」

 支配下においていた聖剣たちの行動に、動揺を見せるユーリ。

 だが、その先に待っていた光景は、彼のトラウマを呼び起こされるものだった。


「どうやら精神が揺らいで、称号の能力だけでは、聖剣たちを”繋ぎ止める”ことができなくなったようだな・・・・分かるか、自称勇者?これが、聖剣に認められる、ということだ」

 飛んでいった聖剣が、次々と昊斗そらとの周りの床に突き刺さる。しかも、柄を昊斗そらとに向け、自分を使ってくれと言わんばかりに。


 ユーリは、その光景を目の当たりにし、昊斗そらととある人物がダブって見えた。


 かつて、自分が住んでいた世界に居た、幼馴染の少女。


 自分と同じ、”勇者の称号”を持ち、人々から最も聖剣に愛される勇者と呼ばれ、羨望の眼差しの先にいた少女。


 ユーリの妹分だったはずの彼女を遠巻きに見つめなから、彼は激しい嫉妬に狂っていた。


――どうして、同じ勇者の称号を持つ自分は、人々から注目されないのか?なぜ、愚図でノロマだったあいつが、幾つもの聖剣を所持し、自分は一本(・・)だけなのか?どうして、あいつなのか?どうして・・・・・


 そんな感情が渦巻くユーリに、少女は昔と変わらずに「お兄ちゃん」と呼んで慕ってきたことも、彼には耐え難い屈辱だった。


 だから、殺した。


 殺して、彼女の持つ聖剣を全部奪った。


 少女を殺して消したはずの屈辱の光景が、再び目の前に現れ、ユーリの中に怒りが膨れ上がってくる。


 フッと、ユーリの視界にフレミーたちの姿が入る。


 フレミーの足元に転がる、先ほど自分が棄てた聖剣プロウェス・カリバーが目に入った。


「・・・・・・・・まだ、だ」


*************


「ソラトさん、凄いっ!・・・・・」


 力を持つ幾つもの聖剣を周りに配し、まるで伝説の英雄を髣髴とさせる昊斗そらとの姿に、フレミーは夢見る乙女のように顔を上気させ、声をあげた。


「そんな・・・勇者様が・・・」

 反対に、右腕と聖剣を無くし、膝をつくユーリの姿を見て、アルトリアは絶望の中、力なく座り込み項垂れる。

 玉露ぎょくろは、そんな対照的な二人を見ながら、小さく息を吐き出した。


「さて、手早く二人をふんじばって、王都へ戻りましょう。あちらはまだ、戦闘中でしょうし・・・何より、フレミーさん。あなたの無事を、皆さんに知らせないと」

「!?そ、そうですね!」

 自分が囚われていたことをすっかり忘れていたフレミーは、慌ててユーリたちを拘束するためのロープを探そうした時だった。


―・・・・・・・・・


「え?・・・誰?」

 頭に響く”声”が聞こえた瞬間、彼女の目の前が真っ白になる。


「あれ?ここは・・・・・」

 気が付くと、フレミーは真っ白な地平が続く場所に、独りで立っていた。

 

「ソラトさん?・・・ギョクロさん?・・・・・っラファル、マリーナ!」


 突然のことに、フレミーは精霊たちを呼び出そうとするが、返事は無かった。

「う、うそ・・・」

 状況が理解できず呆然とする中、彼女の前に一振りの剣が現れた。


「聖剣・・・プロウェス・カリバー?」

 ユーリに奪われ、そしてゴミのように棄てられた聖剣が、フレミーの目の前に浮かんでおり、その形がぼやけたかと思うと、人の形へと変わる。

 表情などははっきりとはしないが、その姿が女性を模してあることに、フレミーは気が付いた。


『漸ク、私ノ声ガ貴女ニ届イタ・・・・・・』

 人間の発声とは違う、独特の”声”が辺りに響く。

 それは、抑揚を欠いてはいるが、幼い少女とも円熟した女性とも取れる”声”だった。

「あなたは・・・・・?」

『私ハ・・・聖剣プロウェス・カリバーニ宿リシ意思。私ハズット、姫・・・・貴女ヲ待ッテイマシタ』

 聖剣の意思の言葉を聞き、フレミーは眉を顰めた。

「・・・私を?」

 自分を指差すフレミーに、聖剣の意思はゆっくりと肯く。

『ソウ、貴女ガ産マレタ日カラズット・・・・デスガ、聖域ノ封印ガ邪魔ヲシ、私ノ声ハ貴女ニハ届カナカッタ。結界ニ阻マレテ尚、私ノ声ヲ聞ケル、強イ力を持ツ者ニ、協力シテモラオウト思ッテ、声を上ゲテイマシタガ、上手クイカズ・・・・・結局、称号を持ツ者ニ捕マリ、逆ラウ事が出来ズニ、従ッテイマシタガ、漸ク支配カラ脱シ、コウシテ話シガ出来ルヨウニナッタ・・・・・』

「・・・・・・・・・」

 まるで自分が、物語の中の主人公にでもなった様な錯覚を覚えたフレミーは、言葉を失う。


『姫・・・・・貴女ニ聞キタイ。貴女ハ、”力”ヲ欲シマスカ?』

 そんなフレミーを尻目に、聖剣の意思は質問を投げかけた。

「”力”?」

『”力”デス。何者ニモ負ナイ、絶対ノ”力”・・・・全テヲ破壊スル圧倒的ナ”力”ヲ、欲シイト思ッタ事ハアリマスカ?』

 その問いに、フレミーは一瞬ためらいを見せるも、目を伏せて肯定した。 

「・・・・・力が欲しいと、思った事は何度もあります」

『デハモシ、今ソノ”力”ガ手ニ入ル、ト言ワレレバ、貴女ハ欲シイデスカ?』

 矢継ぎ早に問いかけてくる聖剣の意思。

 フレミーは、目を伏せたまま考え込み、少し間をおいて顔を上げた。

「力は、欲しいです・・・・でも、そんな強い力はいりません」

 力強くとまでは行かないまでも、フレミーの言葉には確固たる決意が感じられた。


『・・・・・・ナゼ?』

 真っ直ぐ見つめてくるフレミーに、聖剣の意思は首をかしげる。

 フレミーは、何かを思い出すように、穏やかな表情を浮かべ、目を細めた。


「確かに私は、かつて何者にも屈しない強大な力を欲したことがあります。でも・・・どんなに強い力、高い能力を持っていたとしても、人一人に出来る事には限界がある・・・そう、ある人が私に教えてくれたんです。今、私が欲しいのは、護りたい人を護る為の力です。全てを破壊する力・・・・・それは、使い方を間違えれば、私が護りたい人をも傷つけてしまうかもしれない。未熟な私が持つには、過ぎた力だと思うから。だから、いりません!」

 一連のやり取りで、これは聖剣に認められるかどうかの問答であると、フレミーは気が付いていた。

 騎士として、聖剣を手にする事は名誉であり、彼女自身も幼い頃から夢見たことだ。


 以前の自分なら二つ返事で「欲しい!」と言っていただろう。だが、山をも割るといわれる伝説の聖剣を手にするには、自分はあまりに未熟だと、良い意味で考えられるようになったフレミーには、荷の重い話だった。

「それに、私にはもう強い力・・・・・二人の精霊がいますから!」

 フレミーの答えを聞き、聖剣の意思は無言で佇んでいる。


 そして、揺らめいた。

『・・・・貴女ハヤハリ・・・アルバート様ノ血ト意思ヲ、受ケ継イデオラレルノデスネ』

「え?」

 初めて、聖剣の意思から”感情”を感じ取り、フレミーは目を見開く。

『ソノ考エガアレバ、貴女ハ”力”ニ溺レル事ハナイデショウ・・・・・姫、ドウカ私ヲ、使ッテクダサイ』

 そう言って、聖剣の意思はフレミーの前に跪き、深々と頭をたれた。

「え?!ですが、私は・・・・・」

 きっぱりと拒否した自分に、その資格は無いはず、と狼狽するフレミー。

 そんな彼女に、聖剣の意思は頭を垂れたまま、説明を始めた。

『先ホドノ質問ハ、貴女ノ”力”ニ対スル考エ方を、知リタカッタカラ・・・・モシ只”力”ヲ求メルダケデアッタナラ、例エ長年待チ望ンダ資格者デアッタトシテモ、私ハ貴女ヲ選ブ事ハナカッタ・・・・貴女ナラ、私ヲヨリ良ク使ッテクレルト、信ジルニ足ル方ダト確信シマシタ』

淡々と意見を述べる聖剣の意思に、フレミーは”彼女”の前に膝を折った。

「そんな・・・・使うだなんて・・・あの!私に力を貸して下さるというのなら、差し出がましい言い方ですが、一緒に戦う仲間になってください!お願いします!!」

 聖剣の意思の手を取り、頭を下げるフレミー。その温かいとも冷たいとも言えない、不思議な手を握り、フレミーは真っ直ぐに見つめる。

『・・・・・・勿体無イオ言葉・・・・是非、私カラモオ願イシマス。フレミリア様』

 すると、聖剣の意思は眩い光に包まれ、その光はフレミーをも包んでいった。


*****************


「まだだ!おれには、まだ聖剣が・・・!?な・・・・」

 昊斗そらとの下に行かなかった聖剣プロウェス・カリバーが、まだ自分の支配下に在ると思ったユーリは、 意地汚く飛びつこうとした。

 だが、聖剣はフワリ、と浮かび上がると、フレミーの手に収まった。

 ユーリのとってあり得ない光景に、彼はその場に立ち尽してしまう。


「この聖剣は・・・貴様には渡さない!!」

 確固たる意思を瞳に宿し、フレミーは立ち尽くすユーリを見据える。

 ハッ、と気が付き、ユーリは驚愕の眼差しをフレミ−に向けた。

「馬鹿な・・・・・・称号持ちでもない貴様が、何故聖剣を?!」

 称号が全てを左右する世界からきたユーリにとって、聖剣を持つには【勇者】の称号が必須だった。

 だからこそ、称号持ちでもないフレミーが、何事も無く聖剣を手にしていることに、理解が追いつかなかった。


 そんなユーリを見て、昊斗そらとは大きくため息をつく。

「判らないか?彼女は、真の意味で聖剣に認められたんだよ・・・一緒に戦う仲間として、な」

 先ほどのやり取りを聞いていたかのような口ぶりに、フレミーは驚きの表情を浮かべ、昊斗そらとを見た。

「!・・・はい!!」

 目が合った昊斗そらとが頷き、それを見たフレミーは、聖剣だけでなく、彼にも認めてもらえたと思い、満開の笑顔を綻ばせる。


 そんな中、ユーリは手にしていた全ての聖剣を失うと言う、人生最大の屈辱に、気が狂いそうなほどの怒りを覚えていた。

「っ!!どいつもこいつも・・・おれを馬鹿にするか・・・・アルトリア!!」

 突然、呆然としていたアルトリアを怒鳴りつけて呼ぶユーリ。

「?!」

 いつもにも増して殺気立つユーリに呼ばれたアルトリアは、その恐怖に身を縮めた。

「何を呆けている!さっさと来い!!」

「あ・・ぅ・・・あ」

 残った左手をアルトリアに向かって出し、呼びつけるユーリを見て、アルトリアは彼が何を望んでいるかすぐに理解したが、彼の言葉に今まで感じていた”モノ”が感じられず、従うべきか彼女の中に迷いが生じた。


 素直に従わないアルトリアの姿を見て、ユーリの血走った目が、さらに危険な色を帯び始める。

「?!貴様まで・・・おれを裏切るつもりか?あのゴミ溜から救ってやったおれを!!」

「!!」

 ゴミ溜。その言葉を聞いて、アルトリアはこの世界に来てからの数年間を思い出し、トラウマが甦り目から涙が流れ落ちる。

「またあのゴミ溜に戻りたいのか?!何なら、今すぐ戻してやろうか?!あぁ!!」

 まるで、場末のゴロツキの様な台詞を吐くユーリ。

 聞くに堪えない、とフレミーが顔を顰める。

「っ!?・・・・ぃゃ・・・」

 ここでユーリ逆らえば、また”あの生活”に戻ってしまう、とアルトリアはフラフラと立ち上がり、ユーリの方へと歩き出した。

「もう、決着はついているんですよ?それでもまだ、あの男に肩入れをするのですか?」

 玉露ぎょくろが、自分の横を通り過ぎようとするアルトリアに声を掛ける。

「ワタシは・・・・ワタシには、こうするしかないから・・・・・・」

 それだけ言って、アルトリアは再び歩き出す。

「馬鹿ですね」

 そう言いつつも、彼女を止めることをしない玉露ぎょくろ

 結局は、相容れない敵・・・・彼女は、そう割り切っていた。


「・・・・一条の光、刃と成せ・・・敵を切り裂く、雷光の剣!ライトニング・セイバー!!」

 呪文を唱え、アルトリアの身体が雷を纏うと、雷はユーリの左手に向かって奔り、次の瞬間、彼の手に雷を纏った剣が握られていた。

 

「人が・・・剣に?!」

 見たことも聞いたこともない現象に、フレミーは目を見張る。

「・・・本当に馬鹿ですね、貴女は」

 剣となったアルトリアの能力を計測し、その数値を見て玉露ぎょくろは、彼女がユーリごときに使役される武器でないと判り、嘆息した。


「殺す・・・・・・まずは、この場に居る全員・・・・そして、王都やこの国に住む者一人残らず、殺してやる!」

 剣となったアルトリアを手に、ユーリの口から呪いを思わせる言葉が吐き出される。

「そんなこと、私がさせない・・・・・っ!」

 聖剣を手に、ユーリの目の前に立ちはだかったフレミーが、外套の下に着ていた女神の衣装を、これ見よがしに力任せに破り、脱ぎ捨てた。

 いくら外套を羽織っているとは言え、衣装の下は下着など一切身に着けていない。年頃の娘がする行為ではない、と玉露ぎょくろは舌打ちした。

「・・・全く大胆なことを!!」

 創神器ディバイスのストレージから、こぶし大の宝石が付いたペンダントを取り出すと、フレミーに向かって投げつけた。

 空中で、宝石が光ると帯状に”解け”、外套の下にあるフレミーの素肌に巻き付いていく。

 光の帯がフレミーの身体を包み終えると、光がはじけ羽織っていた外套が天高く舞い上がった。


 外套の下から現れたのは、純白のドレスに白銀の胸当てや手甲などを纏い、手にした聖剣と相まって姫騎士もしくは聖騎士と呼ぶに相応しいフレミーの凛とした姿。

 フレミーは、ゆっくりと右腕を上げ、手にした聖剣の切っ先をユーリに向ける。

「ユーリ・ペンドラゴン・・・貴様はここで終わりだ」

 自信を漲らせるフレミーを、ユーリは血走った目を細め、苦々しく睨んだ。

「・・・・おれ聖剣(お下がり)を手懐けた程度で、粋がるな格好だけの騎士が!一年以上前、おれに負けたことを忘れたか!!」 

 ユーリがルーン王国を追い出されるきっかけとなった事件。

 フレミーは主であるフェリシアを馬鹿にされた、と怒りで頭に血が上り、その勢いでユーリと戦い負けてしまっていた。


 その時のことを思い出したフレミーだが、一歩も怯むことはなかった。


「確かに、あの時の私は、無様な姿を晒し、貴様に負けた・・・・だが、あれから私は色々な経験を積んで来た!あの時の私と今の私が、同じだと思うな!!」

 今の自分を支える人たちを思い出し、フレミーは聖剣を構えた。

「生意気なんだよ・・・・お前もフェリシアも・・・お前たちは黙って、”俺”の物になっていればよかったんだ!!」

 左手に握る剣を構え、床を蹴るユーリ。

「っユーリ!!」

 迎え撃つフレミーは、ユーリの攻撃にあわせて聖剣を振り上げ、重さを感じ無いような速度で振り下ろした。

 打ち合わされる二つの剣。

 だが、ユーリの持つ剣が抵抗無く真っ二つに折れ、肩口からバッサリと切り裂かれた。

「?!・・・馬鹿な・・・」

 斬られたことに驚愕するユーリは、聖剣から発せられた衝撃波で吹き飛ばされ、壁に激突した。


 吹き飛んでいった動線上に、ユーリが握っていた剣の残骸が落ちており、淡く光ると共に剣が人間の姿となッた。

 人間の姿に戻ったアルトリアは、胴体が真っ二つ・・と言うことは無く、寧ろ目立った外傷は無く、ただ眠るように気を失っている。 


 動かない二人を見て、フレミーは肺に溜まった空気を一気に吐き出した。

「・・・言ったはずだぞ?あの時の私とは、違うと」

 そう言うと、フレミーは緊張の糸が切れたせいか、疲労感に襲われ足元をふらつかせる。 

「っ・・・・・・」

「大丈夫か?」

 いつの間にかフレミーの傍にいた昊斗そらとが、彼女の身体を受け止める。

「は、はい・・・・・・」

 心配そうに見つめてくる昊斗そらとの顔が思った以上に近くにあり、フレミーは顔を真っ赤にして俯いてしまう。


「まだ息があるようですが・・・どうします?止めを刺しますか?」

 遠くに吹き飛んだユーリの身体が、呼吸するたびに上下しているため、まだ息をしているのは間違いなかった。


 ユーリに対して恨みを持っていたフレミーだったが、玉露ぎょくろの問いに対し、首を横に振った。

「・・・・・・・いいえ、それは陛下がお決めになる事ですから」


 グラン・バースに召喚された異世界人の処遇は、基点者ポインターの住む国によって管理される。つまり、ユーリの処遇は国王のカレイドが決めることなのだ。

 気を失っているアルトリアも、どこかの国に召喚された異世界人ならば、その国に判断が委ねられることになるのだった。


「・・・・うそだ・・・勇者である、この俺が?・・・・・!?」

 瀕死の重傷を負い、浅い呼吸の中、うわ言のように呟いていたユーリの身体が、突然はねた(・・・)


「?何だ・・・・」

 すぐに異変を察知した昊斗そらとが身構え、つられる様にフレミーも聖剣を手に腰を落とした。


「ま・・・待て、俺はまだ、負けてない・・戦える!戦えるんだ!!・・・グフィ!?」

 そう言って、まるで何かに怯えるのように、昊斗そらとたちに手を伸ばすユーリだったが、顔中の孔から血を流しだしたかと思うと、頭が割れた。


「!?」

 噴水のように血を撒き散らすユーリに、フレミーが声にならない悲鳴をあげる中、ユーリの口がカチカチと開閉する。

「イヤダ・・・・オレハ・・・勇者デ、イタイ・・・・魔王ニナンテ・・・・!!ぎゃああああああああああああああ!!」


 絶叫を上げるユーリ・ペンドラゴンが、割れた頭からメリメリと音を立て、捲れるように裏返っていく(・・・・・・)


 そのあまりの凄惨な光景に、呆然と見つめるフレミー。

「あれ・・・・何なんですか?」

 完全に捲れ返ったユーリだった物体を見つめ、フレミーは言い知れぬ恐怖を感じていた。


 そこに居たのは、まるで物語に出てくる悪魔のようだった。


 ラバースーツの様な光沢のある身体をユーリの血で濡らし、切り落として無くなっていた右腕には、鋭い爪を伸ばした何本もの触手がヒュンヒュンと音を立てて撓り、ユーリの皮(・・・・・)で出来た羽を持ち、顔は無かった(・・・・)。辛うじて人間の形に留まっているが、今も時を追うごとに身体が膨れている。


「最後の最後に、面倒なのが出てきましたね」

「往生際が悪いにも程があるぞ・・・ったく」

 フレミーとは対照的に、冷静そのものの昊斗そらと玉露ぎょくろ


「あの!あれって、一体・・・」

 二人の反応を見て、フレミーはあれが何なのかを昊斗そらとたちが知っていると思った。

「さぁ、判りませんね」

「えぇ!?」

 しかし、予想に反してあっさり知らないと言いきる玉露ぎょくろに、フレミーが声を上げた。

「だが、あれに似たのなら知っている。魔族・・・しかも、このプレッシャーだと、魔王クラスか」

「!?」

 全く動かない”ユーリ”を見つめながら、昊斗そらとの口から”魔王”と言う名称を聞き、フレミーの警戒心がマックスまで引きあがる。

 グレン・バースに於いて、魔族と呼ばれる者、ましてや魔王となったら伝説の中で語られているような存在だ。

 その為、フレミーの手は震えていた。


「とある世界では、後天的に特殊な方法で称号を手に入れた称号持ちは、その代償に特定条件で反存在へと変わってしまう場合があります。おそらく、あの自称勇者君も、その条件に当てはまってしまい、勇者の反対である魔王になったのでしょうね」

 玉露ぎょくろの説明を受け、フレミーは震える手で聖剣を構える。


 だが、突然フレミーの身体から力が抜け、聖剣を落としその場に跪いてしまう。

「あ、あれ・・・?」

 その感覚を知っているフレミーは、心配して慌てて出てきたラファルとマリーナを見つめた。


 精霊術を行使しすぎた時と、同じ感覚に襲われているフレミーは、そこまで精霊術を使ったつもりが無かったので、困惑しながら、聖剣へと手を伸ばす。

 聖剣を握ろうとするフレミーに、昊斗そらとは彼女の手に自身の手を添えて、首を横に振った。


「やめておけ。聖剣は持つだけで霊力などの精神力を消費する。使い慣れない者が無理に振るえば、最悪死ぬぞ。只でさえ、フレミーは気力体力共に万全ではないんだ。今回は、無理せずに見ているんだ。ラファル、マリーナ・・・これを使って、フレミーとそこで気を失っている子を護れ。使い方は知ってるな?」

 そう言って、昊斗そらとは一枚のカードを取り出す。


 それは、冬華とうかの術が封入されているカードで、使用者の力を発火点して使用できるものだ。力を持つ存在なら誰でも使用でき、精霊である二人でも使用可能だった。


 アルターレ護国で、同じものをフレミーが使っているのを見ていたラファルとマリーナは、頷きながら昊斗そらとからカードを受け取ると、二人で力を込め始める。

 すると、フレミーとアルトリアを包むように青と緑の光の膜が覆った。


 また足手まといになってしまった、と落ち込むフレミーに昊斗そらとは優しく頭を撫でた。

「そんな顔をするな。落ち着いたら、聖剣との付き合い方を教えてやる」

「はい・・・・・・・」

 子供っぽい扱いと思いながらも、撫でてくれる優しくくすぐったい昊斗そらとの手に、フレミーは顔を赤くして身をゆだねた。


 そろそろいいか、と立ち上がり、フレミーの頭から手を離した昊斗そらとは、魔王と化したユーリを睨む玉露ぎょくろの一歩前へと進み出る。


「しかし、魔王退治なんていつ振りですかね?」

 今まで数えるのも億劫になるほど、魔王と戦っている二人にとって、生まれたばかりの魔王など相手ではなかった。

「忘れた・・・・だが、生まれたての魔王とは言え、油断は出来ないか。玉露ぎょくろ

 とは言え、油断一つで英雄と呼ばれる者が、戦場であっさり死ぬこともあるのを知っている昊斗そらとは、玉露ぎょくろを呼び戻す。


『で、どうするのです?マスター』

 玉露ぎょくろの問いかけに、昊斗そらとは床に突き刺さる聖剣たちを見つめ、その中から一振りを掴み、床から引き抜いた。


 他の聖剣に比べて、非常に弱々しく気配を発する聖剣。


 昊斗そらとは、その聖剣を見つめ、徐に魔王へと切っ先を向けた。


「おい、元勇者(・・・)。お前に”本当の聖剣の力”を見せてやるよ」


 聞こえているかも定かでない魔王に、昊斗そらとはそう言うと、笑みを浮かべるのだった。


次回更新は、7月19日(土)のPM11:00すぎを予定しています。


変更の場合は、活動報告にてご連絡いたします。

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