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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
騒乱 ルーン王国 編 
105/180

(15) フレミー奪還

 ユーリ・ペンドラゴンは苛立ちを募らせていた。


 ルーン王国国王カレイドに対し、宣戦布告を行ってから数刻の時が流れたが、未だに彼の仲間・・・いや、彼にとっては部下、もしくは従僕たちからの連絡が一切入ってこないからだ。


 ディアゴは仕方ないとしても、誰よりも早く、王都ディアグラムに潜入していたレーアからはおろか、腹心であるマギハからも、作戦完了の報告が上がってこない。

 さらに、フェリシアを捕らえに行った刺客たちも連絡が無い為、ユーリの怒りに拍車を掛けていた。


「・・・・・・・アルトリア!」

 とうとう我慢の限界を振り切り、ユーリは傍に控えていたアルトリアを呼びつけた。

「は、はい!勇者様!!」

 アルトリア自身に非は無いが、八つ当たり気味にユーリから放たれる殺気を受け、顔色が真っ青になっていた。


 ふと、彼の横に居るフレミーを見てアルトリアは、洗脳され感情を殺され、何も感じていない彼女に対し、ある意味でうらやましく思ってしまった。

「全員に連絡を入れろ・・・いつまで、このおれを待たせるつもりだ、と」

「か、畏まりました!」

 ―何を馬鹿なことを―と、考えつつアルトリアは恐怖に震える足を引きずり、通信球へと向かおうとした時だ。

「?・・・・・・・」


 全員の耳に、聞きなれない音が響いた。


*************


「あれか?冬華とうかたちから連絡があった、フレミーが捕まっている船っていうのは」

 はるか上空からでも判るほど、異常なまでに巨大な船体が運河上に停泊している。


 昊斗そらとの問いに、玉露ぎょくろは送られてきていた船のデータを、ホロ・ディスプレイに映し出した。

『ですね。データ照合、パレス・オブ・オーシャン号です。上部甲板に、生体反応』

 ホロ・ディスプレイに拡大映像が映り、辺りを見渡す人影が見える。

「あそこか」

 その一人が、見知った人物だと判ると、昊斗そらとは一直線に急降下し、ユーリたちの居る甲板に音も無く降り立った。

「!?」

 突然上空から現れた侵入者に、アルトリアは驚きながらも、身構える。

「何だ、貴様らは?」

 ユーリは、顔に嫌悪感を出し、侵入者・・・昊斗そらとたちを睨みつける。


 だが、昊斗そらと玉露ぎょくろもそんなユーリに目もくれず、横に立っているフレミーに目をやった、


 彼女の目には、いつもの輝きは無く、表情もまるで人形のようだった。


 あまりにも薄い生地を使った羽衣の様な服の下から、フレミーの素肌が晒されている。下着を一切身に着けていないために、その姿は神々しさというより、卑猥さの方が勝っていた。


 そんなフレミーの姿に、昊斗そらと玉露ぎょくろの目つきが鋭さを増す。


「カレイド陛下と契約している傭兵だ。そこにいる騎士フレミーを返してもらおう」

 睨みつけていたユーリ対し、昊斗そらとは感情を殺し、淡々と言葉を述べる。


 そんな昊斗そらとに、ユーリは「ふん!」と苛立ちを見せる。

「戯言を・・・・これは、おれの所有物だ」

 悪びれる様子も無く、フレミーのことを所有物扱いするユーリに、玉露ぎょくろがため息をついた。

『人を、モノ扱いとは・・・随分と、偉そうな。何様のつもりでしょうか?』

「黙れ、女」

 玉露ぎょくろに対し、殺気をぶつけるユーリ。


 そんな光景を、戦々恐々と見守るアルトリアは、殺気立つユーリに対し、全く動じない昊斗そらとたちに一種異様な感覚を持った。

「もう一度言う、フレミーを離せ」

 先ほどより、鋭くなった昊斗そらとの言葉に、ユーリの中で何かが”切れた”。

「傭兵風情が、勇者であるこのおれに、命令するな・・・」

 一層怒りを露にするユーリの言葉に、昊斗そらとたちが眉を顰める。

「勇者?」

 はっきり言って言動を省みても、目の前の青年の何処をどう押せば、「勇者」などという言葉が出てくるのか、理解できず首を傾げる。


「・・・・命令だ。貴様たちは、今すぐ王都へ行って、フェリシアをおれの下へ連れて来い!」

 その言葉を聞き、アルトリアは終わった思った。

 勇者を名乗るユーリの言葉・・・特に命令を聞いて、逆らった者は居ない。少なくとも、アルトリアはそんな人物を見たことが無かった。

 一度だけ、マギハから「勇者様とは言えども、王族の方々には強制は出来ないようですよ」と聞いたことがあったが、目の前に居るのは傭兵・・・・ユーリの言葉に逆らえるはずは無いと、確信していた。


「・・・・あぁ、お前。称号持ち(・・・・)か?」

 だが、いとも簡単に、その確信は崩れ去った。

「!?」

 昊斗そらとの言葉に、初めてユーリの顔色が悪い方へと変わる。

「?称号・・・持ち?」

 聞きなれない言葉を聞き、アルトリアが怪訝な顔をしてユーリを見つめる。

『のようですね。ですが、大した力で無いところを見ると、後天的に手に入れたものでしょうか?』

「黙れ!」

 突然、左手の人差し指にはめた指輪が光ったかと思うと、ユーリの手に剣が握られ、昊斗そらとへ切りかかってきた。

 昊斗そらとは、腰に下げた鞘から、高周波ブレードを引き抜くと、ユーリの剣を受け止め、鍔迫り合いに入った。


「!・・・どうした?もしかして、仲間には秘密だったのか?」

「黙れと言っているだろう!三下がぁ!!」

 まるで隠し事を暴露されたような反応を見せるユーリ。昊斗そらとは戦うには今居る場所が手狭だと感じ、一瞬腕を引き鍔迫り合いによる膠着状態を崩した。バランスを崩され踏鞴を踏むユーリを、下の甲板へと蹴り飛ばした。


玉露ぎょくろ、フレミーを頼む」

 ユーリを追って甲板から飛び降りる昊斗そらとと入れ替わるように、義体に入った玉露ぎょくろが現れる。

「了解です、マスター」

 降りていく昊斗そらとを見送り、戦闘服姿の玉露ぎょくろがゆっくりとフレミーたちへと振り向く。


「!?」

 単体(・・)では戦闘能力を持たないアルトリアは、身構えてはいるものの、相手の実力がわからないため、腰が引けていた。


 そんなアルトリアを一瞥し、玉露ぎょくろはフレミーの方へと目を向ける。

「全く、何をなさっているのです?いとも簡単に、敵の手に落ちるなんて・・・騎士が聞いて呆れますよ、フレミーさん。さぁ、帰りましょう。フェリシアさんたちが待っていますよ」

 だが、フレミーは玉露ぎょくろの声が聞こえないのか、虚ろな目をしたまま立っていた。


 眼中に無いかのような玉露ぎょくろの振舞いに、アルトリアが声を上げた。 

「む、無駄です!今の彼女は、生まれ変わって勇者様に全てを捧げているのですから!フレミリア様!あの女は、勇者様に仇なす者!勇者様のために、貴女様の力を!!」

 アルトリアの言葉を聞き、フレミーはゆっくり玉露ぎょくろの方を見つめると、右手を前に出した。

「ユーリ様の、ため・・・・・アクア・バレット」

 首に掛ける青と緑の宝石の付いたペンダントの、青い方が光った瞬間、フレミーの周りに水の球が幾つも現れ、玉露ぎょくろへと殺到する。


「舐められたものですね・・・・その程度の精霊術で、私を倒せると思われているなんて」

 迫り来る水の弾丸に向かって、無表情のまま歩む玉露ぎょくろ

 だが、水の弾丸は玉露ぎょくろに一発も命中することなく、後方へと飛んでいってしまった。

「え?」

 目の前で起きた出来事が理解できず、呆然とするアルトリア。


 玉露ぎょくろは、飛来するフレミーの攻撃の軌道を計算し、最小範囲の動きで全て避けていた。

 しかし、アルトリアには、玉露ぎょくろがただ歩いて居るようにしか見えなかったのだ。


「・・・エア・ハンマー」

 精霊術を避けられ、次にフレミーが繰り出したのは、巨大なハンマーのように形作られた圧縮空気を玉露ぎょくろの頭上に降らせた。

「フレミーさん、貴女の本質は剣士・・・剣を振るう者でしょう?それを、馬鹿の一つ覚えのように、精霊術を使うなんて・・・・・」

 これに対し、玉露ぎょくろは義体唯一の武装である光り輝くチャクラムを三つ、頭上に展開し空気の槌を受け止めた。

「エア・スライサー・・・・アクア・カッター」

 間髪いれず、ペンダントの二つの宝石が輝き、水と風の刃が玉露ぎょくろに襲い掛かるが、彼女は二つの刃を迎撃するように、別のチャクラムを展開し、射出した。

 空中でぶつかった四つの刃は、玉露ぎょくろのチャクラムが、フレミーの水と風の刃を弾き、四つの刃はそれぞれ船体を傷つけて明後日の方向へと飛んでいってしまった。


「無駄だと言ったはずです。もう彼女には、あなた方の声は届きません!記憶を書き換えられ、あなたたちを何処の誰かも覚えては居ません!」

 玉露ぎょくろの行動を無駄と断言するアルトリア。

 彼女の言葉を聞きながら、腕を組んだ。

「洗脳され操られている、とは聞いていましたが、記憶をですか・・・・・・」

 得られた情報から、フレミーの状態を推察し、玉露ぎょくろはある手を思いついた。


 無表情だった、玉露ぎょくろの顔に笑みが浮かぶ。

「!?・・・・・」

 そのあまりの表情の変化に、アルトリアは言い知れぬ恐怖を覚え、悲鳴を上げ後ろに逃げるように腰を抜かした。


 玉露ぎょくろは笑顔のまま、フレミーに話しを始めた。

「こっちを覚えてないっていうなら、好都合だわ。私ってこういうことを、あまり言いふらしたくない性分だから・・・・・いいことを教えてあげる、フレミーさん。実を言うとね、昊斗そらとだけでなく、私も冬華とうかも、貴女の事を随分買っていたのよ?同じ女としてね。今まで数え切れないくらい訪れた様々な世界で、昊斗そらとに好意を寄せる・・・言い寄ってくる女は掃いて棄てるほどいたわ。まぁ、その殆どが、私や冬華とうかが一睨みするだけで、同じ土俵に立つことなく、情けなく逃げ出した腰抜けばかりだったけどね。でも、貴女は違った。自分を変えようと・・・昊斗そらとに振り向いてもらおうと、健気に努力していた。もちろん、騎士としても努力も怠っていなかったことも知っているわ。だからフェリシアさんと同様に、周りが心から応援したくなるんでしょうね・・・・なのに、簡単に敵に捕まって、頭の中いじくられて、敵の配下になりました?・・・・・・どうやら、貴女のこと買い被っていたようね。ホント・・・残念だわ!!」


「・・・・・」

 玉露ぎょくろの辛辣な言葉を聞いても、フレミーは表情一つ変えなかったが、なぜか左手を強く握り締め、震えていた。

 そのことを見逃さなかった玉露ぎょくろは、畳み掛けるようにキツイ言葉を吐き出す。


「知ってる?記憶を改ざんするって中々大変な作業なのよ?特に抵抗する対象に対して、物凄く時間を掛けないと、失敗するような代物なの。まさかと思うけど・・・私たちのことなんて、本当はどうでもよかったと心の底では思っていたんじゃないの?聞いたわ。貴女、大公の娘なんだそうじゃない。もしかして、騎士ではなく、フェリシアさんのようなお姫様でいかったのかしら?だから、あんな自称(・・)勇者君の姑息な手にワザと引っかかって、あわよくば自分が、フェリシアさんのポジションに納まろうと魔が差したんじゃない?あ〜あ、フェリシアさんも、自分の騎士がそんなこと考えていたと知れば、さぞ落胆するでしょうねぇ。お友達の騎士二人や貴女を慕っているかわいい後輩は、どんな顔をするかしら?今すぐ、伝えに言ってあげましょうか?」

「っ・・・・・・っ」

 ここに来て、フレミーに大きな変化が起きた。

 彼女の目から、涙が流れている。

 

 だが、玉露ぎょくろは不敵な笑みを崩すことなく、さらに言葉を並べた。

「悔しかったら、何か言い返してみれば?まぁ、自分の気持ちを好きな相手に伝えられない貴女に、言える事なんて無いでしょうけどね」

 その言葉を聞き、フレミーが俯き肩を震わせる。

「そのまま、昊斗そらとの事なんて綺麗さっぱり忘れて・・・・・」

「・・がう・・・・」

 俯いたフレミーから、小さくだが声が聞こえる。

「?何、何か言った?」

 彼女の声は聞こえているのだが、玉露ぎょくろはワザと聞こえないフリをする。

「・・ちっがぅ・・わた・・・しは」

 先ほどとは違う、感情の伴った言葉がフレミーの口から聞こえ始めたの確認し、玉露ぎょくろは仕上げに入った。

「何?聞こえないんだけど!?」

 ここまで来ると、クラスメイトを虐める性悪女にしか見えないが、玉露ぎょくろはいたって大真面目だった。 


「わた、しは・・・・・私は、そんなこと思ってない!」

 俯いていたフレミーが声を上げて顔を上げると、目からは大粒の涙がぽろぽろと零れ落ち、泣いていた。


「姫様の騎士であることに誇りを持ってるし、皆さんのこと、どうでもいいなんて思ったこと、一度も無い!そして、ソラトさんのことが好き!大好きなの!!この気持ちだけは、トーカさんやギョクロさんには負けない、負けたくない!!」


 初めて、騎士ではなく、女の子としてのフレミーの言葉を聞き、玉露ぎょくろは目を細めた。 

「え?あれ・・・・・私が好きなのは、ソラトさん?・・・・ユーリさ・・あぁああ!!!」

「?!そ、そんな!レーアさんの洗脳が!?」

 事の成り行きを、離れたところから伺っていたアルトリアは、頭を抱え苦しみだしたフレミーを見て、まさかの事態に頭の中が真っ白になった。


「ふっ・・ちゃんと言えるじゃない!自分の気持ちを!!」

 玉露ぎょくろは、ハイヒールを履いていると思えない速度で、フレミーに駆け寄り、彼女の頭を鷲づかみにした。

「!!」

「ちょっと、キツイけど・・・我慢なさい!!」

 その瞬間、バチン!!と雷の様な音が響き、フレミーの身体が痙攣する。


 自力で、レーアの洗脳術から脱したフレミーだったが、記憶の改ざんを如何にかしないと、その影響から精神が崩壊しかねないため、玉露ぎょくろはフレミーの記憶を少々力技で修復し始めた。


 数分後。

「・・・・・どう、気分は?」

 術によって書き換えられていた部分を、元の状態に戻し、玉露ぎょくろはゆっくり手を離した。

 同時に、フレミーの首に掛けられた宝石が砕け、中に封印されていた彼女の精霊である、マリーナとラファルが飛び出し、泣きながらフレミーに抱きつく。

「最悪です・・・・・でも、ありがとうございます。ギョクロさ・・殿、お手数をかけてしまって」

 涙でグシャグシャになった顔を服で拭い、フレミーは上体を起こすと、泣きつく精霊たちに「ごめんね、心配掛けて」と声を掛けた。

「さん、でいいわよ。全く、真面目なんだから・・・・それからごめんなさい。色々と酷いことを言ってしまって。忘れたいなら、記憶消してあげるけど?」

 元に戻す為とは言え、心にも無い誹謗中傷を並べた玉露ぎょくろは、そのことに対して罪悪感を感じていた。

 だが、玉露ぎょくろの申し出に、フレミーは首を横に振った。

「いいえ・・・・お気遣い無く・・・敵の策に嵌ったことも全部含めて、自分の、責任ですから・・・でも、正直、きつかったです。ギョクロさんの言葉」

 先ほどのやり取りも含め、フレミーの記憶に全てが残っていた。

 フェリシアの騎士となるべく両親から鍛えられた時も、騎士となりアルバート騎士団の訓練の時も、罵倒される事はあったが、玉露ぎょくろのような物言いをされたことのなかったフレミーには、彼女の言葉はかなり衝撃が強かった。

 だが、それも得がたい経験だと、フレミーは玉露ぎょくろの申し出を断ったのだった。


「まぁ、あの程度でへこたれる様なら、到底私たちには太刀打ちできないわよ?無理そうなら、昊斗そらとのことは諦めなさい」

 再び意地悪な笑みを浮かべる玉露ぎょくろに、フレミーは力強く言い放った。

「いやです!」

 そう言いきったフレミーの顔は、騎士ではなく十八歳の恋する少女のそれだった。

「ふふっ・・・その調子よ」

 色々楽しくなりそうだ、と玉露ぎょくろは今後の展開が楽しみになっていた。


「う、うそ・・・・・絶対に解けないってレーアさんが言ってたのに・・・・」

 完全に支配から脱したフレミーを見て、アルトリアはレーアの言葉を思い出していた。


――もし、あの洗脳を解ける奴がいたとしたら、そいつは人間じゃないわ――


 人間じゃない・・・・・・玉露ぎょくろを見つめるアルトリアの頭の中が、その言葉で埋め尽くされる。


「残念ですが、この世に絶対なんてありませんよ。それに、この術式。アルターレ護国で見たモノに、随分改良を施しているようですが、雑すぎますね。増幅用の紋章の位置も在り来たりで、出力にモノを言わせて力技で洗脳を維持しようなどと、ド素人の発想です・・・・・・つまり、この程度解くのなんて、造作も無いですよ」

 放心しているように見えるアルトリアに、これ以上の説明は不要か、と説明を打ち切る玉露ぎょくろ


 アルトリアが戦意を喪失したのを確認し、玉露ぎょくろは繋がってる昊斗そらと創神器ディバイスから外套を取り出し、フレミーに手渡した。


「さて、マスターの方はどうなったでしょうか?」

 そういって、玉露ぎょくろと外套を纏ったフレミーは昊斗そらとが降りていった下部甲板を覗き込んだ。

 

**************


「どうした。勇者と言い張る割には、息が上がっているぞ?」

 飛び降りた先で、激しい剣戟を繰り返し、昊斗そらととユーリは船内の広い食堂へと移動していた。

「黙れ・・・・」

 昊斗そらとが指摘するように、ユーリは肩で息をしながら、剣を構えている。

 

 何度か切り結んで、勇者を名乗るユーリが、それなりの実力を持っている事は昊斗そらともわかったが、突出するほどの実力ではないと、昊斗そらとは思った。


 高周波ブレードを肩に担ぎ昊斗そらとは、目の前の青年が答えるとは思わなかったが、疑問に思っていたことを聞いてみた。

「・・・どうして、フレミーを誘拐し、フェリシアも連れ去ろうとしている?フレミーの対応を見る限り、二人に惚れたから、と言うわけではないのだろ?」

「・・・・・このおれが、より完璧になる為だ」

「は?」

 帰ってきた答えに、昊斗そらとは首を傾げる。

「・・・・・・貴様の言うとおり、おれは【勇者】の称号持ちだ。だが、この世界ではその能力ちからは、完全に発揮されていない。しかし、一つだけ完全な力を手に入れる方法がある。おれのいた世界には、勇者に勝利を齎す双子の女神がいたと伝えられている。その言い伝えが転じ、女の双子に女神の姿をさせ傍に置けば、女神の加護を得て、勇者の称号持ちは力を発揮出来るようになっていた・・・・つまり、あいつらは、おれにとって力を高める為のモノ(・・)でしかないのだ」

 随分くだらない理由で、馬鹿な事をしでかすものだ、と昊斗そらとは半ば呆れつつ、新しく湧いた疑問を口にする。

「どこで、彼女たちが双子だと知った?」

 フェリシアとフレミーが双子である事は、ある意味で国家機密となっている。

 昊斗そらとたちが知っているのは、玉露ぎょくろが勝手に調べたからだ。


 そんな秘密を、なぜユーリが知っているのか、昊斗そらとはいくつかの可能性を考えつつ、ユーリの言葉を待った。

「あれだけ似ているからな。もしかしてと思って、出産に立ち合った関係者から聞き出した(・・・・・)。本当なら、一年前にあの二人はおれの物になっていたはずだったが、国王と機工師が邪魔したせいで、ここまで延びてしまった・・・・おれの秘密を知る貴様と、仲間の女はここで殺す」

 まるで最初からそのつもりで話していたかのように、ユーリの左手の指輪が光ると、一振りの剣が握られていた。

「・・・・聖剣か」

 昊斗そらとも何振りも所有してる為、彼の手にする剣が、聖剣であると一目でわかった。

 だが、昊斗そらと自身は聖剣に持ち替えることなく、傭兵の武器を作る筆頭鍛冶師の薫子かおるこが、新たに製作した最新式の高周波ブレードを構える、


 そんな昊斗そらとを見て、ユーリは「愚かな」と笑みを浮かべた。

「光栄に思え。貴様の様な三下を斬るには、惜しい剣だ!」

 ユーリが聖剣を振った瞬間、聖剣の斬撃が七つに増えた。


 玉露ぎょくろたちが居る上部甲板から二つ下の船内が爆発し、煙が上がる。


 その煙の中から昊斗そらとが飛び出し、甲板上に現れた。

「あそこでしたか」

「ソラトさん!!」

 上から声が聞こえ、昊斗そらとが見上げると、玉露ぎょくろとフレミーがのぞき込んでいた。


「・・・元に戻ったようだな、フレミー」

 フレミーがいつもの状態に戻っていることを確認し、昊斗そらとが船内へと視線を戻すと、再び七つの斬撃が襲い掛かってくる。

 昊斗そらとはその全てを冷静に回避し、ブレードを構えた。


 煙の中から聖剣を手にしたユーリが現れる。

 視線を感じ、上を見上げたユーリの視線に、元に戻ったフレミーが、怒りを露にして睨みつけているのが映った。

「っ!レーアめ、適当な仕事を!アルトリアも、何をしていたのだっ!」


 自分の思い通りに運ばない苛立ちに、ユーリは目の前の昊斗そらとを片付けようと視線を戻すと、すでに昊斗そらとは目の前に迫っていた。

「遅い!!」

 腕ごと切り落とそうとした昊斗そらとだったが、ユーリが間一髪で腕を引っ込めたため、目標を聖剣に切り替え、弾き飛ばした。

「!?」

 強烈な打ち込みで、手の中にあった聖剣が甲板の端へ飛んでいき、ユーリは昊斗そらとからの追撃を恐れて、急いで距離をとった。


 だが、昊斗そらとは追いかけるようなことはせず、攻撃したその場に留まっていた。 

「勇者を名乗るなら、もう少し鍛錬しろ・・・お前の様な男に使われている聖剣が、見ていて不憫でならない」

 再び、高周波ブレードを肩に担ぎ、昊斗そらとはユーリに説教を始める。


 それが、自分を馬鹿にする物言いに受け取ったユーリが、憤怒の表情へと変わる。

「・・・・付け上がるな、傭兵が!」


 左手の指輪が光り、別の聖剣が現れる。

「!?あ、あれは!!」

 上から見ていたフレミーが声をあげる。

 距離は離れているが、聖剣の装飾に見覚えがあったからだ。


「・・・・その聖剣」

 昊斗そらとは、ユーリが手に持つ聖剣を見たことはなかったが、知っている(・・・・・)モノに感じた。


「聖剣プロウェス・カリバー。木漏れ日の森の聖域に封じられていた、ルーン王国初代国王が振るったとされる伝説の剣だ」

 鞘に収められた聖剣を引き抜き、輝く刀身が姿を現すと、昊斗そらとの頭にかすかにだが”声”が響いた。

「なるほど・・・・あの時の”声”は、その聖剣だったのか」

 その”声”は、夏期休暇で訪れた聖域の傍で、カグと一緒に聞いたモノと同じものだった。


 あの時は、エメラーダの声だと思っていたが、聖剣の声とは考えもしなかった。


「素晴らしいだろう?貴様の様な者がどれだけ望んでも、手に入れる事は叶わない代物だ」

 昊斗そらとに自慢げに見せびらかすユーリは、聖剣を無造作に振った。

 聖剣から放たれる強力な気で発生した衝撃波を、昊斗そらとは寸前にリミッターを解除した高周波ブレードで受け止めたが、受け流すことが出来ずに、光の中へと消え、大爆発した。


 巨大な船体が爆発の振動で大きく揺れ、昊斗そらととユーリの戦闘で、脆くなっていた構造が限界を越えてしまい、玉露ぎょくろたちの立っていた上部甲板が崩れ落ちる。

「!?」

「きゃぁあああ!!」

 突然のことに、洗脳影響でまだ身体の反応が鈍いフレミーと、放心状態だったアルトリアは瓦礫と化した甲板と一緒に下へと落ちていくが、玉露ぎょくろは瓦礫を足場にして跳躍し、二人の身体を捕まえた。そして、そのまま落下する瓦礫の中を器用に飛び降りて行き、瓦礫に潰されること無く、昊斗そらとたちのいる甲板まで降りると、玉露ぎょくろは二人を少々乱暴に下ろした。


「やれやれ・・・・手間が掛かりますね」

「!?ありがとうございます、ギョクロさん」

 今回の件で、玉露ぎょくろに対するフレミーの見方は大きく変わり、改めてとんでもない人たちだと、フレミーは呆気に取られた。

 その隣では、放心していたアルトリアが息を吹き返し、玉露ぎょくろを睨んでいた。

「・・・どうしてワタシを、助けたのです?」

 敵である自分を助けた玉露ぎょくろの真意がわからず、アルトリアは問質してきた。


 玉露ぎょくろは無表情で、前を見据えたまま口を開いた。

「あのまま見殺しにしてもよかったのですが、あなた方にはきちんと罪を償ってもらわないといけませんからね。生き残った以上、楽には死ねないと思ってください」

 そう言って、感情の篭らない目で、アルトリアを見下ろす玉露ぎょくろ


「っ!・・・・・・・・」

 アルトリアの中で、玉露ぎょくろは得体の知れ無い存在と認識されているため、何をされるか判らない恐怖から、ユーリの勝利を信じて祈り始めた。



「手加減してやったが、あれを防ぐか」

 聖剣の力を二割ほど使った攻撃を受け、それでも無傷で現れた昊斗そらとを見て、ユーリは舌打ちする。

 そんなユーリを尻目に、昊斗そらとは手にしている高周波ブレードを、渋い顔をして見つめていた。

「・・・次、下手に高周波ブレード(こいつ)を壊したら、また薫子さんに殺されそうだな・・・・・」

 戦闘において武器が壊れるのは仕方の無いことだが、作ってもらったばかりの武器をいきなり壊すのは、色々な意味で寿命を縮めそうだ、と昊斗そらとはブレードを鞘に収めた。

 

「?何のつもりだ」

 昊斗そらとの意図が見えず、ユーリは眉を顰める。

「お前は言ったな?どれ程望んでも、俺には手に入れることが出来ない、と・・・果たしてそうかな?」

 笑みを浮かべ、昊斗そらと創神器ディバイスが光ると、彼の横の空間が揺らぎ始める。

 その揺らぎに手を突っ込み、昊斗そらとは目当ての品を探り当てると、一気に引き抜いた。


 引き抜かれたその”剣”を見た全員が、息を呑む。


 装飾自体はシンプルな作りではあるのだが、刀身が透き通り、反対側が透けて見えるのだ。

 しかも、剣から放たれる神聖な気配は、ユーリの持つ聖剣プロウェス・カリバーを凌駕している。

「・・・・綺麗」

 その美しさに、全てを忘れてアルトリアは見入り、ユーリは呆然と見つめていた。


「何だそれは?・・はは、ははははははっ!!何なんだそれは!?そんな聖剣、見たことが無い!!・・・貴様、それを渡せ。それは、勇者であるおれにこそ相応しい!」

 昊斗そらとの剣の”強さ”を感じ取ったユーリは、こみ上げてくる笑いを抑えることができす、昊斗そらとに剣を差し出すように、要求してきた。


「ユーリ・ペンドラゴン!!貴様・・・他人の剣を欲しがるなど・・・それでも剣士か!!」

 ユーリの身勝手な言葉に、フレミーは怒鳴りつけた。

 剣士にとって、剣は魂であり半身である。

 そう教えられてきたフレミーにとって、恥ずかしげも無く他人の剣を欲し、あまつ奪おうとするユーリの言動が、理解できなかった。

「黙れ、フレミリア!勇者であるおれに指図するな!!さぁ、そいつを寄越せ!!」

 聞く耳を持たないユーリは、昊斗そらとに切りかかり、戦闘が再開される。


 戦う相手ではなく、剣にばかり目の行くユーリに、昊斗そらとは薄ら笑みを浮かべた。

 鍔迫り合いになった瞬間、ユーリは手を伸ばし、昊斗そらとの剣の柄を握ると、思いっきり昊斗そらとの身体に蹴りを入れる。

 痛くも無い蹴りだったが、昊斗そらとは「うわっ」と声を上げ、剣を手放しヨロヨロと後ろに下がった。

 

 まさか昊斗そらとが剣を奪われるとは思ってもいなかったフレミーは、信じられない光景を目の当たりにし絶句する。

 アルトリアも、ユーリが敵の切り札を奪ったものと思い、小さくガッツポーズをしていた。


 そんな中玉露(ぎょくろ)は、昊斗そらとの狙いが判っていたので、パートナーのわざとらしい行動に、頭を抱えていた。


 そんな事とは露知らず、昊斗そらとから奪った剣に魅入られたように、ユーリは笑みを浮かべて剣を見つめていた。

「素晴らしい・・・・・世の中には、まだこのような聖剣があるとは・・・こんな聖剣に満足していたおれは愚かだったな」

 そういうと、苦労して手に入れたプロウェス・カリバーを、まるでゴミでも棄てるように放り出した。


 聖剣は、甲板上をすべりフレミーの目の前で止まった。

 その行為を目の当たりにして、フレミーの怒りが頂点に達する。

「!?ユーリ、貴様・・・・・聖剣を、剣を何だと思っている!!」

 幼い頃からアルバート一世の物語を、両親から寝る前に何度もせがんで聞いていたフレミーにとって、ご先祖でもある彼の王が手にしていた二振りの聖剣は、憧れであり特別なものだった。


 その聖剣を奪い、今は興味が失せたように棄てたユーリを、フレミーは許せず、聖剣を手にしようとして、その手が止まった。

 聖剣は意思を持ち、認めた持ち手以外を拒絶するモノだと、フレミーは一年以上前にユーリ自身や、ドラグレアたちなどから聞いていた。

 ユーリ自身は、能力によって聖剣から拒絶されない(・・・・・・)と自慢げに語っていた事も思い出し、フレミーは唇を噛んだ。

「ふん・・・聖剣を扱えぬ小物が吠えるな。悔しければ、それを手に取ってみろ。出来るものならばな」

 フレミーが聖剣を手にしないと確信していたユーリは、そんな棄て台詞を吐いて、昊斗そらとの方を向いた。 

「っ・・・・・ソラトさん・・!?」

 何も出来ない自分に情けなさを感じつつ、聖剣(・・)を奪われ俯いていた昊斗そらとを見たフレミーは、背中を冷たいものが走った。


 口元が笑っていたのだ。


 しかもその笑い方をフレミーは知っている。なんせ、”勉強会”で嫌と言うほど見たせいで、忘れようにも忘れられず、勉強仲間の内で最もお世話になっているペトラにいたっては、完全にトラウマになっている表情なのだから。


「どんな気分だ、傭兵?自らの聖剣を奪われ、その剣で殺されるかもしれない、と言うのは?」

 敵から聖剣を奪うのはユーリにとって、これが初めてではない。

 奪われた者は絶望の表情を浮かべながら、奪われた聖剣で切り殺されていく。ユーリにとってそれは、何物にも勝る甘美な瞬間だった。


 目の前の傭兵も、今までの者と同じように絶望の顔をしているものと、ユーリは気味の悪い笑みを浮かべた。


「くくく・・・・・」

 だが、彼の期待は大きく裏切られ、昊斗そらとは肩を震わせ笑っていた。

「・・・・何が可笑しい?」

 聖剣を奪われ、頭でもおかしくなったのか、と怪訝な顔をするユーリに、昊斗そらとが顔を上げる。

 その顔に、絶望など微塵も無く、不敵な笑みが浮かんでいた。

「自称勇者・・・・・俺がいつ、その剣が聖剣(・・)だと言った?」

「何?」

 言っている意味が分からず、手にした剣へと視線を落とすユーリ。

 

 その瞬間、透き通って輝いていた刀身が、闇よりもなお深い漆黒へと変貌したのだった。


次回更新は、7月14日(月)PM11:00すぎを予定しています。


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