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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
騒乱 ルーン王国 編 
104/180

(14) 騎士団長の力 

―お母さん!!

 肉体を失い、精神体と言える存在となっても、はっきりとした”質感”を持ったファルファッラが、エメラーダたちの前に降り立った。

『ただいま、エメ。ごめんね、遅くなっちゃって・・・・エメもだけど、その子も何処も怪我は無い?』

 一週間以上ぶりに見る我が子の姿に、ファルファラは自然と笑みが零れる。

―う、うん・・・この光が護ってくれてる・・・みたい

 エメラーダや、彼女が抱きしめている小さな男の子を包む光。

 ファルファッラは一瞬、冬華とうかの力だと思ったが、光から感じるものは別の気配だった。


 何であれ、娘を救ってくれた”誰か”に感謝しながら、ファルファッラはディアゴを睨みつけた。

 

「このアマ・・・・邪魔すんじゃねぇぞ!!何モンだ!?」

 後一歩で仲間へ通じる情報を手に出来たのを邪魔され、ディアゴの眼から人間味が無くなり、野獣のそれへと変わりだした。

『さっきの会話、その大きな耳で聞こえなかったの?私は、この子の母親よ!!』

「母親?てめぇ、その容姿・・・・パッツの同族か?!」

 思ってもいなかった情報源が増え、嬉しさのあまりディアゴの思考が、徐々にスパークし始める。

『パッツ?もしかして、あのパッツィーア(馬鹿)のこと?ハッ!気持ち悪い事言わないでよ。自分を殺した男と同族だったなんて事実、思い出したくもないわ!ただ単に、住んでた里が同じだっただけよ』

 ファルファッラの方は、聞きたくも無かった男の名前を聞き、パッツィーアへの怒りが再燃する。


「どっちにしても、あいつのことを知ってるんだろ!?なら聞かせろよ、あのヤロウがどうなったのかをよ!」

 ディアゴが、一足飛びで、ファルファッラに襲い掛かった。

『娘を殺そうとしてた奴に、教える事なんて一つも無いわよ!!』

 ファルファッラは、右手で手刀を作ると、唯一の攻撃方法である結界刀を、横なぎに払った。

「!?」

 獣人特有の反射神経と体韓のバランス、そして”野生の勘”を駆使し身体を捻るようにして、ディアゴは空中で不可視の刃を避ける。

『嘘でしょ?!』

 避けるのは困難とされる不可視の攻撃を避けられ、ファルファッラは一瞬動揺するも、すぐに着地を狙って結界刀を何重にも放った。

 

「すげぇな!!攻撃が見えネェー!!だけどよ・・・戦い方が下手だな、オンナ!!」


 だがこれも、着地した瞬間にまるでブレイクダンスのようなトリッキーな動きで避けきると、ディアゴは先ほど以上の速さで、ファルファッラとの距離を縮め、拳を繰り出した。


『っ!!』

 精神体となり、物理攻撃に対してほぼ無敵に近い状態となっていたファルファッラだが、ディアゴの拳を見た瞬間、いい知れぬ恐ろしさを感じ、避けることなく防御壁を展開し攻撃を受け止めた。


「いい勘してるな!今の攻撃は、アストラル系の魔物を攻撃するために”属性”を付与したものだ・・・掠れば、魂ごと引き裂かれていたかもな!」

―お母さん!!

 未だにその場に佇んでいたエメラーダを見て、ファルファッラは大声で叫んだ。

『エメ!!その子を連れて、早く逃げなさい!!』


 ファルファッラの言葉を聞き、エメラーダは聖域でのことが甦った。

 あの時、母親に言われたとおりに逃げ出していれば、状況は変わったのだろうか?そうすれば、母は死なずに済んだのだろうか?


 そんな疑問が、いつも頭を巡り、同じ状況になった今、疑問がエメラーダをその場に縛り付けていた。

―!?

 だが、そんな思考の迷路に再び迷いだしたエメラーダに、”小さな手”が彼女の置かれた”立場”を思い出させた。

「・・・おねぇちゃ・・・」

 恐怖で声を震わせ、必死にエメラーダにしがみ付くアルト。

 エメラーダが視線を落とすと、自分の片側の色と同じ、エメラルドの小さな瞳が、不安げに彼女を見つめていた。

 今、自分は独りではない。

 腕の中にある、小さな命を護らないといけない。


 アルトの顔を見つめ、エメラーダは迷いを振り切り、しがみ付いたままの小さな身体を、何とか抱きかかえ、孤児院の方へと走っていく。


 娘が逃げて行くのを確認し、ファルファッラは「よかった・・・・」と、安堵する。

「よそ見できる状況かよ!!」

 しかし、ディアゴはファルファッラの隙を見逃す事はなく、眼にも留まらぬ拳の連打で押し始めた。

『つぅ・・・・・!!』

 防御壁が壊れる気配はないが、攻撃の”圧”に防御壁ごと押されだしたファルファッラ。


「パッツのそれも硬かったが、それ以上に硬ぇな・・・・・・仕方ねぇ」


 そう言って、ディアゴは詰めていた距離を一気に離し、腰を落とし構えを取ると、ディアゴの拳に風が纏わりつく。

 距離が開き、再び結界刀を使おうと考えたファルファラだが、自身の中の何かが囁いた。


”全力で、防げ”と。


「パッツの奴は五秒と持たなかったモノだ!しっかり味わえよ!!」


 拳に纏わり付いた風が、高速回転し始めると、拳を固めるように風が圧縮し始め、モノの数秒で手を包むグローブの様な塊に変化した。

嵐投らんとう!!」

 高密度に圧縮された風の球が、感高い音をさせながら、圧倒的身体能力を持つ獣人の腕から射出される。


 数十メートルあった距離がまるで無かったように、一瞬でファルファッラの防御壁に激突し、炸裂した。

 まるで目の前に嵐が解き放たれたかの様な衝撃が、防御壁を通じてファルファッラに届く。

『こ、このぉ・・・・・・!!』

 気を抜けば、全てを(・・・)粉々に破壊するような暴力的な力を前に、ファルファッラは防御壁と平行して結界を展開する。

 

 防御壁と結界に力を注ぎ続け、数十秒続いた嵐の終わりが見え始めたと思った矢先、ファルファッラは目を疑った。


 風の切れ目から見える、視線の先のディアゴが、ニ発目を準備していたのだ。

「おらぁ!二発目行くぞ!!」


 間を置かず、二発目が炸裂する。

 その時だ。

『!?え・・・・?』


 突然、電池が切れたように手足から感覚が消えた。

 いきなり結界が消え、辛うじて残った防御壁ごと、精神体(・・・)であるファルファラが、そのまま真後ろに吹き飛ばされ地面を転がった。

 すぐにでも立ち上がろうとするファルファラだったが、身体がいうことを聞かず、その場から動けなくなってしまう。


『まさか・・・もう、限界が・・・・!?』


 身体を失ってから今まで、ずっと力を使い続けているファルファッラ。


 本来、精神体で存在し続ける方法は、ただ世界に留まるための手段でしかない。そうすることで、数十年から長ければ数百年単位で、この世に存在し続ける事が可能となるのだ。

 だが彼女のように、力を使えば当然存在を維持するための力はどんどん失われ、肉体が無いので失われた力が自然に回復することも無い。


 そのために、冬華とうかに寄り代となる御符の製作を依頼していたのだが、ファルファッラの予想ではもう一〜二回の戦闘ぐらいは堪えられると踏んでいたが、先ほどの攻撃で大きく計算が狂ってしまった。


 相手からの気配が薄れ、ディアゴはファルファラに聞こえるよう、大きく舌打ちした。

「なんだ!もう終わりかよ!!期待はずれだぞ・・・・オンナ!!」

 風を纏い、一歩ずつ近づいてくるディアゴ。

 力を使い過ぎたせいで身動きも取れず、視界が霞みだしたファルファッラ、

 

 今度こそ、終わりかと思った時だった。


「やれやれ・・・・・か弱い女性に対して、少々礼儀がなっていないね。オオカミ君?」

 男性の声と共に、すさまじい闘気が爆発する。

「!?・・・っ!」

 ディアゴは歩みを止め、やってきた人物に敵意を向ける。


『・・・・?』

 何が起きたのか分からずファルファッラが困惑していると、自分の横に誰かが立っていることに気が付いた


「娘さんは無事保護したよ。それから、僕の息子を助けてくれたみたいだね。ありがとう・・・・・金色こんじきの君」


『?!』

 男性の言葉を聞き、ファルファッラは驚いた。


 金色の君。

 それはかつて、自分が愛した男性が、名も知らないファルファッラを呼ぶために使っていた、呼び名だったからだ。


 見覚えのある(・・・・・・)背中を見つめるファルファッラの目に、涙が溢れた。

 近づいてくる男の身なりを見て、ディアゴは盛大にため息をついた。

「何だ・・また騎士団の奴か?弱ぇ奴に興味はねぇんだよ、失せな!!」


 今回の彼の任務は、王都内にいる騎士団の霍乱。

 だが、ディアゴにマギハの立てた作戦など覚えられるはずも無く、見かけた団員を片っ端から叩きのめしていた。

 それなりの数を相手したが、彼にとっては取るに足らない存在だった為に、、正直ディアゴは騎士団との戦闘に、飽きだしていたところだった。


 そのためディアゴにとって、騎士団全員が弱い存在だという認識が出来上がっていたのだ。


「君に無くとも、僕には用事があるんだ・・・・随分と、僕の部下たちを痛めつけてくれたようだね?あと、僕の可愛い息子に怖い思いをさせ・・・・それに娘にも・・・・・その礼をぜひさせていただこう!」

 男の手にした槍が一瞬動いたと思った瞬間、ディアゴの左頬が裂け、血が噴出した。

「!?・・・・・てめぇ」


 殺気を篭めた視線をぶつけるディアゴだが、男は飄々と笑みを浮かべる。

「僕を、今までの団員たちと同じだと思って、舐めない方が身のためだよ」

 そして、一瞬にして表情が変わり、一目しただけで人を殺しかねない殺気をはらんだ視線を、ディアゴにぶつけてきた。

「!・・・いいぜぇ、相手をしてやる。名乗りな!」

 誰を怒らせたのかを分からせてやる、とディアゴは拳を強く握り、構えた。


「・・・アルバート騎士団団長、フォルト・レーヴェだ」

 自分の身長を越える使い慣れた槍を構えるフォルト。

 その顔は、普段絶対に家族に見せることの無い、冷たさを纏っている。

「団長自らご出陣か!おもしれぇ!!喧嘩屋、ディアゴ・ロディオ!いくぞ、おらぁ!!」

 同時に駆け出した二人の男。


 先手を取ったのは、槍を持ったフォルトだった。

 リーチの差を遺憾なく発揮し、素早い連戟がディアゴに向かって襲い掛かる。


 縦横無尽に襲い掛かる攻撃。だがこれを、ディアゴは持ち前の身体能力で避け、槍を左側に薙いだ形で硬直するフォルトの懐に飛び込んだ。

「んな長物使ってんだ。懐に入られたら、手も足も出ないよなぁ!!」

 固めた拳を低めに構え、防御に転じる暇を与えることなく、フォルトを抉るように下から殴ろうとしたディアゴ。

 だが、そこで違和感が生じた。


 フォルトの握っていた槍は、彼の身長を越える長さを誇っていたのだが、今彼の手に握られている槍は、その半分。短槍と呼べる長さに変わっていたのだ。

 違和感の正体を認識したと同時に、ディアゴの視界に光るものが入った。

「っう!!」

 

 咄嗟に、顔を大きく逸らしたが、ディアゴの右側の頬が裂け、鮮血が飛び散る。


 一旦距離を取り、一体何が起きたのか、ディアゴは相手の獲物を見て、腑に落ちる。

 フォルトの身長を越える槍が、二振りの短槍へと変わっていた。

 右手には、少し長めの槍先の方が握られ、左手には短めのピック状の”針”が付いた柄尻側が握られている。


「苦手を苦手ままにして名乗れるほど、団長と言う名前は軽く無いんだ。特に、建国の王の名を冠する騎士団の長はね!」

 今度は、フォルトがディアゴの懐まで入り込み、彼のお株を奪いかねない、二振りの短槍による怒涛のラッシュが始まった。


 ディアゴは、避けきれないと判断し、両拳に風をまとって槍と打ち合う。


 その壮絶な打ち合いは、まさに暴風だった。


 一頻り打ち合い、お互いが距離を離す。

 激しい攻防で、ディアゴの身体中に血が滲むが、フォルトは守りの光のお陰で、無傷のままだった。

「その光・・・・マジでうぜぇ。それから、てめぇ!さっきの動き・・・まさか」

 自分の攻撃が相手に届かない苛立ちと共に、ディアゴはあることに気が付き、フォルトを睨みつけた。


 フォルトも、ディアゴが何を言わんとしているのか理解し、口元に笑みを作る。

「風の精霊術による、攻撃強化と肉体の加速・・・・自分だけの専売特許だと思っていたのかな?」

 ディアゴは、人間を越える獣人としての身体能力に加え、契約する風の精霊の力を使って、自身の動きを速め、拳に風を纏わせることで攻撃力を高めていた。

 同じ属性の精霊と契約するフォルトは、一目でそれを看破し、ディアゴと同じ事をやって見せたのだった。

「この稼業を始めて・・・同じ属性の精霊を持ってる奴を見たのは、初めてだぜ」


 意外なことに、風の属性と契約する者は少ない。

 理由は様々だが最も有力なのは、風の神が精霊をあまり生み出さないため、風の精霊の絶対数が少ないというものだ。


 国柄から、ルーン王国で多く契約が結ばれているのは水の精霊で、風の精霊はフォルトとフレミーを除けば、ルーン王国では百人にも満たないと言われている。


 そのため、ダブルシンボルなどとは別の意味で、風の精霊と契約する者は珍しい存在と言える。


「・・・・なら、手加減なんて失礼だよな。同じ属性持ちとしては!だろ?トルメンタ!!」

 ディアゴが精霊の名を叫ぶと、彼の後ろに大鷲の姿に似た精霊が現れた。

「精霊武装!!」

 契約者の言葉を受け、大鷲の形が失われ、風となったトルメンタが、デイアゴの右腕に纏わり付く。


「精霊武装!マルティネーテ!」

 腕に纏わり付いた風が新たな形を成し、現れたのはディアゴの右腕を覆う巨大な”杭打ち機”だった。

 ディアゴの数倍はある”拳”に、肘からは腕よりの長い”シリンダー”が飛び出している。

 精霊によって形作られているにも関わらず、金属で出来ているような光沢があった。

「へぇ、精霊武装を行えるなんてね」

 軽い言葉とは裏腹に、驚きを見せるフォルト。


 精霊武装は、精霊との共鳴度が高くないと使うことが出来ず、精霊と契約する者の中でも、精霊武装まで至れるのは三割と言ったところである。


 騎士団でも、精霊武装が行えるのはトップクラスの騎士だけで、機械式に似せたものとなると皆無に等しかった。


「その邪魔な光、こいつで削り取ってやるよ!!」

 デイアゴが身体を縮めて脚に力を溜め構えると、力を解放するように地面を蹴った。

 まるで機関車の様な迫力で、フォルトを肉薄するディアゴ。そして、豪腕が唸った。


「っ!?」

 紙一重で避けたつもりが、激しい炸裂音と共に飛び出した”拳”から発生した衝撃波に巻き込まれ、フォルトが錐もみ状態で吹き飛び、建物に激突した。


 しかし、ディアゴの攻撃は終わらなかった。

 倒壊し、瓦礫となった建物に向けて、右腕がさらに唸りを挙げて、何発も衝撃波が打ち込まれる。

『う、うそでしょ・・・・・・・!?』

 戦いを離れた場所から、何とか身体を起こし、見ていたファルファッラの口から声が漏れる。


 十数発と打ち込まれ、完全に破壊しつくされた建物。

 だが、その瓦礫が吹き飛び、煙の中からフォルトが何食わぬ顔で現れた。

「んだと!!」

 あれだけの攻撃を持ってしても、消し去ることが出来ない守りの光に、ディアゴの怒りが秒を追うごとに増していく。


 フォルトは、自身を覆う光を見つめ、短く息を吐いた。

「この光が無かったら、さすがの僕でも力を相殺できなかったかもしれないね・・・・・とは言えこれ以上、陛下にご負担を強いるのは、騎士として恥ずべきことだ・・・・君が手の内を見せたんだ。僕も、お見せしようか。おいで、カルム。そして、ミストラル」


 フォルトの呼びかけに、彼が契約する人の姿をした、二体の風の精霊が現れる。

 その姿は全くの瓜二つで、まるで双子の様な精霊だった。


 これを見たディアゴは、先ほどの怒りが何処かへ吹き飛び、驚愕していた。


「精霊二体が同一属性・・・?嘘だろ、ツイン・シンボルかよ!?」


 ツイン・シンボルとは、同一属性の精霊二体と契約した者のことで、そう珍しいことではないのだが、先にも述べたとおり、風の精霊と契約するものは多くない。

 初めて会った同一属性の精霊と契約する男が、ツイン・シンボルと分かり、デイアゴは呆気に取られる。


 そんなディアゴを尻目にフォルトは、ある言葉を口にした。


「カルム・・・精霊憑依!」

「?!な、なんだと!!」


 フォルトの言葉に、デイアゴは驚きのあまり、先ほど以上の大声で叫んだ。


 風の精霊カルムがフォルトの”中”に入ると、フォルトの髪が風の精霊特有の鳥の羽を思わせるものへと変わり、色も金から緑色に変わる。纏っていた騎士甲冑が風をモチーフにしたモノへと変質し、その姿はまるで風の精霊そのものだった。


 精霊憑依は、契約者と精霊の共鳴度が最高値に達しないと発動せず、人と精霊の絆の到達点と言われている。


 精霊武装以上に、そこへ到る者は少なく、フォルトが若くしてアルバート騎士団団長に抜擢された一因でもあった。


「ミストラル、精霊武装・・・・・グングニル」

 もう一体の風の精霊が姿を変え、フォルトの手にランスと呼ばれる馬上槍が握られる。


 あまりの光景に言葉を失うディアゴだったが、フォルトに起こった別の変化に気が付き、肩を震わせる。


「ふっふふ・・・ははははは!スゲェじゃねーか、団長さんよ!!精霊憑依とは恐れ入ったぜ・・・だけどよ、お陰で王様からのご加護が消えちまってるぜ!!」


 ディアゴの指摘どおり、フォルトの身体からは守りの光が消えていた。

 だが、フォルトはそのことに触れられても、眉一つ動かすことなく、静かにディアゴを見つめている。


「精霊憑依がどこまでのものか知らネェがよ。これで・・・・!」


 それが、喧嘩屋ディアゴ最後の言葉となった。


 ディアゴが構えたと同時に、フォルトの姿が消え次の瞬間、屈強なディアゴの上半身が”消し飛んだ”。


 残ったディアゴの下半身から血が噴出す中、フォルトは、ディアゴを通り過ぎた遥か先で、グングニルを突き出した形のまま立っていた。


「申し訳ないが、君に付き合う時間は無いんでね。名残惜しいが、終わらせてもらったよ」


 聞こえるはずの無いディアゴへの言葉を呟きながら、徐に振り返り、精霊武装と精霊憑依を解くフォルト。


 ディアゴと呼ばれた男の下半身が、崩れるように倒れる横を通り、フォルトはファルファッラの元へ駆け寄る。


『・・・終わったの?』

 問いかけてくるファルファッラに、フォルトは笑みを浮かべる。

「あぁ、終わったよ・・・・・」

 十三年ぶりに交わされる会話。


 二度と会うことは無いと思っていた二人は、何を話せばいいか正直なところ迷っていた。


 そんな時だ。


「フォルトさ〜ん!」

 突然声を掛けられ、フォルトは慌てて声のした方に振り返る。


 視線の先には、制服姿のミユと、大人バージョンのカグ。それに抜け出した子供たちをつれたアレクシスたちがフォルトの方へと走ってきていた。


「シス!それにミユ様に、カグツ・・・カ、カグ君も。こんな所で、一体どうしたんだい?」

 カグの正体を知らない人間が大勢いる中、危うくカグツチと呼びそうになり、フォルトは何とか取り繕う。

 そんなフォルトに、アレクシスが抱きつく。

「あなた!・・・・良かった、ご無事だったのですね」

「君の方こそ・・・子供たちを捜しに町に出たと、孤児院で聞いたときには、生きた心地がしなかったよ」

 二人の世界に入る夫婦を、ファルファッラは複雑な顔をして見つめる。


「ファルさん!?・・・どうしたの?!全然、気配が感じないよ!!」

 そんなファルファッラに、ミユが顔を真っ青にして駆け寄る。 


 未だに姿を維持しているファルファラだったが、ミユの指摘するように、殆ど力を使い果たし、消えかかる寸前だった。

『ミユちゃん・・・・ちょっとね、やらかしちゃったの。悪いんだけど、エメに・・・』

「ファルさん、これ!持ってきたの!!」  

 ファルファッラの言葉を遮り、ミユは制服のポケットから、出来上がった”寄り代”を取り出した。


『これって・・・・・・』

「トウカお姉ちゃんにお願いして、ミユが作ったファルさんの寄り代の御守りだよ・・・・・」

 差し出された御守りに、ファルファッラは殆ど感覚の無くなった手を伸ばし、触れた。


『あぁ・・・・・温かい。ありがとう、ミユちゃん』

「えへへ・・・・・」

 自分の作ったものを褒めてもらえ、ミユははにかんで頬を赤くした。


『・・・・私、これからこの中で失った力を貯めるために、眠につくわ。ミユちゃん、悪いんだけど私が眠ったら、エメにこれを渡してくれないかしら?』

「うん、いいけど・・・・でも、今のファルさんが眠ったら、いつ起きれるか分からないよ?その前に・・・・」

 巫女であるミユは、ファルファッラの状態をこの場にいる誰よりも理解していた。

 今のファルファッラが寄り代である御守りの中で、ゆっくりと時間を掛けて力を貯めるとなると、十年単位の時間を必要とする。

 ミユは、その前にエメラーダと会っておいた方がいいのでは、と思ったのだった。


 だが、ミユの言葉を遮るように、ファルファッラは首を振る。

『大丈夫!私は、消えてなくなるわけじゃない・・・・それに、あの子はハーフだけど、数百年は寿命があるもの。十年そこらなんて、あっという間よ!・・・だからこそ、あの子と少しでも早く再会するために、一秒でも早く眠らないとね』

 いつもの笑顔を見せるファルファッラだが、その笑顔にはどこか影があった。


 ファルファッラは、ミユの後ろに立っていたカグの方へと、視線を動かす。

『・・・・カグ君、ソラト君たちに伝えてくれる?エメの事は、信頼出来る奴に頼んであるから、そいつが迎えに来るまででいいから、あの子の事をよろしくって』


 伝言を頼まれたカグは、ゆっくりと目を閉じ、肯いた。

「分かりました、伝えます」

『お願いね・・・・・・・』


 そして、ファルファッラはフォルトの方へと視線を送る。


「金色の君・・・・・・」

 力なく横たわるファルファッラを見て、フォルトは悲痛な顔をする。

『そんな顔しないでよ・・・折角の男前が、台無しじゃない・・・そんな美人な奥さん貰ったんでしょ?胸を張って、自慢なさいよ』

 笑顔を浮かべるファルファッラに、フォルトの顔はさらに苦しげに変わる。

「僕は、君に言わなければな『ありがとう』」

「え?」

 今、何を言われたのか、フォルトは目を見開く。


『ありがとう・・・・あなたのお陰で、私は色々な経験をさせてもらったわ・・・だから、ありがとう』

「!?っ・・・・」

 感謝の言葉をかけられる立場に無いと思っていたフォルトは、その言葉を聞いて顔を背ける。


 ファルファッラは、そんなフォルトの行動に笑みを崩さす、視線を動かしアレクシスを見つめた。

『一つ、聞かせて・・・・貴女は、彼と結婚出来て幸せ?』

 ファルファッラが何者なのか、全く知らないアレクシスだが、彼女はいやな顔を一つせず、笑みを浮かべて肯いた。

「・・・えぇ、もちろん」

 アレクシスの答えを聞き、ファルファッラは大きく深呼吸し、在りし日のことを思い出した。

 とある森でであった、青年との日々を。


『そっか・・・・私、人を見る目はあったんだ。よかった・・・・・・・それじゃ私、もう寝るね。皆、また会おうね!』


 そう言って、ミユの手にある御守りを握ると、ファルファッラの身体が光となって、御守りの中へと消え、彼女は眠りについた。


 眠りにつく最後まで、彼女はトレードマークの笑顔を絶やすことは無かった。


次回更新は、7月9日(水)PM11:00過ぎを予定しています。


変更の場合は、活動報告にて連絡したします。

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