表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
騒乱 ルーン王国 編 
103/180

(13) エメラーダ、奮闘

『お父様、お母様!ご無事ですか?!』


 謁見の間に設置してある大型通信球から、フェリシアの声が聞こえ、広間に響き渡った。


「フェリシア?!」

「フェリシアか!?」

 娘の声を聞き、夫婦揃って声を上げる。

 広間へと入っていくマリアとリリー、そして冬華とうか


 だが、カレイドはその場から動くことが出来ない為、恨めしそうに女性陣の後姿を見送る。

「オレは、こっちに残ってやるから、これで我慢しとけ」

 無防備なカレイドを放置していくわけにも行かないので、ドラグレアがカレイドの横に腰を下ろし、先ほど取り出した小型の通信球を、カレイドの足元に置いた。



『お母様!!ご無事だったのですね!』

 母の無事な姿を見て、フェリシアが安心したように胸を撫で下ろす。


 マリアも、通信球の向こうにいる娘の姿をみて笑みをこぼす。

「えぇ、もちろん。お父様も心配要らないわ・・・貴女は、騎士団本部にいるのね?」

 カレイドの「私も無事だぞ!」と言う声が聞こえる中、マリアはフェリシアが騎士団本部にいる理由を尋ねた。

 笑顔だったフェリシアが、表情を引き締る。

『はい、お母様。アイディール学園が現在、魔物の大群に襲われて、先生方や騎士クラスの生徒の方々が学園を護るために、戦っています。私は救援を呼ぶために、騎士団本部へ・・・・それからお母様、フレミーのことでお話が』

「話とは、フレミリアが捕まっていることですね?フェリシア」

 マリアの後ろにいたりリーが前へ進み、その姿を見たフェリシアの表情が驚きに変わる。

『!?リリー伯母様?!ご無事だったのですか!?どうやって、お逃げに・・・・・』

 フェリシアは、フレミーと一緒にリリーも捕まっているものと思っていたので、まさかカレイドたちと一緒にいるとは思ってもいなかった。


 リリーは手短に、ここ数日の自身の行動を説明し、一呼吸置いた。

「・・・・あの子が敵に捕まったのは、貴女も知っているのですね?」

『・・・・・私の元に、ユーリ・ペンドラゴンの手の者が来ました・・・・』

 騎士団本部へ向かう途中、ユーリの使者を名乗る者たちの襲撃を受け、自分を警護してくれていた傭兵カグが撃退し、全員を拘束したことを伝えるフェリシア。

「そう・・・貴女が無事で、本当に良かった」

 話を聞き、リリーが心からフェリシアの無事を喜び笑みを浮かべる。

 娘であるフレミーが未だ敵の手にあるにも拘らず、そのように振舞えるリリーを見て、フェリシアは敬服する。


 そんな中、一番後ろにいた冬華とうかが申し訳なさそうに、手を上げる。

「あの・・・・すみません。話が全く見えないので、誰か説明して頂いても宜しいですか?」

『トーカさん!!』

 戻ってきている事はルールーか聞いていたフェリシアだったが、冬華とうかの姿を見て満面の笑みを浮かべる。

「久しぶり・・・・てほどでも無いか。フェリちゃん、ルーちゃんとは合流できた?」

『妾なら、ここにおるぞ〜』

 姿は見えないが、ルールーの声だけが聞こえてくる。しかも、何か食べているらしく、もごもごと声が篭っていた。

「ちゃんと合流出来たみたいだね・・・・あれ?カグ君は?」

 フェリシアの護衛についていたカグの姿が見えないことに、冬華とうかが首を傾げる。

『カグ君なら、ミユ様の護衛についています。ミユ様、どうしてもエメちゃんに渡すモノがあると言って・・・・』

 フェリシアの話を聞き、状況が読めた冬華とうかは、「そっか、了解」と答えた。


「我が主!それよりも、フレミーさんのはにゃしを聞かにゃいと!」

 プニプニとした肉球で、冬華とうかの頬をポンポンと叩く金糸雀カナリア


 「え?え??」と声を上げ、ポカンと冬華とうかの肩に乗る猫を見つめるフェリシアに、冬華とうかは微妙に笑みを浮かべた。


「あっと、そうだった。それと、紹介が遅れました、私は棗冬華なつめとうか。こっちは今は猫の姿をしていますが、パートナーの金糸雀カナリア。異世界からきた、傭兵です」

 先ほどの旗艦艦隊との戦闘で、自己紹介していなかったことを思い出し、冬華とうかがリリーに一礼する。

 そんな冬華とうかを見て、リリーも威厳に満ちた笑みを浮かべる。

「亡き夫に代わり大公代理を務めているリリー・ベアトリス・ルーンと申します。そして、フェリシア殿下の騎士を務めているフレミリアの母です」

「フレミリア?」

『フレミーの本名です。フレミリア・セレスティア・ルーン・・・・それが、フレミーの本当の名前です』

 先日、アリエルやヴィルヘルミナたちに伝えたフレミーの素性を、冬華とうかに話すフェリシア。

 話を聞き終わり、冬華とうかはあることを思い出していた。

「へぇ〜、お姫様だったんだね、フレミーさん!」

「驚きですにゃ!」

 表面上は驚いてみせる冬華とうか金糸雀カナリアだが、フレミーが大公家のお姫様だということを聞いても、彼女たちにさして驚きは無かった。

 理由は、ペトラたちのように、立ち振る舞いなどの漠然とした理由からでなく、たった一つの事実。


 ――フェリシアとフレミーは、双子である――


 王都に初めて来た当日、二人を目の当たりにした玉露ぎょくろが、好奇心で二人に生体スキャンをかけ、導き出された結果である。

 その時は、出会って間もない間柄で、詮索するのは失礼だと、玉露ぎょくろを窘めデータを破棄させたが、双子であるという情報だけは二人も覚えていた。


 そして、フレミーの母であるリリーと会うことで、冬華とうかたちは二人の姫が誰がお腹を痛めて産んだのか、判然とし、二人の姫が大人の女性に成長すれば、きっとそうなるであろう女性・・・マリアを見つめた。


「フレミリアの事は、私たちに任せて、貴女は騎士団の団員を連れて、学園へ戻りなさい。王女として、そして一人の術士として、成すべき事を成しなさい」

 厳しいながらも、慈愛に満ちた眼差しで娘を叱咤するマリア。

『・・・・・分かりました、お母様。フレミーのこと、お願いします』

 フェリシアも、マリアの言葉に肯き、通信を切った。


「成長したのね・・・・・私が知っているあの子なら、自分もフレミリアを探すと言うと思ったのだけれど」

 リリーの知るフェリシアは、母のマリアに似て少々向こう見ずというか、こうと決めると真っ直ぐ突っ走る娘だった。

 それが、自分のすべきことをきちんと理解していたことに、リリーは目を見張った。

「色々と経験してきましたから、あの子は。それに、今は姉のように慕い、目標にしている女性もいますし」

 見つめていたマリアと視線が合い、冬華とうかは何事も無いように微笑む。

「・・・・では、詳しいお話をお聞かせ願いますか?」


 フレミーが拉致された経緯や現在の状況などを聞き、冬華とうかはテラスへと目を向けた。 

「なるほど・・・・ドラグレアさーん!」

「何だー!」

「大公家所有の船のデータ、ありませんかー!」

「あるぞー!!」

 大声でやり取りを終えると、冬華とうか創神器ディバイスにドラグレアから船のデータが送られてくる。


「・・・・にゃんで、向こうに行かにゃいんですか?」

 ねこ型義体を器用に操り、送られてきたデータを整理する金糸雀カナリアが素朴な疑問をぶつけた。

 数瞬考え込んだ冬華とうかは、こくっと首をかしげた。

「なんとなく?それより、ドラグレアさんからのデータは?」

「はいはい・・・・・随分と大きにゃふにぇですね」

 表示された船のデータと共に、かつてアルターレ護国へ行った際に乗船した王家専用船【クイーン・ファーネリア号】が比較として表示されている。

 大型客船に分類されたクイーン・ファーネリア号だが、大公家所有の超大型船【パレス・オブ・オーシャン号】はそれよりもさらに大きく、まさに洋上の王宮の名に相応しいものだった。

金糸雀カナリア、王都周辺に、該当船は?」

 むむっと眉間にしわを寄せ、金糸雀カナリアは上空に待機させていた機動端末を使い、王都周辺を索敵する。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・にゃいですね」

 首を振る猫の姿をした金糸雀カナリアを見て、冬華とうかは渋い顔をしていた。

「・・・ごめん、元の姿に戻そうか。このままだと、あまりにふざけてる様にしか、見えないよね」

 金糸雀カナリアが真剣に仕事をしているのは分かるのだが、やはり猫の姿では格好が付かず、怒りで猫でいることを強要した冬華とうかでさえかなりシュールに見えてしまい、客観的に見てもふざけている様にしか思えなかった。


『よかった・・・・・・』

 ねこ型義体から解放され、涙を浮かべて喜ぶ金糸雀カナリア

「面白い子達ね」

 そんな二人を見て、リリーは新しい玩具を見つけた子供の様に、目を光らせた。


 再び、カレイドたちのいるテラスへ出てきた女性陣たち。

「さて、気を取り直して・・・・・フレミーさんの方は、昊斗そらと君たちに任せちゃおうか」

『その方がいいかもしれませんね。玉露ぎょくろちゃんに詳細データを送っておきます』

 目的の船が王都周辺にいないことを確認し、王都にいる冬華とうかたちより、ルーン王国内を絶賛音速飛行中であろう昊斗そらとたちの方がいいと、冬華とうかたちは判断した。

「ドラグレアさん。私と金糸雀カナリアは先にアイディール学園の救援に行って、その後王都内の救援に向かいます。フレミーさんの救出は昊斗そらと君と玉露ぎょくろに行ってもらいますけど、国王様宜しいですよね?」

 「事後承諾のかたちになってしまいましたが」、と付け加える冬華とうかにカレイドとドラグレアが頷く。

「あぁ、問題ない」

「君たちに一任するよ」

 承認の言葉を聞き、冬華とうかの身体が宙に浮かぶ。

「トーカさんカナリアさん。ソラトさんとギョクロさんに、くれぐれもよろしく頼みますと伝えてください!」

 マリアの声を聞き、冬華とうか金糸雀カナリアが微笑んだ。

「はい」『はい!』

 

 

「さっきから出てるソラトとギョクロって言うのは誰?」

 アイディール学園方面へ飛んで行く冬華とうかたちを見送りながら、リリーは先ほどから名前の上がっていた二人が何者なのか、聞いていないんだけど?とドラグレアに質問した。


「あいつらの仲間で、ソラトの方は姐さんの娘の想い人だぞ」

 ドラグレアがおかしなことを言った気がしたリリーは、ポカンと間の抜けた表情を浮かべる。


「え?想い人って・・・・あの子が、恋?」

 物心着いた頃から、”フェリシアを護る騎士になる”べく訓練の日々を送っていたせいか、フレミーが年頃になっても色気を出さなかったことに、少々心配していたリリーにとって、ドラグレアの言葉は寝耳に水だった。

 リリーの心情を容易に想像できたマリアが、クスクスと楽しそうに笑みを浮かべる。

「そうですよ、リリー様・・・・ただ、あのトーカさんも彼のことが好き、という話ですから、フレミーも中々苦労しているようです」

 フェリシアなどから、その辺りの話を聞いていたマリアは、「あとでお話ししますね」とりリーに伝える。

「はぁ・・・・・・ほんの少し娘と会わなかっただけで、そうまで変わるなんてねぇ・・・あとで、ちゃんと紹介してもらわないと」


 そんなことを言いながらも、リリーは胸の内で娘の無事を祈るのだった。


**************************


「みんなー、もうすぐ騎士様たちが助けに来てくれるからねー!」

 不安がる子供たちを、若いスタッフが声をかけている中、アレクシスは子供たちの輪の中にいるエメラーダを見ながら、つい先ほどのことを思い出していた。



――えっと、エメラーダちゃんだったわね・・・怖くはない?」


 冬華とうかがつれてきた幼い亜人の少女の手を引きながら、アレクシスは極力不安がらせないようにこえをかける。

 アレクシスは孤児院を開園するに当たって、幾つもの孤児院を見てまわり、手伝いをしていた。


 その中で、獣人やエルフと言った亜人と言われる種族の子供たちと触れ合ったことが何度もあった。

 なので、エメラーダに関しても、お世話になっている冬華とうかがつれてきた、ということを差し引いても、偏見を持たずに接することが出来た。


―はい、大丈夫です


 冬華とうかからエメラーダが十二歳だということを聞いていたのだが、彼女の年齢にそぐわない落ち着き様と失語症による”心の声”での会話を目の当たりにし、彼女が短い人生でどれだけ辛い経験をしたのか。想像するだけで、アレクシスの心は引き裂かれるように痛んだ。 


「・・・・もう少ししたら、助けも来るから、それまで皆と一緒に待っててね」

 そんな胸の痛みを隠しながら、アレクシスは子供たちが待つ大部屋の中へと入る。

―はいです

 エメラーダは笑顔で頷き、初めて接する同年代の子達に戸惑いながらも、すぐに輪の中へと入って行った。

 しかも、他のスタッフ同様、泣きそうなる子供を見つけては”声”をかけ、暴れる子供がいれば止めに入ったりするなど、まるでずっと前からいる”お姉さん”のように全員が錯覚する。


 アレクシスは、そんなエメラーダを見て、その子供らしからぬ言動に脱帽すると共に、再び胸に痛みを感じた。


「!」

 突然、部屋のドアが乱暴に開き、部屋の中がシン、とする。

 アレクシスも、その音で現実に意識が戻ってきた。

「アレクシス様!・・・・・よろしいですか?」

 よほど慌てていたのか、入ってきた中年の女性スタッフは、居住まい悪く部屋の中へと入り、アレクシスの元へ小走りで駆け寄る。

―?


 女性スタッフと出て行くアレクシスの様子を見て、子供たちと遊びながらエメラーダの頭に疑問符が浮かんでいた。



「やはり・・・・リューとマレ。それに、メタニィが園内にいません。やはり・・・外へ出て行ったとしか」

「・・・・・・・そうですか」

 先ほどの女性スタッフの報告を聞き、アレクシスは肺に溜まっていた重苦しいモノを、息と一緒に吐き出した、


 報告に出た三人はそれぞれ、劣悪な家庭環境や育児放棄などの理由から、止む終えず預かった子供たちで、孤児院でも面倒をしょっちゅう起こす三人組だった。

「外で騎士団が戦っているから、見にいこうと話しているのを、聞いた子もいましたしまずし、間違いないと」

 これまでも、言いつけを破って外へと抜け出したりと、問題行動が目立っていたが、今回に限っては冗談では済まされない状況に、男性スタッフの表情も怒りや焦りで彩られている。


「・・・・・皆さんは、他の子たちをお願いします。私が、三人を連れ戻しに行ってきます」

 そう言うと、アレクシスは孤児院の玄関へと歩いていく。

「アレクシス様!先ほどから、戦いの音がこちらにも近づいています!もうすぐ、騎士団の方が避難のお手伝いに来てくださいますし、その時にあの子達の捜索をお願いしましょう。もし万が一にも、あなたの身に何かあれば・・・」


 普段は、なるべく気にしないようにはしていたが、アレクシスは大貴族・・・公爵家であるレーヴェ家の次女である。

 そんな高貴な出の彼女が危険を冒してまで、子供たちを助けにいくことに、この場にいたスタッフ二人は同意できなかった。


「それでは間に合いません!!あの子達は、戦争を知らない・・・戦いの怖さを知らないのですよ?」

 だが、アレクシスにとっては、自身の身の安全など関係など無かった。

 ルーン王国・・・とりわけ王都ディアグラムにおいてここ数十年もの間、大きな動乱や大型魔獣の襲来などは起こっておらず、平和な日々を過ごしていた。

 そのため、子供たちは戦いの怖さを知ることなく育つ為、冒険心から今回の様な危険な行動を取る子供も少なくない。

 そんな子供たちに、トラウマを植えつけるわけにはいかない、と彼女の決意は固かった。

「そんな子たちを、放って置くわけにはいきません!それに、私の事は気になさらず・・・これでも戦場で医療行為を行ってきた身です。そして、この守りの光・・・夫から聞いたことがあります。この光は、国王陛下が聖剣のお力を解放され、私たち国民を護ってくださるものだと。ならば、この身を盾にしてでも、子供たちを連れて帰ってきます!」

「アレクシス様!!」

 スタッフたちの制止を振り切り、アレクシスは個人を飛び出していった。


「・・・・・・・・・・・・・・・ママ?」


 そんな母親の姿を窓から見たアルトは、トテトテと部屋の外へと出て行くのだった。



「アルバート騎士団です!!救援に参りました!」

 少し時を置き、アルバート騎士団の団員たちが息を切らせて、孤児院の中へと駆け込んできた。


 魔物に襲われることは無かったとは言え、不安に怯えていたスタッフは、駆けつけた団員たちを見て安堵の表情を浮かべる。

「我々が、この地区の避難場所まで誘導しますので、まずは子供たちから!慌てずゆっくり!!」

 カッコいいと騎士団の団員たちを指差しながら、子供たちが避難を始めた横で、先ほどの女性スタッフが部隊長と思われる団員に詰め寄った。

「騎士様!アレクシス様が!」

 女性の口から、上司であり騎士団団長フォルトの奥さんの名前が聞こえ、部隊長の騎士の顔が驚きに変わる。

「!?団長の奥様がどうされたのですか?!」

「抜け出した子達を探しに、外へ・・・何度もお止めしたのですが」

 現在、王都内は魔物で溢れかえっている状況で、そんな中をカレイドから齎されている聖剣の力があるとは言え、女性独りで彷徨うのはあまりに危険な行為だった。

 驚きのあまり、一瞬思考が止まる騎士だったが、すぐに気を持ち直す。

「!・・・・・奥様の事は、我々にお任せを。皆さんは、一刻も早く避難を!」


 面倒ごとは立て続けに起こるもので、新たな問題が発生する。

「アルト君!・・・アルト君!!」

「どうしたの!?」

 若い女性スタッフが血相を変えて、アレクシスの子供であるアルトの名前を叫んでいた。

 中年の女性スタッフが、腕をつかんで引き止める。

「それが、アルト君の姿が何処にも見当たらないんです!!」

 若いスタッフの言葉を聞き、中年の女性スタッフだけでなく、部隊長の騎士も、頭を鈍器で殴られたような衝撃に襲われた。

「そ、そんな!よく探したの!?」

 血の気の引いた若い女性スタッフの肩を掴み、大きく揺らす中年の女性スタッフ。

 その時だ。


―あの・・・・どうかされたんですか?

 騒ぎを聞きつけ、エメラーダが彼女たちの下へとやってきた。


 頭に響く”声”に驚き、若い女性スタッフは軽く悲鳴を上げる。 

「?!・・・・だ、大丈夫よ。貴女は皆と一緒に避難なさい」

 中年の女性スタッフは、狼狽しつつも、エメラーダを子供たちの下へと戻す。


―アルト君って、誰ですか?

 先ほど聞こえた名前が気になったエメラーダは、前を歩いていた五〜六歳の女の子二人に訊ねた。

「アルト君はね、シスせんせーのこどもだよー」

「まだ三さいで、あまえんぼーだよねー」

 二人はいち早くエメラーダに懐いた子達で、彼女にアルトのことを色々教えてくれた。


―シス先生って、さっきいた綺麗な人?

「そうだよー」

 シス、と言うのがエメラーダがここに来た際、冬華とうかと話し、自分の手を優しく握ってくれた女性だと合致し、エメラーダは彼女が握ってくれた手をじっと見つめた後、スタッフや騎士たちに向けて手を挙げた。


―あの!わたしなら、その子の居場所。分かるかも知れないです!わたし、探してくるです!!

 そういうと、エメラーダは誘導の列から離れ、独り町中へと走っていってしまった。


「え?」

「お、おい!お嬢ちゃん!!」

 完全に虚を突かれる形となった大人たちは、ただ声をあげ見送ることしか出来なかった。



―精霊さん・・・・・・誰かいますか?

 エメラーダは走りながら、”大声”で精霊たちに語りかけた。


 すると、何処からともなく、青や赤、緑や黄色といった光の玉状の契約前の精霊・・・所謂【野良精霊】たちがエメラーダの周りに集まってきた。

 明滅を繰り返し、何かを言っている精霊たちに、エメラーダはコクッと頭を下げた。


―ごめんなさいです。この人によく似た気配をした、小さな男の子を捜しているです。知っている人はいないですか?

 アレクシスに握ってもらった手を挙げるエメラーダ。その掌には、彼女のかすかな気配が残っていた。

 血を分けた息子であるアルトが、彼女に似た気配をしていると考えたエメラーダは、気配に敏感は精霊たちに協力してもらおうと考えたのだ。


 野良精霊たちが、代わる代わるエメラーダの掲げた掌を”触って”いく。


 すると、数体の精霊たちが激しく明滅を繰り返した。


―あっちですね、ありがとうです!!

 アルトと思われる小さな子がいる方向を聞き、エメラーダは精霊たちにお礼を言って、走る速度を上げた。



「ママ・・・・・どこ?ママぁ・・・・」

 孤児院を出て行く母の姿を見て、不安になったアルトは、子供たちが密かに使っている”秘密の出口”を使って、外へと出た。

 だが、そこに母の姿はなく、アルトはそのまま町の中へと出て行き、迷子になってしまった。

 しかも運が悪いことに、アルトが迷い込んだ地区は避難が完了しており、なおかつ騎士団による竜骨兵掃討が始まる前の場所だったため、人の気配がなかった。


 泣きながら歩くアルトの声が響き、招かれざる客を呼び寄せた。


 下を向いて泣いていたアルトは、自分に骨の化け物・・・竜骨兵の一体が近づいていることに気が付いていなかった。


 振り上げられた骨で出来た刺突剣が、アルトへと振り下ろされようとした時だった。


―危ないです!!

 駆けつけたエメラ−ダが、アルトの身体を庇うように抱きしめ、飛び込んだ勢いそのままに地面の上を滑る。


 竜骨兵の刺突剣が空しく空を切り、一瞬硬直する。


「!?」

 自分に何が起きたのか理解できていないのか、目を大きく見開いてエメラーダを見るアルト。


―何処も怪我は無いですね?!

 急いでアルトの身体を調べるエメラーダ。

 かなり無理なことをしたにも関わらず、アルトだけでなくエメラーダ自身も怪我一つしていなかった。

 先ほどから身体を包んでいる、優しい気配のする淡い光のお陰だろうか、と考えているエメラーダ。

 

「ふぇ・・・・」

 すると、突如泣き出すアルト。

―大丈夫です!君は、わたしが・・・・!?

 落ち着かせようと、”声”を掛けるエメラーダだったが、アルトが何かを見ていることに気が付き、エメラーダが振り返ると先ほどの竜骨兵が刺突剣を掲げて立っていた。


 エメラーダは咄嗟に、母であるファルファッラがしたように、敵の攻撃から護るようにアルトを抱きしめた。


 母のように防御の結界を張ることが出来なくても、自分の身体を盾にすれば、とアルトを抱きしめる手に力を込めた。



 だが、エメラーダの後ろで何かが砕ける音が響き渡った。


「ったくよ・・・・・マギハの人形が邪魔なんだよ・・・・?」

 エメラーダが再び振り返ると、竜骨兵は原型を留めないほどに打ち砕かれ、そこには一人の獣人ディアゴが立っていた。

 面倒そうに首に手を当て、ディアゴはゴキゴキと首を鳴らす。

 フッとディアゴは視線を下げ、エメラーダとアルトを視界に収めると、その鋭い眼光をさらに鋭くする。

 

 あまりの恐怖に、アルトはエメラーダの服を握ったまま泣きながら震えていた。

「んだガキか・・・とっとと逃げろよ、死にたくなかったらな」

 相手が子供だと分かると、興味なさげと言った感じで、すぐにエメラーダたちから視線を外すディアゴ。


 エメラーダは、泣きついてくるアルトの服に付いたほこりを手で払うと、彼の手を握り立ち上がった。


―・・・・・・・・・行くです

 そう言って、エメラーダはアルトの手を引き、ディアゴの脇を抜けて孤児院の方へと歩いていった。


「・・・ん?ちょっと待て!」

 だが、通り抜けて少し距離が開いた時、ディアゴはエメラーダたちを呼び止めた。

―?!

 何故呼び止められたのか分からず、身体を固くするエメラーダ。

「おかしな匂いがするな・・・・・この匂い、どこかで・・・・・・」

 鼻をまさに狼のようにスンスンと鳴らし、匂いをかぐディアゴに、エメラーダはアルトの手を握っている手に、無意識のうちに力を篭める。


 そして、何かに思い当たったのか、ディアゴの鼻が止まり、その大きな口が三日月のように変わり、鋭い牙が姿を現した。

「・・・・・・・・・・・・・思い出した。あの聖域の中にそっくりな匂いがするな・・お前」

―?!

 聖域のことを知る者が少ない事は、住んでいたエメラーダ自身が知っている。

 ましてや、その中の匂いを知るとなると、目の前の獣人が何者であるか、エメラーダはいやな予感がしてならなかった。

「しかも、その耳。お前、もしかして・・・・・あの中に住んでいた亜人か?」

―!?し、知らないです!


 聖域に住んでいることを言い当てられ、エメラーダは呼吸が止まりそうになった。

 一刻も早く、この場を逃げ出さないと、と考えでエメラーダの頭は一杯なる。


「・・・・嘘だな、お前からの匂いが変わった。嘘をついた奴がさせる独特のにおいだ・・・・・くくく、まさかこんなところで、思いがけない奴に出会えるとわな。お前には、色々聞かなきゃいけないんだよ・・・例えば、パッツ・・・パッツィーアのこととかな!」

 母を殺した男の名前を聞き、エメラーダの頭の中で何かが弾けた。

―!?は、走るです!!

「ふぇ!?」


 振り返ることなく、突然駆け出したエメラーダに手を引かれ、アルトはこけそうになりながらも必死に走り出した。

「逃がすかよ!!」


 ディアゴは、ファイティング・ポーズをとると、目にも留まらぬ速さで、右拳を短く振う。

 その瞬間、猛烈な風が巻き起こりエメラーダたちの脇を突き抜けていった。

 

―きゃああああああ!!

 脇を抜けて行ったとはいえ、二つの小さな身体を吹き飛ばすには十分は威力を誇っており、エメラーダとアルトの身体が宙を舞い、地面に叩きつけられた。 


「うぇええええん!!」

 守りの光により、落下による怪我や痛みは殆ど無いが、吹き飛ばされ地面に叩きつけられた恐怖で、アルトが堰を切ったように大声を上げて泣き出した。


―こ、この子は関係ないです・・・・・この子だけでも逃がして・・・

 エメラーダは恐怖で震える身体を何とか振るい起こし、ディアゴに懇願する。

 その懇願を聞いたディアゴは、背筋が凍るような笑みを浮かべた。

「そうしてやってもいいけどな・・・全部話を聞いたら、お前は殺さなきゃいけないからな・・・・あの世に行くのに、独りは寂しいだろ?」

 オレって優しいよな?というディアゴの言葉に、エメラーダは絶望へと突き落とされた。


―そ、そんな!!お願いです、やめてくださいです!!

 だが、エメラーダの懇願も空しく、ディアゴは笑みを浮かべ、まるで死神のように一歩ずつエメラーダたちに近づいていく。


―誰か、助けて・・・・

 再び、そう願うしかない自分に、情けなさを感じながらも、エメラーダは必死に願った。


 そして、その願いは天に届いた。 


『全く、我ながらいいタイミングで帰ってきた、と言った方がいいのかしら?』

 突然、エメラーダたちとディアゴの前に、虹色に輝く”透明”な壁が出現した。


「!?」

 本能で何かを察知したディアゴが、後ろに大きく飛び退く。

 

 すると、壁の前に人の形をした、幻のような不確かな輪郭が降り立ったと思うと、幻に色が付いた。

―あ・・・・・ああ・・・


 その姿を見て、エメラーダから声が漏れる。

『とは言え、娘が危険な目に遭ってる所なんて見たくはなかったけどね!』


 いつもの笑みを浮かべて、ファルファッラが仁王立ちして、ディアゴの前に立ち塞がったのだった。



次回更新は、7月4日(金)PM11:00すぎを予定しています。


変更の際は、活動報告にて連絡します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ