(10) 龍を統べるモノ
ドラグレアの報告を受け、アルバート騎士団団長のフォルトの行動は早かった。
前回の同時多発テロを教訓に、王都に住む住民たち・・・特に一般市民の避難場所として各所にシェルターを設け、デスクワーク中心の団員たちを避難誘導役として動員し、戦闘員である団員たちには戦闘に集中できるように配置を考えた。
さらに、騎士団から退役していた者たちに、予備役として招集をかける仕組みを構築し、一時的な戦力増強を図っていたのだ。
とはいえ、街中に現れた竜骨兵と呼ばれる魔物の出現数が、当初の予測を大幅に超え、かなり危険な状況のあったが、騎士団の団員や市民たちの包み込む”守りの光”によって、竜骨兵の攻撃を回避することが出来た。
攻勢に転じた騎士団によって、王都内の竜骨兵をある程度押さえ込むことが出来、その間に避難も順調に進み、今のところ貴族を含む、一般人から死者が出た、という報告は上がっていなかった。
そんな中、団長のフォルトは騎士団本部ではなく、市街地を団員たちと共に駆け、竜骨兵の討伐や混乱に乗じて犯罪を犯す者の拘束、そして逃げ遅れた住民が居ないか、見てまわっていた。
「この辺りは、粗方片付けたか?」
文字通り、奇怪な骸骨にとって築かれた死屍累々の現状を見て、フォルトは手にした槍を肩に担いだ。
一騎当千の戦闘力を持つアルバート騎士団の騎士たちが、各所で竜骨兵と戦っている。
突如現れた竜の意匠をもつ人型の骨の魔物。
それが、ドラグレアから伝わってきた竜骨兵だと、すぐに察しが付いた。
一体なら注して脅威ではないが、これが十数体単位の相手となると、一般の団員たちでは苦戦するほどの強さを持っている。
戦力を増強したとは言え、一対多で戦えるのは騎士団でもトップクラスの実力をもつ騎士だけで、殆どの場合、複数の小隊が連携して戦闘を行わなければ、数で圧倒される状況だ。その為に、少しばかり戦力が手薄な地域が出始めていた。
しかも、情報では王都近郊に、まだ数万体いるというのだから、冗談にしか思えなかった。
だが、入ってきた通信を聞き、それが冗談で無いことが判明してしまった。
『フォルト団長!聞こえますか?術士隊隊長のナタリアです!現在、王都北側の外周部に部隊を展開中・・・・・情報通り、相当数の魔物がこちらに向かっています!』
通信機から聞こえたのは、マリアの後を継ぎ術士隊の隊長に就いているフォルトと同期のナタリア・サドラーからだった。
少し前に、冬華・金糸雀ペアとの模擬戦において、術士隊全滅と言う悪夢を見せられ、一時期再起出来るのか?と周りから心配されるほど落ち込んでいたが、そこはマリアの元部下。
数日後には、敗因から部隊の問題点を洗い出し、すぐに部隊全体に反映させ、見事復活を見せたのだった。
そんな同期の部下から、焦りの色が滲む報告を受けたフォルトは、刻々と変化する状況を思い浮かべ命令を選ぶ。
「・・・ナタリア隊長!外にいる魔物を絶対に王都内に入れないでくれ!王都内もまだかなりの敵が残っている。応援を送ろうにも、こちらも手一杯なんだ。申し訳ないがしばらくの間、持ちこたえてくれ!」
丸投げに聞こえるが、実際のところ、王都内での戦闘は激しさを増していた。
唯一の救いは、住民の避難が大部分で済んでいたこと。
『・・・・・了解です!殲滅の術士隊の名に恥じぬ戦いを、敵に見せて・・・・・・・・・あ』
フォルトの命令を受け、活き込んでいたナタリアが、間の抜けた声を上げた。
「ナタリー?」
生真面目なナタリアが、あまりに突然似つかわしくない声を上げたので、訓練生時代の愛称で呼んでしまったフォルト。
『えー・・・と、大丈夫そう・・?・・・っ!?失礼しました!団長や騎士団本隊は、王都内の戦闘に注力ください!ではっ!!』
慌てて通信を切ったナタリア。
「どうしたんだ?」
そんな彼女の言葉を聞き、フォルトは首をかしげる。
「団長!周辺の敵を掃討。逃げ遅れた住民は見当たりませんでした!」
そうこうしていると、周辺の敵を掃討していた部下たちが戻ってきた。
守りの光によって相手の攻撃を受けないとは言え、屈強な騎士たちが一様に息をするたびに大きく肩が上下している。
だが、全員の顔は未だ闘志がみなぎっており、戦闘に支障が無いと判断したフォルトが号令をかけようとした時、別の団員が駆け寄ってきた。
「団長!本部のアルフレット副長より連絡!一般街区東側の戦力が現在手薄になっており、住民の避難がかなり遅れているそうです!!」
「なっ・・・」
部下の報告に、フォルトは頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
一般街区東側には、フォルトの自宅や、妻のアレクシスが運営する孤児院がある。
フォルトは、今すぐにでも駆け出したい衝動に駆られたが、自分の立場を思い出し、思いとどまる。
フォルトたちがいる場所は、一般街区から距離があり、そこへフォルトが行くのは非効率すぎた。
しかも、危険な地区は他にも点在している。
それに、一般街区近くには幾つもの部隊が展開している状況を考えれば、フォルトの答えは決まっていたのだが・・・
「・・・・・団長、行ってあげてください」
フォルトの前にいた部下の一人が、フォルトの考えを読み取ったように、声を掛けた。
「きっと、奥様や子供さんも不安に思っているはずです。行ってあげてください!」
声を掛けてきた騎士の青年の顔を見て、フォルトは首を振った。
「いや、しかし・・・それを言えば、他の団員たちも・・・・」
今、フォルトの目の前にいる部下たちは独身だが、王都中に散っている団員の中には、新婚の者や子供が生まれたばかりの者もいる。
そんな彼らを差し置き、自分だけが家族の下に戻るなど、立場上から考えても許されるはずが無い、とフォルトは妻と子供を心配しながらも、心を殺そうとした。
「ああああああ!!何言ってるんっスか!いつもの団長らしくないッスよ!!これを聞いてください!!」
そう言って、部下の一人が本部と繋がった通信機を前に差し出した。
通信機からは、団員たちの声が聞こえる。
『団長!!今すぐ、ご家族の下へ!』
『自分のところは、無事避難できたと連絡がありました!』
『私の家族も、怪我無く無事です!』
『一般街区までの道は、我々が切り開きますので!!』
『早く、助けに行ってあげてください!!』
そんな声が、異口同音に聞こえてくる。
『我々は、団長の性格をよく知っています・・・・今すぐにでも、飛んで行きたい、と思っているのではないですか?』
自分の代わりに、本部に詰めている副長のアルフレットの声が通信機から聞こえる。
『後の事は我々に任せ、団長は早くご家族の下へ!』
アルフレットの声に、フォルトの目の前にいる団員たちが一斉に肯く。
その姿に、フォルトは目頭が熱くなるのを感じる。
「・・・・僕は、いい部下たちをもって幸せ者だね・・・・・すまない、後を頼めるかな?」
「「「「「はっ!!」」」」」
目の前だけでなく、通信機の向こうからも、力強い声が聞こえてくる。
フォルトは、部下たちに頭を下げ、自宅のある一般街区へと駆け出した。
そんな団長の背中を見つめ、部下たちが敬礼で送り出す。
妻と息子・・・そして孤児院の子供たちの安否を心配しながら走るフォルトは、一般街区で運命といえる出会いを果たすのだった。
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「さすがは、ルーン王国”最強”の異世界人!この程度のドラゴンでは歯が立ちませんか!!」
血だらけになって落ちていく飛竜を見ながら、マギハは笑いが抑えられなかった。
普段、ディアゴに戦闘狂だの殺人鬼だの言っているマギハだが、ここまで”力”を発揮したのは本当に久し振りだったために、テンションがおかしな方へと振り切れている。
対人戦闘に向かない能力――町を滅ぼせる程の強力なドラゴンを呼び出すか、国を攻め落とせるだけの大量の竜骨兵を呼び出すしかできない――のために、力の使いどころを迷うようになっていたマギハは、初めて”対人”戦闘に自分の力を振るい、その楽しさに取り憑かれ始めていた。
「たく・・・さっきからチマチマと、小物のドラゴンばかり・・・・オレは、弱いものイジメが嫌いなんだよ!!」
逆にドラグレアは、あまりに弱いドラゴン――あくまでドラグレアの私見であり、普通なら大部隊の戦力を動員しないと倒せない――相手に、気が滅入り始めていた。
ドラグレアの言葉を受け、マギハが凄みの増した笑みを浮かべる。
「そうですか!!では、少々早いですが・・・私の取って置きを、ご覧入れましょう!!」
そう言って、マギハは懐に両手を入れ、勢いよく引き出すと、空中に今までより一際大きな宝石を六個、放り出した。
眩い光と共に、紋章陣が六つ現れ、それぞれの紋章の中心から巨大な竜たちが召喚された。
翼を何対も持ったものや、首が何本も生えたもの。身体と翼の比率が明らかにおかしいのに、どうして空を飛んでいるんだ、とツッコミを入れたくなるドラゴンまで居るが、その全てが今までのドラゴンとは桁違いの力を秘めているのが、ヒシヒシとドラグレアに伝わってきた。
「・・・・・・・・・・」
現れたドラゴンたちの”眼”を見て、ドラグレアは舌打ちする。
「どうです!壮観でしょう!!私のいた世界で、竜王と呼ばれている六体のドラゴンの長たちです!竜召喚士である、私の取って置きがこれですよ!!魔獣使いでは、これほどのドラゴンたちを使役するのは不可能でしょうね!!」
マギハのテンションが最高潮に達し、声が裏返る。
ドラグレアが立っている城の屋根の下から、カレイドたちの悲鳴じみた声が聞こえてくる。
「哀れだな・・・そんな人間ごときに、こき使われるなんて」
ドラグレアは、自分の意思を全く感じない目をする竜王たちに、哀れんだ視線を送る。
「さぁ、どう戦います?機工師殿!」
勝利を確信したのか、楽しげに声を上げるマギハ。
そんなマギハを無視して、ドアグレアは徐に上着を脱ぎ上半身裸になった。
彼の身体には夥しいまでの、紋様が刻まれている。
ドラグレアは、大きく息を吸い、肺に溜まった息と共に、全てを吐き出すように一気に吐き出した。
「この世界に来て、これを外さないといけない、と思ったのはソラトたちを除けば、初めてか・・・・言っとくが、これを外したらどうなっても知らないぞ?」
そういうと、紋様が淡く光り、次々と消えていく。
「もしかして、今まで力を封じたまま戦っていた、とでも言いたいのですか?何とも在り来たりな展開ですね!」
高笑いするマギハを余所に、ドラグレアの身体に刻まれた最後の紋様が消える。
それと同時に、再び大きく息を吸い込むドラグレア。
「応龍の息吹」
開かれた口から、咆哮とも悲鳴とも取れない声と共に、光が奔る。
その光が緑の竜王に命中すると、大爆発を起こし、黒煙に包まれながら地上へと落下していった。
「・・・は?」
単体で、国を滅ぼせる力を持つといわれる竜王の一体が、地上へ落下する様を見て、マギハの目が点になる。
すると、ドラグレアは再び肺一杯に空気を吸い込んだ。
『聞け!竜の王たちよ!!貴様たちは、人間に使役されて恥ずかしくないのか?!誇り高き魂は何処へやった!』
普段喋る言葉とは違う、どう発音しているのか分からない、独特の言葉・・・・グラン・バースに召喚されてから使うことが無くなった【龍語】で、竜王たちを怒鳴りつけるドラグレア。
その耳を劈くような”声”のせいで、近くにある城の窓ガラスが砕けた。
「む、無駄です!このドラゴンたちは、私の支配下にある!その程度のことで・・・・」
鼓膜が破れるのでは、と錯覚したのか、耳を押さえながらも、ドラグレアが何を言ったのか理解できたマギハが、異世界人最強といわれる男を睨む。
だが、彼の予想に反し、竜王たちに変化がおきた。
『・・・・・・・・やかましいわ小僧!』
今まで、意志の介在しなかった瞳をしていた赤い竜が、ガァ!!と大口を上げて龍語を喋った。
『我々が、本当に人間に屈したと思うておるのか!』
蒼い龍が、怒りを露にし身体中からオーラが溢れている。
『少々出来るからといって、付け上がるなよ!』
ただでさえ大きい茶色の竜の体が、怒りで二周りほど膨れ上がる。
『あたいらを馬鹿にしたこと、後悔させてやるわ!!』
白い竜が、純白の翼を大きく広げ威嚇の姿勢を示す。
『コロス・・・』
そして、黒い龍がただ一言呟き、殺気をドラグレアに叩きつけた。
そんな竜王たちを見て、ドラグレアが不敵な笑みを浮かべた。
『ほう?だったら、お前らの力・・見せてみろ!』
ドラグレアの背中に、金色とも虹色とも取れない輝くような半透明の翼が現れ、フワッと浮いたかと思った瞬間、猛スピードで曇天の空へと飛翔し、雲の中へ飛び込んでいった。
竜王たちも、ドラグレアの後を追うように次々と雲の中へと飛び込んで入った。
「何をしているんだ、止まれ!!っ馬鹿な・・・・私の言うことを聞かない?!どうなっているんだ!」
まさかの事態に、マギハは先ほどまでの余裕を無くし、腕につけていたドラゴンたちを操る腕輪に、一心不乱に力を込めたが、反応は返ってこなかった。
次の瞬間、王都を覆っていた曇天が一瞬にして吹き飛んだ。
突き抜けるような青空が広がり、青い空を背景に、想像を絶する・・・・・最終戦争を思い起こさせる空中戦が繰り広げられていた。
次々と竜王たちの口から町を消滅させるほどの息吹が放たれ、ドラグレアはその攻撃を人間では堪えられない速度で縦横無尽に避け、反撃とばかりに、先ほどのエンペラー・ブレスで白と蒼の竜王をなぎ払う。、
黒の竜王が、ドラグレアの攻撃を掻い潜り、ドラグレアを肉薄するが、膨大な魔力を纏ったドラグレアの掌打と蹴りの連続攻撃をまともに喰らい、最後の蹴りで吹き飛んでいく。
黄の竜王が、巨体に合わない速度でドラグレアに向かって突進してくるが、ドラグレアは避けることなく、まるで隕石と化した黄の竜王に拳を叩き込に、黄の竜王は血反吐を吐いて墜落していった。
そこに、人間が介入できるはずも無く、マギハだけでなく、テラスにいるカレイドたちも呆然と事の成り行きを見守っている。
だが、そんな戦いも長くは続かず、ドラグレアと赤い竜が激突したのを最後に、あっけなく終結した。
「はーはーはー・・・・・・」
ゆっくりと降りてきたドラグレアは、肩で息をしながらドラゴンたちを睨んでいた。
力を解放したせいか、カレイドからの聖剣の力が途絶え、大怪我とは言わないが、体中から血が滲んでいる。
竜王たちも、ドラグレアの攻撃によって硬い鱗に護られた皮膚が裂け、かなりの出血をしている。
最初に撃墜された緑の竜王も、バツが悪そうに空へと上がり、他の竜王たちと一緒に並んだ。
『まさか・・・・・・これほどとは』
『・・・・恐ろしいものよ』
『異世界には、強い奴がいるわね・・・』
『クップク・・・・・』
『いいよな皆は、オレなんて初っ端にやられ手見せ場が無かったし』
妙に晴れ晴れとした顔をする竜王たち。
そんな中で、赤の竜王がドラグレアの前へ進み出た。
『・・・・龍を統べるモノよ。我らの負けだ。我ら六大竜王は、そなたに従おう』
六体の竜王が、ドラグレアに敬意を払うかのように頭をたれた。
「別に、その名前は継いでないんだけどな・・・・」
竜王たちの姿を見て、ドラグレアは面倒そうに頭を掻く。
「な、何がどうなっているのです?何が、起きた・・・・・・?」
完全に自分の制御を離れた竜王たちが、ドラグレアに頭をたれる姿を見て、マギハは完全に思考停止していた。
そんなマギハに、ドラグレアはやはり面倒そうな顔をして、説明を始めた。
「オレはな。元の世界にそのまま住んでいたら、ある名前を襲名することになっていたんだよ。それが”応龍”。オレの住んでいた世界では四龍を統べる龍、もしくは龍族の王と言われ、別名”龍を統べるもの”って言われる名だ。オレは、その名を継ぐ直前にこの世界に召喚されてしまったが・・・・・まぁ、名前なんて所詮は飾りで、オレ自身が持っている能力自体が”応龍”そのものなんだけどな」
ドラグレア自身、応龍と言う名を口にするのは久方ぶりで、フッと胸の内に懐かしさがこみ上げる。
ちなみに、応龍と言う名を継ぐ条件は、ただ一つ。
かつて存在した応龍と同じ能力を持って生まれてくること。
そのあまりの強さに、通常生活を送るには、力の大部分を封印しておく必要があり、それがドラグレアの身体に刻まれた紋様である。
「りゅ、龍を統べる?そ、そんな・・・・竜神のような存在が異世界にはいるというのか?」
精彩を欠いた表情のまま、マギハは乗っている飛竜の背中でうわ言のように言葉を搾り出した。
マギハのいた世界では、六体の竜王は各竜族の長であり、その間に上下関係は無い。
そんな竜王たちを取り纏める存在、”竜神”と呼ばれる存在が何処かにいるのでは?という伝承が人間の間で実しやかに囁かれていた。
だが、その存在を示す証拠は無く、マギハ自身、その存在に懐疑的だった。
六大竜王を竜召喚士の能力を使って使役させる事に成功したマギハは、何処かで自分が竜神になったような錯覚をしていた。
だが、それは間違いだったことに、マギハはこれでもかと、叩きつけられるように思い知らされた。
打ちひしがれるマギハを見て、ドラグレアはこれ以上付き合う義理は無いと、首を鳴らした。
「これ以上、お前と遊んでいる暇は無いな・・・・・あんたらの好きにしていいぞ』
龍語で竜王たちに、煮るなり焼くなり好きにしろと伝える。
竜王である自分たちを、無理やり従属することを強要させた張本人であるマギハへ、怒りを滾らせ一斉に顔を向ける。
「ま、待て!私は、お前たちの主人なのだぞ?!私の言うことを聞け!!」
だが、すでに竜王たちはマギハの手を離れており、彼の声が届く事は無い。
かつて、竜王たちを手中に収めたマギハだが、それは幾つもの策をめぐらせ、一体ずつ相手にした積み重ねの結果でしかなかった。
そんな彼に、竜王を同時に六体も再使役するのは、不可能だった。
怒りと殺気が竜王たちの内から爆発し、その巨体がマギハへと殺到する。
「ひ、ひぃ!!」
乗っていた飛竜を操り、上空へと逃げ出すマギハ。
「こ、こんなはずでは・・・・・・!?」
何をどう間違えたのか、と自問自答するマギハだが、乗っているのはただの飛竜であり、手負いとは言え竜王たちが追いつけない道理は無く、一瞬で追いつかれ、衝突の衝撃で飛竜は即死、マギハは身一つで空へと投げ出される。
そして、竜王たちはまるでいたぶる様に、マギハの身体を使って口で”キャッチボール”を始めた。
放り出されるたびに、マギハの腕や足が引きちぎられ、真っ青な空に赤い飛沫が飛び散る。
「あは・・・・・はははははは!馬鹿め!私が死んでも呼び出されたドラゴンや竜骨兵は消えない!!そして、我々にはまだ、勇者様がいる!あの方こそ、全ての者の頂点に立つ王に相応しいお方!!勇者王、万歳!勇者王に、栄光あれ!!」
気でも触れたように叫びながら、マギハは赤の竜王の口の中へと消えていった。
「馬鹿な奴・・・・・・」
最後までユーリの勝利を疑うことなく死んで行ったマギハに、ドラグレアは何の感情も持たず、ただ一言呟いた。
『・・・・我らは、いつでもそなたの傍に』
満足したように、竜王たちは宝石へと戻り、ドラグレアの手の中に納まった。
そのドラグレアは、背中の翼が消失した瞬間、カレイドたちのいるテラスへと墜落した。
「ドラグ!大丈夫か?!」
一歩も動くことを許されないカレイドが、慌てて駆け寄ろうとするのを、ドラグレアは仰向けのまま手を上げて制した。
「お前が動いたら、全部台無しだろうが・・・・・しかし、久々に堪えた・・・・」
「あの、ドラゴンたちは?」
動けない夫の変わりに、ドラグレアへ駆け寄り、しゃがみ込んで彼の怪我の具合を見ていたマリアが、竜王たちの行方を気にして、問いただした。
ドラグレアは、面倒そうに身をよじり、左手をマリアの前で開くと、その中に六色の宝石が力強く輝いていた。
「ここだよ・・・・どうやら、こいつらだけは特別だったみたいだな。いつでも、呼び出そうと思えば、呼び出せる」
唯でさえ異世界人最強と呼ばれるドラグレアが、異世界で竜王と呼ばれるドラゴンを、それも六体配下に加えたことに、マリアはもう呆れるしかなく、引き攣った笑みを浮かべる。
「さすがは、ドラ君ね。すごいわ!」
無防備なカレイドを一人残すわけには行かないと、彼のそばにいたリリーが嬉々として声を上げた。
そんな彼女の言葉を聞き、ドラグレアは身体から力が抜けた。
「ったく、姐さんだけだぞ。オレをそう呼ぶのは」
ドラグレアにとって、リリーは木漏れ日の森の管理者ポンタに匹敵するほど苦手な相手だった。
ルーン王国に来た当初「ドラちゃん」に始まり、最終的に「ドラ君」と言う呼び名で落ち着いたリリーは、当時カレイドやマリア以外から恐れられていたドラグレアで、よく遊んでいた。
そう言った意味でも、彼女はドラグレアにとって貴重な友人の一人であるのと同時に、苦手な姉のような存在だった。
「義弟のお友達だもの、当然でしょ?」
歳を重ね、今では美魔女と言って差し支えないリリーが、少女のような笑みを浮かべる。
そんな幾つになっても変わらないやり取りに、場の雰囲気が和みだした時だった。
彼らの耳に、爆発音と風を切り裂くような轟音が届いた。
「なに?!」
「砲撃音だぞ!」
「あの音は、まさか!?」
マリアとリリーが、テラスから身を乗り出さんばかりに辺りを見回すと、王都近くの運河に円形に白波が起きていた。
そして、西に伸びる運河の先に、彼女たちにとって信じられない光景が広がっていた。
封印を解いた反動で、悲鳴を上げる身体に鞭打ち、ドラグレアがリリーの隣に並び、舌打ちした。
「ハドリー騎士団旗艦・・・・・・ナイト・オブ・ハドリーと守護戦艦かっ!」
人間を越える視力を持つドラグレアは、戦艦の最上段にたなびく騎士団旗を見て、ある意味で最悪の事態が起こったと毒づく。
そう、広大な運河を我が物顔で、ハドリー騎士団の旗艦とその守護戦艦五隻からなる艦隊が王都へ向けて侵攻しているのだ。
ドラグレアの声を聞き、カレイドは聖剣の力を維持しながら、苦々しく重く溜まった胸の内を吐き棄てた。
「北海防衛の要である旗艦艦隊がこんなところにいると言う事は・・・・あの七光りのボンクラめ・・・・クレマンに、いやユーリに付いたということか!」
ハドリー騎士団団長の顔を思い出し、カレイドの怒りが数倍に膨れ上がる。
「!?拙い、守護戦艦の砲塔まで動いている!まさか、王都に撃ち込むつもりか!」
切迫したドラグレアを見て、マリアとリリーの顔が真っ青になる。
「王都前面に結界を・・・くっ!」
力を集中させようとした瞬間、ドラグレアの全身に激痛が走り、その場に膝をついた。
「駄目よ、ドラグ!!あなたの身体は、見た目以上にダメージを受けているのよ!!」
マリアが支えようとするが、ドラグレアが払いのける。
「だからといって、このまま見ているわけにはいかないだろ!!」
そんな友人の背中をみながら、カレイドは唇を噛んだ。
カレイドが引き出せる聖剣の力では、王都に住む人々を護るのが精一杯だった。
かつて、この聖剣を振るっていた父祖アルバート一世は、人だけでなく土地をも護るほどの力を発揮した言い伝えられており、カレイドはその境地まで達していない自分に、情けなさを感じていた。
歴史ある王都を護ることが出来ない絶望に襲われるカレイドたち。
だが、そこに救いの手が差し伸べられた。
「やっぱり、いきなり撃ってきたかぁ。期待通りというか期待はずれというか・・・」
呆れを多分に含む可憐な声が、カレイドたちの真上で起こり、眩い光が広がる。
艦隊から次弾が発射されるも、すぐに見えない壁に着弾し空中で爆発した。
何が起きたのか分からないリリーは唖然として、艦隊の方を見ているが、カレイドとマリア、そしてドラグレアは声の主の仕業だとすぐに分かったので、”降りてきた”人物の方を見て安堵の表情を浮かべた。
「すみません。遅くなりました」
『申し訳ありません』
まるで天から舞い降りた天使のように、広いテラスに冬華と金糸雀が天使の微笑みを称え降り立つのだった。
次回更新は、6月24日(火)PM11:00過ぎを予定しています。
変更の場合は、活動報告にてご連絡いたします。




