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「幕間~転生者の周辺~」  作者:
幕間第1部
1/7

<或る酒場にて1>

第2話前のつなぎです。

 場末の酒場には毎日いろいろな者達が酒を飲み、語らい、騒いでいる。

 その一角に何やら集団ができていた。

 見ると、一人の獣人族が中心となっているようである。

 話の端々から剣闘士の集団のようであった。

 中心になっている男の名はガリウス。

 20年間無敗のまま先日引退したばかりの元剣闘士である。

 その周りを囲んでいる剣闘士達は明日を生き延びるため、今日も彼から教えを請おうとしているのだった。

 もちろん飲んで騒ぐのが好き、ということもあるのだが…。


 …よう、また来たのか、おまえ等。

 こんなロートルの話がよく飽きねえな。

 何、そんなことないって?歴戦の剣闘士の話は参考になる?

 うれしいこと言ってくれるじゃねえか。

 そうだな、じゃあ、エール1杯で話してやるとするか。

 で、どんな話がいい?小剣の使い方の注意か?それとも防具が少ない時の戦い方か?… 何、一番印象深い相手だと?

 そうだな、ここまで生き残ってきたんだ。

 いろいろな奴に出会ったが一番って言うと…。

 そうだな、変わった奴が一人いたな。

 じゃあ、今日はそいつの話をしようか…。 


※一般に剣闘士達は貴族に囲われ、闘技場でその力を比べ合う存在であり、貴族間の代理の決闘者でもある。その決着は死で終わる場合もあるが、そのような試合ばかりでもない。彼ら自身、戦いについては誇りを持っているし、周囲の目も地球で言う人気スポーツ選手を見る眼に近い。


<幕間一>

 俺はそいつが嫌いだった。

 同じリンドウ伯爵の剣闘士だったから、戦うことはなかった。

 しかし、そいつは他の剣闘士とは、どこか違ってたんだ。

 剣闘士なんてのは、結局自分の命と相手の命を天秤にかけて力比べを見せてナンボだ。 相手を殺すまで、なんて奴は毎回じゃないが、毎日のように何人かは手足が無くなったり、使えなくなったり、いや、というより、したりさせたりなんだ。

 もちろん俺も相手をそういう目に合わせてきた。

 まあ、俺も目玉一つ取られちまったけどな。

 明日は自分の番かもしれない、みんなそう思っているから、同じ貴族に所有されている剣闘士仲間の付き合い、てのは案外貴重なんだよ。

 何せ戦わなくても良い相手だからな。

 前に戦ったことのある相手、とか戦い方を見たことのある相手とかの情報交換てのが生死を分けることもある。

 それは覚えておいた方が良いぞ。

 もちろん、中にはウマの合わない相手、てのもいるが、それにしたって、自分の命がかかってりゃそんなことは言ってられないだろ?

 だから試合が終わった後は、大抵生き残った連中は酒を飲んで馬鹿騒ぎをするんだよ、死んじまった奴の悪口を言い合いながらな。

 …ん、ひどくないかって?馬鹿野郎、死んじまったらお終いなんだよ。

 死んじまったら一緒に酒も飲めないじゃねえか。

 悪口言われたくなかったら、生き残れば良いんだ。

 だから、良い奴ほど悪口言われるのさ。

 「なぜ死んじまうんだ、ドジ踏みやがって」てな。

 悪口も言ってもらえねえ奴は嫌われ者だな。

 死んじまって清々する奴は、死んだ後も話題にしてもらえない。

 忘れられるだけだよ。おめえ達はどっちだろうな。

と、話がそれたな。あの野郎の話だったよな。

 最初から、そいつは付き合いが悪かったから目立ってたんだよ。

 確かに酒につきあう、なんて決まりはないぜ。

 でもな、試合が終わったら自分の部屋にこもっちまうし、誰ともしゃべらず一日中鍛錬ばっかりしてる、なんて奴は初めてだったよ。

 でな、仲間達の何人かでヤキ入れてやるって、怒っちまってな、5,6人で取り囲んだんだよ。

 喧嘩ならともかく、ちょっと雰囲気がヤバかったんでな、止めようと思ったら、そいつら全員のされちまったんだよ。

 あ、俺にもできるかって?そうだな、あのころ一応、伯爵んとこでは俺が一番強かったからな、できないわけじゃなかったろうな。

 ただな、倒し方が妙だったんだよ。俺がやれば、まあ手足の一、二本をへし折るかなんかして、思い知らせてやるんだが、あいつは相手に怪我をさせずにのしちまったんだ。

 どうやってやったんだって?

 後で聞いたらな、顎んとこを横からかするようにパンチを当てたんだと。

 知らない奴ほど決まりやすいし、やられた奴も何で自分が倒れたかわかんねえから、気味悪がって手を出さなくなるからちょうど良い、なんてほざいてやがったぜ。

 そん時は、まだ話すほどの仲じゃなかったから何やったかわからなかったけどな。

 で、そいつには手を出すな、ってことが約束みたいになっちまったわけだ。

 まあ、付き合わなくたって困るわけじゃねえしな。

 だが、俺がそいつを嫌いだったのには別にわけがあるんだ。

 さっきも言ったように剣闘士ってのは命を賭けた戦いだ。

 奴隷だ、異種族だなんてこと無しに、闘技場の中では、それが平等なんだよ。

 だけどな、そいつの試合だけは違ったんだ。

 「相手はそいつを殺しても良いが、そいつは相手を殺しちゃいけない」

 なんてルールでやってんだぜ。

 最初はよっぽど伯爵に嫌われたのか、と思ったよ。

 気にくわねえ剣闘士をイビるための試合をやらされてるんだとな。

 だけど違ったんだよ、そいつが伯爵にその条件で試合を頼んでたんだ。

 それを聞いた時、俺は腹が立ったね。「何様のつもりだ!」てな。

 だってな、「相手は自分を殺しても良いが自分は相手を殺さない」なんてのは「俺が強いから手加減してやる」てことだろ?

 絶対、許せねえ、と思ったよ。何だか俺たちを馬鹿にしてる感じがしてな。

 他にも何人か同じように感じる奴は居たからな、そいつはますます仲間内で孤立したんだ。平気な顔してたけどな。


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