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140字小説まとめ25

作者:
掲載日:2026/05/03

『心臓』と呼ばれたものを、握り潰す。私の中から取り出したそれは、まだ規則正しく、脈打っていた。

老衰で、遺体となった博士を見つめる。私を……ロボットを完成させて、置いて、逝った人。

『心臓』を粗末にしたら、私は動かなくなる事を教えてくれた人。


今度はさらに強く、手に力を込めた。


『強い、意思』







「私達、別れましょう」

「な、なに……」

「好きな人ができたの……だから、ごめんなさい」

「あ、貴女、誰なんですか……!」


「ジェットコースターで、彼氏と別れ話をする、練習がしたかったんです」

 たまたま隣に座った、貴方で。

 ジェットコースターが下る直前、女性にそう言い放たれた。


『絶叫系別れ話』







 穏やかな太陽が、降り注いだ。冷たい日陰に身を顰めていたのに、日の元に移されたのだ。

「元気になるといいな」

 萎びた野花の私は、その声を頼りに、日に日に頭を上げていく。

 そして、女の子の無邪気な笑顔がやっと見れた。

「わぁ、綺麗!」

 ……貴女の笑顔が、太陽みたいに眩しいからよ。


『貴女のおかげ』







夢見が悪くて、夜の街に繰り出した。人通りはなく、周りには俺しかいない。……良かった、やっと——。


「みいつけた」

思わず肩が跳ね上がり、恐る恐る後ろを振り向く。なんで、ここに。


夢で見た気味の悪い幽霊が……寝れない元凶が、俺を追いかけてくる。

絶叫しながら、夜の街を駆け抜けた。


『追いかけっこ』








俺が産まれた時から、家の壁に落書きが描かれている。最初は赤ん坊だけだったのに、段々成長しているように子供や大人が描き足されていく。

「放浪の芸術家であるお父さんが、描きに来ているのよ。貴方が誕生日を迎え、成長を祝う為に」

母が、嬉しそうに教えてくれた……普通に恥ずいから消したい。


『芸術家のお祝い』






 お弁当の中が、騒がしかった。お弁当箱の中で、細かい具材が散乱し、激しく言い合いしているのだ。

「僕がこの卵焼き食べたかったの!」

「私も食べたい! ちょうだい!」

「やだ!」

 名も知らない小人達が、俺の好物である卵焼きを巡って、取り合っているらしい。


『小さき者の取り合い』







こっちに、おいで。

暗闇の中、声が聞こえる。ずっと、誰かに招かれている——

「夢か、これ」

そう言うと、空間がたちまち歪み、無数の手が俺の元へ迫ってきた。


目が覚める。……ただの、悪夢か。身支度しようと切り替え、素早く起き上がった。


……何で、こんなに暗いんだ?


こっちに、おいで。


『ループ』







「お前が死んだら、後を追う」

舌足らずの声が、俺の耳に届く。どう見ても、酒に酔っていると分かるくらい、顔を赤らめている。


「何言ってるの、爺さん」

「寂しくなっちゃって……」

親父は呆れ笑いのお袋の腰に縋りついている。俺は何度も見てるからいいけど、息子には見せないようにしよ……。


『寂しがり屋の爺さん』







玄関前に、派手な装飾を着た見知らぬ男が、座り込んでいる。

「……どなたですか?」

男がこちらを見て、涙を流す。

「お、おかえり〜!」

妻の、声だ。


後に聞いたら、コスプレのイベントに出ていたらしい。でも、鍵を忘れて、途方にくれていた、と。妻の秘密を、こんな形で知ることになるとは……。


『妻の秘密』







久しぶりに帰省した村は、安定にのどか……いや、静かすぎるな。稲作業をしている農家さんが、数人いるのに。俺は、田んぼを見回った。……何だか、カカシが多い気がする。数十体ぐらい、増えてるような……。


注意深く観察して、分かった。冷たくなった村人が、カカシにされているのだ。


『カカシ村』








少数の小人達が家の中を横切り、どこかへと目指している。驚いて後を追うと、手作りのドールハウスに入っていく。

「やった! 僕たちの住処を、ついに見つけた!」

「雨風を凌げるね!」

口々にそう叫ぶ様子を、微笑ましく見つめた。


小人捕獲道具の効果は抜群だな。これで、やっと研究が進むよ。


『小人ホイホイ』







毛布の中には、宇宙が広がっている。懐中電灯を一番星に見立て、その光に照らされながら、汽車が走っているのだ。

「しゅっしゅっ、ぽっぽ……終点、お父さんのお腹ー」

息子もとい車掌さんが、俺の腹の上に汽車を停車させた。


……あと何年、この小さな宇宙で、一緒に遊んでくれるだろうか。


『小さな宇宙』







「なぁ、やっぱり別れた方が……」

「何言ってるの、お父さん。私はあの人といて、幸せよ? お父さんも私が幸せなら、それでいいんでしょ?」

「いや、そうなんだが……やっぱり不安なんだ」


「幽霊が、お前の旦那さんだということに」

「そんなこと言うと、彼が怒って、呪っちゃうわよ」

「ひぃっ」


『怖い旦那さん』







ひゅーどろどろ。舌足らずの小さな幽霊が、近づいていく。ちゃんとやすまないと、わるいことしちゃうぞ!

「おお、怖い怖い。じゃあ、早く休まないと」

 ソファへ横になると、疲れが癒されていった。

「だいせいこう」

 小さな幽霊が……いや、白い布を頭から被った娘の笑顔に、もっと癒された。


『可愛い幽霊』






行き着く先も目的も、考えていない。道を無我夢中で、歩き回る。特に、夜はがむしゃらに足を動かす。立ち止まると、消えそうだから。けれど、今日の夜は妙に明るい。光差す方へ目を向けると、ふくよかな月が見つめている。

……歩きやすい。この行動に初めて、楽しさが湧いた。足を大きく、一歩跨ぐ。


『軽やかになった放浪』








「この本は、査定できません」

古本屋の店主は、四六版ほどの古本を私の前へと差し出す。

「古いからですか? 確かにカバーはボロボロだけど、中身は……」

中身を捲ると、娘のアルバムだった。家で蔵書整理した際、間違えたのだろう。

「貴重な御本、大切にして下さい」

店主は朗らかに言った。


『貴重な本』








「ああ、一般人になりたい」

 超能力で家具を浮かせながら、ぼんやりという彼女に、俺は笑った。

「君は僕と同じ、一般人だよ」

 俺は、彼女の心臓を指差す。

「そこ動かなくなったら、君は生きていけないでしょ?」

「……確かに!」

 君と同じ、時を刻める!

 彼女は素朴な笑顔を浮かべた。


『一般人』








夢うつつの中、枕元で神様が告げた。

「貴女は仕事を頑張っている。だから、少しぐらい休みなさい」

実践したら、嘘みたいに体調が良くなった。ありがとう、神様。ずっと神様が御傍にいると、信じ続けてよかったです。


母の言うことより、神様なのね。神様のふりをして、枕元に立って良かったわ。


『信じる者は救われる』







穴だらけの傘を差し出し、辛うじて雨を防いだ。

「ごめんね、これしかなくて。ないよりは、マシかなって」

既にずぶ濡れの相手は、悲しそうに顔を歪ませる。

「貴方をあんなにいじめたのに……」


……だからだよ。敢えて、ボロボロの傘を差し出すの。悪人を優しくするほど、寛大じゃないから。


『目的』







何だか、急に眠たくなってきた。

「大丈夫? ゆっくり休んでね」

せっかく彼女の家に来たのに、申し訳な、ぃ……。


「よし、寝た」

お茶に混ぜた睡眠薬、効き目いいわね。今の内に……。私はメジャーを取り出し、彼氏の手に近づける。


手首、意外と太い……大きめの用意しなきゃな、監禁用の手錠。


『監禁準備』







友達と登校していたら、年配の女性が後から追いかけてきた。その人は、友達に体育着を渡した。

「何で来たんだよ!」

「今日体育のテストって言ってたのに、忘れたアンタが悪い」

 お母さん、なのだろう。会釈すると、苦笑をして、顔の前で手を合わせてきた。

「ごめんね~、弟がだらしなくって」


『年の差姉弟』








捨て猫が、ダンボールの中に入っていた。ごめん、もう余裕ないんだ……つぶらな瞳で見つめられても、困る……。立ち去ろうとしたが、猫撫で声をかけられて、さらに引き留められる。


あーもう! 仕方ないな! これで56匹目だけど、迎え入れてやるよ!


吹っ切れた俺は猫を抱え、颯爽と家に帰った。


『見過ごせない!』







「僕、いじめられていて……訴えようとしても怖いから、行動すらも取れないんだ」

 友人はため息を吐きながら、項垂れる。

「無理に、そう考えない方がいい」

 俺は努めて、柔らかく微笑んで言った。

「言動を録音するだけで、随分心は軽くなるよ」

 相手の命を握っている感覚が、たまらないんだ。


『いのち』








これをひろった、しんせつなひと、ありがとう。そとへでたいのですが、どうやってでればいいか、わからない。だから、きてください。


拙い手紙がこの家の窓から落ちてきたが、入っても誰もいない……冷やかしか。早々に踵を返した。


あのひとも、かえっていく……ぼくは、とうめいにんげんなのかな。


『見えない差出人』


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