1-2.ムシファイナル
「はあ? ショタ狩りって最悪でしょ」
「人間のつまんねえ価値観押し付けんなよ。こちとら女神サマだぞ」
不思議な力で戦車から飛んできた酒瓶を掴み、酒を呷りながら語った彼女【レーマ・ルジア】の話は控えめに言って最低だった。
美味しそうないたいけな地球の少年を探していた、とか。
「狩ってねえよ。言っただろ、急なバランス変動は禁止されてるって」
「考え無しに霊魂を異世界連れ去りした騒動で規制されたのは聞きましたよ」
前提として、勝手にお持ち帰りは禁止されているそうだ。
神様同士の規定として。
「あたしだけじゃねえし……次に地球からもらえるのは三年後なんだよ。その下調べに来てたら、お前が」
ルール内であれば取り替えっこは可能。
神様にとって個別の生き物の尊厳は、よほどの事情がなければ大したものではないらしい。
家畜と一緒。
霊魂はエネルギー資源みたいなもので、たまにシャッフルすることで生態系に刺激を与え変化を期待するのだとか。
多少でも知恵を持つ生命体を選ぶケースが多いらしい。
実験動物と言った方がよさそうだ。
「うちの世界さぁ、ほんとマズいんだよ」
「マズいとかおいしいとかわかりませんけど」
「育ってない霊魂は味しないの。んで、育つやつはもう汗臭い脳筋か脂身の成金みたいなのばっかり。あとはドブくせえ小悪党だな」
「はあ」
泥抜きしてないカニとか、脂身ばっかりの肉みたいなものだと理解する。
「シクシク泣きながら上がってくるショタ魂も多いけど、そればっかりだと嫌になるんだよ」
「それはそれで食べるわけですね」
「ここらへんの地域ってよくできててさぁ。ほそっこいチョイ生意気男の子とか普通にいるじゃん」
おそらくレーマ・ルジア様の管理している世界は、法より暴力なヒャッハー世界なんだろう。
この女神の性格からして。
「女の子はいないんですか?」
「いるに決まってんだろ。あたしに女食えって言うのかよ?」
「そういうわけじゃないですけど」
百合も悪くないとは思うが好みは人それぞれだ。神それぞれか。
「あたしは男の子がいいの。あたしの気持ちを尊重しろよ、女神サマだぞ」
「わかりましたってば。聞いただけですって」
面倒くさい酔っぱらい方をする女神だ。やっぱり邪神かな。
とにかく、自分の住んでいる地域にない食材を探しに異世界まで来ているらしい。やっぱり邪神かな。
「逆に今の地球って霊魂足りないじゃん」
「そうなんですか?」
「ものを知らねえなアユミチ。だから、うちから百くらいの霊魂と引き替えっこしてもらってんだよ」
百対一のトレードらしい。
霊魂の取り替えっこがどんなものか知らないが、神様同士のやることだ。気にしても仕方がない。
「次のトレード前に視察にきていたってわけですか」
「そう。まさかあたしを認識できるやつがうろうろしてるなんて思わないじゃん」
「百億人に一人じゃそうでしょうね」
アユミチ自身、自分が珍しい体質だったなんて知らなかった。
今までの人生で何の役にも立たなかった能力。
「たまに虫とか魚でいるんだけどさ。あれも霊魂入ってるし」
「昆虫とか魚の霊魂は美味しくないんですか?」
「お前らで言えば野菜みたいなもんだな。主食じゃあない。猫が猫草食うみたいな感じか」
死んだ霊魂は世界に散っていって、また集まって別の命になるようだ。
食物連鎖の霊魂バージョンみたいなものだと理解する。
「俺の魂も食えます? レーマ様」
「あ?」
酒瓶に口をつけかけてたレーマ様が、ぴたりと止まってアユミチを見る。
睥睨――座ったままでも少し視線が高い彼女が、薄目で見下ろすように。
「あー、まあ無理……無理っていうのはあれだ。あれ、好みじゃない」
キモ男とか言われてたからそうだろうとは思うけど。
「拾ったウンコ食うみたいな……悪い言い過ぎた。ごめん。ほんとごめん。今のは本当に悪かったと思う」
「そこまで謝られると本気っぽくて傷つく」
「マジごめんな。あたし人間に嘘つけなくって」
本気でウンコレベルだと思われてた。
美ショタじゃないのは事実としてもひどい扱い。
轢き殺した詫びにエッチさせて、なんて言ったらどんな顔をされたか。言わなくてよかった。
「まあ、いいですけど……そうしたら俺、このままだとどうなるんです?」
「天寿じゃないからな。たぶん残りの寿命分くらいまで近くで漂いながら、魂が千切れていく痛みを生きてる人間になすりつけながら消えていくはず」
「呪われてんじゃん!」
地縛霊の悪霊だった。
俺の怒声にレーマ様は慌てて、しーって指を立てる。静かに、静かに。
「あたしは地球の神じゃないからさぁ。管理外のアユミチをどうにもしてやれないんだって」
「そっちに連れていってもらえばどうにかなる?」
「どうにかって……だから言っただろ。勝手に持っていったら神間問題になるし、そもそもお前を連れていくメリットないじゃんか」
「罪悪感とかないんですか?」
「お前、道で虫とか踏んづけちゃったことない? そん時、ごめんって謝る以上のことする?」
「……」
しない。
心の中で悪いって思うくらいがせいぜい。心優しい人なら埋めるくらいはするかも。
神様にとって人間なんて虫けらと同じ。いちいち対応しないのが普通で、こうして話をしてくれるだけでも神対応。
「つーわけで、あたしがアユミチにしてやれるのはここまでだ。わかったら気長にあれだ、成仏しろよ。たぶん仏系のあれだろ」
「無宗教ですけど……いや、レーマ様に轢かれたのも何かの縁かもしれないですね」
「やめろよ。崇めてもなんも出ないぞ」
「いえ、そうじゃなくって」
このまま置いていかれてたまるか。
話しているうちに理解できたこともある。
「騒ぐとマズいのは、別に悪霊が寄ってくるとかじゃないでしょ」
「んー?」
白々しいとぼけ方。
腹芸が得意なタイプではない。
「言ったじゃん、嘘は言えねえって。悪い霊は吹き溜まりみてえに集まるんだよ」
視線を逸らしながら説明を足すが、嘘ではなくともそれが全てではなさそう。嘘をつけないというのは本当らしい。
「さっきからずいぶんと慌ててますよね。レーマ様、本当はここにいるのがバレたらマズいんじゃないですか?」
「……アユミチ。お前、あたしを脅す気かよ?」
「地球の神様に知られたら、あれかな? 出入り禁止とか」
「……」
ぎりり、と。
歯を見せてアユミチを強くにらむ美女。
ゆらっと周囲に浮き出た赤黒いオーラと合わせて、アユミチに肉体があったらチビっていただろう迫力だ。
怒るのは確信をついているから。間違っていない。
「事故がいけないのかな? 別の世界の生き物を殺しちゃったわけですよね?」
「あたしを売ったところでお前になんもならねえぞ。あたしが追放されたってお前が生き返るわけでもない。地球の神は堅物だからな」
「売るなんてとんでもない。レーマ様、言ったでしょう。俺はレーマ様と縁があるのかもって」
さっき言われた。連れていくメリットがないって。
逆に言えば、メリットがあれば連れていくことも可能なんじゃないか。
ここで大騒ぎをして地球の神様に知らせてお互いに破滅なんて、それこそ何にもならない。
「そっちの世界で、レーマ様の好みに合う少年を育てる為に働く。そんな信者は必要ないですか?」
「お前……?」
「地球だって昔からこうじゃないんですよ。環境さえ整えれば、そちらでもレーマ様好みのショタを育てられるかも」
「育てる? あたしの庭で……」
怒りのオーラが消え、表情が消えて。深い紫の瞳を何度か瞬かせてからゆっくりと手にしていた酒瓶を置いた。
頭の中でどんな計算がされているのかわからない。
けど、考える価値はあったようだ。
「アユミチ……もうちょっと話をしようか、なあアユミチ」
役に立つなら話は変わる。
コショウの輸入が困難なら、現地でコショウを生産すればいいんじゃないか。
売るのはレーマ様ではない。そちらにないノウハウや知識を持った人材として自分を売り込んでみた。
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