53・祝賀会
「ソワレさん、マルス将軍に告白してフラれてくださいませんか? 私は陰から見つめていますので」
フラムにあーん、されてドキドキしていたら、聖女エクラが来た。
乙女の秘密だから聞かないでくださいね、などと言って専属聖騎士達に距離を置かせた彼女が私に告げた言葉で、ドキドキなど弾け飛んだ。
ちな、聖女がマルス将軍にお熱だということは先日のオートムヌ戦で、本人以外には周知の事実となっている。
「いきなり、なに……あー、フラレたときのセリフも聞きたいのか。なら自分が告白したら? 今はまだ告白OKされるほど好感度上がってないでしょ」
「ソワレさん、今は現実なんですからゲームのようなこと言わないでくださいな」
「推しキャラのセリフ集めしたがってる人間に注意されたくない」
マルス将軍は聖女のことを炎属性魔法と剣術の弟子だと考えているようだ。
可愛いとは思っているだろうけど、恋愛感情はないだろう。
恋愛関係に疎い武人キャラだからというわけではない。彼はまだ失恋から立ち直っていないのだ。
失恋の相手は、マルス将軍が専属聖騎士として守っていた『蹴撃の聖女』。
彼女の時代はアンデッドの侵攻がなかった代わりに人間同士の政治的な争いが多く、将軍の良き戦友だった聖女は、ひとかけらの戦闘能力も持たない文官公爵と恋に落ちた。
エクラが聖女になってすぐ、華燭の典を挙げたのだという。
ってか! その公爵が師匠だったよ!
さっきご夫婦で挨拶に来てくれたんだけどね?
すっごいラブラブだった!
あと、交流会で師匠と一緒だった長身やせ型眼鏡、宰相補佐だった!
辺境伯家の遠縁で、代々の聖女を推してるんだって。
ランスに勧められたから、これからは私のことも推してくれるらしい。……あの美貌眼鏡なにしてくれてんだ。聖女だったお母様よりも、魔王の私のほうが『下僕』ってファンネームが似合うじゃねーか。
もっともランスが推し活する人間の代表ってわけじゃない。
アレは悪い例だ。普通の人達は推しの迷惑にならないように、わきまえて推し活をしている。
ランスと宰相補佐眼鏡は本家と分家みたいな関係性らしく、注意したくても難しいし、そもそも話が通じないと嘆いていた。だろうね、わかるよ。
「……今は現実だから、一度フラれたらお終いなんですよ。ソワレさんはマルス将軍に興味がないでしょう?」
「好きじゃない相手だからって、フラれても良いとはならないよ」
「そうですよね、ごめんなさい」
聖女が悲しげな溜息をつく。失恋に苦しむマルス将軍の声も素敵―とか言いそうなのに、そこら辺はちゃんと恋する乙女のようだ。
「ところでソワレさん、ヒヒイロカネの剣はどうなってますか?」
ドラゴンゾンビの心臓に使われていたヒヒイロカネは、腐肉に潜って掘り出したご褒美に私のものになった。
体のほうは首を落として動けなくさせたよ。
腐肉といっても腐り落ちるほどではなく、ギリギリ熟成肉の範囲内だったので炎のブレスで焼いて食べながら体内に潜ったのだ。ところどころにあったマジ古そうな腐肉はちゃんと避けたよ。マタン山脈を崩さぬように翼だけ出して戦えたし、追い詰められた? ことで魔王は進化したのである。
まあ、それでもレベルは上がらなかったし、お肉の食べ過ぎで今はスイーツしか食べたくない気分だったりする。
さっきもイヴェール従兄様がお皿に盛ってくれたお肉、どうしても食べられなくてバルにあげちゃった。イヴェール従兄様にはちゃんと事情を話して謝ったよ。
バルはお肉が好きだし、我、魔王ぞ? 多少の身勝手は許されて欲しい。
「ルトが作ってくれてるけど、剣じゃなきゃダメ? 手に入れたモンスター素材の特性に合わせて武器の種類を決めたほうが究極の魔鍛冶アイテムになると思う」
「マルス将軍は剣使いなんだから剣に決まっているでしょう? ソワレさんが魔鍛冶の技術で録音アイテムを作ってくださるのなら、どんな武器にしても良いですが」
ご褒美のはずのヒヒイロカネは、聖女に対するマルス将軍の好感度を上げるための剣に加工されることが決定している。
良い特性が手に入るようにモンスター素材集めは手伝ってくれるし、ちゃんと代金も支払ってくれる約束だ。
実は私はどんなに試してもスイーツ作りのミニゲームは今世ではできなかった。
聖女は聖女で魔鍛冶のミニゲームができないらしい。
前世でのやり込みの違いだろうか。
あと、聖女は『アイテムボックス』のスキルも持っていないそうだ。スキルっていうよりゲームのシステムだったからかもしれない。残念だなー。




