52・祝賀会<聖女専属聖騎士・風と炎編>
最年長のフラムに順番を譲られて、ラファルは聖女から離れた。
ソワレはまだチョコレートファウンテンの側にいる。
盛られた果物やナッツ、チョコをつけて食べるための小さなスイーツの中になにかを探しているようだ。
(見つけてあげたら喜んでくれるかな)
思いながら近づいたまでは良かったが――
「……」
ラファルはソワレに話しかけられなかった。
それもそのはず。
前にアッシュの武器屋で店番をしていたときに会っただけなのだ。オートムヌと戦ったときも、王太子と戦うハイエルフの魔力を抑えるために聖女達と協力していたラファルは、ひとりでドラゴンゾンビと戦うソワレに近づけなかった。戦いが終わった後も、なんだかんだで挨拶もしていない。
「……」
チラチラと視線を送っても、最初からラファルに好意を抱いている女性達のように近づいてきてはくれない。
なにかを真剣に探す彼女の横顔を見ているだけで心臓が締め付けられて、ラファルはどんどん身動きが取れなくなっていく。
息まで苦しくなっていくのに、ラファルはソワレから視線が外せない。他人が同じことをしていたら、情けない男だと嘲笑していたことだろう。ソワレを見つめるだけの時間を過ごして、ラファルは元の位置へ戻った。
なお、ラファルはマチネ推しとしての兄の姿には気づいていない。彼にとっての兄は今も一途な愛に身を焦がす憧れの存在だ。
ついでに言うとランスと親しいリュイソーのほうは、言葉の端々からなんとなく本質を感じ取っている。
風属性魔法を放つ聖騎士ラファルは初めての恋に戸惑って、その恋路は凪いでいる。
★ ★ ★ ★ ★
「なに探してるんだい、魔王様」
「あ、フラム」
オートムヌとの戦いの後で、フラムはソワレと一度会話した。最年長として、リュイソー以外の専属聖騎士の代表として挨拶をしたのだ。
そのときにこれからはお互い普通に話そうと決めていた。
ヴェノムラビットを殴り倒したというのが冗談ではなかったと知って、自分の気持ちが恋愛なのかどうかと悩んでいた気持ちは吹っ飛んだ。
「苺探してるの」
「苺好きなのかい?」
「うん。赤くて綺麗でしょ。甘くて酸っぱいし」
きゅん、とフラムの胸が騒いだ。
ラファルと対戦したときに、炎の球にこだわってしまった自分を思い出す。
彼女の好きな赤色の中に、ほんの少しで良いから自分の真っ赤な髪も含まれていると良いのに。なんてことを思う。
ソワレが魔王だと知って吹っ飛んだのは、悩んでいた気持ちだ。
恋愛なのかどうかだなんてことはどうでも良い。
フラムは彼女が好きなのだ。どんなきっかけでもどういう経緯でも、彼女が魔王だとしたって今好きだという気持ちだけが唯一。
フラムはものを見つけるのが上手かった。
昔、足手纏いな幼い自分を置いて、こっそり遊びに行こうとする兄を追いかけることで磨かれた能力だ。
最初は種類ごとに分かれていただろう果実、ナッツ、スイーツが混じり合った中から、目当てのものを見つけ出す。それは、苺が目の前の少女の髪や瞳と同じ色だから可能だったのかもしれない。トングで自分の皿に載せてチョコをつけ、小さく深呼吸してソワレに告げる。
「苺、見つけたよ」
「うわ、凄い。どこにあったか教えてもらって良い?」
「ごめんよ、もうこれが最後の一個」
「そうなんだ……」
「だから君にあげるね。……あーん、して、ソワレ」
「え? あ……あーん?」
フラムはチョコをつけた苺を自分の指でソワレの口へと運んだ。
リュイソーが周囲を俯瞰しているように、最年長のフラムも自分なりに全体を眺めて同輩に気を配っている。
彼は自分以外の三人もソワレに惹かれていることに気づいていた。それからは胸の中で炎が燃え盛っている。
燃え盛る炎は嫉妬とは少し違う。
多くの男性を引き付ける女性を愛したからこそ、彼女に相応しい自分になろうとする炎だった。
炎属性魔法で戦う聖騎士フラムは、熱く燃えている。




