51・祝賀会<聖女専属聖騎士・水と大地編>
聖女専属聖騎士達は聖女エクラの周りに立っている。
もちろん護衛のためである。
隙を見せると、マルス将軍の声を聞きに尋問室へ向かおうとするエクラを封じているわけではない。まったく、さっき近くで将軍としての挨拶をしていたのを鑑賞しただけで満足して欲しいものだ、と四人で思っていたりはしない。
とはいえ、四人は今回の事件の功労者である。
聖女の見張り……もとい護衛だけでは気の毒だと考えた国王によって、ひとりずつ離れて食事を摂ったり知り合いと歓談したりすることは許されていた。
ソワレと王太子イヴェールの会話が終わったのを確認して、水の聖騎士リュイソーはほかの三人に離脱を求めた。
「ソワレ」
「あ、リュイソー」
初めのうちは丁寧語で様付けだったソワレだが、年齢も同じなのだからと、リュイソーのほうから普通に話してほしいとお願いした。
本当はリュイソーのほうが魔王に遜らなくてはいけないのかもしれないけれど、言葉で距離が開くのは嫌だったので考えないことにした。
ソワレはチョコレートファウンテンの近くで、乙女ゲームと近い世界だからこういうものもあるのかなー、なんて思いながら果物やナッツを皿に載せていた。
「チョコ、好きなの?」
「うん」
「じゃあ今度君がお忍びで来たとき、一緒に聖女様のご実家に行かない? あそこで売ってるチョコ美味しいんだ」
「いいね、ありがとう。あそこのスイーツ山ほどあるから、どれから食べるか迷ってたんだ。お勧め教えてくれると嬉しいよ。この間シャルジュさんにもらったチョコも美味しかったから楽しみ」
「……シャルジュさんって、冒険者ギルドのマスターの?」
「そうだよ。聖女様と一緒にトムを捜索する計画立てながらご馳走になったの」
だったら許してやっても良いかな、とリュイソーは思う。
でもやっぱり許せないかも、とも思う。
目の前でチョコをつけたナッツを食べているソワレは小動物のように可愛くて、その姿を自分より先に見たシャルジュへの怒りが湧いてくる。リュイソーは同担拒否族なのだ。もっとも推しではなく恋愛ならば、同担拒否になるのは当然のことだった。
そうは言っても……水属性魔法を使うもの達がみんなちょっとヤバ気なことは、だれにも否定しようがないだろう。
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リュイソーが戻って来たので、今度はテールが小走りで聖女から離れる。
小走りといってもテールは体が大きいので、周囲が驚いて道を開けるほどの迫力だ。
彼が急いだのは、リュイソーがいる間は彼が放つ威圧でだれもソワレに近寄らなかったのが、水の聖騎士がいなくなった途端にジュルネ王国貴族が彼女に群がろうとしていたからだ。
「……ソワレ」
「テール……さん?」
様付けでないことにテールは微笑んだ。
「リュイソーと同じように呼び捨てで構わない。むしろ俺のほうが敬語をお使いするべきかな、魔王陛下」
「ソワレで良いよ、テール。えっと……騙しててゴメンね」
「君はなにも騙してなんかないじゃないか。冒険者として登録してたのも、炎属性の魔法が使えるというのも本当だろう?」
「魔王だってことは言わなかったから……」
「そう簡単に言えることじゃないさ。そもそも君は自分の母親が『拳の聖女』マチネ様だったことも知らなかったそうじゃないか」
「そうなんだよね。お父様がヤキモチ妬きで、お母様のこと秘密にしてたんだ」
「ふうん。うちの父親は母親の話ばっかりだったがな」
「話自体はしてくれるんだけど、惚気だけで必要な情報がなかったの」
「……うちも似たようなもんだな」
共通の話題で盛り上がった後で、テールは聖女の元へ戻った。
話に夢中でなにも食べなかったものの、テールは空腹を感じていなかった。
かつてリュイソーに言われたように、前にもらったキャラメルナッツカップケーキの包装紙と赤いリボンは残っているし、なによりソワレと出会えた喜びは消えない。柔らかな笑みを浮かべるテールは、嫉妬深いリュイソーに睨まれていることには気づいていない。
大地属性魔法を操る聖騎士テールは恋愛脳のくせに、他人の恋愛には少し鈍い。……良いヤツなんだけどね。




