4・YES冒険者
「そうなんですか、ありがとうございますー」
冒険者ギルドの場所を教えてくれたことへのお礼を言って踵を返し、一刻も早く離れようとする私の背中に炎の聖騎士フラムが声をかけてくる。
「俺も冒険者ギルドへ行くところなんだ。良かったら一緒に行かないかい? あそこには荒っぽい人間もいる。君みたいな女の子がひとりで行ったら危ないよ」
やっぱりあるのか、ベテラン冒険者による新人冒険者イビリ。
そういえば『綺羅星のエクラ』のゲーム中でもあったわ。
聖女育成の一環として冒険者登録しに行くんだよね。そこで柄の悪いのに絡まれて、そのとき一番好感度が高い聖騎士か──
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「よおフラム、元気だったか? マルスはどうした」
「今日は俺が非番なのでマルス師匠が聖女様に修業をつけてるんです。やっぱり俺が未熟なせいか、聖女様も師匠と修業するほうが良いみたいで」
「そいつは仕方がないだろう。お前はマルスとは違う。お前は聖女様と一緒に成長していくんだ。これから頑張れ」
「はい! ありがとうございます、シャルジュさん!」
そうそう、『攻略できないバグオジ』のひとりで冒険者ギルドマスターのシャルジュ(彼はもの凄く前の世代の聖騎士)さんが助けてくれるんだった。
うん、根っからの好意で言ってくれているフラムを断り切れないで一緒に冒険者ギルドへ来たんだよ。
これが風属性魔法を放つチャラ男聖騎士ラファルだったりしたら、ナンパ目的だから冷たく断っても罪悪感湧かなかったのにな。
冒険者ギルドはたくさんの人で賑わっていたけれど、ギルマスのシャルジュさんがいる受付は空いていた。
いや、ギルマスに依頼受付の処理してもらうのって緊張するよね。
私も本当はほかの受付が良かったな。お約束通りどの受付嬢も美人だし。でもフラムが真っすぐにシャルジュさんのところへ行くからついて来ちゃったんだよね。
シャルジュさんは銀の髪に褐色の肌、魔力の強さを示す銀の瞳を持つ、この大陸の外から来たダークエルフだ。
得物は弓で、同じ武器を使う聖騎士ラファルにライバル視されている。神殿に稽古をつけに来たりはしないが、聖女の冒険者レベルが上がると弓術スキルと風属性の特大魔法を教えてくれる。
なお、この世界のダークエルフは魔人とは関係はない。魔力さえあれば不老長寿ってとこは同じかな。
フラムは田舎育ちの普通の(魔力量が異常に多くて魔法の威力が異常に強い)青年で、実家の農家が継げない次男なので王都へ冒険者になりに来た。
そこで才能を認められて王国の聖騎士団にスカウトされ、最終的には四人しかいない聖女専属の聖騎士のひとりに選ばれたのだ。……もしかして、あなたネット転生小説の主人公なんじゃない?
まあそんなわけでギルマスのシャルジュさんと面識があり、彼の友人のマルス将軍の弟子だということもあって結構親しい。
「ところでその黒髪の女の子はどうした。彼女か?」
聖騎士も聖女も結婚や恋愛を禁止されていない。
結婚さえ聖女の任期終了後なら、任期中に聖女と聖騎士がお付き合いをしても許されるのだ。
だけどフラムはこういう話題に弱いので、顔を真っ赤にして首を横に振る。
「ち、違いますよ。来る途中で会ったんです。冒険者ギルドの場所を探しながら逆方向へ行こうとしてたから心配で」
「そうか。お嬢さん、なんの用だ?」
「冒険者登録に来ました!」
シャルジュさんの顔色が曇る。
「お嬢さん。王都の冒険者ギルドに来る依頼は、ほとんどがモンスター討伐かモンスター素材の収集だ。田舎みたいに薬草採取の依頼はないぞ?」
「俺、村を襲うモンスターの討伐を依頼に来たのかと思ってたよ」
「大丈夫です、モンスター倒せます」
「一本角のホーンラビットくらいじゃ話にならないぞ」
「王都に入るための通行料はヴェノムラビットを狩って作りました!」
心配ご無用。我、魔王ぞ?
「ヴェノムラビット……?」
「ポイズンラビットと間違えてる? いや、成人男性くらいあるポイズンラビットも普通の女の子が倒すのは難しいですよね」
え? なんかふたりの表情が変わった?
前世の象くらいあるヴェノムラビットを持ち込んだときの王都近くの村の村長さんと同じ顔だ。
でもあれはあの辺りにヴェノムラビットが少ないからでしょ? 大魔林に接している辺境伯領の近くで狩ったのを、そのまま竜の姿で王都近くの村まで運んできたからね。
ゲームでは聖女も普通にヴェノムラビット狩ってたじゃない。聖女は『アイテムボックス』のスキル(だよね?)があるから運搬が楽でいいなー。
「魔法で倒したのかい?」
「ヴェノムラビットを魔法で倒せるなんて聖女様並みの力だよ! どんな魔法を使ったんだい? 炎属性の魔法なら、俺と一緒に修業しないか?」
「……素手で」
「「え?」」
「素手で殴ったら倒せましたけど」
……私、なんかやっちゃいました?




