38・36話ぶりの登場(名前のみ)
聖女エクラの頬が朱に染まる。
「あ、あれ? ご、ごめんなさい。転生者と決めつけて話をしてしまって。それにあなたが転生者だったとしても『綺羅星のエクラ』をプレイしたことがなかったら意味不明の話ですよね。ううん、プレイしたことがあっても攻略本を購入するほどのガチ勢じゃなかったら隠し攻略対象のことなんて……」
私が理解できなくて困惑していたのに気づいたようだ。
慌てる姿はとっても可愛い。
さすが乙女ゲームのヒロインに転生した人だ!
……んん? 隠し攻略対象?
オートムヌ、オート? ムヌ? トム!
トムのことかあぁぁっ?
「えっと、聖女……エクラさん? オートムヌってもしかして、行商人のトムのことですか? エルフの」
私の言葉に、花が咲くかのように聖女の顔がほころぶ。
「そうです!」
そういえばアイツ、隠し攻略対象なだけあってゲームでは聖女にも行商に行ってたっけ。
スイーツも魔鍛冶アイテムもアイツから買うより作るほうが楽しいから、あんまり接触した覚えがない。
アイツを攻略しなくても魔鍛冶アイテムの引継ぎできたし(重要)。
「エクラさんはアイツ、じゃなくてオートムヌ推しなんですか? あ、遅くなりましたが私は転生者です。『綺羅星のエクラ』もプレイしたことがあります。攻略本も持ってたんですけど、トムには興味がなくて……」
行商人エルフのトムが聖女の前に現れるのは、確かゲームの二年目からだったっけ。
攻略本には一年目に魔王と接触してるって書いてあったのかな?
それで私に居どころを聞きたいとか?
「ごめんなさい。私、しばらく前にジュルネ王国の村娘風の服を持って来てもらってからトムとは会ってないんです」
「そうでしたか……」
聖女は自分の握り拳を顎に当てて考え込んだ。
そのポーズ知ってる! セリフ枠の横に出てたビジュアルだ!
しばらく逡巡する様子を見せてから、彼女は私に視線を戻した。
「ソワレさん。実はオートムヌはエルフはエルフでも何千年もの時間を生きているハイエルフで『綺羅星のエクラ』の黒幕、この世界で聖女が交代するごとにアンデッドをけしかけてきた極悪人なんです」
「え? ジュルネ王国に攻め込んできたのはアンデッドじゃなくて、魔王の私でしたよね?」
「今のあなたは正常なようで良かったです。ゲームの中のあなたは、商品と引き換えにオートムヌに渡した竜鱗によって呪縛され、操られていたのです」
「あー……」
前世の記憶が蘇る。攻略本のトムのページは全然見てないから蘇りようがないけど、オカルト系の物語や怪談で聞いた話だ。
憎い相手の体の一部を手にすることによって呪うことができる――
我ながら前世の都合の良いことばかり思い出してる気がするけど、きっと生存本能のなせる業なのだろう。
「闇属性魔法で呪う黒幕ハイエルフ、それがオートムヌです。ジュルネ王国襲撃に加担しているモンスターを操っているのも、魔王ではなくオートムヌだったのです」
ああ、そうか。そりゃそうだ。
自分がジュルネ王国へ侵攻しなけりゃいいや、としか思ってなかったけど、ゲーム中で魔王がモンスターを操ってたこと自体がおかしかったんだよ!
魔王とモンスター、魔人とモンスターは食うか食われるかの捕食関係なんだから! 魔力を与えてモンスター化した従魔や魔力で作り出す自我のない使い魔と混同してた!
トムが闇属性魔法でアンデッドを作り出すのだとしたら、魔王が差し向けたことになっているモンスターを倒しても素材を落とさなかったのが納得できる。
たぶんどれもアンデッドだったのだ。
イベントバトルだから落ちないんだと思ってたよ!
もちろんアンデッドの素材にも特性はあるし、この間もそれ目当てで探してた。
でも腐敗してるから耐久性が低くて、上手く魔鍛冶を使って解体しなかったらボロボロになっちゃうんだよね。
四天王達が魔王を裏切って聖女についたのも、ゲーム内の私が黒幕トムに操られて正気を失ってたから……いや、今の状態でもヴィペールは機会があれば私を裏切ると思うね!
「今はまだ動いてなかったとしても、オートムヌにはこれまでの罪があります。いいえ、今姿を見せていないのも、なにかを企んでいるからに違いありません。彼が聖女交代のたびに放つアンデッドはジュルネ王国だけでなく、エルフやドワーフ、魔人の方々も犠牲にしてきました」
……十八年前の村長さんの故郷もトムに破壊されたってことかあ。
「お願いです、ソワレさん。私と一緒にオートムヌを見つけ出して倒すのを手伝ってもらえませんか?」
「OK!」
我、魔王ぞ! ニュイ魔王国の民、魔人を守るのが我の使命なり!
あと私が会う前にドワーフがアンデッドに襲われて滅んだりしたら、ヒヒイロカネの手掛かりがなくなるかもしれないし!
この世界にヒヒイロカネがあるのかどうかもわかんないけど!
「ありがとうございます、ソワレさん。……それと、私の推しはオートムヌなんかじゃありません」
「へ?」
聖女は静かな怒りを感じさせる仮面のような笑みを浮かべている。
魔王はギルマス、シャルジュさんを見た!
シャルジュさんはなんか、あっちゃー、とでも言いたげな表情を浮かべていた。




