37・転生魔王VS転生聖女
「えーっと……」
戸惑う私に優しく微笑み、聖女エクラは言葉を続けた。
「私の為人もわからずに答えるなんてできませんよね。少しお話させていただいてもよろしいでしょうか?」
私は頷いた。
ちょおーっと回数は多かったけど、頷きの範囲で収まったと思いたい。
聖女エクラが語り始める。
「私にはこの世界で生まれる前、べつの世界で生まれ育った記憶があるんです。そのときのことを前世と言わせていただきますね」
前世のエクラは病弱な少女だったのだという。
「家族には愛されていましたし、友達にも恵まれていました。病床の私と会っても楽しいことなどなにもないでしょうに、何年も入院していた間、何度もお見舞いに来てくれたんです。……でも周囲が優しければ優しいほど、なにもできない自分が悲しくて……『綺羅星のエクラ』をプレイしたのは一時帰宅を許されたときのことです」
エクラの暗く沈んだ表情に、私はなんとなく察してしまった。
体調が良くて帰宅を許されたのではないのだろう。
たぶんその逆。最後の時間を苦しい治療や検査で埋め尽くさないために――苦しみを耐え抜いた後の希望が見えなくなったから、だったのに違いない。
ああ、ごめんなさい、と聖女の顔が和らいだ。
「たぶんあなたが想像している通りの状況です。でも……『綺羅星のエクラ』は私の最後の時間を輝かせてくれました。夢中でプレイしたり攻略本を熟読したりしていたら、入院中よりも体調が良くなったんじゃないかってお医者様に言われたくらいなんですよ」
だけど彼女は今、この世界にいる。
なによりさっき自分自身で『最後の時間』と言っていた。
そういうこと、なのだろう。
「両親や友達になにも返せなかったことは辛いですが、前世で受けた恩は今世で返すしかないと思っています。今世の両親と友達と、この世界の人々……ソワレさん、魔王のあなたもニュイ魔王国の方々も私の守るべき大切な存在だと考えています。すぐには信じてはもらえないでしょうけど、これからの行動で証明していくつもりです」
しゅ、しゅ、主人公だあぁぁっ!
この子、いやさ聖女エクラ様はこの世界の主人公だよおぉぉ!
魔王の我、恥ずか死ぬ。
前世の記憶が戻ってから、美味しいものと魔鍛冶と魔王国の貨幣経済のことしか考えてなかったよー!……まあ、貨幣経済のことは国の最高権力者として考えるべきことだけど。
それにしても主人公だよ、この子。
転生して今の世界を大切に思っているからこそ、侵攻してきたかもしれない魔王国の魔王や魔人を守るべき存在と考えるのは難しいだろうに。
この子なら逆ハー作っても全員幸せにできるに違いない。乙女ゲームですべての攻略対象をカウンセリングして救う漢前主人公の具現化だね! ヒロインに転生した電波聖女かもしれないとか思っててすいませんでしたあぁぁっ!
私は魔王としてジュルネ王国へ侵攻しないことを誓い、魔鍛冶の腕でサポートするもうひとりの転生者枠を貫くしかないね!
この間テールから聞いたみたいに聖女交代の混乱でアンデッドが出現したら、魔鍛冶で作った装備アイテムを提供するよ!
……共闘体制になったら、魔鍛冶の素材になる武器や防具を値引きしてくれてもいいのよ? 特性持ちのモンスター素材も適正価格で引き取るよ?
などと魔王である我が図々しいことを考えていたら、聖女の表情が硬くなった。
心読まれた?
紅玉色の瞳が我を射る。
魔力の圧が強い。
同じ炎属性の魔法でも押し負けるかも、我。
もう人間性で負けているって? HAHAHA、それは言わない約束だよ。
「……ソワレさん。行動で証明すると言っておきながら、いきなりこんなことを尋ねるのは信頼を失う行為かもしれません。あなたにとっては大事な人かもしれないのですから。ですが教えていただきたいのです。オートムヌは今、どこにいるのですか?」
え? だれそれ知らん。




