34・師匠の師匠が師匠で師匠?
交流会の儀式が終わって、握手会が始まった。
今日はアッシュさんは来てないみたいだ。
儀式だけ観覧したら立ち去るつもりだったけど、思いのほか楽しく堪能できたので気分が高揚してる。……テールの列が短かったら賑やかしで並んでみようかな。でも差し入れ用意してないからなー。
などと悩みながら人混みの中でぼーっとしていたら、いやだって人が多くて動けないのよ。
「師匠っ!」
近くでだれかの声がした。
あらら、前世のネット界隈だけじゃなくてこっちの世界でも師匠は師匠って呼ばれてるのかな。
なんて思っていたら、私の目前に五人の男性が跪いて頭を下げた。すいません、四天王なら間に合ってます、私、魔王なので。あ、でも五人だからひとり多い!
最前列にいた頭にバンダナを巻いた小太りの男性が顔を上げる。
おお、師匠だ師匠だ。
乙女ゲームの世界だからか、モブのはずの師匠も目がキラキラしていた。少し痩せたら美少年系のイケメンになる可能性も微レ存?
「ご無沙汰しておりました、師匠! 久方ぶりにお会いできて光栄であります!」
……ん?
なに言ってんの師匠。
なんで私のこと師匠って呼んでくるの?
「思い返せば十年前、就任なさったばかりの先代の聖女を応援したくても、大公領の不死王騒ぎで先々代の『拳の聖女』様がお隠れになられてから八年近く経ち、応援の作法は失われておりました」
多い、情報が多い。
「大声を上げるのも失礼に当たるかと、交流会で硬直しておりました自分の前で応援の踊りを披露してくださったばかりか、自分にその踊りを教えてくださった師匠と再びお会いできるとは、自分歓喜の極みであります!」
「……人違いじゃないですか?」
「いいえっ! 淡いピンクだったお髪が黒く見えるほど濃くなられていても、自分が師匠を見誤ることなどありませんっ! ソワレ様はお忘れかもしれませんが、自分はこのご恩を未来永劫忘れることなく、子々孫々へと語り継ぐ所存でありますっ」
あ、私の名前知ってる。
え、じゃあ本当なの?
本当に私が師匠にオタダンス教えたの?
なんで魔王の私が子どものころに、ジュルネ王国に来てたの?
いや待てよ。
初めてのつもりだったけど、冒険者ギルドに登録した日に懐かしさを感じたのは、幼いころに来たことがあったから?
……よく考えたら、お母様が人間なんだから来ててもおかしくないよね。
買い物もあっただろうし、祖父母に私の顔を見せに来たのかもしれないし。
なんか祖父母ってほどじゃない、伯父夫婦くらいの年代の家族と会ったような記憶がほわんほわんしてくるんだけど、大丈夫? これ存在してる?
「えっと……仮に私が師匠の師匠だったとしても、未来永劫忘れないほどの恩じゃないと思うんですが?」
「とんでもないっ!」
師匠の背後にいた男性が顔を上げる。
長身やせ型眼鏡だ。
この世界には眼鏡が存在するのだ。聖女専属聖騎士の中に眼鏡キャラが存在しないのは、時代の流れか、兜被るときに邪魔だからか……先々代の水の聖騎士ランスは眼鏡キャラだけど、『攻略できないバグオジ』だからフルアーマー姿のスチルはなかったし。
「師匠は師匠の師匠に応援の踊りを教えていただいたおかげで、先代聖女様と結ばれたのでござる!」
乙女ゲームの名も無きモブのくせに口調で個性出してくんな。そりゃ今は現実だけど!
「そ、そうですか。それはおめでとうございます、師匠」
「ありがとうございます、師匠っ!」
「再会できてお礼が言えて良かったでござるな、師匠っ!」
なるほどね、師匠は仲間にも踊りを教えたから師匠って呼ばれてるんだ。
今世の師匠の師匠が私で、前世の私の師匠が師匠で、仲間達の師匠はもちろん師匠で……なんか、私を含めて頭おかしい集団になってるな。
ちな、ござる眼鏡は感激のあまり涙があふれたのか目もとを擦ろうとして、眼鏡を落としたら超絶美青年だったでござる。情報が多いっ!
「おっと、ここで立ち話をしていたら邪魔になるでありますな。師匠はどなたかの握手の列にお並びになるところでありましたか?」
「ん……」
どちらとも取れそうな返事を返しながら、私は握手会の列を見た。
思ってたほどテールの列が短くない。
彼は聖女への好感度が高くなるほど、王国民からの人気が上がるっていう設定だった。恋をすることで無口で不愛想な態度が緩和されて、本来の優しさが表に出るようになるからだ。
風の聖騎士ラファルは逆で、恋をすることで落ち着きをなくして失敗が増え、王国民からの人気が下がるって設定。
もちろん乙女ゲームの攻略対象がそれで終わると情けないから、聖女と力を合わせることで覚醒するイベントが用意されている。
うん、魔鍛冶目当てでプレイしてたわりに結構覚えてるな。イベントの内容までは思い出せないけど。
アッシュさんの好感度は上げたいが、あの列に並ぶほどじゃないな。
「握手会には参加しません。でもほかに用事があるので、今日はここで。お会いできて良かったです」
ふふふ、魔王は武器屋へ行くのだ。
新しい武器防具アクセサリーをなにか買って、魔鍛冶をするのだ!
魔法金属製の装備アイテム入ってないかなー。
「はいっ! お時間をいただいてありがとうございました、師匠っ! 次回の交流会でお会いできたら、妻を紹介したいであります」
今日はなにか用事あったのかな?
まあ七日に一度の交流会の日だからって、みんなが仕事休みになるわけじゃないもんね。
職場ごとに休み曜日変わるし、職場自体にはお休みが無くて交代制のところもあるだろう。……私が次の交流会に来るかどうかもわかんないけどさ。
師匠とその仲間達と笑顔で別れて王都の大広場を去った魔王は、自分を見つめる視線があることに気づいていなかった──




