3・はーるばる来たよジュルネ王国ー♪
魔王就任式から一ヶ月後、私はジュルネ王国の王都にいた。
この大陸には魔人の住むニュイ魔王国と人間の住むジュルネ王国しか国はない。
エルフとドワーフもいるけれど、エルフはふたつの国の間にある大魔林のあちこちに集落を作って暮らしていて、ドワーフは大陸北部を覆うマタン山脈の鉱脈に沿って穴を掘って暮らしていて、どちらも国というほどの人数はいないのだ。
ふたつの国を行き来するのには、馬で三ヶ月ほどかかるだろうか。モンスター蔓延る大魔林なので、もっとかかることもあるし途中で命を落とすことも多い。
魔王の私は竜に変化して空路を小一時間で来たけどね!
時間の単位は前世と同じだったりする。
空飛ぶ竜の姿を見られたら、すわ魔人の侵攻か? なんて思われそうだから、適当なところで変化を解いて、そこからは徒歩で来たから実質二時間くらいかな。
私は半分人間で純粋な魔人よりも魔力が弱いので、人間姿で羽だけ出して飛ぶなんて器用なことはできないのだ。
ジュルネ王国の端で大魔林に接している辺境伯領の近くで狩ったモンスター、ヴェノムラビットを王都近くの村で換金して通行料を作り、そのお金で王都の大門を通過した。
ああ、国のシステムを支えるお金って便利! いつかニュイ魔王国にも流通させたいなあ。
お金があると食べるものが買えたり手続きに利用できたりして便利なんだよ、なんて言っても、腹が減ったらモンスターを狩ればいいし面倒な手続きなどせずに拳で話をつければいいじゃないですか、って返されるのが想像できるけど。
まあいいや。
今日のところは前世ぶりに見る人間の町を楽しもう。
ゲームで見たことがあるからか、初めてのはずなのにどこか懐かしい。だれかに手を引かれて雑踏を歩いた記憶が浮かんでくるのは、前世の町を家族と歩いた思い出が誘発されたんだろうか。
……おっと。
感傷に浸る前に、まずは冒険者ギルドで冒険者登録をしておこう。
狩ったモンスターはどこでも買い取ってくれるけど、冒険者登録しておくと指定武器屋での売り買いに色を付けてもらえるからね!
「……冒険者ギルドはどこだったかなー」
ゲームではクリックひとつで移動してたからなー(戦闘モードは3Dアクションで基本モードは選択肢で進む育成系のアドベンチャーだったのだ)なんて思いながら、王都の人混みを歩きつつ呟く。
あー人混みが新鮮。
魔人は飛ぶか疾走するかで、こんな呑気に歩いたりしないもんね。
ヴェノムラビットが高く売れたので、通行料を払った後でも懐は温かい。
先に聖女の実家の食堂でスイーツでも買っちゃおうかしら。聖女がミニゲームで完成させたスイーツは食堂で食べたり買ったりできるようになるんだよね。お値段は家族割引だったのかな?
攻略対象にプレゼントして好感度を上げることもできるよ!
オープニングムービーで対比されていたように、魔王の就任式は聖女の就任式と時期が被ってる。
つまりまだゲームが始まったばかりだからパンケーキしか売ってないかな?
私と聖女は同い年の十六歳だ。ゲームと同じなら、だけど。
……私は魔人のお父様よりも人間のお母様に似てるから耳が尖ってないし、今は魔力も抑えてるから食堂へ行っても魔王って気づかれないよね? ドキドキ。
ゲームと違って魔王として宣戦布告なんてしてないしする気もないとはいえ、今のところニュイ魔王国とジュルネ王国に国交はない。一応ここはお母様の祖国なんだけどね。
魔王でなく魔人と気づかれても面倒そうだから、普通の人間として行動するよ!
「ん?」
すれ違った見知らぬ男性……いや、知ってるわ。
炎属性魔法で戦う聖騎士のフラムが私を振り返った。
真っ赤な髪が特徴的な青年で、得物は大剣。聖騎士では一番年上の十九歳だけど、その顔はなんだかあどけない。
炎属性魔法は剣を振ることで発動する。
戦闘時のモーションに使う容量を節約するためか、聖騎士はみんな武器を振るって魔法を使う。
仲良くなると剣術スキル『一刀両断(剣術スキルなのに刀とはこれいかに)』と炎属性の大魔法『真紅の猛火』を教えてくれる。
彼の師匠でもあるマルス将軍(先代聖騎士)が教えてくれる剣術スキル『一刀粉砕(剣術スキルなのに刀とは以下略)』と炎属性の特大魔法『紅蓮の猛火』のほうが強いんだけどね!
マルス将軍は低くて渋い声のイケオジで、フラムと一緒に剣術と炎属性魔法の指導をしてくれるサポートキャラなんだけどエンディングはない。
前世では『攻略できないバグオジ』と呼ばれていたっけ。
ちなみに『攻略できないバグオジ』は全部で四人いる。所属していた年代は違うけれど、みんな元聖騎士だ。
そして聖女が最終的に自力で思いつく剣術スキル『神撃の巨刃』と炎属性の極大魔法『真赤の火炎』が同系統のスキルと魔法の中では一番強いのであったwwwww
「君、冒険者ギルドは逆方向だよ?」
フラムはお人好しの好青年タイプ。さっきの私の呟きが聞こえたのだろう。
今日は非番のようで村の若者風の私服を着ている。
聖騎士の鎧だったら百歩先からでもわかったんだけどね。わかったら距離を取ってたよ、もちろん。背中の大剣の持ち手が肩から覗いてるのに気づいてればなあ。




