25・聖騎士様は恋に恋するお年頃<6>
風属性魔法を放つ聖騎士ラファルは、同僚の大地属性魔法を操る聖騎士テールの実家の武器屋で店番をしていた。
今日のラファルは休日なのだ。
聖女専属の聖騎士四人のうちふたりが休日だなんて、編成がおかしいのではないかと思う人間もいるだろう。
しかし今の聖女はまだ就任したばかり、ソワレの前世の言葉を当て嵌めるならば見習い試用期間なのだ。
ゲーム『綺羅星のエクラ』のシステム的にも能力値を上げていくのが中心の時期である。
四人の専属聖騎士全員が聖女と一緒にいるのは、七日に一度の交流会のときくらいだ。
先日炎属性魔法で戦う聖騎士フラムに恋の気配を感じたラファルは、これまでの日々でテールからもそれを察知していた。
だが風属性のラファルと大地属性のテールは相性が悪い。
まだ聖女専属の聖騎士に任命されたばかりでもあることから、ラファルはテールから話を引き出すことができなかった。
それなら息子を溺愛する父親、元聖騎士のアッシュから聞けば良いと武器屋へ来たのが今日のラファルである。
彼は知らなかったのだ。
同じ魔力属性の仲良し親子ではあるものの、思春期のテールが過保護な溺愛親父を避けているということを。ゲーム『綺羅星のエクラ』の最初の一年はアッシュの武器屋でテールと会うイベントはないということを。それでもテールの好感度を上げればアッシュの好感度も上がるということを。
そしてアッシュが息子と亡き妻以外のことにはものぐさであることも知らなかったラファルは、まんまと店番を押し付けられたというわけである。
「全然お客さん来ないねー。まあ武器屋が暇なのは、聖女様が変わってもモンスターが暴れてないってことで良いことなんだけど。……また風属性魔法使って棚の掃除でもしようかな」
とはいえ、店番が嫌なわけではない。
最近聖女専属聖騎士の宿舎には蛇が出る。
蛇が出現するたび、田舎育ちのわりに蛇が苦手なフラムに助けを求められるのでラファルは疲弊していた。あの蛇は水属性の魔力を帯びてモンスターになりかけているのかもしれない、とラファルは思う。だから炎の聖騎士フラムは怯え、天敵の風の聖騎士ラファルの接近を敏感に察知して逃げてしまうのだ。
ラファルに店番を押し付けたアッシュは冒険者ギルドへ行っている。
いや、そう言って出て行っただけで、本当はどこへ行ったのかはわからない。
冒険者ギルドは冒険者ギルドでも建物の中にある酒場に行ったのかもしれなかった。
武器屋の扉が開いたのは、ラファルが退屈過ぎて欠伸を噛み潰したときだった。
「いらっしゃいませー」
慌てて歓迎の言葉を口にして、入って来た客を見る。
小柄な少女だ。外の光で髪が赤く煌めいている。
武器屋、赤い髪──もしかしたら、とラファルが考えつく前に彼女は満面に笑みを浮かべた。ラファルの心臓が鷲掴みにされた。単に炎属性のソワレの魔力によって風属性のラファルの魔力が煽られただけなのだが。
「鋼ぇーっ!」
少女はラファルを瞳に映すことなく、奇声を上げて武器屋の棚に駆け寄った。
光り輝くような横顔が棚の上にある双剣に向けられている。
踵を上げて背伸びして、必死で手を伸ばす少女の姿に、ラファルは微笑みを浮かべてカウンターから出た。
「……お求めのものはこれかい?」
少女の代わりに双剣を手にして尋ねると、腕の中で彼女が振り返った。
「はい、それです。おいくらですか?」
自分を瞳に映した途端、彼女の顔から表情が消えたように見えたのが悔しくて、武器屋へ入って来たときの笑顔と棚の上の双剣を見つめる瞳の輝きにどうしようもなく心が囚われて、風の聖騎士ラファルは恋に落ちた。




