23・鋼と魔鍛冶師
こういうのは難しい問題である。
自領を守って追い払ったモンスターが他領を襲った場合の責任はどうなるのかという。
止めを刺して遺恨を断てれば言うことないんだけど、必ずそれができるとは限らないからなー。
なんてことを考えながら、テールと別れた私はアッシュさんの武器屋へ向かった。
テールと会食を楽しんだから、アッシュさんの好感度が上がって良い金属製の装備アイテムが入荷しているかもしれない。
魔法金属製の装備アイテムは……ゲームでも二年目からだったかな?
まあゲームじゃないから、すぐに効果が出たりはしないだろうけどね。
アンデッドに対抗するためにも優れた装備アイテムは必要!
うん、なんの穴もない理論だなっ!
「いらっしゃいませー」
店の扉を開けたら聞こえてきた言葉に、私は違和感を覚えた。
ものぐさなアッシュさんは客を歓迎したりしない。
それに今の声は掠れていなかった。少し甘くて艶やかな──
「鋼ぇーっ!」
違和感は、ふと見た棚の商品が目に入った途端にかき消えた。
そこにあったのは鋼の双剣。
鋼、それは鉄に炭を加えた合金。
鉄よりも粘り強く加工しやすい性質は前世も今世も変わらない。ゲーム『綺羅星のエクラ』ではそれだけでなく、特性がふたつつけられた。ちな鉄製はひとつだけだ。
ミスリルはみっつ、アダマンタイトはよっつ、オリハルコンはいつつ。
『綺羅星のエクラ』内には出て来なかったけど、この世界にヒヒイロカネがあったら特性むっつなんじゃないかと期待している。
特性がむっつつけられるってことは、攻撃力・命中率+に追加効果、魔力属性、魔力耐性、特効が全部つけられるってことなんだよ!
とりあえず今の私は【風属性魔力増幅(大)】付きの弓と【追加ダメージ:劇毒】付きのヴェノムラビットの角を持ってるので、それをあの鋼の双剣に移行したい。
本当は武器には攻撃力+を欠かさないのが私流なんだけど、今は持ってないので仕方がない。
ああ、でもどうせなら【風属性魔力増幅(大)】より【風属性魔力増幅(特大)】のほうが良いよねえ。
帰りにロック鳥狩っとく?
『大』に『大』を合成したら『特大』だけど、そう簡単に【風属性魔力増幅(大)】を持つ素材が出るとは限らないんだよなー。
『小』いつつで『中』、『中』みっつで『大』だから、【風属性魔力増幅(小)】しか出なかったとしても十五個あれば……それはともかく鋼の双剣買っとかなきゃね。
お金足りるかなー。
どうしても足りなかったらヴェノムラビットの角を売る? でもアッシュさんは仕入れてくるだけで本人は魔鍛冶できないから、特性付きの素材持ってても意味ないし。
いやいや、まずは鋼の双剣に触れなくちゃ。
私はお父様みたいな魔眼を持ってないので、素材に触れて魔鍛冶モードになることでしか素材の特性や能力値を認識できないのだ。
ゲームでそうだったからって、今世の現実でも鋼の素材アイテムが特性ふたつとは限らない。
でもでも特性ふたつだったら良いなあ。
鋼の特性がゲーム通りであることを夢見ながら、私は背伸びした。
双剣が棚の上のほうに置いてあるのに、踏み台がどこにもないのだ。
テールもアッシュさんも背が高いからなあ。カウンターの向こうにいるときはいつも座ってたから、イベントで立ち上がったときびっくりしたよ。横幅はテールのほうが広い。
必死で背筋を伸ばした私の耳元で──
「……お求めのものはこれかい?」
店に入ったときに歓迎してくれた少し甘くて艶やかな声がした。
背後から現れた長くしなやかな腕が、私の肩を擦って双剣に触れる。
上げていた踵を降ろし、私は振り向いた。
「はい、それです。おいくらですか?」
鋼の双剣を手にして微笑んでいるのは、風属性魔法を放つチャラ男聖騎士ラファルだった。




