22・聖女とアンデッド
今日は海老アボカドサンドにした。
ジュルネ王国には海に面した港町もあるのだ。
水棲モンスターは怖いけど海産物は魅力的だよなー。そのうちこっそり行って漁でもしてみようかしら。
とか思いつつ美味しく食べて、今はデザートのキャラメルナッツカップケーキを頬張っている。
この前食べられなかったからね。
今日は二個以上商品が残ってたから、私もテールもキャラメルナッツカップケーキをゲットすることができたのだ。
ヴィペールのお土産用の紅茶と密封性の高い容器も購入済みだ。
これあげたら多少は好感度上がるかな。とっときの紅茶をご馳走してくれたくらいだから、それなりに好感度上がってる気はする。
港町へ海産物獲りに行くときはヴィペールを同行させると良いかもしれない。あ、でも密漁は不味いかな。海中で食べたら許されるのは前世だけか?
「……」
キャラメルナッツカップケーキ美味しいなー。
ミルクティーもこの間のヴィペールの色水とは比べものにならない。
ちょっとバニラの香りがするのがまた……
「……」
テールの視線に気づいて、私は口の中のカップケーキを飲み込んだ。
「私の顔になにかついてますか?」
一国の魔王ともあろうものが口の端にケーキ屑つけてたら駄目だよな。
少し間を置いて、テールはゆっくりと首を横に振った。
浅黒い肌がほんのり赤く染まっている気がする。もしかして自分のぶんのキャラメルナッツカップケーキを食べ終わったから、私が食べてるのを羨んで見てたんだろうか。聖騎士よ、それはちょっと情けないぞ。
「す、すまない。見つめていたのではなくて、その、聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいことですか?」
「ああ。食事中に聞くようなことではないので待っていたんだ」
なんだろう。
さっき飲み込んだのでキャラメルナッツカップケーキは終わりだったので、私はミルクティーで口腔を湿らせた。
キャラメルナッツカップケーキの魅力について語りたいのなら食事中でもいいよね。でもテールは基本真面目な良い子だから、食べながらしゃべったらいけないと思ったのかな。お互いにサンドイッチ食べてたときは普通に自己紹介してた気がするけど。
「……君は最近王都へ来たところだと言ったな?」
「はい」
田舎から出て来たばかりの新米冒険者ソワレ。
テールにはそう自己紹介した。
ニュイ魔王国とジュルネ王国は国交がないので、聖騎士であっても魔王の名前は知らないはずだ。知ってたとしても、両国は同じ言語を使っているので名前も似通っている。ソワレは珍しい名前ではない。
「移動中にアンデッドを目撃しなかっただろうか」
意外な質問に、私はテールを見つめた。紫色の瞳に私が映っている。
考えてみたら意外な質問でもないか。
アンデッドは魔王国近くの大魔林以外にも出現していたのかもしれない。ううん、もしかしたら──天敵の私の気配を察知したアンデッドが、ジュルネ王国のほうへ移動して被害を出した? それはちょっと複雑な気分になるぞ。
「どこかでアンデッドの被害があったんですかっ!」
私の剣幕にテールは少し目を丸くした。
「いや、今回も被害は出ていない。目撃情報もない」
「今回も?」
独特な言い回しに首を傾げた私に、テールは不思議そうな表情を浮かべる。
「……そうか。前回も目撃情報すらなかったから、民間では語り継がれなくなったんだな」
「前回も?」
「ああ、聖女様が交代すると新体制が安定するまでの混乱のせいか、アンデッドが目撃されるのが常なんだ。十八年前、先々代の聖女のときはそれでプランタン大公領が壊滅した」
村長さんのところで聞いたばかりの話が出てきたことに驚く私を誤解したのか、テールは優しく微笑んだ。
「安心してくれ。壊滅したといっても、先々代の聖女様と聖騎士によってアンデッドを作り出していた不死王は倒されたし、領民はほかの土地へ避難して生き延びている。……当時の聖女様と大公殿下はお亡くなりになってしまったが」
「そうだったんですか……あのっ!」
「うん?」
「もしアンデッドが出現したら、私にも教えてもらえませんか?」
「君に?」
「はい! 私、炎属性の魔法が使えるのでアンデッドの天敵なんです!」
「そうなのか? 君のような女の子が冒険者になるなんてどうしてなんだろうと思っていたが、魔法の才能を活かすためだったんだな。魔法に自信があるのなら聖騎士隊に……」
ゲーム『綺羅星のエクラ』では聖女専属の四人の聖騎士だけがピックアップされていたけれど、聖騎士はほかにもいる。
よく考えればバグオジも、引退したアッシュさんとシャルジュさん以外は元じゃなくて現役だったよ。マルス将軍は軍の指導者だし、辺境伯ランスは予備役だ。
専属聖騎士が休みのときに代理で聖女を護衛する聖騎士隊員もちゃんといるのだ。
とはいえ魔王が聖騎士隊の隊員にはなれないよなー。
アンデッドの動向は気になるが、そこまでジュルネ王国に肩入れはできない。魔王としてニュイ魔王国の脳筋魔人達も守護らなくてはならないのだ。
などと悩んでいたら、テールが言葉を続けた。
「……アンデッドの目撃情報があったら冒険者ギルドにも調査討伐依頼を出すので、そのときは協力してくれると嬉しい」
「あっはい」
私は頷いた。
まあそうだわ。二回会っただけのどこの馬の骨ともわからない女の子を聖騎士隊に勧誘なんかしないよね。
その後は当たり障りのない話をして、私はテールと別れた。




