21・金だよ、金。
「ふんふふーん」
少し辛めの味付けのヴェノムラビット肉の串焼きはとても美味しかったのだけど、だからこそ甘いものが食べたくなって、王都へ入った私は聖女の実家の食堂へ向かっていた。
今回、王都大門の通行料は払わなかった。
ゲームっぽい異世界転生のお約束で、冒険者カードを見せたら無料なのである。でも長期間依頼こなさないと登録取り消されちゃうんだよね。そのうち、いらないモンスター素材持って冒険者ギルドへ行こうっと。
ふふふ、なに買おうかなー。
あそこは紅茶の茶葉も売ってたよね。まずはヴィペールに茶葉を買っといてあげよう。
紅茶カップケーキを凄く喜んでたみたいだから、今度は紅茶クッキーと紅茶のパウンドケーキも買ってってあげようかな。ふふふふふ、金ならある!
魔王として、ほかの四天王にもお土産買って帰ってあげるべきかな。
でもバルとリオンはお肉大好きだし、風の四天王のコルボーは──あんましゃべったことないからよく知らないや。
そういやコルボーが使ってる双剣は【風属性魔力増幅(中)】なんだっけ。この前私がロック鳥のあばら骨から作った【風属性魔力増幅(大)】の弓より弱いんだよね。ほかの四天王が持ってる装備アイテムの特性はどれも『特大』のはず。
「……」
同じタイプの特性は、素材や装備アイテムを合成することでレベルアップさせることができる。
たとえば【追加ダメージ:劇毒】は、【追加ダメージ:猛毒】をみっつ合成することで作り出すことができるのだ。
あー、でも『中』と『大』を合成しても『大+』か。ちな同じタイプでも『大』に『小』を合成したんじゃ『+』がつくどころか誤差の範囲内だから『小』特性の素材や装備アイテムが消えちゃうだけなんだよねー。
とはいえ『小』いつつで『中』、『中』みっつで『大』、『大』ふたつで『特大』になるので、『小』が役立たずってわけじゃないんだけど。【追加ダメージ:猛毒】は【追加ダメージ:毒】いつつで作れるよ!
帰りにまたロック鳥狩ろうかな。
特性のついてない素材は、この前みたいに近くに住んでる魔人にあげればいいし。
ん? ヴィペールのために水棲モンスターを狩るって言ってた?
ヴィペールは紅茶あげれば機嫌良いってわかったし、よく考えたら炎属性の私は水属性魔法を繰り出す水棲モンスターが天敵だから戦うの怖い!
バルとリオンのお土産は、なんか思いついたら用意しよう。
「ふんふふーん」
今は私の甘いもの欲を満たすのが先だ。
聖女の実家の食堂の前に立ち、扉を開けようとしたときだった。
「君っ!」
だれかが私の肩を掴んだ。
聞き覚えのある低い声。
フラムほど新人ではないけれど、アッシュさんほど大御所でもない中堅声優さんが声を当てていた大地の聖騎士テールだ。振り向くと、公務の鎧姿の彼がいた。
「こんにちは、テール様。王都の見回りですか?」
「あ、ああ、そうだ。見回りの途中だ。休日に鎧を纏って見回りルートでもないのに、この店の周りをうろついていたわけではない」
わざわざ断るってことは、本当は公務でも見回りルートでもないのにうろついていたのか?
よっぽど甘いものが好きなんだな。
それとも聖女に攻略されたんだろうか。よっしゃ! 大地属性のテールになら勝てる!……まあ、私はジュルネ王国に侵攻したりしないけどね。
というか、この前ヴィペールと色水飲みながら話してて気づいた。脳筋魔人は経済というものを理解してない。
私はたまたま前世の記憶が戻ったけど、そうじゃなかったらスイーツ目当てにジュルネ王国へ侵攻していたかもしれない。そもそも記憶が戻る前の私にはお金で買うって発想がなかったよ!
人間のお母様のおかげで、人間の国には美味しいものがあるってことだけは知ってたしねえ。うん、前世ゲーム内での魔王の侵攻理由は『スイーツが食べたかったから』でした。間違いないね!
「み、見回りの途中だが、ちょうど休憩時間だ。良かったらこの前の礼に、なにか奢らせてもらえないだろうか」
「そんなこと気になさらないでください。お礼ならこの前言ってくださったじゃないですか」
それに私、お金ならありますから。
ジュルネ王国を侵攻しなくても、存分にスイーツや味付けしてある料理が食べられるだけのお金持ってますからー!
王都近くの村のヴェノムラビット肉の串焼きはタダでもらっちゃったんだけどね。……お父様、村長さんがプランタン大公領に住んでたときの家、燃やしてないといいなあ。
「そ、そうか。……では俺は見回りに戻ろう」
「え? 休憩時間(てかお休み)なんですよね? 奢っていただくのは遠慮しますが、良かったらお茶をご一緒しませんか?」
こっちが奢ってあげても良いよ?
なんたってテールの好感度を上げると、アッシュさんの好感度も上がるからね!
彼の機嫌を取っておいたら、後でアッシュさんの武器屋へ行ったとき希少な魔法金属製の装備アイテムが入荷しているかもしれないんだぜー。
「そうだ、休憩時間だ! だから君と一緒にお茶を飲んでもなんの問題もない!」
テールは満面に笑みを浮かべて頷いた。
この食堂に入店して甘いものを食べる理由を探していたのかもしれない。
よく考えたら聖女に攻略されてるってのはなさそう。もしそうだったら、最初から私と一緒に入ろうとはしないはずだよね。見られたら誤解されちゃうかもしれないもん。……前のお礼に奢ってくれるっていう話だったから、そういうのは気にしてなかったのかな?
テールが騎士らしく扉を開けてエスコートしてくれたので、私は店の中に入った。
このくらいの接触で、聖女を差し置いて私がテールを攻略してしまうなんてことはないよね。私、魔王だもん。
それに私炎属性だから、この世界に乙女ゲーム『綺羅星のエクラ』の設定が活かされてるとしたら、大地属性のテールの好感度は上がりにくいしね。




