20・十八年前のこと
アンデッドは生者のように扉を開けたりはできないが、建物の傷や穴を広げて壁を壊して押し入ることはできる。
ゴミや汚れた水を汚染して仲間を増やしたりもする。
それに、十八年前といえば──
「っ!」
私の言葉に顔色を変えた村長さんは、小さく深呼吸してから言葉を口にした。
「いいえ、最近は見ておりません。ただ……お若いあなたはご存じではないと思いますが、この村の人間は十八年前に滅んだプランタン大公領から移住してきたもの達なのです」
「十八年前のことなら聞いたことがあります」
「そうですか。さすが冒険者さん、勉強熱心なのですね。知らないと決めつけて失礼いたしました」
魔王はアンデッドを操れないが、人間の中にはアンデッドを作り出して操るものがいる。
聖女が光属性魔力を持つように闇属性魔力を持って生まれたものなのか、闇属性の魔力を自分のものにする邪法に身を投じたものなのかは、そのときによって違う。
十八年前にジュルネ王国のプランタン大公領で発生し、その地を滅ぼしたアンデッドの大群は、だれかが人為的に作り出したものだった。
他国のことだし国交がないから救助要請もなかったんだけど、アンデッドは根こそぎ倒さないと際限なく増えていくし、倒しても土地に毒や呪いを残すから、私と同じ炎属性のお父様がこっそりアンデッド退治に行ったんだって。
アンデッドの大群がジュルネ王国から放たれて、大魔林のモンスターをアンデッド化しながらニュイ魔王国にまで襲って来たりしたら、お肉大好き脳筋魔人達の食べるものが無くなっちゃうもんね。
アンデッドを作り出して操る人間は、最終的には自分もアンデッドとなって凶悪なモンスターと化す。その凶悪なモンスター、不死王と戦いたかったのもあると言っていたっけ。
お父様は脳筋魔人だったからなあ。
そのときにお母様と会って恋に落ちたということで、十八年前の話はよく聞いた。
「父と母に聞いたことがあるんです」
「ご両親も冒険者でいらっしゃったのですか?」
「……みたいな感じです」
よく聞いたと言っても、最終的にはお父様もお母様もお互いを褒め称える惚気になってしまうので、だれがアンデッドを作り出して操っていた犯人なのかまでは知らない。
でもお父様が行ってて、先々代の聖女と聖騎士達も派遣されていたって話だから、犯人が倒されていることは間違いない。
……お父様、人間の姿でちまちまアンデッド倒していくのに飽きて、竜の姿で火を吹いたりしてないよね? この村長さんの前の家を燃やしたりしてたらどうしよう。
今度ヴェノムラビットを持ってくるときは安売りしてあげようと思いながら、私は屋台の串焼きを手にして村を出た。
村長さんは互いの姿が見えなくなるまで見送ってくれて、なんだか凄く胸が痛んだ。
だ、大丈夫だよね、お父様!
串焼きを食べながら王都へ向かう道を辿りつつ思う。
村長さんは光属性なのかもしれない。
『浄化』の効果がある魔力属性は炎か光だ。風水大地は、毒や呪いを移動させたり薄めたりすることはできるものの消し去ることはできない。
ゲームの『綺羅星のエクラ』に出てくる聖女ほど魔力が強ければべつだけど、光属性魔力の基本は『増幅』で、本来はほかの魔力属性のように直接攻撃はできない。
それに、魔人や人間が理解して制御可能なのは今のところよっつの属性だけで、だから、十八年前の村長さんは──
それはそうと、あの村長さんが光属性ということは、この世界が『綺羅星のエクラ』そのものだとしたら、主人公の聖女はあの村長さんなのかしら?
いや、それはないよね。
村長さんは男の人だったから聖女じゃなくて聖者だよね、うん。




