16・聖騎士様は恋に恋するお年頃<4>
「へえ、ソワレちゃんっていうんだ。冒険者ギルドまで案内してあげたんだね? ふふ、もしかしたら彼女、フラムに案内して欲しくて道に迷った振りしてたんじゃないかい?」
「違うってば! 彼女はそんな駆け引きをするような女の子じゃない。その後一緒に武器屋へ行ったのも、俺から誘ったんだし」
「ふうん。奥手なフラムが自分から誘ってしまうほど魅力的な女の子だったんだ」
「……」
フラムが恋愛関係を苦手とするのは、実家の兄がモテ男だったからである。
兄を巡る村の女の子達の駆け引きと足の引っ張り合いを目の当たりにして育ったことで女性全般に恐怖心を抱くようになり、無意識に恋愛関係から距離を置こうとしているのだ。
ソワレのことを考えるだけで自分が笑みを浮かべていることに、フラムは気づいていなかった。
女の子は苦手だけど……あんな小さな体でヴェノムラビットを殴り倒したなんて冗談を口にする子、忘れられないよ(事実です)。
「幸せそうに笑うんだね、フラム。彼女のことを思い出していたのかな? ねえ、私に彼女のことを教えてくれたら、絶対に上手く行く恋愛成就計画を考えてあげるよ? 私が恋愛の達人なのは知っているだろう?」
「……ラファルは確かに恋愛に詳しいかもしれないけど、女の子と付き合ってもすぐに別れてるじゃないか」
フラムに言われて、ラファルは鼻白んだ。
炎の聖騎士の言うことは事実だった。
王国騎士団の聖騎士隊に所属していたころからずっとラファルに恋人がいなかったことはないけれど、三ヶ月以上付き合いが続いたこともない。
──最初はいつも真実の愛だと思うのだ。彼女こそが自分に相応しいと思い、声をかける。街角でも王城でも、七日に一度の王国民との交流会でも。
誘いを断られたことはない。
ラファルは癖のない中肉中背で、端正な顔をした美しい青年だ。おまけに流れるように口説き文句を放つ。
だけど付き合い始めてしばらくすると、なにかが違うと思うのだ。始まりの情熱が消えた日常の日々が退屈に思えてしまうのだ。
そして別れる。
ラファルのほうから言うこともあるし、ラファルの気持ちを察した女性のほうから言い出してくれることもある。
どちらにしろ三ヶ月以内だ。
兄のせいだ、とラファルは思う。
聖女と聖騎士の力を持ってしても倒せなかった不死王を命懸けで滅した、先々代の聖女マチネを今も愛し続けていると噂されている兄ランスのせいだ。
ラファルは焦がれてしまうのだ、兄のように情熱的で永遠に続く真実の愛に。
「さあ、次の勝負を始めようよ。今度は君に炎の球を渡さないからね、ラファル」
ラファルは夢を見てしまうのだ、今日初めて会って道案内をしただけの少女を重ねた炎の球を奪われたくないと、瞳に情熱を燃やすフラムのような初恋を。
恋人がいなかったことはない自他ともに認める恋愛の達人で、本人の知らぬところでソワレにチャラ男扱いをされているラファルは、実際のところまだ本当の恋を知らないのだった。
ラファルはフラムの挑戦に応えて、自分の棒を手に取った。
一方フラムは必死で自分に言い聞かせていた。
ソワレへの感情は恋ではない、同じ炎属性の魔力だから共鳴してしまっただけだ、と。
それは間違いではなかったけれど、否定して消し去ろうとすればするほど強くなっていくのも恋心というものだということを、彼はまだ知らない。




