14・聖騎士様は恋に恋するお年頃<2>
「でも大丈夫だよ、テール。そのカップケーキを包んでた包装紙と赤いリボンは残るんだから。食べないほうが贈ってくれた人に申し訳ないんじゃない?」
「ああ……そうだな」
頷きながらテールは、べつのことを考えていた。
あのとき、キャラメルナッツカップケーキを贈ってくれた黒髪(とテールには見えた)の少女は青いリボンで飾られたプレゼントも持っていた。
大地の聖騎士である自分の色は黒だが、お菓子につけるリボンで黒というのはなかったのだろう。代理で使われている黄色でも良かったのに、これでは炎の聖騎士フラムの色と被ってしまう、と思いながらリュイソーを見る。水の聖騎士である彼の色は青だ。
「どうしたの、テール」
テールの視線に気づいて、リュイソーが首を傾げる。
彼は四人の聖騎士の中で一番背が低く小柄だ。おっとりした言動なので気にしていないように見えるが、実際はそれをとても気にしているのをテールは知っている。
青みを帯びた銀の髪に水色の瞳──中性的で繊細な美貌のせいもあり、七日に一度の交流会での握手の列に、女性よりも男性の王国民のほうが多く並んでいることがリュイソーを悩ませているのも知っていた。
「……リュイソーは、今日だれかになにかもらわなかったのか?」
「僕、今日は一日中宿舎の図書室にいた。本当は神殿の図書館へ行きたかったんだけど、修練場でマルス将軍が聖女様に修業をつけてるって聞いて……あの人達騒がしいから行くの止めたの」
「そうか」
テールはキャラメルナッツカップケーキを手に取り、口に運んだ。
一番大好きな味が口腔に広がる。
甘いもの好きなのが知られているのは仕方がないとして、どうしてキャラメルナッツカップケーキが一番好きだと気づかれたのだろう。ただの偶然だろうか。不思議に感じながら贈り主の少女のことを思い出すと、テールの胸が締め付けられた。
少女と直接対面していたときにも感じた胸の痛みに、恋なのか、とテールは思う。
テールは恋への憧れが強い。
早くに亡くなった母親を恋しがって泣く幼い彼を寝かしつけるのは、父であり元大地の聖騎士のアッシュが語る彼女の話だった。優しく温かいその思い出は、いつも最後は父の惚気で終わったものだ。
キャラメルナッツカップケーキの最後のひとかけらを飲み込んで、テールは自室へ戻ったら私服のポケットに入れている赤いリボンを愛用の槌の柄に結んでおこうと心に決めた。
なお、ソワレと会ったときのテールの胸に痛みが走ったのは、生存本能が危険を知らせていたからである。この世界における炎は大地の天敵だ。水が炎を消し去るように、炎は大地を焼き焦がし灰にする。灰は灰で利用価値があるということは、今は忘れておいて欲しい。
前世で『綺羅星のエクラ』をプレイしていたソワレが炎属性の魔王との決戦で一番苦戦したのは、大地属性魔法を操る聖騎士テール攻略のときだった。
とはいえ吊り橋効果も恋のうち。
テールは恐怖のドキドキを完全に初恋のドキドキに置き換えてしまった。元々父から恋愛脳を受け継いでいるのである。
もちろん水の四天王ヴィペールも、紅茶カップケーキを食べ終えた後で青いリボンを愛用の鞭【大蛇の尾】に結んでニヤニヤしている。




