1・NOT悪役令嬢
どうせなら悪役令嬢が良かったよー!
なんて心の中で叫びながら自室のベッドの上で転がっているのは、ついさっき前世の記憶を取り戻したからだ。
ここは乙女ゲーム『綺羅星のエクラ』の世界。
まんまではないかも知れないけど、近しいことは間違いない。国や人の名前がまったく同じなのだから。
『綺羅星のエクラ』は主人公の聖女を育成して、ジュルネ王国に侵攻してきた魔王を倒すゲーム。
その過程で聖女は自分を守る四人の聖騎士や敵のはずの魔王の四天王と恋に落ちる。ぶっちゃけそっちが主題。
悪役令嬢が良かったなんて心で叫んでいたけれど、実はこのゲームに悪役令嬢は出てこない。
聖女の恋を邪魔する存在は攻略対象とのイベント中にモンスターを差し向けてくる魔王で──私はその魔王、ニュイ魔王国で魔人を束ねる魔王ソワレなのだ。
だから広義の悪役令嬢と言えるかもしれない。
うーん。でも人間の悪役令嬢ならジュルネ王国で生活できるからなあ。
乙女ゲームだからか『綺羅星のエクラ』にはたくさんの美味しそうなスイーツが出てきた。
聖女の実家の食堂で、音楽に合わせてパンケーキを焼くミニゲームもあった。パンケーキを焼いていたはずなのに、最後にシュークリームが完成したりするのはご愛敬。
主人公はジュルネ王国で暮らしている。つまり、ジュルネ王国は食文化が発達しているのだ。
そして、魔王である私が暮らすここニュイ魔王国の食文化は──あえて言おう、カスである、と。
魔人の国でみんなが魔法を使えるものだから、簡単にモンスターを狩って新鮮なお肉が食べられるんだよね。
おかげで傷んだお肉を美味しく食べるための調理法や調味料が発達していない。
モンスター狩る! お肉取る! 焼く、食べる、おしまい! だ。
お腹が丈夫な魔人なら生で食べる。
前世の……あ、前世の私は日本人です。あの日本の刺身なんかとは違う。
生だ。ただの生肉なのだ。血抜きくらいしてほしい。
前世を思い出したとき、私は魔王就任式の真っ最中だった。
ゲームのオープニングムービーに似たような光景があったんだよね。魔王視点というか、攻略対象の四天王を見回すようなカメラワークが。
ゲームでは聖女に選ばれた主人公と王国騎士団から選抜された四人の聖女専属聖騎士、魔王に就任した魔王女と四天王の姿が対称的に映し出されてた。対になった四人は、そのままこの世界でよく知られているよっつの魔力属性、炎・大地・風・水に対応している。
その就任式のご馳走もお肉だった。ワイバーンのお腹にコカトリスを入れて、コカトリスのお腹にレッドボアを入れて焼いただけ。
魔法で焼くから油すら使ってない!
まあ、ピリ辛のレッドボアの風味がほかのお肉にもちょっとだけ移ってたから、それなりに美味しかったけどね。生肉でないだけ良かったよ。
お肉を食べていたときは、すでに前世の記憶が戻ってたから辛かった。
人間だったお母様が生きていたころは、もうちょっとまともな食事が摂れてたのに。
お肉はもういい! 野菜が食べたい、野菜が! できたらマヨネーズも欲しい!
……ニュイ魔王国自体が嫌いなわけではない。
生まれ育った国だし、モンスターを狩ってお肉ばっかり食べてる脳筋魔人の民も愛しい。
前世を思い出したといっても名前や家族、自分の個人情報までは思い出せてない。わかるのは乙女ゲーム『綺羅星のエクラ』関係のことだけだ。だから前世に戻りたいとは思っていなかった。
でも! でも! でも!




