タイトル未定2025/12/29 21:15
カウンター席にいた客と、テーブル席にいた三人一組の客が店を出たタイミングで、マスターと流花が若菜たちがいるテーブル席に来た。
「スイ、スーツ見せて」
流花の言葉に、若菜はケースを開けてスーツを見せた。
ケースの中に入っていたスーツを見た流花に、ため息が漏れた。
「素敵なスーツ!」
流花の隣で、マスターもスーツに見入っていた。
「水田さんが、選んだんですか?」
若菜が言うより、赤井が先に言った。
「俺が、選びました!」
「赤井さんが?センスが良いですね」
マスターは、感心して言った。
赤井は、マスターの言葉に終始照れていた。
流花が腰につけている、ワイヤレスチャイムが鳴り、流花は厨房に行った。
マスターは、若菜の方を向いた。
「水田さん、スーツを見せてくれてありがとうございます」
若菜は、照れくさそうに笑った。
ピザとパスタが乗ったお盆を両手に持った流花が、厨房から出て来た。
テーブルの上に置くと厨房に戻り、二枚目のピザとパスタを持ってきた。
ピザとパスタは熱々で、とろっとしたチーズが乗ったピザと、具沢山のピザだった。
パスタは、トマトソースとクリームソースのパスタだった。
「少し多めに作りましたと、たきさんが言っていました」
流花の言葉に、大食いの赤井の目が輝いた。
若菜たちは、ピザとパスタをシェアして食べた。
若菜はマスターと流花が気になり、食事をしながらも視線は絶えずマスターと流花に向けていた。
流花はカウンター席を台拭きで拭きながら、マスターに何かを話していた。
話し声は、若菜に届かない。
カウンターの中でグラスを磨いていたマスターは、目を細め声を上げて笑っていた。
流花の言葉に耳を傾け、楽しく笑うマスターを初めて見る若菜は、食事をする気持ちが薄れていた。
若菜達が店を出て、新規の客が入ってこないのを機に、マスターはbar「ジェシカ」の看板の灯を消した。
厨房で仕事をする料理人のたきこが帰っていき、店内はカウンターの中でグラスを磨くマスターと、モップでホールの床履きをする流花の二人になった。
グラスを磨いているマスターが言った。
「水田さんの入学式に着ていくスーツ、可愛かったですね」
「赤井さんが選んでくれたって、スイ嬉しそうだった」
「そうですね。赤井さん、センスが良いですね」
「赤井さんのセンスの良さに、びっくりしちゃった」
流花は、床履きを続けた。
床履きをしている流花をみつめていたマスターは、不意に言った。
「入学式に着ていくスーツ、一緒に見に行きませんか?」
「えっ、マスターと?」
「はい」
モップを手にしたまま、黙り込んでいた流花が言った。
「……スーツ、もう用意をしたから」
「本当ですか?」
「母の知人から、スーツを頂きました」
「そうですか」
再び床履きをする流花に、少し落ち込んだマスターだった。
「マスター」
流花に声をかけられ、マスターは顔を上げた。
「お気遣い、ありがとうございます。嬉しかったです」
流花の言葉に、マスターは笑顔になった。
「入学式は、いつですか?」
流花はモップを止めて、入学式の日付を答えた。
「学生生活が始まったら、忙しくなりますね」
「はい」
「バイトの方は、できる範囲で構いません」
「ありがとうございます。でも、行ける時は行きます」
「無理しないでください」
流花は掃除を再開し、そんな流花をマスターは、黙ったままみつめていた。




