表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/25

タイトル未定2025/12/29 21:40

 bar「ジェシカ」に客が途絶えたのを機に、マスターは店を閉めようとしたそんな時だった。

 その客はやってきた。

 マスターは思わず声を上げた。

「緑さん!」

「ちっす」

 看護師長の紫野緑は、迷わずマスターの目の前のカウンター席に座った。

「何に、なさいますか?」

「そうね……ウイスキーロックで」

 緑に酔った感じは見受けられないが、既にアルコールの香りが漂っていた。

「飲み過ぎではないですか?ロックではなく水割りにしますね。薄めに作ります」

「清涼飲料水じゃない」

 マスターは、声を出さず笑った。

 店の看板の灯を消して、ウイスキーの水割りを二つ作った。

 ウイスキーの水割りと灰皿を緑の目の前に置いたマスターは、椅子に座った。

 緑は、水割りをゆっくり飲んだ。

「これホント、清涼飲料水だわ」

 言いながら、緑はタバコを吸い出した。 

「何かボクに、話があるんじゃないんですか?」

 マスターも水割りを飲み、タバコを吸い出した。

「わかった?」

「ボクに、なんの話ですか?」

 マスターが聞くと、緑はタバコを吸いながら店内を見回した。

「流花ちゃん、いないわね」

「厨房で、後片付けをしています」

「そう。マスターぶっちゃけ、流花ちゃん好きでしょ」

 マスターは驚き顔で、緑に言った。

「それは、ぶっちゃけちゃいましたね」

「ふざけないで。まじめに言っているの」

 マスターは、タバコを灰皿に押しつぶしてから言った。

「好きですよ」

 素直に認めたマスターに正直緑は、信じられない気持ちでいた。

 緑も、タバコを灰皿に押しつぶした

 マスターは水割りを飲み、カウンターの上に肩ひじを突き、手を頬に当て遠くを見つめながら言った。

「初めて白田さんを見たとき高校時代の瞳ちゃんを思い出して、白田さんをみつめていました」

「高校時代の彼女を私は知らないけど、確かに雰囲気は似ているわね」

「家庭環境も瞳ちゃんに似ていて、益々目が離せなくなりました」

「先生の悪い癖が始まった」

 マスターと緑は、小さく声を出して笑った。

「流花ちゃんを離したくなくて、流花ちゃんをバイトに引き抜いたんでしょ」

 いたずらっぽく言う緑に、マスターは笑いながら言った。

「まさか。店を手伝ってくれる方がほしかったんです。白田さんが家庭教師のバイトをしていると聞いて、白田さんを誘ったんです」

「そう言いながら、本音は流花ちゃんを目の前に置いておきたいんでしょ」

「そうじゃな……もう、いいです。そう言うことにしておきます」

 呆れたマスターはそう言って、空になった二つのグラスを、カウンターの奥の流し台で洗った。

 緑はマスターの背中に、言葉を投げた。

「流花ちゃんに、彼女のことは言ったの」

 マスターは無言のまま洗ったグラスをカゴにふせて、カウンターに戻り椅子に座るとタバコを吸い出した。

「言っていません」

「そう。流花ちゃんは、何も知らないのね」

「大門には、会っています」

「そうなの?」

「大門は、白田さんのことをとても気に入っています」

「まずは、手始めに大門君を手なづける作戦ね」

「相変わらず、口が悪いですね」

「流花ちゃんの、どこが気に入った?」

「確かに初めは、瞳ちゃんに似ていると感じました。でも、瞳ちゃんにはない明るさや強さを知り、一緒にいるのが楽しく感じました」

 マスターがタバコを消すと、緑はマスターの頬にそっと触れながら言った。

「先生の気持ちはわかった。でも、暴走だけはしないでよ」

「わかってます。二度と同じ過ちを繰り返したくありません」

 緑はマスターの頭をなでた。

 そんな時だった。

 明るい声が、聞こえたのは。

「片付け、終わりました!」

 厨房から出て来た流花はカウンター席に座っている緑に気付き、慌てて頭を下げながら言った。

「大きな声を出して、すみません」

 マスターは、笑いながら言った。

「いいんですよ。この方は、ボクの実家の開業医で勤務をしている、看護師長の紫野緑さん」

「実家が、開業医?」

 流花は、マスターをみつめた。

 緑は呆れて言った。

「実家が開業医ってこと、言っていないの?」

「あっ……」

 マスターは短く声を上げ、緑は呆れながら流花に教えた。

「先生は、昼間は実家の開業医で仕事をしているのよ」

「そうなんですね!」

 何故マスターは、流花の仕事着の一式を一度に揃えることができたのか、流花はやっとわかった。

 マスターに少しだけ近づけた気がして流花は嬉しくなり、自然と笑みがこぼれた。

「ねぇ、流花ちゃん、もう仕事は終わりでしょ」

 緑に聞かれた流花は、慌てて答えた。

「まだ、ホールの掃除があります」

「白田さん、今夜はもう上がってもいいですよ」

 マスターの言葉に、流花は戸惑った。

「先生もこう言っているんだし、女同士一緒に帰りましょ」

「ありがとうございます。着替えてきます」

 流花は軽く頭を下げ、奥の和室の部屋に行った。

 流花がいなくなると、マスターが言った。

「何を、たくらんでいるんですか?」

「流花ちゃんに、興味があるだけよ」


 仕事着から私服に着替えた流花は、緑と一緒に肩を並べて繁華街の夜の街を歩いた。

 緑が、流花に聞いてきた。

「バイトはどう?」

「楽しく、働かせて頂いています」

「先生と一緒なら、楽しいでしょ」

「先生……あっ、はい、リラックスして、仕事が出来ます。えっと……」

「緑でいいわよ」

「緑さんは、マスターと親しいんですね」

「まぁね。先生がマスターとして、お店に出ているのが未だに驚きよ」

「私は、マスターが昼間病院に勤めていると聞いて驚きました」

「そうね。白衣姿の先生、想像できないでしょ」

「白衣姿……見てみたいなぁ」

 流花と緑は夜の繁華街を歩き、緑は流花が住むアパートまで送った。


「送って頂き、ありがとうございました。帰り、大丈夫ですか?」

「大丈夫!また、先生の店に行くわ」

「お待ちしています」

 やがて流花は、アパートの部屋に入って行った。

 部屋に入っていく流花を見届けた緑は、流花が住むアパートを見回した。

 こんな古いアパートに、住んでいるのね。

 まるで、先生が付き合っていた彼女と同じじゃない。

 確かに容姿雰囲気はそっくりだけど、あの明るさは彼女にはなかったわ。

 歩きかけた緑は立ち止まり、もう一度アパートを見上げた。

 先生って本当に、運命に翻弄された人生ね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ