タイトル未定2025/12/29 21:37
居酒屋を出た若菜と赤井は、明るい繁華街の中を歩いた。
時計は既に十時を回っていたが⁸、明るい繁華街の中は、人波が絶えなかった。
赤井は深夜まで営業をしているコーヒーショップに、若菜を誘った。
コーヒーショップは満席とまでは行かないが、それなりに客が入っていた。
若菜と赤井は、夜の歩道が見渡せる窓側のカウンター席に肩を並べて座った。
若菜はミルクティー、赤井はコーヒーを飲んでいた。
赤井が突然切り出した。
「出張の辞令が出た」
突然の言葉に、若菜は息を呑んで赤井を見つめた。
「四月の終わりには、出張先に行く」
「出張?ちはるさんと、馬場さんには?」
「まだ言っていない。まず、若菜ちゃんに言いたくて」
「それで今夜、私を呼んだんだ」
「若菜ちゃん……」
赤井は言いづらそうにしていたが、思い切って言った。
「スーツを選んだ日、マスターの店に行っただろ。俺、ショックだった」
若菜はハッとなり、赤井を見つめた。
「若菜ちゃんが、マスターを好きなことは知っている。でも、俺が選んだスーツをその日にマスターに見せに行くことないだろ!」
「ご……ごめんなさい」
赤井の気持ちを知った若菜は、小さな声でつぶやくように言った。
「マスターが好きな若菜ちゃんを俺は好きになったけど、あのスーツの一件以来俺はもう若菜ちゃんについていけない」
「赤井さん……」
「四月から出張の辞令が出た。これを機に、俺は若菜ちゃんの前から居なくなるよ。今夜は送れない。ごめん」
赤井は席から立ち上がると、若菜を残してコーヒーショップを出て行った。
一人取り残された若菜は、窓の外の景色をじっとみつめていた。
赤井に選んでもらったスーツを、bar「ジェシカ」のマスターに見せに行った行為が、赤井にとってどれだけ残酷だったのか、初めて若菜は知った。
親友の流花がマスターと楽しく話をするのを見た若菜は、激しく嫉妬をした。
そんなことより遠ざかる赤井の背中を見つめていた若菜は、今自分は大切なものを失いかけていることを知った。
嫉妬よりも、赤井の存在が大きくなっていた。
すぐ赤井を追いかければ……でも、傷ついた赤井になんて声をかければいいのかわからない。
若菜の頬に、一筋の涙が流れた。




