タイトル未定2025/12/29 21:30
興奮をしていた大門だったが、ベッドの側でずっとマスターがついていたので、安心したように大門は眠りについた。
マスターは、大門の頭をそっとなでた。
ベッドに腰掛け、携帯の動画をマスターは眺めた。
「グチョグチョする〜」
マスターが、携帯で大門の動画を撮っていると、ひき肉をこねながら大きな声で大門は言った。
マスターは、声を上げて笑った。
マスターがハンバーグを焼くと、大門が携帯の動画でマスターを撮った。
動画を撮る大門に、マスターが言った。
「ちゃんと、撮っていますか?」
「撮っているよ!」
マスターは、携帯に向かってピースをした。
味噌汁に入れる野菜を、大門が包丁で切った。
大門を撮っていたマスターは、注意深く言った。
「気をつけてください!猫の手ですよ。猫の手!」
包丁をまな板の上に置いた大門は、仏頂面をして携帯に向かって言った。
「もう、知っているよ!」
「麻生大門、凄い顔をしています!これは、反抗期を迎えたのでしょうか」
アナウンサー風に言うマスターを、大門は笑った。
味噌を入れるマスターの動画を大門が撮りながら、マスターに聞いた。
「味噌汁、美味しくできたかな?」
「味見、しますか?」
マスターは小さじで味噌汁の汁をすくい、大門の口にやろうとするも、小さじをひるがえし自分で味見をした。
「あぁー七海、ずるい!」
味見をしたマスターは、ムッとしている大門をなだめるように言った。
「大門、写真を撮りませんか?」
「うん!」
手のひらを返したように大門は大きく返事をし、マスターは携帯をインカメにすると、大門と肩を組みお互い頭をくっつけた。
食事が出来上がり、マスターと大門はテーブルを挟んで食卓についた。
両手を合わせた大門は「いただきます!」と大きな声で言うと、早速ハンバーグに箸をつけた。
そんな大門をマスターは、携帯で撮影をしていた。
「美味しいですか?」
「美味し〜い!」
「何ハンバーグでしたっけ?」
「和風ハンバーグ!七海が、食べた〜い!って言ったぁ」
「そんな風に、言っていませんよ」
「言ったよぉ!」
「ハンバーグの隣にあるのは、何ですか?」
「マカロニサラダと、ポテトぉ。お店で買ったの」
「お店で買ったことは、言ってはいけません」
動画は、ここで終わった。
マスターは携帯の画面から視線を外し、大門の寝顔を見つめた。
マスターは、大門と初めて動物園に行った日のことを思い出していた。
大門は、口数少なく周りの園児たちに比べ園児らしくなかった。
それが、せつなかった。
しかし時間が経つにつれ、大門に少しずつ笑顔が見られ、最後はマスターのことを「先生」から「七海」と呼ぶようになった。
……大門。もう一度、一緒に動物園に行きましょう。
今度は、大門の笑顔をたくさん見せてください。
マスターは昼間大門と一緒に行った病室を思い出していた
病室のベッドにいた瞳は表情もなく、人形のような、もはや廃人と言ってもいいくらいだった。
大門と一緒に撮った動画を見て暖かい気持ちになっていたマスターの心は、急速に冷え切っていった。
マスターは気持ちを落ち着かせるように、大門の寝顔をみつめた。




