タイトル未定2025/12/29 21:27
病院は大きな病院で、広い玄関を抜けると、広いロビーに長いカウンターがあった。
病院関係者の間を練り歩き、エレベーターに向かってマスターと大門は歩いた。
初めての大きな病院に圧倒されたのか、大門は終始無言だった。
目的の階に着きエレベーターを降りると、マスターは大型テレビが設置された多目的ホールのソファーに、大門を座らせた。
「ここで、待っていてください」
マスターの言葉に少し不満気な大門は、黙ったまま肩に下げていたバックから、スケッチブックと布製のペン入れを出した。
一式を出すと、大門はマスターを見上げた。
「大門も行きたい」
しばらく黙っていたマスターは腰を下ろし、大門と視線を合わせた。
「会いたいですか?」
大門は、大きくうなづいた。
「会っても良いか、担当の先生に聞いてみます。それまで、待っていてください」
大門は納得したように、大きくうなづいた。
マスターは立ち上がり、ナースステーションに向かって歩き出した。
ナースステーショのカウンターで必要事項を書いた後、病室に向かって歩き出した。
マスターが瞳がいる個室の前に立つと、医師と看護師が出てきた。
医師は、マスターに聞いてきた。
「ご家族の方ですか?」
「家族ではありませんが、どうかされましたか?」
「少し、体調を崩しています。そろそろご覚悟をお願いします」
「と言うと」
「微熱が続いています。申し上げにくいのですが、身寄りがない患者さんですから、肺炎になって合併症でも起こしたら……」
「わかっています。覚悟は出来ています。延命処置は、望んでいません。ただ……」
「なんでしょうか?」
「今、彼女の息子を連れています。会わせても、良いでしょうか?」
「微熱が続いています。立ち合いのもと、短時間なら」
「ありがとうございます」
歩きかけたマスターは、思い出したように医師に言った。
「彼女の息子は、母親のことを知りません。ボクの友人だと思って来ています」
「わかりました」
マスターは医師の前で軽く頭を下げ、多目的ホールに向かって歩いた。
多目的ホールのソファーに座って、大門はスケッチブックに動物の絵を描いていた。
「お待たせ大門。先生に聞いたら、会っても良いと言ってくれました」
「ホント?!」
「少し熱が出てるから、会えるのは少しだけです」
大門は急いでスケッチブックとペンを片付けた。
マスターが大門と歩いていると、瞳の個室の前に先ほどの医師と看護師がいた。
医師が、個室のドアを開けた。
医師と看護師が先に中に入り、マスターと大門があとに続いた。
ベッドには、以前よりやせ細った瞳がいた。
点滴も何も、つけられていなかった。
生気もなく虚ろな目は、ただ死を待っているだけの人形に見えた。
目の前の女性が、自分の母親とは知らない大門は、大きな目でじっとみつめていた。
マスターの手を、大門はぎゅっと握っていた。
「時間です」
医師の声で我に返ったマスターは大門を連れて、個室を出た。
「ありがとうございます」
マスターは、医師と看護師に頭を下げながら礼を言った。




