タイトル未定2025/12/29 21:25
土曜日の昼下がり。
電車を降りて、少しずつ暖かくなった日差しの下を、マスターは大門と手を繋いでバス停に向かって歩いていた。
見慣れた風景とは違う風景に、戸惑った大門はマスターに聞いた。
「何処へ行くの?」
「えっ、ああ。友達のところですよ」
「病気をしている、お友達のところ?」
「はい」
「いつもの、降りるとこじゃなかったよ」
「よく、気づきましたね」
「だって、いつも四つめの駅で降りていたよ。今日は、六つめの駅で降りたよ」
「大門、数字が言えるんですか?」
「言えるよ!」
大門は誇らしげに、声を出して数字を数えだした。
そんな大門の頭を、マスターはそっとなでた。
大門が数える数字が一から十まではしっかり言えたが、十一からになると、数字が抜けた。
「大門、十三の次は十四ですよ」
「十四……?」
マスターは、十四からの数字を、大門と一緒に声を出して数えた。
「保育園で、数字を覚えたのですか?」
「うん!おまちさんも、教えてくれたよ」
大門の言葉に、大門のことを、家政婦のまちこに頼りっぱなしということに、マスターは気づかされた。
「春休みが終わるまでに、何処かへ行きませんか?」
「七海と?良いの?」
「はい」
大門は声を上げ、大門の顔に笑顔が広がった。
喜ぶ大門だったが、急につぶやくように言った。
「でも……おまちさんが……」
「おまちさんが、どうかしましたか?」
「七海は忙しいから、七海にわがままを言っちゃあいけませんっていつも、おまちさんが言っている」
思いもよらぬ大門の言葉にマスターは思わず声を上げた。
「本当ですか?」
「うん」
「我慢しないでください。言いたいことがあったら、ボクに言ってください」
「うん」
「いつもさみしい思いをさせて、すみません。何処へ、行きたいですか?」
「う〜んとぉ」
大門は歩きながら、考えていた。
やがて、大きな声で言った。
「動物園!」
大門が言った動物園と言う言葉を聞いたマスターは、突然立ち止まった。
マスターは、立ち止まったまま遠くをみつめていた。
大門はマスターを見上げ、声をかけた。
「七海?」
「……あっ、はい」
「動物園……駄目?」
「いえ」
マスターは、いつもの笑顔で言った。
「良いですね。動物園、行きましょう。お弁当を作ります」
「七海が、お弁当作るの?」
「はい」
「大門も、一緒に作る!」
「ありがとう。一緒に作りましょう」




