タイトル未定2025/12/29 21:19
朝、大門を保育園へ送り出したマスターは、実家の開業医へ向かった。
開業医に隣接された実家のドアを開けようとした時、携帯が鳴った。
「おはようございます。はい……そうなんですね。わざわざありがとうございます。失礼します」
電話はごく短く、すぐ終わった。
携帯をしまい、顔を上げ短くため息をつく。
「おはようございます!」
背後から聞こえた元気な声に、驚いたマスターは慌てて振り返った。
「お……おはようございます」
マスターの目の前には、頭の高い位置で長い髪の毛を団子にまとめた、背が高い看護師長の紫野緑が立っていた。
「先生、怖い顔してどうしたんですか?」
「怖い顔を、していましたか?」
「はい。彼女と喧嘩でもしたんですか?」
緑の軽いジョークに、マスターは笑った。
緑には本当のことを、何もかも打ち明けている。
大門のことも、大門の母瞳のことも。
「瞳ちゃんが、警察病院から一般の病院に移りました」
「さっきの電話は、そのこと?」
「はい」
「先生……まだ、彼女のところに行っているんですか?」
マスターは、黙ったまま立ち尽くしていた。
「行っているんですね。まだ、彼女に未練があるんですか?」
「違います!」
初めてマスターが感情を表し、緑は驚いたが、マスターに確かめるように緑は聞いた。
「彼女に未練は、ないんですね」
「ありません」
マスターは緑を見つめ、ハッキリと言った。
緑は、少し息をついてから言った。
「未練がないのなら、彼女の所に行くのはもうやめましょう」
「彼女をあんなふうにしたのは、全てボクのせいなんだ。このまま彼女を見捨てることが、ボクにはできない」
「先生、ずっとそんな思いでいたんですか」
緑は驚いて、マスターをみつめた。
「先生の気持ちは、よくわかります。いつまで、贖罪をするおつもりですか?」
「贖罪……」
「先生がしていることは、贖罪です。彼女は自ら、破滅の道を選んだんですよ。先生のせいではありません」
黙り込んだマスターに、緑は続けた。
「大門君を、養子に迎えた。先生は、じゅうぶんつぐなっています。先生、自分の未来を見つめましょう」
「わかっています」
少しぶっきらぼうに言ったマスターは、実家のドアに向かって歩き出した。
そんなマスターの背中に、緑は声を投げた。
「マスター二足のわらじ生活で、大変ですね」
その言葉にマスターが振り返ると、意味ありげに緑は笑っていた。




