38.天職
健吾が初めて治療する患者の背中には鋭い爪で引っ掻かれたような3本の大きな裂傷があり、
聖女様の傷口の浄化
婦長さんの縫合
新人さんたちの治療
で半分ほど治っていたがまだ相当な時間が必要そうだった。
健吾はその大きな傷ではなく、腕についた小さめの切り傷を発現させた火で覆う。
「あっ!?熱っ!?」
傷口に火をあてられた患者が驚いて叫ぶ。
「ちょ、ちょっと!ホントに回復魔法ですの!?」
患者の腕の燃え具合を見てさすがに聖女様もあわあわしている。
「火の温度は限界まで落としています。それでもある程度熱いですが・・・。」
「だ、大丈夫なんですか・・?」
婦長さん達も不安な顔を隠せない。
まあ普通の感覚なら火は燃えるもの、触れば火傷するものだからだ。
しかし不安がられたのは最初だけで、他の箇所へ燃え広がならない不思議な火は傷口をゆっくりと治してから消えたのを見て感嘆の声が上がる。
「なんですかこれ・・・すごいんですけど!」
聖女様がやたらと嬉しそうにはしゃいでいた。
「ふう・・・信頼してくれましたか?・・それでは背中の大きい方の傷やりますね。」
怪訝そうな顔はどこへやら、聖女様はじめ新人さん看護婦さん達はもう目を輝かせながら取り囲んでいる。
背中へ大きめの火を置こうかと思ったが、腕の傷のような小さな傷も多数あったのでデモンストレーションも兼ねて、
ベッドにうつ伏せに寝ている患者の全身を炎で覆った。
「ひゃああっ!」
「きゃっ!?」
「べ、ベッドが燃えちゃう!!」
背中の傷を火で覆うのだと思っていたギャラリーさんたちは一転して阿鼻叫喚。
患者の全身が燃えるとは思ってなかったのでかなり驚いていた。
(患者丸焼けなのにベッドの心配するんだ・・・。)
看護婦さんのセリフがちょっとツボに入るのを堪えながら状況を見守る。
「ああああ・・・あ、熱いけどっ!痛みが引いていきます!」
騎士であろう患者が叫ぶ。
火が邪魔をして身体がよく見えないが、患者は息も出来ているし、ベッドに延焼もしていない。
「・・・そろそろいいかな?」
時間にして1分ちょっと患者の様子を見た後、背中の火を手で少しどけると大きな裂傷は綺麗に完治していた。
「大きい傷が治ったようなので全身の小さい傷も治っているはずです。」
と言いながら火を一瞬で消すと、どこにも傷のない全身が現れた。
途端に起こる大歓声。
テンションの上がった見た目JDの聖女様に抱き付かれ、健吾大パニック。
(デュフゥゥゥ!!若い女の子に抱き付かれてしまいましたぞおお!!!)
(てゆーか当たってます!聖女様当たってますからあああ!!)
現世でJK、JD世代の女の子にはそこにいないモノのようにフル無視されていた健吾にはとてもエキサイティングな事案だった。
「え、えと・・、時間はかかりますが重症患者でも治ると思います。ただ、欠損は治せません。浄化も出来ないので聖女様にお願いする事になるかと。」
聖女様に失礼の無いように離れてもらいながら長所短所を説明する。
「ええ、呪いとか厄介なもので無ければ大丈夫ですわ、傷口の浄化なら魔力もそこまで使いませんし。あなたの方こそこんな高度な回復魔法で魔力は大丈夫なんですの?」
「ええ、単体の火魔法なので魔力消費は僅かです。一度火の効果を発動させればそれ以上魔力は使いません。それに僕が消さない限り燃えている間はずっと回復効果が続くようです。」
「ええええ!!」
「な、なんですかそれ・・・!」
「すごい効果です・・・。」
聖女様やスティングたちにもドン引きされるほどの低コスト&高持続&高威力なチート魔法。
初期の火魔法と知ったらさらにぶったまげるだろう。
これを二日で完成させ、三日目にもう実践しているというイカレた有能っぷり。
好きなものに全ての情熱をかける限界廃人さまさまである。
やっと人を癒せるヒーラーとして活躍する事が出来る、「やはり回復術士は天職だ!」と目頭が熱くなる。
(いや!だがもっとだ!!)
「さぁ、どんどん行きましょう!火を動かさなくていいなら20くらい出せますからまず20人に!」
「に、にじゅうにんんん!?」
「あなたすごすぎますわああ!(がばっ)」
「うわあああ当たってますうううう!」
また歓喜した聖女様に抱き付かれ、耐性のない健吾は全身火に包まれたように真っ赤になっていた。




