2.ダンジョンにて (2)
左右の手のひらの20センチほど上に、バスケットボール位にまで大きくなった赤い火の玉が浮かぶ。
その玉の一つを野球選手の投手のような美しいモーションで投げた。
回復術士「盾さん!ヒール行きました!」
盾職 「おお、ありがたい!頼む!・・って、何だその火の玉はああああ!?」
この世界での回復魔法は視認でき、モヤっとした霧のようなものがキラキラと光って見えるのが普通だ。
そのキラキラが来るのだなと思って振り返ると、剛速球で迫り来る真っ赤な火の玉。彼は戦慄した。
回復術士「それヒールです!」
盾職 「う、嘘を付くなあああ!(ドゴッ!)ぬおっ!あ、熱っちゃああああああ!!!」
火の玉は無事盾職の腰付近に命中。頑強な鎧を装備した彼の身体は一瞬で赤い炎に包まれた。
短剣職「な、何だ!? 同士討ちかっ!?」
炎上する盾職を見て驚くが、回復術士の方へ振り向くと今度は残りの火の玉をこちらに飛ばそうとしていたのを見つけ驚愕する。
回復術士「短剣さんにも行きますよおおお!ダッシャ!!」
短剣職 「ちょっ!おまっ!!やめろやめてぎゃああああああ!!」
投球動作が面倒だったので今度は普通に飛ばした。当然のようにHITし盛大に炎上する短剣の人。
回復術士の隣にいる魔法使いはへなへなと地面にへたり込み、涙目になりながら燃え続ける二人を呆然と見ている。
魔法使い「な、なんて事を・・・。」
魔法使い(回復術士と偽り、パーティメンバーである二人に火属性魔法を放ち仲間を殺そうとする裏切り者だったとは!)
ゲームではプレイヤーがプレイヤーを殺す事をPK、(プレイヤーキル)と呼ぶ。この光景を誰が見てもそう判断されるだろう。
魔法使い(あの炎がヒールな訳がない、この裏切り者を無力化して早く二人を助けないと!)
と、杖に魔力を込め詠唱を始めようとした瞬間、回復術士は叫んだ。
回復術士「魔狼がひるんでいる!今です!」
魔法使い「はぁ!? 何言ってん・・・ええっ!?」
せっかく込めた魔力が霧散していく、それほどに彼女は驚いた。全身炎に包まれた二人が動き出したのだ。
盾職 「うおおおおお!!(ズバッ!)」
短剣職「テメエコノヤロー熱いだろうがあああ!!(バシュバシュッ!)」
魔狼 「ぎゃおおおお!」
二人は燃えながらも魔狼をズバズバと討伐していく。
それもそのはず、魔狼にしてみればもう少しで食えそうなニンゲンが突如火だるまになったのだ。
驚いてしまって二人を襲うのを止め、ぽかんと立ち尽くしていた。
あっという間に形勢が逆転し、このパーティが担当する通路は危機を脱した。
短剣職「待てやコラァア!タココラ!!」
盾職 「確かに熱いが本物の火の熱さではない!それに傷も回復している!ほ、本当にヒールなのか!?・・・熱っ!!」
短剣職に攻撃を任せた盾職はこの不可思議な現象をなんとか理解しようと話しだす。しかし立ち止まっているとクソ熱い。
魔法使い「えええ~!?ま、マジなの!?」
回復術士「もちろんです!僕はヒーラーですから!」
魔法使い(ほ、本当に回復してる・・・みたいね。で、でも絵面が・・最悪なんですけど・・・)
再度盾職も討伐に加わり、完全に戦意喪失した魔狼を全身燃えまくりの二人が追いかけ回す。
この地獄のような光景のなかで魔狼はみるみる数を減らしていった。