1.ダンジョンにて
ここは王国から1時間の距離にある全10階層の低レベルタイプダンジョン。
「魔物があふれ出す予兆がある」と報告が入ると、ギルド内で討伐者の迅速な募集が行われ
4人編成のパーティが5組結成、現地ダンジョンでの調査と討伐が始まった。
1階層からすでにかなりの数の魔物が確認されたが、深層の魔物はまだいなかった為容易に討伐成功。
4人パーティの5組、計20人でのアタックは人数の利点を活かして2階層もあっさり攻略。
そして3階層の大きな部屋に到着した時に異変に気付く。5階層にいるはずの魔狼がいたのだ。
しかも大部屋の奥へとつながる3つの通路からさらに集まってきている。
下の階層から登ってきていると判断し、大部屋での掃討作戦が開始された。
そのパーティの中に彼はいた。
魔狼「ぐおおおおおおお!!」
盾職「くっ!予想以上に数が多いな・・・!」
盾役のリーダーが魔狼数匹の攻撃を一身に受け止め、味方の被害を抑えつつ攻撃役の反撃を待つ。
短剣職「よし!任せろ!」
魔狼 「ぎゃいん!」
両手に持った短剣を高速で振り回し、あっという間に魔狼数匹を討伐する。
短剣職「ふう・・、3階層でもう魔狼が出るのか。かなり危険な状況だな。」
盾職 「おい、油断するな!また来るぞ!」
奥へと続く通路からさらに多くの魔狼が現れた。8~10匹はいるようだ。
魔狼は即座に襲ってきた。
「ヘイトオーラ!」
盾職がスキルを放ち魔狼の攻撃を受け止めるも、挑発スキルの範囲外の魔狼が短剣職に襲い掛かる。
魔法使い「風刃!」
短剣職を襲っていた魔狼数匹が風の魔法によって倒された。残りを短剣で切り裂き危機を脱出。
短剣職「助かったぜ!あとはリーダーが押さえている魔狼を・・・って、うわっ!」
盾職の方を見るとさらに増えた魔狼が一斉に襲い掛かっていた。
しかもまた数匹の魔狼が短剣職にも襲い掛かる。
魔狼 「がうううう!」
魔法使い「きゃっ!」
そしてさらに後方にいる魔法使いにも攻撃が及ぶ。
魔狼の噛みつきを杖で受け止め、魔法を詠唱しようとするがさらに増えた一匹に詠唱を止められる。
盾職「だ、大丈夫か!?ぐうううう!多すぎて助けに行けん!」
レベル以上に良い装備で固めたリーダーも傷を負い、じわじわとHPを減らされていく。
圧倒的多数の魔狼による圧力に、他の通路を担当するパーティも苦戦を強いられていた。
その時。
回復術士「・・・黒き炎。」
魔狼 「ぎゃわああん!」
魔法使い「えっ!? ひゃあ!!」
魔法使いを襲っていた魔狼2匹が黒い火に覆われ、あっという間に燃え尽きた。
だが、回復術士が助けてくれた事よりも、高度な攻撃魔法を使用した事に驚きを隠せない魔法使い。
「え・・・あなた、回復術士よね?・・・今の、火の魔法?・・そんな一瞬で燃やせるほどの???」
???のマークで頭がいっぱいの彼女に、彼は囁いた。
回復術士「いいですよね・・・」
魔法使い「え?な、何が・・?」
回復術士「回復して・・・、いいですよね?」
目をキラキラと輝かせながらもこの現状を凝視している回復術士に、魔法使いは我に返る。
魔法使い「えっ? そ、そうね!いいわよ!思いっきり回復してあげて!」
回復術士「わかりました!!!」
彼は嬉しそうに答えると、回復の呪文を詠唱しはじめた。
回復術士「赤き炎よ!!」
と唱えると、両方の手のひらの上にメラメラと真っ赤に燃えた火の玉が2つ形成される。
どう見ても火の魔法である・・・回復魔法には全く見えない。
魔法使い「は?・・はああああ!? こ、攻撃魔法じゃない! な、何考えてるのおおお!?」
回復術士「これを盾さんと短剣さんにぶん投げます!」
「いきますよおお!せーのおおおお!!」
魔法使い「えええええ!? ちょ、ちょっと待ちなさああああい!!!」
半狂乱の魔法使いをよそ目に、勢いよく燃え盛る赤い炎を味方である盾職と短剣職に投げつけた。