君と過ごす、忘れられない青い春
「君、大丈夫?」
そんな一言で僕は救われた。
僕はこの春から何田高校の三年になる 丸山 薫 だ。
自分で言うのも何だが僕には友達がいない。
カースト上位にしろ下位にしろ、似たもの同士で集まり群れているこの時期に一人でいる僕は、言わずもがな一人でいるのが"好き"なのだ。
そう、好きなんだ。
ボッチと一人でいたくて一人でいる僕は心の余裕が違う。
...多分。
そんな友達のいない僕にも好きな人はいる。
僕の隣の席にいるはずだった 佐藤 遙香 だ。
隣の席にいるはずだった、というのもつい先日、肝臓癌にかかってしまった。
佐藤遙香は皆に好かれていたか、と聞かれるとそうでも無い。
とにかく明るくて太陽のような人だったが、人の心にズカズカと下足で入ってくるような。
...いってしまえば変わり者だ。
しかし僕はその図太さが嫌いでは無かった。
陰な僕にとって、ガツガツ来てくれる人は正直助かる。あと顔が良い。
彼女も僕のことを気に入ってくれていたらしく、仲良くさせてもらっていたので佐藤の見舞いにも頻繁に行く。
今日も帰りに病院によるつもりだ。
いつも通り病室の前にいくと珍しく扉が開いていた。
春特有の暖かな風が頬をなでる。
彼女は外を見ていた。
「佐藤、どうした?」
佐藤は振り返らずに言う
「こうやって桜も散っていって、結局3年生になってから一度も学校にいけてないなぁって」
佐藤の横に座り、しばらく気まずい時間が流れる。
「あ、ごめんね。 別に同情して欲しい訳だったんじゃ無くて...その..なんていうか...」
気まずさに耐えきれなくなり、見舞いに持ってきた果実を一口サイズに切る。
「ねえ、薫!! 次のゴールデンウィークは二人でどっかいこ!!」
急に何を言い出すんだ、こいつは。
「話が飛躍しすぎだ。それにお前は治療があるだろ。」
「私、あんまり先が長くないんだって。 このまま治療を続けて少しでも命を灯し続けても良かったんだけど、どうせ短い人生、楽しまなきゃなって!」
唐突に入ってきた彼女の言葉を処理しきれずにいたが、いくら僕が悩んでも寿命が延びるわけでもないし彼女の願いが叶うわけでもない。
「わかった。ゴールデンウィークの予定は空けとく。ただ二人は無理だ。旅行先で倒れられても困る。家族同伴で行く」
彼女は一瞬渋い顔をしたが、すぐに納得したような顔に戻る。
良かった。納得してくれたみたいだ。
こうして僕の忘れることの無いゴールデンウィークが始まる。